【インタビュー】松崎ナオ、11年ぶり新曲「愛をうたったら」リリース&Billboard Liveでライブ開催「何でもいいのでプラスの方向に行ってくれていたらうれしい」

1998年にメジャーデビュー、2003年からインディーズに拠点を映して活動。現在は“鹿の一族”というバンドで活動するシンガーソングライターの松崎ナオが、約11年ぶりに個人名義の新曲「愛をうたったら」を配信リリース。2月1日(日)に神奈川・Billboard Live YOKOHAMAでライブを開催する。
2006年の「川べりの家」がNHK『ドキュメント72時間』テーマ曲に起用されたほか、2017年には“椎名林檎と松崎ナオ”名義で配信限定シングル「おとなの掟」をリリースするなど輝かしい経歴を持ちながら、謎に満ちた人物像に迫ったインタビュー。「愛をうたったら」が生まれるに至った経緯など聞くうちに、彼女のなかにある独特な感性が露わになった。
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──まず、約11年ぶりに個人名義で新曲「愛をうたったら」をリリースしたことや、Billboard Live YOKOHAMAでライブをやることになった経緯を教えてください。
松崎ナオ:ソニー時代にお世話になった方が今Billboardでお仕事をされていて、久しぶりに再会したときに「また何か一緒にできたらいいね」という話になり、それが今回の一連の動きにつながった感じ。長く続けていて良かったなと思いました。音源については“鹿の一族”というバンドでコンスタントに出していたのですが、今回ソロで出すことになったとき、今までとは違うもう一歩前にグッと踏み込んだものが作れないかと、ゲロ吐きそうになるくらい悩んで作りました(笑)。違うものと言うか、次のステージという感じ。これまでの全部の経験を糧にして上に行くためには、自分を見つめ直す作業から始まりそれを俯瞰から観られる状態までならないと書けない。そういうターニングポイントとなるようなことを、自分で意図的に設けて作った感じです。
──ちょうど1月に50歳になったところなので、人生のターニングポイントともちょうどタイミングが合った感じですね。
松崎ナオ:そうですね。私は個人的に歳を取ることが好きで、いろいろな面で劣化はあるけれど、何て言うか「頑張ったね!」みたいな感じ? それで今回のライブのタイトルも<-50->だったり、39歳のときに『39』というアルバムを出したこともあります。私はあまり自分の過去を振り返るタイプではなくて、つねに前を向いていたいと思っているんですけど、今回ライブをやるにあたっては振り返る機会があって、「結構頑張ってきたな」って思いました。そういう実感が、年齢が増えるたびにあるので、歳を取ることは好きなんです。
──次の話に移りますが、松崎さんのことを知らない人ために、この機会に少し過去を振り返っていただきたいと思います。デビュー当時のことは覚えていますか?「やってやるぜ!」と意気込んで、がむしゃらにやってたとか。
松崎ナオ:いえ、がむしゃら度は今のほうが増していて、当時のがむしゃら度はほぼゼロに等しかったです。大波にただ乗っかってるだけで、ずっとフワフワしていて、自分で漕いだのは曲作りのときぐらいでした。
──当時の目標って何でしたか?
松崎ナオ:そもそもソニーに入った理由が、奥田民生さんが好きで会いたかったからなんです(笑)。会えたら辞めようと思ってたくらい。2〜3年後にはお会いできたのですが、そのときは「次はどういう曲を作ろうか」と、自分が作りたいとイメージする音楽にどうやったら近づけるかばかり考えていて。それは今もそうですけど。
──いつしか音楽に夢中になって今につながっていると。音楽自体を始めたきっかけは?
松崎ナオ:家にピアノがあって、毎朝すごく暗い曲を弾いてから幼稚園に行くのが習慣でした。それも自作で。それくらい音楽が身近にあった。自分の意思で楽器を始めたのは中学生のときで、バンドのドラムをやっていました。当時はメンバーのやりたい曲をやっていて、「こういう曲があるんだ〜」とか思いながらやっていたので、何の曲をやったかあまりよく覚えてません。

──松崎さん自身が好きだったのはどういう音楽ですか?
