世界先行発売となった日本で初登場2位。本国イギリスでは、今年の発売第一週売り上げの記録を塗り替える余裕の1位。そしてアメリカでも全米チャートの3位に躍り出たアルバム。そう、レディオヘッドの新作『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』は音楽的に2003年を代表する一枚であると同時に、レディオヘッドに対する世界中の忠誠心が全く衰えていないことを証明した作品だと言えるだろう。これを聴かなきゃ始まらない。そういうことだ。 レディオヘッドは'80年代半ばに、イギリスのオックスフォードで同じ学校の仲間によって結成。'92年にレコード・デビューした彼らは、翌年の1stアルバム『パブロ・ハニー』に収録された「クリープ」の大ヒットによりシーンの中心に躍り出た。しかしたったひとつの曲だけで自分たちを判断されることへの嫌悪感、そして未熟だった自分たちが思うように音楽を作れなかったアルバムだという歯がゆさを覚え、持ち前のセンスに加えてその気持ちをもバネにして、その後驚異的な前進を続けることになる。 トリプル・ギターのアンサンブルと、トム・ヨーク(Vo&G)のエモーショナルなヴォーカルによって躍動感溢れるギター・ロックを完成させた2ndアルバム『ザ・ベンズ』を経て、'97年の『OKコンピューター』では実験性と普遍性を見事にバランスさせてポップ・ミュージックの新しい姿を表現。“自分たちのやりたい音楽を作ると同時に、多くの人の支持を得る=売れる”という地位を確立し、ファンはもちろんミュージシャンからも絶大な信頼と賞賛を受けることに。ここ日本でも、例えば『OKコンピューター』にはイエロー・モンキーの吉井和哉が、『キッドA』には椎名林檎が日本盤用に言葉を寄せているし、桑田佳祐がレディオヘッドにインスパイアされたという話もあるくらいなのだ。 そんな彼らが、打ち込みやサウンドの切り貼りを大胆に取り入れた野心的双子アルバム『キッドA』『アムニージアック』で“脱バンド”した後に、どこに向かうのかが示されたのが新作『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』である。ここ数作の流れを汲みつつ、“みんなで一緒に演奏することの素晴らしさ”、つまりバンド・サウンドの楽しさに再びよろこびを感じていることがはっきりわかる。この作品は、制作に入る前から手早く作ることが宣言されていた。 トム・ヨーク「今回のアルバムに関してはあんまり考えないで作ったんだよ。だから、とにかく偶発的に生まれてきた曲ばかりなんだ。一瞬立ち止まって考えてみるってことをしてたら、こういう曲は生まれてなかったと思うな。じっくり考えて、『このレコードのポイントは何だろう?』なんて思いながら作ってたら全く違うものになってただろうね」 エド・オブライエン(G)「ステージでプレイするのがとても楽しいってわかってきたのさ。2001年のツアーは最高だった。ヨーロッパ、アメリカ、日本でやったツアーの中には、今でも記憶に残ってる本当に良かったギグがあるよ。僕たちはやっぱりライヴ・バンドなんだって誇りを感じたし、悪くない、これなら行けるって思ったんだ」 スタジオに詰めて、機械に向かって延々と作業をしているようなイメージもあった前2作に比べて、“肉体”を感じさせるのが今作の特徴とも言える。それは人間同士が目を合わせながら演奏を高めていくようなバンド・サウンドからももちろん感じられるが、それだけではなかったようだ。 ジョニー・グリーンウッド(G)「そうそう。機材と向き合いながらも、リアルタイムでライヴなエレクトロニック・サウンドをたくさん取り入れて、元気一杯なエネルギーを注ぎ込んだんだ。まるでクラフトワークが未だにテープを使って、しこしことレコーディングしていく過程みたいにさ。物を叩いたりしながら、肉体を酷使してエレクトロニック・サウンドを捻出するような感覚に似てたかもしれないね」 『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』には、バンドのアンサンブルやギター・サウンドにハッとさせられる瞬間が多くある。これもまた、たくさんのミュージシャンに影響を与えることだろう。バンドの2人のギタリストは新作からの先行シングルとなった「ゼア、ゼア」でパーカッションを叩いたりもしているし、ジョニーはギター以外の楽器も駆使する。そんな彼らだが、今はギターとどのように付き合っているのだろうか。 ジョニー「僕にとってギターは、やっぱり特別な存在なんだよ。即効的に素早く、自分の表現したいことが表現できるものって感じ」 エド「僕たちの気持ちによく反応してくれるものだね。ギターが凄いのは、軽く爪弾くこともできれば激しく強く弦をかき鳴らすこともできるってところ。そこがギターの魅力なんだ」 そして、レディオヘッドはいよいよサマーソニックで来日する。ライヴから生まれたという『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』の世界を生で体験するこのチャンス、逃す手はないだろう。もちろんそれまでは、アルバムを聴き倒す毎日を送ろうではないか。 取材/文●播磨秀史(CROSSBEAT) |