【ライブレポート】BAND-MAID × THE WARNING、ここから綴られていく物語

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6月12日、時刻は午後9時を13分ほど過ぎた頃のこと。EX THEATER ROPPONGIのステージ上にはBAND-MAIDとTHE WARNING、総計8名のメンバーたちが横一列に並び、超満員のオーディエンスからの拍手と歓声に、満面の笑みで応えていた。同夜がその場に居合わせた人たちにとっていかに満ち足りたものだったかがうかがえる瞬間だった。

◆ライブ写真

この夜の公演に掲げられたのは<BAND-MAID×THE WARNING SPECIAL SHOW IN JAPAN>という、そのものズバリのタイトル。双方のバンド名の間に記された“×”という記号は“+”とも“&”とも違ったニュアンスを感じさせる。まず対バンという言葉が示すように、そこには確実に対決の意味合いが伴っている。同時に、単純な並列や足し算ではなく、掛け算なのだと解釈することもできる。そして実際、両バンドによる本気のぶつかり合いはとんでもない相乗効果を呼び、このお給仕を<SPECIAL SHOW>の名に恥じない本当に特別なものにしたのだった。

両バンドが出会ったのは2022年10月、アメリカはカリフォルニア州サクラメントで開催された<AFTERSHOCK FESTIVAL>でのこと。4日間にわたり開催されるこの恒例のフェスの最終日に、どちらも名を連ねていたのだ。出演ステージが異なっていながらも両者がそこで引き合わされたのは、お互いに引き寄せ合うものがあったからだろう。そこでの出会いを切っ掛けに日本とメキシコのガールズ・バンド同士の交流が始まり、ごく自然に「いつか何か一緒にやろう」といった言葉が交わされることになった。そして、それから丸2年も経たないうちに、その約束が社交辞令に終わることなく果たされることになったというわけだ。


先にステージに登場したのは、今回が日本初上陸となるTHE WARNINGだった。メキシコ第三の都市、モンテレイ出身のダニエラ(ダニー)、パウリナ(パウ)、アレハンドラ(アレ)のビジャレアル三姉妹によるトリオバンドで、全員が2000年代生まれでありながらすでに始動から11年目を迎えている。彼女たちとBAND-MAIDとの共通項を探そうとすると、どちらも2013年を歴史の起点としていること、ともにガンズ・アンド・ローゼズとの共演歴があることなどが挙げられる。2021年に発売されて話題を呼んだ規格外のトリビュート作品、『メタリカ・ブラックリスト』(1991年発表の怪物アルバム『メタリカ』収録曲群の、総勢53組によるカヴァー集)に参加していたことを記憶している読者もいることだろう。以前より次代を担うべき存在として各方面から注目を集めており、この6月28日には『KEEP ME FED』と題された通算4作目にあたる新作アルバムの発売も控えている。


会場内が暗転し、オープニングSEが流れ始めた瞬間、大きな手拍子が始まり歓声が湧く。その時点でオーディエンスの期待度の高さについては疑うまでもなかったが、実際に演奏がスタートすると、彼女たちの日本初上陸の機会到来を心待ちにしていた人たちの多さを改めて実感させられることになった。最初に披露されたのは「S!CK」。最新アルバムからの先行シングルとしてリリースされている楽曲のひとつだが、いわゆる日本盤が発売されているわけでもないのに、まるですべての観客がこの曲を熟知しているかのような一体感がすぐさま生まれる。来場者の多くはBAND-MAIDの支持層であるはずだが、早くからTHE WARNINGに目をつけてきたファン、この特別なお給仕を満喫するための予習を怠らずにいた人たちがいかに多かったかを感じずにいられなかった。

もちろん驚かされるのは、そうした観客の熱量についてばかりではない。トリオ編成のバンドによる演奏について形容する際、「3人とは思えないほどの~」というのが決まり文句のようになっているところがあるが、彼女たちが繰り出すサウンドには必要最少人数とは思えないほどの厚みと迫力ばかりではなく、3人だからこその空間の豊富さもある。しかも、メインで歌うのはダニーだが、全員がボーカルをとることができるのだ。そして忘れてはならないのは、THE WARNINGが若いながらも百戦錬磨のライブバンドであり、大きなステージでの演奏経験も豊富だという事実。誰も無闇に動き回るわけではないが、メンバーのたたずまいはさすがに堂々たるもので、EX THEATER ROPPONGIのステージが過度に広く感じられることもない。