松崎ナオ:幼稚園のときはアニメとかピンクレディーとか、みんなが聴いているものを私も聴いていた感じ。あと、母親が好きだったビリー・ジョエルやオフコース、クラシックやジャズが家によく流れていたので、それを聴いていました。その後、小学校のときに『イカすバンド天国』というバンドオーディションの番組にドハマリして、人間椅子さんの大ファンになったんです。
──人間椅子ですか!
松崎ナオ:もう、どハマリ。何がきたかわからないけど、「キタ!」と思いました。それをきっかけに、ニルヴァーナなどのグランジを聴くようになったり、ユニコーンも好きだったり。ざっくりですけど、そんな感じです。人間椅子は本当に衝撃的で、今も好きでライブに足を運んでいます。なんか、ワクワクするんです。それにちょっと上からっぽくなってしまいますが、ずっと右肩上がりで良くなり続けていて、歌もどんどんすごくなっていて、本当にヤバイのでぜひ観に行ってください! たぶん初めての人でも飽きないと思います。
──あと松崎さんのキャリアを語るうえで、「白いよ。」という曲のミュージックビデオが、TVドラマ『リング〜最終章〜』で呪いのビデオとして使われたエピソードも欠かせません。そのときはどんなお気持ちだったのですか?
松崎ナオ:まわりのみんなが喜んでくれているから、良かったなって思いました。ただ当時はライブであの曲を歌うと、客席から「ヒィ〜!」って悲鳴が上がって、すごく怖がられたことが面白かったです。ライブでそんなことって無いじゃないですか。だから個人的には、そういう状況を面白がっていた感じです。
──椎名林檎さんの作品に何度か参加されていますが、椎名林檎さんとの交流はどういうきっかけで始まったのですか?
松崎ナオ:林檎ちゃんとは日比谷野音で開催されたイベントで、対バンしたことがきっかけです。彼女が私に興味を持ってくださって、舞台裏でお話をする機会があって仲良くなりました。
──どういう部分に興味を持たれたのか聞きましたか?
松崎ナオ:聞いていないですね(笑)。それに林檎ちゃんとは偶然どこかでバッタリ会うことが多くて、「久しぶり!」って話をしているうちに、「今度一緒にこれをやってくれないかな」とお話をいただくんです。2017年に「オトナの掟」をデュエットさせていただいたときも、フジロックフェスティバルにお互い観客として観に行っていて、泊まっていたホテルがたまたま同じで、「あれ!?」っていう感じで話をしたことからデュエットにつながっていって。
──また、「川べりの家」がNHK『ドキュメント72時間』テーマ曲に起用されたのはどういう経緯だったのですか?
松崎ナオ:それも偶然です。「川べりの家」を収録したアルバムの発売日にタワーレコードさんで曲を流してもらっていたところに、『ドキュメント72時間』のディレクターさんがたまたまたテーマ曲の候補を探しに来ていたそうで、流れていた私の曲を聴いて、番組で使いたいと連絡をくださったんです。それから20年、長く使っていただいて本当にうれしいです。曲が役に立っている感じがするというか、作ったかいがあったなと思います。
──偶然とかご縁が多いのですね。
松崎ナオ:ほぼ偶然で成り立っています(笑)。メジャーを離れてからは、とくに偶然とかご縁とか、人の力を借りてどうにかこうにかやって来られた感じです。本当にありがたいです。
──縁の大切さは日々感じていると
松崎ナオ:そうですね。だからと言って、人によって態度を変えるわけじゃないけど、その都度ありがたさは実感します。
──相手の立場や年齢によって、態度を変えないところがいいのでしょう。
松崎ナオ:そういうのはあまり関係ないですね。あとになって「あのときもう少しヨイショしておけば良かったかな」と思うときはありますけど(笑)。
──話が変わりますが、普段楽曲はどういうときに生まれるのですか?
松崎ナオ:けっこう激しい衝動が生まれたときとか。あとは曲ができるときはタイミングがあるので、そのタイミングがいつきてもいいように、作詞・作曲に脳みそを明け渡した状態で生きています。だから日常生活を送っているときでも、つねにアンテナが立っていて。ネタ帳を読み返しながら、当時はできなかった曲が突然できるときがあったり、「こういう曲が作りたい」と思ってパッとできるときもある。なにか、タイミングが合ったときできるみたいな。
──いつタイミングがきてもいいように、ずっとスタンバイ状態でいると、疲れそうですね。
松崎ナオ:疲れます(笑)。脳みそが。だから、たまに思考停止してしまうときがあります。でも曲を作っている人は、皆さんこういう感じじゃないかな。あまりこういう話を人としたことがないのでわからないけど、そういうアーティストは多い気がします。
──「愛をうたったら」についてうかがいますが、「愛」は歌のテーマとして古くからあるもので、松崎さん自身もこれまでも題材にして歌ってきていると思いますが、今まで歌ってきた愛と今回歌った愛にはどんな違いがありましたか?
