【ライブレポート】キズが示す“生きる力”「救ってくれてありがとう」
どんなに愚かでも、見苦しくても、この地球という星の上であがき、もがき続ける──それこそが“生きる”ということ、すなわち“人”であるということなのだと、突きつけられた気がした。
◆ライブ写真
始動から7年を迎え、キズにとってバンド史上最大キャパシティとなった国立代々木競技場 第二体育館も、リリースとライブを重ねるごとに大きくなり続けて今の彼らにとっては窮屈なもの。満杯のオーディエンスに向かって赤い光と、不穏な重低音が規則的に放たれるとスモークが噴き上がり、メンバーが入場するやウエディングドレス姿のきょうのすけ(Dr)がドラム台から激しくクラップを打ち鳴らす。これでもかとばかりに禍々しさをまき散らしながら、重い仁王襷を背負ってお立ち台に這い上がった来夢は「いくぞ、代々木!」と吠え、始まったオープニングナンバーは「傷痕」。激烈なリフで<単独公演『星を踠く天邪鬼』>が幕開けると、場内は一瞬でヘッドバンギングの海と化し、来夢は凄まじいハイトーンで“どうか僕を殺さずにいて”と歌い上げる。殺さずにいて、君と共に生きていたい──そんな天邪鬼なメッセージは、この日のライブでまったく終始一貫されていた。
続く「蛙-Kawazu-」では、背後の巨大なLEDビジョンにリアルタイムのライブ映像と自虐的リリックを重ねて映し出して、“僕のせいなんだ”のリフレインで手を叩き、頭を振るオーディエンスと一種のカタルシスを共有。また「ストーカー」でもヘヴィなドラムにキリキリと不穏なreiki(G)の高音ギター、そしてユエ(B)が奏でるゴリゴリのベースが不安を煽り、モニターに大映しされた不気味な瞳がタイトル通りのリリックを視覚化して恐怖感を倍増させる。映像上の瞳は続く「人間失格」で狂い咲く原色の花々の中に宿り、蟲のように蠢いて、鍵盤音を交えた繊細かつアグレッシブなサウンドを鮮やかに彩ることに。ひたすらに“人であること”へと焦点を当てたリリックを胸に撃ち込まれながら、拳を振り上げる客席はフィジカルの刺激とメンタルの問答をシンクロさせて、壮絶なエクスタシーを呼んでいく。ラウドでダークな音楽性と錐のように視点の鋭い詞世界を重ね合わせ、触れた人間の心に風穴を開ける──これこそキズの最大の魅力だ。
それと同じだけ見逃せないのが、ファンに向かって不器用に届けられる愛情。“次は僕を見てほしい”と歌う「十八」ではミラーボールの光のなか、孔雀や蝶のように華やかに飾られた瞳をバックにジェントルな空気感を醸しながら「生きてるか!?」と問いかける来夢の姿が。歌い終えて「ありがとう」と告げれば、荘厳な音世界をまとう「ストロベリー・ブルー」で“約束のあの場所”へと観る者を誘っていく。一転「さぁ、まだまだやろうか代々木!?」とブチ上げて「リトルガールは病んでいる。」に雪崩れ込むと、アウトロで「歌え!」とコーラスを先導し、続く歓声に耳を澄ませる様子も。
さらに、きょうのすけが「声くれ!」とマイクレスで叫んでからは楽器隊によるインスト演奏で会場を揺らし、ユエのスラップにreikiの狂おしく啼くギタープレイが熱気を頂点にまで引き上げれば、再びステージに現れた来夢がお立ち台でギターをかき鳴らして「平成」を投下するのだから容赦ない。場内を真っ赤に染めるライトにきょうのすけのヘヴィなドラムビートが叩き込まれ、スモークが噴き出すとreikiとユエは一気にステージ両端の花道へ。躍動感に満ち満ちたパフォーマンスに呼応するかのように頭と拳を振って沸騰するオーディエンスに向かい、重たい衣装によろめきもがきながらも来夢は叫んだ。
「代々木! 今、俺らと命燃やせるか!? 代々木! 俺についてこいよ!!」