1曲目の「S!CK」が終わると、ダニーは「アリガトウゴザイマス! コンニチワ、トーキョー!」と挨拶。大きな歓声が巻き起こるなか「ワタシワ、THE WARNINGデス」と自己紹介した直後、律儀に「ワタシタチワ」と言い直す。会場内には敢えて事前の準備をすることなく、予備知識も先入観もないまま彼女たちのステージに臨んだ人たちも少なくなかったはずだが、もはやこの時点で、すべてのオーディエンスがTHE WARNING贔屓になっているのではないかと思えるほどの好反応だ。そして「イチ、ニ、サン」というカウントを合図に転がり始めたネクスト・チューンは3rdアルバム『ERROR』に収められていた「Z」。その後も3人は、同作と『KEEP ME FED』からの楽曲を中心にテンポよく演奏を続けていく。ヘヴィでグルーヴィな曲も魅力的だが、メキシコのバンドらしく歌詞全編がスペイン語で綴られている「Qué Más Quieres」の軽快さも、オーディエンスを飛び跳ねさせずにはおかない。


そんな中で印象的だったのはダニーが「アリガトウゴザイマス」、「ムーチョグラシアス」などと何度も感謝の言葉とともに「信じられない!」、「スゴイ!」といった驚嘆の言葉をあげていたこと。自己初となる日本でのステージで、まさかこれほどの歓待を受けることになるとは思ってもみなかったのだろう。もちろんそれは彼女に限ったことではなく、パウもアレの表情からも喜びと驚きの大きさがうかがえる。3人にそうした反応を引き起こさせたのはオーディエンスの熱狂ぶりということになるが、それを呼び起こしたのは当然ながら彼女たち自身のライブ・パフォーマンスの強烈さだ。そしてもうひとつ特筆すべきなのは、3人による歌声のブレンドの妙についてだろう。見事なハーモニーを聴かせるというよりも、実の姉妹ならではの“似て非なる歌声”の重なり合いが、独特な効果を生んでいるのだ。しかも3人でのユニゾンばかりではなく、2人ずつの組み合わせもあれば、パウとアレがそれぞれの色を発揮する場面もあり、変幻自在とまでは言わずにおくが、さまざまに響きを変えていくのだ。こうした歌声のケミストリーも、THE WARNINGの大きな武器のひとつだといえるだろう。

結果、彼女たちの日本での初ライブは全12曲で終了。クロージング曲の「Evolve」を演奏し終えると、3人揃ってステージ中央のお立ち台に上がり「アリガトウゴザイマシター!」と声を重ねる。これを切っ掛けにこの国でのTHE WARNINGの物語が始まることになるのを確信させられた瞬間だった。すぐにでも再会したいと感じた来場者は多かったはずだし、彼女たちのパフォーマンスは大きなフェスなどでも間違いなく映えることだろう。今後、さまざまな機会が巡ってくることになるのを、こちらとしても期待したいところだ。


そんなTHE WARNINGの熱演から15分ほどのインターバルを経過し、午後7時を5分ほど過ぎた頃にふたたび場内は暗転。いよいよBAND-MAIDのお給仕の始まりだ。赤いライトが交錯する中、AKANEを先頭にしながら登場したメンバーたちがそれぞれの配置に就くと、KANAMIが刻み始めたのは「glory」のリフ。すでに場内には熱気が充満しているが、SAIKIが号令をかけるかのように「さあ行こうか、六本木!」と叫ぶと、それがさらに高まりをみせる。そうして快調にスタートを切ると、AKANEのドラムが次なる「NO GOD」へと導いていく。このバンドならではの整合性の高い演奏と歯切れの良いボーカルは、今夜も痛快きわまりない。

最初のブロックの4曲を一気に演奏し終えると、小鳩ミクが「お帰りなさいませ、ご主人様お嬢様」という恒例の挨拶をする。しかしこの夜の場合は、その言葉がメキシコからの友人たちにも向けられていた。

「ようこそ、THE WARNINGの皆さまっぽー! 盛大なる拍手を!」

オーディエンスは当然ながらそれに同調し、小鳩はこの夜のステージセットについて説明する。背景には今回の対バンお給仕のために用意された特別なアートワークを用いた巨大なバックドロップが吊られている。さらにその左右には大小の白い提灯がたくさん設置され、その一個一個に両バンドの名前がカタカナで描かれているのだが、その毛筆は小鳩自身の手によるものなのだという。まるでひと足早い夏祭りのような光景だ。


あいにく筆者は遠い過去のことまでは知らないが、少なくとも昨今の彼女たちのお給仕には本当にハズレがない。いや、当たりハズレがないどころか、毎回が本当に特別な機会になっているように感じられる。それは去る5月のインキュバス来日公演にスペシャルゲストとして登場した際にも、メイドの日にZepp Hanedaで観た時にも感じたことだが、この日も例外ではなかった。もちろんTHE WARNINGとの共演という明白なスペシャルさはあるわけだが、単独でのお給仕ではないだけに比較的コンパクトにならざるを得ない演奏枠の中に並べられた楽曲の顔ぶれ自体にも、特別なものを感じさせられたのだ。