松崎ナオ:結果としてその答えは出ませんでした。なのですべてが問いかけの歌になっています。愛にはいろいろあって、私自身は愛にあふれた世の中になってほしいと思っています。念でもなく依存でもない、本当の愛があふれていたらいいなと、その状態のイメージを持ちつつ問いかけている感じの曲ですね。
──子どもにも伝わるようなシンプルさがありながら、大人が聴くとその先にある深みを感じずにはいられない。音も心地よさがありながら、不穏さも感じさせるところもあって、不思議で独特な曲だなと思いました。
松崎ナオ:ありがとうございます。この曲は2分半くらいしかないんですけど、「なんかよくわからないかもしれないけれど、よかったら聴いてみて!」みたいな気持ちです。「歌詞のここを聴いてほしい」もないし。bo enさんというサウンドプロデューサーが作ってくれた音と、私の歌と歌詞、それらの全体によって「ちょっと幸せな感じがする」とか「その曲が流れている間は安心する」とか、なにかざくっとしたイメージや印象でいいので、感じてもらえたら成功かなと思って。
──雰囲気でいいと。
松崎ナオ:雰囲気でいいんです。だから「不思議な感じ」と言っていただいたのは、すごくうれしい感想です。一般的な曲ではないかもしれないけれど、そういうものを世の中に提示できる機会をもらえたことは良かったと思います。それに、そういう不思議だという印象は、今回アレンジをお願いしたbo enさんのサウンドによる部分も大きい。場面展開があって、ひとつの物語のような、でも終わりはto be continuedな感じがする。私のデモから感じてそう作ってくれたのですが、それが形式的な構成に感じさせない大きな要因になっています。
──bo enさんは英国のエレクトロ系のアーティストで。
松崎ナオ:初めましてです。彼の音源を聴いて「むちゃくちゃ音がいい!」と思って、直接オファーしました。『pale machine』という2013年のアルバムに「my time」という曲があるんですけど、それがすごく良くて。イギリスに住んでいるアーティストなのですべて遠隔だったんですけど、生活している時間帯が違うから時間がかかりましたね。すぐに返事がほしいと思っても、向こうは寝ている時間だったりするし。こちらが夜中の時間帯に、急にメール合戦が始まったり。私は英語ができないけど、向こうが少し日本語が話せたのと、翻訳ソフトも使いながらで、いい時代だなって思いました(笑)。
──この「愛をうたったら」を皮切りに、今後もソロ名義でのリリースを考えていますか?
松崎ナオ:そうですね。軽やかにたくさん作っていけたらと思っています。今はCDを刷らなくても聴いてもらえるじゃないですか。CDを刷るときにかかる経費とか在庫を抱える不安を気にしなくていいので、そこは気楽に構えています。もちろん曲がたまったらまとめて、CDにしたいという希望はあります。それまでじゃんじゃん出すので、楽しみにしていただけたらと思います。
──配信リリースというスタイルは、メジャー/インディーズにこだわらない松崎さんには打って付けなのだと思います。そもそもメジャーでデビューして、2003年からインディーズで活動を始めました。当時はどういった理由があったのですか?
松崎ナオ:いろいろ理由はありましたけど、メジャーに疲れてしまったんです。私は人より成長が遅いので、まわりのスピードに追いつかなかった。自分のペースを保てなかった。今だったらまわりにペースを合わせることもできるけど、当時はそれができないくらいまだ幼かったのだと思います。ただメジャーで教えてもらったたくさんのことは、インディーズでたくさん活かそうと思っていました。私は「いい音」を届けたいという感覚が強くて、「いい音」とはどういうものかをメジャーでたくさん教わりました。インディーズは予算や機材などの面でメジャーより制約があるわけで、そのなかで「いい音」にどれだけ近づくことができるか。それを実現するには「いい音」を知らなければならない。メジャーの経験があって「いい音」を知っていることが、私の武器のひとつです。

──さて、2月1日のライブはどんなものにしたいと思っていますか?
