9/12に発売されたアルバム『Music Man』は、小林建樹そのものを表現したタイトルで、あまりの“らしさ”にニヤリとしてしまうほど。
「自分がやっていることそのものを表わしたかったんです。“小林建樹”ってなるとプライベートまでになっちゃうけど、“Musician”よりも、もっとひとりの人間ってことを強調したかったんです。“Music Man”がぴったりだったな」。 音楽を奏でる者として、自信あるタイトルをつけるに至ったのは、アルバム制作が充実したから。
「必要最小限の人間だけで作ったんです。あとはシャットアウト! それがすごくリラックスしたし、集中できた」と語るように、このアルバムはMusic Man、小林建樹のトーンで色濃く統一されている。
M1の「それは愛ではありません」、M2の「ピカレスク」、そしてM3の<君と僕は違うからこそ ただ美しいんだ>をフックに書き綴られ、シングルにもなった「ヘキサムーン」が“表代表曲”。アップテンポな曲を中心に展開している。後半に位置するM9の「ある場所にて」は“この曲こそが僕の思う、僕”であり“裏代表曲”。 「これはデビュー前に作ったんだけど一度封印したんです。コード進行が妙かなって。でもある意味これは僕自身の素顔であり、趣味で作った曲」というように、この曲を中心に後半はコンポーザー小林の一癖も二癖もある“才”をぐっと濃縮させている。そんな小林だが、歌詞については大きなこだわりを持っていないよう。
「うん、メロディを作っているときに仮に歌って出てくる言葉をそのまま直さず、本チャンにしているんですよ(笑)」。 そうやってできた3rdアルバムは「自分の着たい服が着れた」と言う。
以前、BARKSの取材でも語っていたように、小林は1stアルバムは“何でも着てみる”、2ndは裸になってみる”、そして今回の3rdで“自分の服を着る”といったデビュー前からの青写真を達成した。そこまで先を見越して、ひとつ達成された今、今後見据えていることとはなんだろうか?
「僕、いろいろ野望を持っているんです。そのひとつがプロデュース業。以前、tef tefという姉妹デュオをプロデュースさせてもらって発見したこと、いっぱいありましたしね」
ただ楽曲を作り歌うというミュージシャンとは別の、しがらみの世界が見えてきたのだろうか?
「ううん。本当にいいプロデューサーって、そこにいるだけでミュージシャンの一番いいところが引き出せる人だと思うから。僕はそこを目指したいですね」
そんな彼が好きなプロデューサーはジョージ・マーティン。ビートルズ作品を多く手がけた達人だ。彼とビートルズが作り出した空気感がマジックと感じているようで、「次はバンドものをプロデュースしてみたい」と言う。
とはいえ、まずは『Music Man』をひっさげ、11/18から全国ツアーに出る。実は小林サウンドは、CDとライヴでは全然違う。少なからずも衝撃を受けた筆者なのだが、「え? そうですか?(笑)」と小林は確信犯的に笑う。
CDではすべてはメロディを聴かせるためにデリケートに演奏されているのだが、ライヴでは凄腕バックミュージシャン達と張り合うがごとく、アレンジを変え、即興でお客に聴かせる……いや、自分たちで演奏を楽しんでいるのだ。
「僕、実はジャズ・ミュージシャンにもなりたかったんですよね」
なるほど、妙に納得。最後に、多くいる男性シンガー・ソングライターのなかでも、小林建樹の武器はなんでしょう?と尋ねたときに、「常に自由であること」と強く主張。
これは同時に自分自身をよく分かっている人であり、一生ミュージシャンであることを表明しているかのようだった。 |