「フィリーには誠心誠意、そして力強くという伝統がある。こじんまりとまとまっているが、密度はとっても濃いんだ」。23歳のヒップホップ/ソウルシンガー、Musiqは生まれ故郷のフィラデルフィアについて語っている。だが、この形容は華奢な体格と芽生えつつある恋愛関係についての甘い賛歌を歌うことへの単刀直入で正直なアプローチという点で、彼自身のことを語っているとも解釈できよう。 Musiqの軽く引き締まったヴォーカルには、あたかも'70年代ソウルに何年もどっぷり浸ってきたように感じさせるところがある。成長期にDonny Hathaway、Aretha Franklin、Stevie Wonder、Chaka Khanといったクラシックソウルのアーティストを聴いて育った彼は、現在もそれらが自身のサウンドに大きな影響を与えていることを認めている。「親父がソウルミュージックをたっぷりと聞かせてくれたことが、成長するにつれて大きな意味を持つようになったのさ。その影響を自分のスタイルに取り入れ始めたんだ」とMusiq。 そのことはスキャット唱法と個性を発揮した表現にあふれた快活なチューン「Just Friends(Sunny)」でも証明されている。この曲は当初『Nutty Professor II: The Klumps(ナッティ・プロフェッサー2/クランプ家の面々)』のサウンドトラックに収録され、現在では彼の最初のフルアルバム『Aijuswannaseing』からのファーストトラックとなった。このデビューCDは彼のエモーショナルなヴォーカルと、「Seventeen」での下世話なグルーヴからヴェルヴェットのようにスムースな「Merry Go Round」に至る自由闊達なスタイルを見事にお披露目している。 フィラデルフィアにはRoots、Jazzyfatnastees、Jill Scott、Bahamadiaといった革新的なアーティストを産み出したクリエイティヴなの音楽シーンが存在するが、Musiqも市内に数多くある飛び入りOKのスポットで活動しながら才能を育んできた。「フィリー全体のヴァイブにはじわじわと燃えるような効果があるから、落ち着いて振り返ってみるまで気付かないことさえあるんだ」と彼は説明する。「あまり多くのことは起こっていないように思われるかもしれないけど、実際はそうじゃない。じっくりと染み込むのを待つ必要があるんだ」 最初、人間ビートボックスとして活躍したMusiq Soulchild(本名Talib Johnson)は、いつでも音楽に関わっていたことからその仇名を付けられたという。「僕が顔を出すとみんなが“ほらミュージックボーイが来たよ”って言ったのさ」と彼は回想する。「それでMusiq Soulchildという芸名に変えたんだ。Musiqは“muse”と“IQ”という2つの単語に分解できる。僕はインスピレーションとして役立ちたいからね。人々に僕からインスピレーションを得てクリエイティヴになってほしいんだよ。それには箱から飛びださなくちゃいけない時もあるのさ」 実際、音楽的なスタイルに関してMusiqは特定のカテゴリーに閉じ込められることを拒否している。「僕がソウルフルな背景から出てきたからといって、それしかできないと思わないでほしいな」と彼は主張する。「カテゴライズされたくないんだ。1人のアーティストとして評価してほしいんだ」 『Aijuswannaseing』におけるジャジーなヴォーカルのアレンジやハートフルな表現を聞くかぎり、このシンガーが簡単にカテゴライズされたり音楽的な発展に限界を感じたりすることはなさそうだ。実際に彼にとってはすべてが計算どおりに運んでいるように思われる。「いろんなドアをノックして回って、ずっと開け放ってしまいたいのさ」と彼は言い放った。 |