松崎ナオ:バンド編成で、メンバー5人のうち3人がシンガーソングライターです。シンガーソングライターの人が弾く楽器の演奏が好きだし、コーラスワークを頑張ろうと思ったので、歌えるメンバーを揃えました。あと、過去の音源をたくさん歌います。過去を振り返るのが得意ではないという話をしましたけど、いちばん古い曲は16歳くらいのときに作ったもので、聴くのもかなり大変でした。部屋でジッと聴いているのがキツくて、友だちに車を出してもらって、そのへんをグルグル走ってもらいながら車で聴いたという。けっこう長い時間走ってもらったんですけど、それでも全部は聴ききれなかった。でもそうやって聴いた昔の曲のなかから選んで歌います。
──キツかったというのは、どういうキツさだったのですか? 曲がまだ稚拙だったなとか、もっとこうすれば良かったとか?
松崎ナオ:そういうのはなくて。私は未熟でも、その日そのときの100%が出せていればいいという考え方です。風邪を引いていたとしても、体調が悪かったなりに100%が出せていればいい。だから過去の曲はどれもそのときの100%なわけだから、それに対して思うことは無いんです。ただすごく入り込んで聴いていたので、その当時の気持ちとか思い出したくない経験がよみがえってしまったんです。私の場合、曲は頭のなかに流れる映像を歌詞やメロディに写し取っていく感じなんです。そこにはそのときの自分が抱えている感情も込められていて、その映像まで思い出してしまって、それが何よりキツかったです。
──でも過去の曲をたくさん歌ってもらえるのは、昔から知っている人はうれしいでしょうね。
松崎ナオ:そうなってくれたらうれしいです。こういうライブはあまりやったことがないので。
──美味しそうな匂いがして、お腹がすいちゃうかもしれませんね。
松崎ナオ:そうですね(笑)。でも私、空腹だと歌えないんです。歌う前はあまり食べないという人が多いですけど、私は食べないとだめで。食べずにチャレンジしたことがあるけど、1曲しか体力が持ちませんでした。体が動かなくなってしまいます。お腹いっぱいガッツリ食べてからライブをやっても、終わったときはペコペコ。だからこの日は、めちゃくちゃご飯を食べると思います。なのでビルボードさん、たくさん用意しておいてください(笑)。

──今日お話をうかがって、曲も聴いたうえで、松崎さんは自由人っぽいなって思いました。
松崎ナオ:“自由”というワードはよく言われます。ライブを観た人から「自由だね」って。でも私は歌うたびに「不自由だな〜」と思っているんです。楽器を弾くのもそうだし、そもそも音階って人が決めたもので、それに合わせて歌わなきゃいけない時点ですごくイライラします。でも、音楽は自分だけが満足すればいいというわけではありません。それでいいなら洞窟で、ひとりで歌っていればいいわけで。そういう部分では腹をくくって、不自由さも受け入れています。
──では最後に、松崎さんにとって歌うこととは?
松崎ナオ:潤いがあるものを提供したいと思っています。いわゆる歌って周波数で、目に見えないものを提供しているわけです。その際に嫌な影響を与える音は出さないように努力していることのなかに、声や歌も含まれている感じ。元気になるにもいろいろあって、「やってやる!」というやる気、熱い感じでも癒やしでも、刺激を与えられるものが作りたいです。ライブを観終わってどういう状態になっているかが大切で、ライブを観て「元気になったな」「明日も頑張ろう」など、何でもいいのでプラスの方向に行ってくれていたらうれしいなって思います。
取材・文◎榑林 史章

「愛をうたったら」
配信リンク:https://ultravybe.lnk.to/AIWOUTATTARA
<松崎ナオ -50->
2026年2月1日(日)
1stステージ OPEN 14:00 START 15:00
2ndステージ OPEN 17:00 START 18:00
ビルボードライブ横浜
Service Area:¥6,400〜 / Casual Area:¥5,900〜(incl 1drink)
チケット:https://eplus.jp/sf/detail/0027490002






