【ライブレポート】BAND-MAID、“番外編”を超えた“番外編”

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昔から「逆もまた真なり」などと言われているが、まさにそれを感じさせられた夜だった。2月17日、東京・恵比寿リキッドルームで目撃したBAND-MAIDの<番外編お給仕>の話である。

◆ライブ写真

彼女たちはその2週間前にあたる2月3日にも同会場にて同様のテーマのもとでステージに立ち、それを2025年のお給仕活動のスタート地点としている。<番外編>と銘打たれているだけあって、どちらもこれまでの通常モードのお給仕とは一線を画する内容ものだったが、双方の夜を経たうえで筆者が感じたのは「これは本当に<番外編>なのだろうか?」ということだった。つまり「これはBAND-MAIDの王道でもあるのではないか?」と思えたのだ。

この二夜のお給仕は、ほかならぬSAIKI(Vo)のプロデュースによるもの。1月に当サイトで公開されたインタビューの中で、彼女は「私がみんなに無茶振りをしようと考えておりまして」と語っているが、実際の取材時にそう発言していた際、いたずらっぽい笑みを浮かべていた。そして彼女がメドレーの導入を考えていると発言すると、他4人のメンバーたちが歓喜とも驚嘆ともとれる声をあげていたのを記憶している。その時点ですでに、今回のお給仕のどこかにメドレーが組み込まれることになるはずだとは頭の中に想定できていたが、当然ながらSAIKIの無茶振りはそれだけで終わるはずもなかった。


ただ、2時間以上に及んだこの夜のお給仕で目撃した一部始終について時系列に沿ってお伝えすることには無理があると言わざるを得ない。それくらい盛りだくさんでめまぐるしかったからでもあるし、演奏内容以外の詳細あれこれについては、実際にその場に居合わせたご主人様お嬢様たちだけの記憶にとどめられるべきではないかという気もするからだ。というかそれ以前に、演奏を離れた場面や恒例の『おまじないタイム』での彼女たちの自由過ぎる振る舞いについて文章で伝えようとすること自体に無理がある、というのが実情ではあるのだが。

まず選曲面について触れておくと、この<番外編お給仕>第二夜は、「TAMAYA!」で幕を開けた。文字通り真夏の夜空を彩る花火のような華やかさと《人生は一度きり/楽しんだもの勝ち》《同じ夜には二度と会えない》《今宵は遊び尽くせ》といった歌詞にも象徴されるアゲアゲ感を併せ持ったこの曲には、それこそ野外フェスの大観衆を巻き込むような力がある。それがリキッドルームという決して広くない空間で炸裂するのだから、お祭り騒ぎにならないはずがない。フロアを埋め尽くしたご主人様お嬢様は高く手を掲げながらこの曲に同調し、お給仕の冒頭から極上の一体感を作りあげていく。


そして、それに続いたのは、「TAMAYA!」と同様に昨年9月にリリースされた『Epic Narratives』からのセレクトとなる「Magie」。アルバム発売前からお給仕で浸透していた楽曲だけに効力は抜群だ。点滅する赤と緑のライトがダイナマイトを連想させる。お給仕での鉄板曲にすることを意識しながら作られたというこの曲が、すでに熱気が充満しきった空間にさらなる燃料を注ぎ込み、観客はビートに合わせてジャンプする。

現時点での最新アルバムである『Epic Narratives』に収録の2曲からのスタートとなったお給仕は、その後、さまざまな時代への瞬間移動を繰り返すようにしながら続いていく。そして、ふと気付かされるのは、そうした小気味好い展開ではありながら、実はスピードの速い曲ばかりが続けざまに演奏されているわけではないということだ。実際、BAND-MAIDには高速で情報量の多い楽曲も多いし、音符と言葉が密度濃く詰まった楽曲を破綻なく再現してみせる演奏力や歯切れのよい歌唱も彼女たちを象徴する魅力のひとつだが、本当の意味で大観衆を巻き込み、揺さぶり、合唱の輪を広げていくには、むしろ“アッパー感のあるミディアムテンポ”の楽曲が有効であることも間違いない。


実際、『Epic Narratives』の制作に費やされた月日の中で彼女たちはそのことを強く意識していたようだし、だからこそ「TAMAYA!」や「Magie」、さらには(この日は演奏されなかったが)「SHOW THEM」のような楽曲も生まれることになった。しかもそうした楽曲には、BPM的には決して速いわけではないのに実際のテンポ以上の体感スピードが伴っていて、心地好い疾走感がある。ライヴ前半の時間の流れがあっという間のように感じられたのは、そのためでもあったはずだ。それはこの夜の5曲目に組み込まれていた最新シングル曲、「Zen」にも当て嵌まることである。

