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【Part 1からの続き】
――ラップが変化してきてることは残念に思ってますか?
DMC: コンセプトだのイメージだの主題だのが先に来ちまってるんだろうな。Fat Boysを見ろよ、あいつら食い物のことをラップしてたが、それはそれで立派にあいつらの芸術形態だったじゃないか。ひとつのパッケージとして完成してたんだ。最近はレコードを売ることが第一で、レコードを売るためにラップしてる始末だ。DJやMCの実技は問われていない。しかし、Run-DMCにとっては今もそこが勝負なんだよ。どこへ行っても「ほら、DATマシンだよ」と言われるが、俺たちは「いや、ターンテーブルでなきゃダメだ。あとアナログ盤とマイクを山ほど。ダンスはなしだ」と言ってはばからない。
今のネタは何がホットで何が今ふうで、きのう誰が何をして新聞に出たとか、そんなのばっかりだが、ヒップホップの世界は個性が豊か過ぎて、芸術形態そのものに目がいかなくなっているんだろう。でも、Run-DMCはそこにこだわり続ける。新しいグループに欠けているのはそれだ。ラッパーA、B、Cがいて、ラッパーAは自分のアルバムにBを参加させ、ラッパーCもBを参加させていて……みたいな。名声を追いかけるばかりで、誰も本当に面白いことをやろうとしていない。Run-DMCやRootsみたいなバンドは、今でもそれをやっているんだよ。
キッズも、今はみんながこんなことをやっている、こんなことをラップしていると思って見ているんだろうが、俺がラップしたいのはピアノのことだったり、花のことだったりするんでね。とはいえ、扉に片足を突っ込んでおくためには、俺も片方の目はヨソに向けておかないといけない。
――DMC、あなたは一時期、声に問題があったんじゃありませんでした?
DMC: 年とか減量とかで、何度か変化して……朝起きたら声が低くなってたり。ちょうど転換期というか、高い声で歌おうとしていた時期でね。’90年までやれてたことができなくなってしまった、と。2年くらいは、またできるようになるだろうと思って頑張ってたんだが、ビル・クリントンの主治医だっていう医者に診てもらったところ、「ずっと音楽を作っていたいなら、こんなことはやめなさい。これじゃ虐待だ。きみはヴォーカルトレーニングは受けたことがなくても、そのままできれいな声をしているじゃないか。話す声も素敵だ。パフォーマンスもその声でやるんだね。でないと声をダメにしてしまう。きみも35歳なんだよ。その事実を認めるんだ。しょうがないじゃないか」と言われてね。
――それで、どう折り合いをつけたんですか?
DMC: Neil YoungやMadonnnaの高音の部分を注意して聴いてみた。そういう悩みにブチ当たったことのある人を、片っ端から聴いてみたんだ。60ポンド減量して声が変わったという女性オペラシンガーの話とか、Liza Minnelliの話とか。彼女は若い頃のような声を出そうとはせず、昔のレパートリーは、今でもちゃんと歌える8曲に絞っているそうだ。「キャデラックをポルシェのつもりで乗り回すなかれ」っていう、あれだよ。俺もそうせざるを得なかったのさ。
俺はもう優位に立つことにこだわっていない。 RUNは昔から仕切り屋だったけどな |
――時代についていくとか、新進のMCたちを相手にすることについて、思うところはありますか?
DMC: 今の俺は世界を牛耳ろうなんて思っちゃいない。俺は……、肉体的にも気持ちの面でも精神的にも、それに感情的にも前より落ち着いてるんだ。声が変わったことや、肉体的な変化も色々あって、退院した時にはまったくの別人になっていたんだよ。しらふになって出てきたというわけさ。エネルギーが全然違う。読書するようになったし、自分をもっと大切にするようになった。全身の血が入れ替わったような感じ。俺はもう優位に立つことにこだわっていない。RUNは昔から仕切り屋だったけどな。今の俺は別の次元で別のヴァイブレーションを感じつつある。レコードが何枚売れたとか、そんなんじゃなくて……俺にとって永遠に変わらないのは「みんなのため」っていう、そこなんだ。金は墓の中まで持ってけないからな。このところ、目覚めちゃってさ。聖書に、イスラムに、仏陀。Nasにライムで勝とうったってしょうがない。そういう欲はないんだ。ただ自分を表現しながら成長を続けていきたいだけ。
最近、俺は昔のロックばっかり聴いてるんだ。ラップを聴いたところで俺には何も得るものはないが、Neil Youngがカミさんや子供のことを歌ってるのを聴けば共感できる。俺、ピックアップトラックに乗ってるんだけど、なんか’60年代から蘇った男みたいな気分でね。Dylanがやたら心に染みるんだ。俺はやかましい音楽を作りたいとは思わないが、作るんなら一番響く音楽がいい。ベッドで「ラップをやめるべきなのかな?」なんて考えてたら、お告げがあってさ。ヒップホップはカルチャーなんだ。
’82年当時と比べたら、俺は今でもB-Boyには違いないが、25歳の頃にできたことができなくなっているのも確かだから。となると一体、今の俺の目的は何なんだろうと考えてしまうわけだ。で、それはBob DylanとかMick Jaggerみたいな存在になることだ、と。ああいう、今もって革新的であり続けている存在にだ。今、DMXが開拓しているようなことを俺が開拓するのは無理でも、Sinatraみたいな存在になるという目標が俺にはある。7年前、入院する直前に、俺は結婚して子供ができた。もはや、昔みたいに胸の高鳴りだけでこういうことをやってはいない。こないだスーパーで買い物してたらJohn Lennonの曲が流れてきて、これぞ今世紀を代表する音楽だって思ったよ。
――Jay、プロデューサーとしてあなたが個人的に好きなのはどんな音楽ですか? 最近、チェックしているものはありますか?