そして繰り返し歌われるのは“一緒に死のう”という強烈すぎる文言。人間らしく生きていくことの難しい現代社会への嘆きと諦めを綴り、「人間×失格」にも通じる“人とは何か?”という命題を突きつけて「俺と一緒に死んでくれるか!?」と来夢が声を枯らして求めれば、客席からは一斉に賛同の声が返る。だが、それが決して文字通りの意味でないことは、歌い終わりのリリックが“ただ生きたいだけ”であることからも明らかだろう。「一緒に死んでくれ」は、つまり「一緒に死ぬまで生きてくれ」と同義であり、ファンに向けられた最大級のプロポーズ。この強烈な反語表現はまさしく天邪鬼と言うほかなく、同時に“生きたい”という意志を持つことこそが人であることの必要十分条件なのだと訴えて、聴く者を奮い立たせるのだ。
結局のところ、キズというバンドがこれだけの支持を受ける理由は、絶望の底から反転してあふれ出す“生きる力”に他ならない。大きな月の浮かぶ未来都市めいた映像を背に「眠らない街」の重厚なプレイで繊細な美しさを描くと、来夢の朗々たるアカペラで始まった「0」では“生まれなくて良かった”と救いのないリリックで歌い始め、だからこそ命にルールはなく、すべては自分次第なのだと叩きつける。必然的に、暴力的な音の渦の最中で人々が一斉に踊り出すギャップもキズにとっては無問題。自由な感情を発露させる彼らに「今、お前らの命すべてを俺らにくれ!」と懇願する来夢の叫びも鬼気迫り、その直後、キズというバンドと支えるファンとの関係性を最も濃厚に映し出してみせたのが「Bee-autiful days」だ。
「俺の痛みを受け取ってくれるか、代々木!?」と披露前に問うた来夢の言葉が表すように、夜毎ステージにあがる己とファンである“君”の姿を凶悪な音に乗せて歌い上げれば、天井から降ってきた巨大なバルーンが客席とステージの間を行き来して両者を繋いでいく。そしてタイトな演奏とリアルの詰まった歌に人生を賭して音楽をやるという決意を滲ませ、“ちゃんと愛して”と切なく繰り返すと、バルーンが割れて零れ落ちた無数の黄色い風船がオーディエンスの手に。「俺の痛みがお前らの何かになってくれれば、それでいいと思う。Bee-autiful days受け取ってくれ!」という来夢の言葉をそのまま具現化したかのような美しい光景を前に、黄色い風船を振る人々は、まるでキズという花に群がる蜂(=Bee)のようだと気付く。彼らは花から蜜を受け取ると同時に、花の受粉を助け繁殖をもたらす──そんな密接な関係が、キズというバンドとファンの間には存在するのだ。その憶測が妄想でないことを、続く来夢のMCが証明する。
「来たぞ、代々木。ついにここまで来たぞ! ここから見るとですね……本当に救われているのは僕なんじゃないかって、今日思いました。これだけの数の人を見ると、こんな僕でも運命だとか、奇跡だとか信じてしまいそうになります。こうして歌を生で届けられる機会って当たり前じゃない気がして……でも当たり前のような気もして、複雑な気持ちです。僕の残りのすべてを懸けて歌いたいと思います」
歌詞とは正反対の素直な言葉で想いを伝え、現代日本の哀しみをメロディックに綴る「銃声」で客席の合唱を招くと、偽善者を弾劾する「豚」では「聞こえねぇ!」とさらなる声を煽ってステージ前方ギリギリまで進み出る。ゆっくりと花道を進むユエとは対照的に、反対側の花道に飛び出したreikiは、ここで突然来夢にマイクを向けられて「まいったな、こりゃ」と応えて場内を笑わせるる場面も。会場中が沸騰するライブのクライマックスに、臆さず本心をさらす強心臓っぷりはさすがだ。1stシングルの「おしまい」でも7年の集大成とも言える一体感をオーディエンスと共に創り上げ、ブラストビートとヘッドバンギングの嵐ですべての負の感情を押し流して、自分の人生は好きに描けとポジティブでしかないメッセージを放っていく。
