【和楽器バンドインタビュー vol.8】鈴華ゆう子「私にはバンドの火を消さない責任がある」

◼︎運命を変えてくれた存在

──「GIFT」に続く新曲、「八奏絵巻」の話も聞いていきましょう。

鈴華ゆう子：「GIFT」を提出したとき、まっちーに「この曲に対抗してもっといい曲書こうとかしなくていいやって思ったんだよね」って言われたんです。彼は「もう1曲いい曲書くのは違うだろう」とも思ったそうで、「そうじゃない方法でファンが1番喜ぶものを作ろう」って考えて、こういう曲を作ると提案してくれました。楽曲投票をした中で、選曲にもれた曲を救って満たしていくことがファンのためでもあるし、自分たちの思いでもあるって。時間がない中でどんなに苦労したとしても、ベストだと思うものを作ろうというまっちーは、本物の音楽家ですね。私も出来上がってから何度も何度も繰り返し聴いていて。「GIFT」→「八奏絵巻」→「GIFT」→「八奏絵巻」って交互に聴いて、「本当に終わっちゃうんだな」って噛み締めています。

──いやー、私も初めて聴いた時はくらっちゃいましたよ。まさかこんな曲が来るとは思っていなかったから。

鈴華ゆう子：まっちーのすごいところは、世に出てないメンバーが書いたデモ曲とかも、気に入った曲は全部歌えるぐらい覚えてるところ。「それ口ずさんだらダメ！　世に出てないよ！」みたいな（笑）。でも、そのぐらい本当に根っからの音楽家で、頭の中に曲が全部入ってる。そして愛情があるから、こういう曲が作れるんですよね。

──泣かせますね。

鈴華ゆう子：曲は、たしかレコーディングの前夜ギリギリに上がってきたのかな。でもレコーディングするときに私の歌が入っていないとみんなテンパるだろうなと思ったので、「今から歌うね！」って深夜に仮歌を録ったんですよ。その中で、「吉原ラメント」のところで「セリフ入れた方が良くない？」とか「ここはクロスして歌うのがいいんじゃない？」とかも急いでやりとりをして。それで翌日からレコーディングに入りました。



──へぇ！　そもそも、これはいろんな曲のキーを均してひとつの曲にしているわけですよね。これを歌いこなせるのもすごいと思いました。

鈴華ゆう子：いや、実はそんなに大変でもないですよ。テンポ感が大変かもしれないですけど、一回曲として馴染んでしまえばみなさんも楽しく歌える曲になると思います。うちのバンドでキーを均すのはそんな大変じゃないんですよ。特に私はピアノの人なので、キーを全部揃えるとかは割とぱっと転調でできちゃうので、そこに大変さは感じてなくて。でも作曲側として考えたら、あまりにも曲数が多いので、どの曲をどう繋いで仕上げるかが大変だろうなと思っていました。特に歌詞も、って考えるとね。本当に和楽器バンドに愛情がなきゃできない曲だなと思います。

──町屋さんが、“歌手を夢見たゆう子さんを描いた「World domination」から始めるしかなかった”とおっしゃっていました。

鈴華ゆう子：愛ですよね。意外と私の曲もたくさん使われてて嬉しかったですね。

──どこにどんな曲が入っているか、ファンの方の考察も捗っているようで。

鈴華ゆう子：最後の部分だけでも、《チャンスは1度 奇跡を起こせ》は「ワタシ・至上主義」で、そのあとに続く《ミライへ》が「ミ･ラ･イ」から。《重ね合う僕等の》が「Howling」で、そのあとの《夢で奮い立たせて》は「沈まない太陽」から来てるとか、一節に見えて交差している部分もたくさんあるんです。

──これライブで聴きたいような、聴きたくないような気持ちです。聴いたら泣いちゃいそうなので。

鈴華ゆう子：その気持ちもわかります。でも “今できることのベストを”と考えて作ったアルバムなので、これをライブで披露することで8人の思いがみなさんに伝わるといいなと思っています。



──リレコーディングの曲に関しては、いかがでしたか？

鈴華ゆう子：10年経って声が老けたとか思われたら嫌だなってドキドキしてたけど（笑）、キーも変わっていないし、こなれ感というか、余裕が出たなと自分で思いました。昔はボーカルマイクの前に立ったら必死だったんですよ。それが今や、息をするように歌が出てくる。それくらいたくさん歌ってきたんだなって、じんわりきました。ボーカルは声が楽器なので、自分でも気付かないような、この10年生きてきた経験が違いとなって現れてるんじゃないかなって。そこを感じて楽しんでいただければなと思っています。

