【ライブレポート】「ようこそ、BAND-MAIDのお給仕へ!」“メイドの日”に5年ぶりスペシャルライブ

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いわゆる国民の祝日以外にも、暦の上には記念日というものがたくさん存在する。たとえばこの国において5月10日は、日本気象協会の創立記念日なのだとか。ちょっと検索をかけてみると、他にも「コットンの日」や「五島の日」、「黒糖の日」などなど、由緒正しそうなものからそうでもなさそうなものまでいろいろと出てくるが、そのひとつに数えられるのが「メイドの日」だ。そしてBAND-MAIDを愛する人たちは、この日の到来を待ち焦がれていたに違いない。なにしろ<THE DAY OF MAID>と銘打たれたメイドの日恒例のお給仕(ライブの呼称)が、本来あるべき形で開催されるのは、実に5年ぶりのことなのだから。

◆ライブ写真

その舞台となったのはZepp HANEDA。開演定刻の午後6時を4分ほど経過した頃、それまでBGMで流れていたオアシスの「Whatever」が止むと、場内は暗転。景気のいいオープニングSEが炸裂するのとほぼ同時に、歓声まじりの拍手が手拍子に転じた。赤い照明に染まったステージ上、AKANE(Dr)を先頭に登場したメンバーたちがそれぞれの配置に就くと、聴こえてきたのは「BLACK HOLE」のイントロと、「かかってこいよー!」というSAIKI(Vo)の声。するとフロアからは、野太い歓喜の声が沸き上がってくる。5人はBAND-MAIDのレパートリーの中でも最上級にハイスピードなこの楽曲をきわめてタイトに演奏し、その場を埋め尽くしたご主人様お嬢様(ファンの呼称)たちも、その激走に乗り遅れることなく同調していく。


曲が「Giovanni」へと移行してもそれは変わらない。「序盤にこの曲を?」なんて駄洒落を言っている場合ではなく、早くも最高潮のような盛り上がりだ。こうして<THE DAY OF MAID>はスタートダッシュを華麗にキメながら幕を開けた。そのまま激流にまかせるように「Balance」「HATE?」をテンポよく連射すると、ひとまず最初のブロックが終了。すると小鳩ミクが、この日最初の挨拶をしてみせた。

「お帰りなさいませ、ご主人様お嬢様。やって参りました、メイドの日。THE DAY OF MAID!」

容赦のない攻撃的な演奏から一転、他のアーティストのライブでは耳にすることのないBAND-MAIDならではのMCに、明るいトーンの歓声が湧く。この日が2019年以来となる5年ぶりのリアルメイドの日、つまり配信などではなくお互い直接向き合いながら時間を共有できる日であること、このZepp HANEDAが彼女たちにとって初めての場所であることを告げる。


そもそもBAND-MAIDは、2020年にはZeppツアーを開催するはずだったが、そのプランはコロナ禍の影響により立ち消えになってしまった。そこで彼女は今回のお給仕の意味合いについて語るうえでリベンジという言葉を使っていたが、その明るい口調と“復讐”を意味する言葉自体とのギャップは、まさにBAND-MAIDに似つかわしいものだと感じられた。たとえばこのバンドの活動指針ともいうべき“世界征服”という言葉もそうであるように。

小鳩の口から改めて「ようこそ、BAND-MAIDのお給仕へ!」という歓迎の言葉が飛び出すと、次の瞬間には強烈な“ジャーン!”というロックバンド然とした音が鳴り響き、「Shambles」が繰り出される。ここから先、どの曲で何があった、というような細かい描写をしていくつもりはないが、とにかく明白なのは、彼女たちの演奏と歌唱すべてが格段に説得力を増していることだ。