JAM MASTER JAY: 俺は何でも好きだから、ほとんど何でもチェックしてるよ。今回のアルバム『Crown Royal』は、日々俺に押し寄せてくる様々なヴァイブをしっかり反映している。完成した絵のようなものだ。スタジオで作ったビートを全部このアルバムに入れるわけにはいかなかったが、うん、俺はあらゆるものをチェックしている。特にこれといって好みのスタイルがあるわけじゃない。俺たちはロックンロールでもR&Bでもブレイクビーツでもラップするしな。それが俺たちなんだよ。
――レーベルのほうはどうですか、Jam Jay? まだDef Jamと組んでいるんですか?
JAM MASTER JAY: この数年、俺はRun-DMCで手一杯だったから、レーベルの仕事に集中する時間が取れなかったんだ。現状では、誰かすごく気に入ったのがいたら、よそのレーベルから出しているんだが、Suave House Recordsから出したIll Hillbilliesってグループは鳴かず飛ばずでね。レーベルのほうはどうなっているのか俺もわかっていないんだ。年頭にまた別のが出てくるよ。
俺は、ヒップホップのバトルには肯定的だ。 ヒップホップは戦場で始まったんだから |
――Fifty Centの話をしましょう。
JAM MASTER JAY: Fiftyはとにかく最高のラッパーさ。Fifty Centの何がホットかって、あの曲を作った時にあいつは別に……、ほら、BiggieがR&Bガールと片っ端からやりたいって言ったり、Lil’ Kimが夢はあらゆる男とやることだと言ったり、何かそんなのがあっただろ? あれと同じように、Fiftyも世間やライバルのことを話題にしているだけなんだが、言い方がうまいんだよ。中にはムカついてるやつもいるが、ラップの世界じゃパンチの応酬が当たり前。あいつは要するに、目立ちたかったんだと思うよ。人に媚びずに目立つってのは大変なことだ。例のシングル以降のあいつの成り行きがすべてを物語っているじゃないか。
――ああいう曲に個人がいちいち腹を立てているようでは、ヒップホップの雲行きは暗いでしょうか?
JAY MASTER JAY: 俺としては、別に暗くはないと思う。俺はやったことないけどね。俺は人をネタにしたことはないし……。まぁ、遠回しにとか、俺たちだけが知っている的な言い方をしたことはあるが、直接攻撃は誰に対してもしたことがない。やったとしても、俺は悪いことだとは思わないよ。例のLL Cool J対Cam’ronの件も面白かったしさ。
だから、やるのは勝手だけど、レコードをヒットさせる才能がなきゃ話にならないってことだ。攻撃するのはいいが、コマーシャルな曲の世界にいる以上、商業的に成功しなくちゃバトルも続けられないからな。俺としては問題なし。東だ西だっていうビーフもなし。あれは度を越してたよな。そもそもそんなビーフは存在しなかったのに、マスコミが大袈裟に書き立てるから、みんなが「そうか、下手なことは言わないほうがいいな。ヒップホップは万事ポジティヴでなきゃいけないんだ!」と思ってしまったんだろう。しかし、この世の中、万事がポジティヴになんていくわけがない。
俺たちが生きる社会は……俺が子供の頃ですら、西部劇やら、カウボーイ対インディアンやら、戦争映画やら、どれも顔面パンチか、さもなきゃ誰かが撃ち殺されるのばっかり観て育った。毎日のニュースにポジティヴなところなんか、ひとかけらもない。とりあえず俺が育ったところではそうだった。(学生時代に)発表することになって時事を調べたらネガティヴなことだらけってこともあったし、そうやって実感していったのさ。だから俺は、ヒップホップのバトルには肯定的だ。エキサイティングだと思うし……俺もそうやって育った人間だからな。すべてが甘く優しいわけじゃない。バトルするのはけっこうなことだ。ヒップホップはそうやって始まった……戦場で始まったんだから。
――Run、あなたの複雑なリリックのスタイルについて話してください。
Run: 楽しんでやってるだけさ。ああいうのが聞こえてきて、自分でやれるからやる。「なんでRunは速いんだ?」って言う人もいるかもしれないが、できるからやってるだけだ。好みに合わないならおあいにくさま。俺は自分の好きなことをやる。楽しんでやってるというのも、俺の詩の才能の一面なんだよ。自分が楽しめなくなるまでラップを続けるんだろうな。てことは、いつまでもラップしてるんだろう。気が乗ればライムをし、あるいは詩を書く。これは楽しみなんだよ。それだけのこと。楽しいから……大好きだからやるのさ。
――Reverend Runについて教えてください。どんな説教をしているんですか?
RUN: 説教もラップするのも同じだよ。説教もショウのつもりでやってるんだ。来たらわかるさ。楽しい話もするし、人生の悩みだとか、俺がどうやって乗り越えてきたかとかいう話もする。軽いノリの、わかりやすい説教さ。普遍的な内容でためになる。ジーザスとか、繁栄とか、健康、幸福、自由なんかを、自分の神様絡みの体験を交えて諭すんだ。すごくユーモアがあって、説教中にライムをかます時もあるぜ。
――Salt’N PepaのPepaとNaughty By NatureのTreachの結婚式は、あなたが執り行なったんじゃありませんでしたっけ?
RUN: PepaとTreachは俺が結婚させたんだ。Russellと(彼の妻の)Kimoraも俺が結婚させた。いろんな人から依頼があるんだけど、みんな引き受けてるわけじゃない。PepaとTreachの結婚……あれはラッパーとラッパーがラッパーの介添えで結婚するという、それこそ世紀のヒップホップ・ウェディングだったよ!
【Part 3に続く…】
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