【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話025「藤岡幹大とアンスラックス」

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突き抜けた才能をほとばしらせていた天才小神・藤岡幹大が急逝してしまったのが2018年。その1年半ほど前に行なった彼のインタビューの中で、藤岡幹大が興味深いエピソードを語ってくれていた。

BABYMETALのツアーで世界中を回っていたとき、ドイツ公演でいつものようにケンパーを現地でレンタルしステージで使用したのだけれど、ケンパーの電源を入れたら、その前の使用者によるステージセットの音源データがまるまる残っていたという。データの消し忘れだ。

ケンパーというのはいわゆるデジタルギターアンプなのだけど、ここでは詳細は割愛するものの、その画期的な性能とサウンドメイクの簡便化が実現されており、世界中のトップギタリストに信頼・愛用され、ことライブステージでの使用頻度が非常に高まっていた時期でもあった。自分のサウンドデータはUSBメモリーを1枚持っていけば、現地レンタルでいつものサウンドがすぐにセットアップできる。重くて大きなアンプやエフェクターを労力をかけて空輸する必要もない。紛失や事故、盗難の心配もない。世界を飛び回るギタリストにとって、救いの神のようなギターアンプなのだ。

藤岡幹大がレンタルしたケンパーの中で発見したのは、「アンスラックスのステージフルセットの音源データ」だったという。もちろんサウンド追求の一端として、そのリグデータも興味深く手にしたという話なのだけど、藤岡幹大がレンタルしたのは2016年6月8日のドイツ・シュトゥットガルト公演だから、そのアンスラックスのギターサウンドデータは、ミュンヘンで開催された<ロッカバリア・フェスティバル>で5月29日に出演したときのデータで間違いないだろう。

「アンスラックスのサウンドがそのまま試せるだなんて、テンション爆上がり」なんて屈託のないギタリスト小僧のような話をしていたわけだけど、2018年に小神様が急逝してから更に1年経過した2019年の春に、私はアンスラックスのスコット・イアンに取材をする機会を得た。

メタル文化を語るインタビュー内容だったけど、自ずとギターサウンドの話にもなり、スコット・イアンもまたギターやアンプ、サウンドの話になると1段テンションが上がるというギターキッズそのままの人物で、あまりにマニアック過ぎて原稿からはカットせざるを得ない話が続々と繰り広げられた。

もちろん私は、小神様のエピソードを持ち出した。「あのとき、ドイツでケンパーをレンタルしたでしょ?」と。アンスラックスのデータを手にしてBABYMETALのギタリストが小躍りしてたというエピソードに、スコットは笑みをたたえていたけれど、「実はもうケンパーは使っていない」とのことだった。プレイする本人にしかわからないような微細なところだけれど、やはり「本物」と「プロファイル」には違いがあって、「なんか違うなんか違う」と思いながら使いつつ、RIGデータの元となったチューブアンプに替えてみたら「これだよこれ」と、求める答えがそこにあったという。

その時のインタビューでも機材の話が出ているけれど、片っ端に試して最高のマーシャルを選びだしたという話をしているときのスコット・イアンは、まるでオモチャにはしゃぐ子どものようだった。「これなんだよこれ」とスマホの中に保存してあるマーシャルの写真を見せてくる。無改造のマーシャルの写真を見せられても普通の人はリアクションのしようがないだろうけど、あいにく私もアンプ厨だったので、「JCM800の2203も個体差が激しいですよね、これはどんな傾向のサウンドですか?」「刺さっていたEL34はどこのでした?」と、アンプ談義が止まらなくなった。そもそもマーシャルの写真がスマホに入ってて、いつでもさっと取り出せちゃう時点で、スコットはかなりヤバイ。

周りの人をドン引きさせるクソマニアックな話でしこたま盛り上がって、取材時間もタイムアップ。最後に右腕にスコットのサインを書いてもらい、「メタル最高」と記念写真をパチリ。やっぱメタルは最高だよ。





文◎BARKS 烏丸哲也

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