『Silver Side Up』 Roadrunnder RRCY-11155 2001年9月21日発売 2,548(tax in) 1 Never Again 2 How You Remind Me 3 Woke Up This Morning 4 Too Bad 5 Just For 6 Hollywood 7 Money Bought 8 Where Do I Hide 9 Hangnail 10 Good Times Gone 11 Learn The Hard Way |
Nickelbackの長袖LサイズTシャツと デスク・カレンダーを それぞれ1名様にプレゼント! 詳細はこちら (提供:ロードランナー・ジャパン) | | 「今、アメリカで一番売れているロックバンドは?」 この問いに「クリード」と答えられる人は、まあなかなかの洋楽ファンだが、では、 「今のアメリカのラジオでもっとも曲が流れているロックバンドは?」という質問に対し、ちゃんとした答が返せるファンが、これはそうとうの通である。
その答は“ニッケルバック”。カナダが生んだ新世代のグランジ・ロック・バンドである。
このニッケルバックがどんなバンドであるか、軽く経歴を説明しておこう。 結成は'96年、カナダのヴァンクーバーにて。母体となったのは、チャド(vo,g)とマイクのクルーガー兄弟で、そこにライアン・ピーク(g)、ライアン・ヴィッケダール(ds)が加わり4人組に。彼らは、地元カナダでインディを中心に活動し、精力的なカナダ・ツアーと自主レーベルからの実質的なデビュー作『Curb』でデビュー。それが徐々に評判を集め、現在の所属レーベルのロードランナーと契約。2000年、アルバム『The State』でメジャー・デビュー。このアルバムからのシングル「Leader Of Men」「Old Enough」がカナダでトップ20に入るヒットとなり、アメリカでもクリード、3ドアーズ・ダウン、エヴァークリアなどのライヴのオープニング・アクトをつとめるなどして徐々に評判を上げる。 そして2001年秋、2ndアルバム『Silver Side Up』を発表するに至るのだが…。 これが誰しもが予想しない突然の大ブレイクとなった。9月の全米チャートでこのアルバムはなんといきなり初登場2位を記録。誰もがその聞き慣れない名前のランク・インにクエスチョン・マークを浮かべ、そうした音楽リスナーの「アイツらは一体誰なんだ?」という疑問が重なることでさらに話題となり、このアルバムは、インキュバスやシステム・オブ・ア・ダウン、リンキン・パークといった人気ヘヴィ・ロック・バンドを抑えて、2002年に入った現在でもビルボードのアルバム・チャートの6位にランク・インし続けている。 そして、こうしたアルバムの好成績を支え、アルバム以上のインパクトをアメリカの音楽シーンに放っているのが、シングル「How You Remind Me」。 この「How You Remind Me」。実はこの曲こそが、米国テロ事件後のアメリカ全土で最も愛聴された貴重な1曲なのだ。 全米のロック・チャートでは8月後半からブッちぎりトップで4ヵ月にも渡り首位を独走。そして遂には、12月22日からはなんと、全米シングル・チャートにおいてNo.1にまで輝いてしまう。通常、R&Bやアイドル勢が1位をとって当たり前のこの全米シングル・チャートで、こうしたハードなサウンドを身上とするロック・バンドが首位を獲得すること、これは全くもって見事な快挙である。 では、この「How You Remind Me」。一体、何がどれだけ凄いのか? 曲を聴いてみると、これが驚くほどに意外性も新しさもない、しごくまっとうなメロウなハードロックなのだ。強いて例をあげるとするならば、サウンドガーデンやアリス・イン・チェインズといったシアトルのグランジ・バンドが、10年ひと昔前にサウンドをさらに聴き易くメロウにした感じだ。これは、彼らの所属が、あのスリップノットをはじめとして激烈なハードさを持ったゴリゴリのメタル・バンドが、9割方を占めるロードランナーであることも合わせて考えてみると更に意外である。パッと聴き、正直どこにも目新しい個性はない。そんな楽曲がどうしてそこまでセンセーショナルな話題を今振りまいているのだろうか。 考えられる答があるとすれば、以下のことが考えられる。ひとつは、グランジ/オルタナティブ・ロックのアメリカでの完全なメインストリーム化だ。ニルヴァーナやパール・ジャムが出てきた10年前、アメリカのラジオ局はこうしたサウンドを「異端で聞きにくいもの」としてラジオから遠ざけ、そうした既存の保守的なフォーマットに飽きたキッズたちが、そうした物足りないメディアとは別の次元でこうした“オルタナティヴ”な音楽文化を盛り上げ、それが一大ブームへと発展したものだった。しかし、10年たった今、こうしたグランジ・サウンドはもはや反体制のものではなく、ラジオ・フォーマット的に最もふさわしいロックとなった。そうした時代において必要とされるのは、小手先だけの奇抜さではなく、何度聴いても鑑賞に耐えうる完成度の高い楽曲クオリティ。“王道”であるのにふさわしい威風堂々としたサウンドそのものなのだ。そして、そんな時代に、トップに立つのにふさわしいスケールと完成度を誇るロック、それがニッケルバックだったのだ。 決して執拗なまでの攻撃性を持っているイメージでない。しかし、ガッシリとした楽曲構成、細部にまで行き届いた隙のないメロディックなフレーズ。こうした“音楽としての根本的かつ普遍的な基本”。このバンドは、この点において抜きんでた存在と言える。 そしてもう一つが、今年顕著だった“ラウド・ロックのメロウ化”だ。'98年頃から、ロック・シーンの頂点を占めたのは、リンプ・ビズキットやキッド・ロックといった、バッド・ボーイ・アティチュードによるパーティ感覚のラップ・メタル。こうしたサウンドは'90年代末期のアメリカの好景気に後押しされ大全盛を誇った。しかし、アメリカの景気が再び後退し、ラップ・メタル系のサウンドが固定様式化し、音楽面以外でのゴシップ面ばかりが取りだたされるようになった2001年、ヘヴィ・ロック・シーンはそうした浮ついた傾向を拒否し始めるようになった。そしてメロウな歌心のある、Fワードのような汚い言葉を極力使わないタイプのバンドが一転して支持されるようになった。 リンキン・パーク、ステインド(これはFワードあるが)、インキュバスといったメロウなバンドが、既存のバッドボーイ・ラップ・メタルに替ってヘヴィ・ロック界のトップに立った。そして、その風潮をあの9月11日の米同時多発テロがさらに後押しした。暗く沈みこむアメリカ全土を、痛みを共に分かち合いながらポジティヴに生きていくことを訴えかけるようなロックが絶大な支持を受けるようになった。その代表が、クリードとP.O.D、そしてニッケルバックだった。 クリスチャン・バンドのクリードやP.O.Dと違い、ニッケルバックの歌は預言者めいたメッセージがあるわけではない。「How You Remind Me」にせよ、基本はラブ・ソングだ。しかし、「How You Remind Me」(キミはボクのことをこうやって思い出す)という恋人との断ち難い別離を歌ったこの曲、いざ、“恋人”という関係を、被災者と遺族の関係に当てはめてみると、これは実に重い意味を持つ曲へと早変わりしてしまう。この曲がここまでウケたのには、こうした解釈も左右されたのではないだろうか。 ニッケルバックの現象的なヒットは以上のような感じで起こっている。彼らにはゴシップをウリにするような派手さは決してない。しかし、その分、音楽でジックリと勝負出来る実力がある。彼らはラジオとライヴを中心に、実際に“聴かせる”ことでシーンの頂点に立ったバンドである。 この日本でも、彼ら自慢の“うた”があちこちで流れることを大いに期待したい。 文●沢田太陽(01/12/26) | |