同時にそうした楽曲群は、SAIKIの歌声の魅力を存分に伝えてくれるものでもある。もちろん前述の通り、高速楽曲での歌唱にも特筆すべきものがあるが、安定度のみならず歌声そのものに豊かな響きが伴いつつある現在の彼女の歌唱を堪能するうえでも、こうした“速すぎない曲主体のプログラム”は有効といえるだろう。バラード系の楽曲での説得力向上もひしひしと伝わってくる。今回の<番外編>はSAIKI自身のプロデュースによるものだが、こうした選曲は、彼女が自分自身の特性をいかに客観的に理解しているかを裏付けていたようにも思う。ただ、当然ながら自分の良さを押し出すことだけが彼女の狙いだったはずはない。密度濃い楽曲での正確無比な演奏にも見事なものがあるが、隙間のある楽曲だからこそ発揮可能なバンド力というものも、BAND-MAIDはこれまでの活動を通じて着実に育んできた。演奏の端々から、そうしたバンドとしての年輪も感じさせられた。


そしてお給仕の中盤、SAIKIの見せ場が思いがけない形で訪れた。「Daydreaming」と「PAGE」をしっとりと歌いあげ、その余韻の中で一言だけ「ありがと」と感謝を口にした彼女は、少しばかりの沈黙を挟みながら「言いたいことがあるの」と切り出した。なんとステージ上にゲストを呼び込みたいのだという。その言葉に「誰だろう?」という好奇心に満ちたどよめきが起きる。するとその場に呼び込まれたのは、かつてレーベルメイトでもあったUNCHAINの谷川正憲だった。

アコースティックギターを抱えて登場した彼は、「Awkward」にゲスト参加し、さらにはSAIKIと「Wonder(Acoustic Ver.)」をデュエット。しかもその際、他のメンバーたちはひとたびステージから去り、完全に2人きりでのパフォーマンスとなった。その光景自体がBAND-MAIDのお給仕においてきわめて新鮮なものだといえるが、谷川の伸びやかなハイトーンとSAIKIの歌唱が織りなすハーモニーの味わい深さも印象的だった。ちなみにその場面を、高校生時代からUNCHAINのファンだったというKANAMI(G)はフロアの最前列(いわゆるカメラマンピット)で観覧。彼女は自身の“推し”ふたりの共演を至近距離から目撃することになった。

実は2月3日にも、この局面でサプライズが仕掛けられていた。その際にはいきなり小鳩ミクのソロプロジェクトであるcluppoの楽曲が流れ、心の準備も整わぬまま彼女がその場で歌唱することになった。言うまでもなくそれもまたSAIKIによる無茶振りの一環である。それに対してこの日の彼女は、ワガママを押し通したというより自分自身に対して無茶振りをしたともいえる。ただ、これまでのBAND-MAIDのお給仕にはみられなかったcluppoの唐突な登場や外部ゲストとのコラボといった要素について、いざ実施されてみれば「それもアリじゃないか?」と思えたのも確かだ。ある意味、現在のBAND-MAIDは、彼女たち自身が思っている以上に自由度の高い状態にあるのかもしれない。


しかし客観的に考えて、このギャップの豊富さは普通ではない。なにしろ谷川との共演の甘美な余韻が残る中で、お馴染みの「おまじないタイム」へと移行していくのだから。小鳩自身がそこで「みんな、この落差についていけるっぽ?」と問いかけていたのもうなずける。しかもそうした流れに続き、今度は「from now on」を皮切りに「onset」、「Get to the top」とインストゥルメンタルチューンを3曲立て続けに披露してみせるという大胆な展開。SAIKIの存在感が際立つ展開を経ながらBAND-MAIDならではの緩急を設け、さらに今度は彼女が不在の状態にあることで各自のプレイヤーとしての主張が強調されていく。めちゃくちゃ神経の行き届いた展開ではないか。