──同時発売となった映像作品には、どんな思いがありますか？

鈴華ゆう子：この＜和楽器バンド 大新年会2024日本武道館 ～八重ノ翼～＞のアンコールで、活動休止の発表をさせていただきました。ファンの方にはすごくショッキングな報告だったと思います。それもわかった上で、私たちは「今日話すんだ」という決意を込めてパフォーマンスしてるんですよ。今回の映像作品では、改めてその覚悟を知った上で、メンバーがどんな面持ちでステージ立っていたのかを見ていただきたいですね。私たちにとっても、みなさんにとっても、いろんな思いが溢れる映像作品になってると思います。

──毎年恒例だった＜大新年会＞も、これで一旦の見納めなんですよね。

鈴華ゆう子：私にとっても辛いですよ。＜大新年会＞あってこその新年だったし。この8人だからこそできたステージっていっぱいある。武道館も、一人の力で立てるメンバーはいないですし。だからすごく寂しいし、思うこともたくさんありますが、和楽器バンド第二章に入る前の作品としてぜひお手元に残して、また再集結したときに見比べられるようにしてもらえたら嬉しいです。



──活動休止を発表された際は不安に思った方も多いと思いますが、この2作品で救われた方も多いのではないかと思います。

鈴華ゆう子：バンドって、みんなで並んで走らなきゃいけないじゃないですか。だからメンバーに全速力で走りたい人がいたら、そこに必死にしがみついてなんとか走るしかないメンバーだっているかもしれない。でもそれじゃあしんどくなってしまう。チームであるからこそ、1回休んだり、スピードを落とした人に寄り添うこともあって然るべきだと思っています。常に全速力を出すことよりも、この8人で走ることのほうが大事なんですよね。これまでにもいろんな危機があったけど、私は「この8人じゃなきゃ意味がないんだよ」と言い続けてきたんですよ。

──そうだったんですね。そんなゆう子さんでも、辛かった時期はありましたか？

鈴華ゆう子：いろいろあるけど、コロナ禍のころはしんどかったですね。どうしていいかわからなかったので。

──ゆう子さんが楽しかったなと思うのは？

鈴華ゆう子：最初の5年ぐらいは全てが新鮮で、怒涛で、楽しかったですね。バンドとして初めて海外に行ったのもその頃だし。ミュージックビデオを撮る、テレビに出る、全てのことが初めてで。1人だったら緊張することもあったかもしれないけど、 みんなで「やばいね！」「緊張するね！」とか言いながら活動してたのが、青春でしたね。最近で言うと、それこそ今回のリリースイベントが怒涛で楽しかったです。私は全箇所参加させていただいたんですけど、このような周り方をすることってなかなかなかったから、ファンのみんなからの溢れる愛を直接受け止めることができて嬉しかったです。思い返すと、あえて距離感の近い会場で、ファンの方の顔をしっかり見て全員に手渡しすることってほとんどやってこなかったんですよね。スケジュール的には怒涛で目まぐるしかったですが、忙しいのは好きなので、「この感じ久しぶり」と思いながら楽しめましたね。

──てっきりボーカリストとして、広い会場で歌ったこととかが楽しかったのかなと思っていたのですが、“怒涛”なところなんですね。

鈴華ゆう子：ハプニングも含め、忙しいと楽しいんですよね。これから始まるツアーも、楽しみですね。

──なんか、いいですね。ずっと青春感あるというか。ゆう子さんにとって、和楽器バンドってどんなものでしたか？

鈴華ゆう子：運命を変えてくれた存在、ですね。和楽器バンドがなかったら、私は歌手じゃないかもしれない。趣味で歌っているだけの人だったかもしれないなって思います。ソロでも歌っていますけど、バンドからもらっていた恩恵があるからこそ成り立っているわけで。だから、来年からはすごく不安でもあります。でも、不安だからといって止まっている暇はないとも思っています。