去る5月1日、東京ガーデンシアターで行なわれたインキュバス(INCUBUS)の来日公演にスペシャルゲストとして出演していた際にも感じさせられたことだが、BPMの速い楽曲での整合感や迫力はもちろんのこと、ミディアムテンポの楽曲やリズムチェンジが多発する楽曲でのずっしりとした安定感が、数年前以上に感じられる。いわゆるメタル的な硬質な切れ味ばかりではなく、このバンドならではのグルーヴがあるのだ。そうした演奏と同様に歯切れのよいSAIKIのボーカルについても、高音部の伸びを損なわないまま中低域に豊かな響きが伴うようになっているし、彼女と小鳩の歌声のブレンドが引き起こすケミストリーにも磨きがかかっている。実際、「Shambles」から「Manners」へと至る5曲の流れの中では、そうしたことを強く感じさせられる場面が多々あった。


そうした流れを経ながらインストゥルメンタル曲の「from now on」で演奏プログラムの前半を終了すると、同楽曲の演奏中に姿を消していたSAIKIがステージに戻り、「楽しんでるか、Zepp HANEDA! 調子はどうだ?」と呼びかける。そして、いつになく照れくさそうな語り口で、彼女自身がちょっとしたミスを犯していたことを告白する。「火花」を、ずっと2番の歌詞で歌っていたというのだ。そこで彼女は「ここにいる人だけの思い出だよ!」と言いながら、この事実をSNSに書かぬよう促していたが、当然ながらその口調はくだけたものだったし、筆者は敢えてその約束を忘れることにする。というのも、その直後に彼女の口から聞こえてきた「なんか(自分自身が)盛り上がりすぎちゃったみたい!」という自己分析の言葉が、この夜のお給仕の規格外の楽しさを物語っていたと思えるからだ。


そしてメイドの日ならではの特別なお給仕は、後半へ突入していく。「まだまだ熱くなりたいか! 後半戦いけるかー!」というSAIKIの言葉に導かれて始まったのは「After Life」。MCタイムの間は緩んでいた空気が、バンドが音を鳴らした瞬間にビシッと引き締まるのがわかる。BAND-MAIDのお給仕は、こうしたコントラストの繰り返しでもある。しかもセットリストの終盤にはアコースティックな響きを貴重としたメロウな楽曲がふんだんに盛り込まれ、序盤や中盤ともまたひと味違ったエモーショナルな魅力が存分に発揮されていた。

そんな中、インキュバスのマイク・アインジガー(Gt)との共作による「Bestie」の味わい深さも印象的だった。BAND-MAIDの10年を超える歴史の中で生まれてきた数多くの楽曲の中に、いわゆる典型的なバラードというものはほとんど存在しない。それもあってバラードと分類可能な従来の楽曲にはいずれも希少価値と強いアイデンティティが備わっているように思うのだが、この「Bestie」にはこれまでのどんな曲とも趣を異にするエモさがあるように思う。実際、この曲はこれまで先述の5月1日の公演とこの夜にしか演奏されていないわけだが、早くも彼女たちはこの新機軸な曲を見事に着こなしていたし、これもまた今後に向けての新たな武器になっていくに違いない。この後半の流れの中では、今夏発売予定の新作フル・アルバムに収録予定だという「Go easy」と「Brightest star」も披露されたが(後者は小鳩のボーカルによるもので、すでにお給仕では定着しつつある)、こうした楽曲が次作の中でどのような役割を担うことになるのかも楽しみなところだ。


さて、こうした起伏に富んだ流れを経ながら、お給仕は恒例の「おまじないタイム」へと雪崩れ込んでいく。そこへの導入となったメンバーたちの筋書きのない自然体のやりとりや発言内容については、この場では触れずにおくことにする。それは実際に会場に足を運んだご主人様お嬢様だけが味わえるものであるべきだろうし、そこでの経過を文章化すること自体にも無理があるからだ。ただ、こうして筆者自身、BAND-MAIDのお給仕を目撃する機会を重ねてきた中で、「おまじないタイム」をはじめとする緩急の“緩”の要素について、感じ方が変わってきつつあることも確かだ。