そして怒濤のインスト3連発を経たのちにステージに戻って来たSAIKIが「アレやるぞ! いいかー? かかってこいよ!」と呼びかけると「REAL EXISTENCE」を皮切りにメドレーが始まる。その曲数、実に9曲。いずれもフルサイズで味わいたい楽曲ばかりだったが、すでにBAND-MAIDにはやりたい曲をすべてお給仕に盛り込むのは不可能なほどの数の楽曲がある。要所要所に鉄板曲を配置していくと、それだけでセットリストがほぼ埋まってしまい兼ねない状況にあるのだ。だからこそ今回のように<番外編>と称しながら、こんなにも大胆なメドレーを組むことに踏み切ったのだろう。そこには、常に意外な曲もお給仕に盛り込みたいというバンド側のサービス精神の旺盛さも感じられたし、メドレー内での楽曲の並びやその繋ぎ方からは、自分たちの楽曲を丁寧に扱おうという姿勢が感じられた。そして実際、曲が切り替わっていくたびに「もうちょっとそのまま聴いていたかったのに」と感じさせられたこと自体が、このメドレーがいかに有効だったかを物語っているように思う。


スリリングかつエンターテイニングなメドレーが終了すると、お給仕はふたたび緩急の“緩”の方向へと進んでいく。演奏時のテンションとは真逆のムードで繰り広げられるメンバー間のお喋りが結果的に行きついたのは「“来いよ!”選手権」だった。それがいかなるものだったかについての説明は敢えてせずにおきたい。ただ、そうした場面が少しもマイナスにならず、雰囲気をぶち壊しにすることがないのは少しばかり不思議でもある。それだけ筆者自身にBAND-MAIDのお給仕に対する免疫ができているということなのかもしれないが、新作グッズ紹介などのぐだぐだ気味の場面を経ようと、そこでSAIKIの「ラストスパートいけるか!」という一声でその場にいる誰もが背筋を伸ばすことになる。

そして、まさに最終コーナーを回ったその地点からは、まっすぐな疾走が始まっていく。「secret My lips」以降の全5曲の激走ぶりは見事と言うしかないものだったし、お給仕における鉄板曲のひとつである「NOGOD」で最高潮を迎えたうえで、展開豊富な「Forbidden tale」でさらなる絶頂へと導いていく流れも素晴らしかった。そして、オープニングにもクロージングにも最新アルバムからの楽曲が据えられていたことに気付かされた瞬間、この<番外編>もある意味、『Epic Narratives』という名盤誕生により引き起こされた極上の副産物といえるものだったのではないかと感じさせられた。


この先にはアコースティック形式でのお給仕、さらにはツアーも控えているBAND-MAID。当然ながらそうした時間の流れの中で、新たな楽曲が登場することも期待したいところだが、二度にわたるリキッドルームでのお給仕を観たうえで僕自身が何よりも感じさせられたのは、これはもはや<番外編>を超えたものになっているのではないかということだった。「逆もまた真なり」という言葉が伝えてくれるのは、単純な逆説的理論ばかりではなく「自分たちの本道とは真逆にあたるものについて理解することが、本道にさらなる説得力をもたらすケースがある」というようなことでもある。もちろんこれは僕自身がみつけた理論ではなく、どこかで読んだことでしかない。ただ、それはどうあれ、こうして<番外編>を見事に消化したことが、今後のBAND-MAIDのお給仕のさらなる進化に繋がっていくことは疑いようもない。だからこそ、次の機会の到来が楽しみでならない。

そして最後に、蛇足ながら捕捉をひとつ。今回の<番外編お給仕>では、どちらの夜も、開演前には安室奈美恵の楽曲が流れていた。これまたSAIKIのセレクトであることは言うまでもない。しかしこのプロデューサー、無茶振り具合にもワガママさも相当なものだが、ものすごい慧眼の持ち主なのではないだろうか。その才能が今後どのような開花を見せることになるのかにも期待していたい。

取材・文◎増田勇一
写真◎伊東実咲

<お盟主様限定(ファンクラブ限定)アコースティックツアー>

2025年3月20日 BAND-MAID Billboard Live Acoustic Tour OSAKA
2025年4月13日 BAND-MAID Billboard Live Acoustic Tour TOKYO
https://bandmaid.tokyo/contents/879710

<BAND-MAID TOUR 2025>

2025/05/10(土)東京・LINE CUBE SHIBUYA 
2025/05/17(土)広島・CLUB QUATTRO
2025/05/18(日)岡山・CRAZYMAMA KINGDOM
2025/05/25(日)静岡・浜松窓枠
2025/05/31(土)新潟・LOTS
2025/06/20(金)大阪・ゴリラホール
2025/06/21(土)大阪・ゴリラホール
2025/06/28(土)宮城・仙台GIGS
2025/07/12(土)東京・豊洲PIT
2025/07/26(日)北海道・ファクトリーホール
2025/08/02(土)熊本・B9.V1
2025/08/03(日)福岡・DRUM LOGOS
2025/08/08(金)愛知・ダイアモンドホール
2025/08/09(土)愛知・ダイアモンドホール

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