そして「ラスト!」という来夢のシャウトを合図に投下され、視覚と聴覚をめくるめく極彩色の奔流で埋め尽くしたのは「地獄」。スモークが立ち込めるステージでは、LEDビジョンに古今東西さまざまな地獄や楽園で花と炎が咲き乱れる映像が現れ、そこには立ち尽くす鬼の姿も。そんな原色の景色をバックにガッチリと揃った楽器隊3人のプレイが分厚い音の塊を生み出し、ヒリヒリと焼けつきそうなハイトーンボーカルを轟かせる来夢が「俺の声に応えてくれ!」と声をあげれば、拳を突き上げる客席は大揺れに揺れて大音量でクラップを贈る。地獄のようなこの世界で懸命に息をして、時間と空間を己と共有することを選んだ彼らに、来夢は「ありがとう!」と感極まってお立ち台に座り込み、すべてを吐き出すかのように叫びをあげ続けた。
15曲を終えて立ち去る4人の最後に、きょうのすけがドレスの裾をつまんで可憐に一礼しても、当然アンコールを呼ぶ声はやむことなく。夜空に星々が、そして天に昇った魂が瞬くような情景を場内に投影して、壮大なピアノアレンジが施された最新曲「鬼」のイントロが流れだした。“この命もくれてやろう”という衝撃的なフレーズで始まり、澄み切ったピアノ音から鼓動のような4つ打ち、そして各メンバーの見どころも交えたエモーショナルなロックへと展開する本曲は、ひたすらに“死ね”と繰り返す裏側で“生きていたい”と切に訴える6分超えの大作。LEDビジョンには太古から未来、海から宇宙、天国から地獄と、魂の行きつく先が時空を超えて描き出され、狂い咲く花と炎と瞳、そして鬼が加わり、楽曲のスケール感をさらに押し広げていく。
5月にリリースされたばかりでライブでの披露はこの日が初にもかかわらず、その濃密な世界観に客席からはクラップが自然発生し、どの曲よりも深い歌声を聞かせた来夢は「俺を愛してくれてありがとう! 俺を救ってくれてありがとう!」と万感の思いを吐露。reikiのギターソロも哭いて、クライマックスに至るとビジョンには「おしまい」から「鬼」まで歴代のMV映像を時系列順に映し出していく。そして、高まる場内のテンションが頂点に達したところで現れたのは、なんと「2025年1月6日(月)単独公演 日本武道館」の文字。突然の告知に一瞬フリーズしたオーディエンスはどよめき、やがて拍手と大歓声を巻き起こした。
演奏を終えるや否やステージを去るメンバーに鳴りやまない拍手が贈られ、“力”を表す重い仁王襷を2時間弱身に着け続けた来夢も、ふらつきながらお立ち台を下りて何も語らなかった。あえて重荷を背負い、踠きながら繰り広げられたパフォーマンスは、まさしく人の生きる姿そのものと言っていいだろう。どうせ終わりがやってくるのなら、それまで好きに生きればいい。どんなに踠いてもいい、そこにルールもタブーもない──全身全霊でそう訴える彼らは、まるで狂い咲く花のようにも見えた。やがて散るその日まで、花に蜂は群がり、その勢力範囲を拡大させ続けていくだろう。その道のりの大きなターニングポイントになるだろう日本武道館公演のタイトルは『焔』。念願だった舞台ですべてを燃やし尽くし、新たな一歩を踏み出すだろう彼らの花は、まだまだ散ることを知らない。
文◎清水素子
撮影◎浜野カズシ
セットリスト
02.蛙-Kawazu-
03.ストーカー
04.人間失格
05.十八
06.ストロベリー・ブルー
07.リトルガールは病んでいる。
08.平成
09.眠らない街
10.0
11.Bee-autiful days
12.銃声
13.豚
14.おしまい
15.地獄
16.鬼
<キズ 単独公演「Peace begins with...」>
2024年8月9日(金) 長崎 アストロホール
【開場/開演】
17:00 / 17:30
【チケット料金】
¥6,000 (税込 / D別)
一般先行受付
受付期間:2024年6月19日(水)12:00~6月22日(土)23:59
入金期間:2024年6月27日(木)12:00~6月30日(日)
・TicketTown
・イープラス
一般発売
2024年7月6日(土)
・TicketTown
・イープラス
<キズ 単独公演「焔」>
詳細後日
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