ことにそれを感じさせられたのは、中盤への入口に配置された「YOLO」が披露された時のことだ。いわゆるメジャーデビューシングルとして2016年に登場しているこの曲に、懐かしさに起因するレアさを感じたというわけではない。ただ、小鳩の命名によるこのタイトルが「You Only Live Once」の略であり「人生一度きり」を意味すること、彼女たち自身が作詞・作曲を手掛ける現在のような制作スタイルの起点となった楽曲であることを考えると、なんだか特別な意味合いが込められているように感じずにいられない。もちろんそれは筆者の勝手な思い込みに過ぎないかもしれないが、まだまだこの先に未来が広がっているBAND-MAIDにとっても時間は無限のものではない。画期的な対バンとなったこの夜のお給仕にしても「いつか叶えたい」と思うだけでできるものではなく、一瞬たりとも無駄にしたくないという気持ちがなければ実現不能なものだといえる。だからといって夢や希望の実現のために生き急げばいいというわけでは決してないはずだが、こうした選曲ひとつにも彼女たちの心意気のようなものを感じさせられたし、「YOLO」に限らず歌詞の断片が刺さってくる場面が随所にあった。


もちろん特筆すべきは歌詞のことばかりではない。今回、各曲に触れながら改めて感じさせられたのは、どの曲も実に考え抜かれた成り立ちをしているということ。THE WARNINGがある種のプリミティヴさを身上としているのに対し、BAND-MAIDの音楽は情報量も多く、さまざまな要素が複雑に噛み合っていることが多い。そこで玉突き事故のようなことが起こらないのは、各メンバーのミュージシャンシップの高さゆえでもあるし、各パートのフレーズが充分に練り込まれ、洗練されているからでもあるはずだ。ことにKANAMIのギターとMISAのベースによる鋭利なフレーズの応酬は、お給仕の場においては耳にも目にも刺激的だ。同時に、THE WARNINGにおける歌声のケミストリーとはひと味違うツインボーカルのマジックが、BAND-MAIDにはある。しかもそこに、確実に磨きがかかっているのだ。


そしてお給仕の勢いは、終盤に差し掛かってもとどまるところを知らない。この夜には絶対に欠かせないはずの1曲だと誰もが思っていたはずの「Warning!」でも、まだリリースされていないながらもすっかり定着している「Magie」でも、そのテンションと熱が落ちることは一切ない。そして最後に炸裂したのは、世界征服という命題のテーマ曲ともいうべき「DOMINATION」だった。


しかしこの特別な夜は、そのままでは終わらなかった。小鳩の「BAND-MAIDでしたっぽ!」という終演の挨拶に続いたのは「……と言いたいところですが」という言葉。やはりせっかくの夜をBAND-MAIDの5人だけで終えるわけにはいかない。そこに用意されていたのは、なんとTHE WARNINGの3人をステージ上に呼び込んだうえでの“おまじないタイム”だった。そこでの細かなやりとりを詳しく記述することは控えておくが、ちょっと大袈裟な言い方をすれば「萌え萌え/きゅんきゅん」が言語の壁を越えるのを我々は目撃することになった。しかもダニーが発する「かかってこいよー!」というSAIKIゆずりの煽り文句もしっかりとサマになっていた。


そうこうしている間にステージ上では機材セッティングが終わり、8人全員での演奏が始まった。曲は両バンドのコラボによる新曲、「SHOW THEM」だ。まだリリースされていないどころか、彼女たちとごく一部の関係者以外はまだ耳にしたことすらないはずの真新しい楽曲である。しかしこの求心力の強いロック・アンセムは、満員のオーディエンスを無条件に合唱へと巻き込んでいく。最後の最後にお馴染みの楽曲のカバーなどで大団円を迎えるイベントや対バン公演は多いが、この場面はそれとは一線を画するものだったし、何よりも、こうした特別なクライマックスに似つかわしい最新曲がすでに誕生しているという事実に、今回の両者によるコラボの意義深さを感じずにいられなかった。



こうして約2時間15分に及ぶスペシャルなお給仕は幕を閉じた。この夜のことは単純に素晴らしいライブとしてばかりではなく、ここから綴られていく特別な物語の起点としても記憶されていくことになるに違いない。そう確信させられた一夜だった。


取材・文◎増田勇一
写真◎伊東実咲

セットリスト

◼︎The Warning
1 S!CK
2 Z
3 CHOKE
4 Qué Más Quieres
5 Dull Knives
6 MORE
7 MONEY
8 Burnout
9 Automatic Sun
10 DISCIPLE
11 Hell You Call A Dream
12 EVOLVE

◼︎BAND-MAID
1 glory
2 NO GOD
3 influencer
4 Unleash!!!!!
5 YOLO
6 Bubble
7 Shambles
8 Warning!
9 Screaming
10 Magie 新曲
11 DOMINATION

BAND-MAID with The Warning
1 SHOW THEM  新曲

ライブ情報

<BAND-MAID HALL TOUR 2024>
2024年6月28日 (金) 愛知・名古屋市公会堂
2024年7月5日 (金) 大阪・フェニーチェ堺 大ホール
2024年7月14日 (日) 神奈川・神奈川県民ホール
公演詳細:https://bandmaid.tokyo/contents/733904

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