──なるほど。

鈴華ゆう子：他のバンドさんでもそうだと思うんですよ。「あのバンドが今活動していないのは、バンドメンバーがそれぞれ忙しく活躍してるからで、きっとまた集まってやるんだろうな」っていう風に思ってもらえるよう、動きを止めないことが重要だと思っていて。私には、バンドの火を消さない責任がある。和楽器バンドでしか知られてなかった私の歌をもっと、「あの人こんな歌も歌えるのやばくない？」っていう風に認知してもらいたいし、今までバンドからもらっていた恩恵を還元できるように頑張らなきゃなと思っています。「鈴華ゆう子がボーカリストだからすごかった」って言われるぐらいの歌を歌わなければな、という覚悟もあります。


──和楽器バンドを離れた“ボーカリスト・鈴華ゆう子”を見られるのも楽しみです。

鈴華ゆう子：これまではバンド一色だったのですが、アーティストとしては、バンドという枠を外れたときに表現の幅が広がるので、いろんな挑戦ができると思っていて。ソロだとフットワークが軽くなりますし、これからはボーカルとして活動して「和楽器バンドって、こんなボーカルがいるバンドなんだ」という種を撒きに行こうかなと考えてたりします。

──じゃあ、歌う機会は増えていきそうですね。

鈴華ゆう子：そうですね。日本だけじゃなく、世界に向けても発信していきたいですね。

──再集結した日には、また違った姿の皆さんに会えそうで、それもまた楽しみになってきました。

鈴華ゆう子：メンバーの中にも、ちょっとお休みして自分に時間を使いたいっていうタームに入ってる人もいると思うんですけど、休むことで客観視ができて、バンドが自分にとってどんな存在かってことにも気付けると思うんですよね。それもある意味必要な時間。

──そうかもしれませんね。

鈴華ゆう子：現状維持ほど楽なものってないと思っていて。現状維持って居心地いいから、それを捨てて新しい挑戦をするってよほど大変なんですよね。私たちは今、あえて大変な道に自ら入っていこうとしているわけです。そんなメンバーみんなの挑戦を、見守っていただけると嬉しいですね。

──そうですね。リーダー・ゆう子さんの決意が聞けてよかったです。最後に、そんなゆう子さんを見守ってくれていた、黒流さんへの『THANKS』メッセージをください。

鈴華ゆう子：もし黒流さんがいなかったら、このバンドはもっとぐちゃっとしていたかもって思うんです。変な言い方かもしれませんが、最後の砦というか。黒流さんって、いい意味で真ん中にいないんですよ。俯瞰して見守ってくれているというか、縁の下の支えというか。ステージで歌っているときも、振り向くと常に目が合うんです。その安心感に支えられてきました。あと、私褒められるの大好きなんですけど（笑）、黒流さんはいつも「ゆう子ちゃんのボーカルだからここまで来れたんだよ」って言ってくれてたんです。10年間、その言葉にどれだけ救われたか。とても感謝してます。

──黒流さんの存在感、すごく安心しますよね。

鈴華ゆう子：本当はすごく繊細な方で楽屋でも静かにされてるんですけど、自分の役割としてみんなを励ましてくれたり、ステージで煽ってくれたり。あと和楽器バンドを組む前、彼のライブを見に行った時に、黒流さんが今のドラムVS和太鼓バトルに通じる演出をやっていたんです。それを見てめちゃくちゃかっこいいなと思ったので、黒流さんに「あの演出を和楽器バンドでもやりたい。黒流さんがこれまで経験されてきたものを取り入れてもいいでしょうか」って聞いたら、「当たり前だよ。僕がやってきたものは全部注ぎ込むから、最高のエンタメを一緒に作ろう」って言ってくれて。そんな風に、これまでの経験を出し惜しみなくバンドに注いでくれたことにも、すごく感謝しています。

──ここまでの他のインタビューでもみなさんそれぞれがお互いをリスペクトしていることが感じられて。本当にいいメンバーが揃ったバンドですね。

鈴華ゆう子：本当にそう思います。アベンジャーズのようにみんなそれぞれのストーリーが音楽家としてあるので、これからは各自のストーリーの世界に一旦戻って自分の世界をさらに強化していく。そしてまた集まった時には、さらなるスーパーアベンジャーズになっているんだろうなって想像できるんです。むしろ、楽しみなイメージしかないです！　まずはアルバムを聴いて、映像作品を見て、そしてツアーで私たちのこれからに対する思いを受け取っていただけたらなと思います。

取材・文◎服部容子