そもそも僕自身には、そうした部分に対する否定的な気持ちは一切ない。ただ、時と場合によっては、それがアグレッシヴでテンションの高いステージの緊張感を途切れさせることになるのではないかと思えたこともあったし、敢えて言うならば「おまじないタイム」さえなければ、このバンドをもっと堂々とロックファン全般に推薦しやすいのではないかと感じたこともあった。要するに僕は、そこにある種の気恥ずかしさをおぼえていたのだ。ただ、今ではそれもBAND-MAIDのお給仕に欠かせない要素だと受け止めることができているし、それが彼女たちのパフォーマンスの説得力を半減させることになるとは思っていない。単純にお給仕への参加歴を重ねて免疫ができてきたからでもあるのだろうが、それ以上に、そうしたギャップが彼女たち特有の武器であることを今は実感させられているのだ。だからこそ自分の近くの席で「おまじないタイム」のありさまにキョトンとした顔をしている人たちを目にしたりすると、むしろそこで「ふふふ。今は呆気にとられているだろうけど、きっと癖になるはずだぞ」などと思えたりするのだ。

そうした緩やかなひとときを経た後は、まさしく怒涛のごとき終盤へ。別掲のセットリストをご参照いただければ、その容赦のない攻撃的なパフォーマンスが、読者の脳内にも浮かんでくることだろう。そして最後の最後を「NO GOD」で締め括ると、小鳩の「いってらっしゃいませ、ご主人様お嬢様。BAND-MAIDでしたっぽー!」というお馴染みのフレーズをもって、<THE DAY OF MAID>は完全に幕を閉じた。


ステージ上の5人は、清々しい笑みを浮かべていた。僕の席からはあいにくご主人様お嬢様たちの顔を見渡すことはできなかったが、ステージの側から見る風景もきっと笑顔で埋め尽くされていたに違いない。この先には、以前から彼女たちと交流のあるメキシコのガールズバンド・ウォーニング(THE WARNING)との対バンによるスペシャルショウや、初のホールツアー、大型フェスへの出演、そしてニューアルバムの発売も控えている。そのすべてに対して期待感が膨らんでくるところだが、それに加え、2025年のメイドの日に何が起きることになるのかも、今から楽しみでならない。

取材・文◎増田勇一
写真◎伊東実咲

セットリスト

1 BLACK HOLE
2 Giovanni
3 Balance
4 HATE?
5 Shambles
6 火花
7 I still seek revenge.
8 Why Why Why
9 Manners
10 from now on
11 After Life
12 Go easy(新曲)
13 Memorable
14 about Us
15 Bestie
16 Corallium
17 Brightest star(新曲)
18 Unleash!!!!!
19 H-G-K
20 Influencer
21 Magie(新曲)
22 NO GOD

「Bestie」

2024年4月17日(水)全世界配信リリース
Words:MIKU KOBATO 
Music: Michael Einziger /BAND-MAID
URL:https://BAND-MAID.lnk.to/Bestie

BAND-MAID 10TH ANNIVERSARY TOUR 番外編配信

2024年4月28日(日)13:00配信(アーカイブあり)
視聴チケット発売中
https://bandmaid.tokyo/contents/742715

ライブ情報

<BAND-MAID × The Warning SPECIAL SHOW IN JAPAN>
2024年6月12日(水)東京・六本木EXシアター
公演詳細: https://bandmaid.tokyo/contents/733902

<BAND-MAID THE DAY OF MAID>
2024年5月10日(金)東京・Zepp Haneda
https://bandmaid.tokyo/contents/714850

<BAND-MAID HALL TOUR 2024>
2024年6月28日 (金) 愛知・名古屋市公会堂
2024年7月5日 (金) 大阪・フェニーチェ堺 大ホール
2024年7月14日 (日) 神奈川・神奈川県民ホール
公演詳細:https://bandmaid.tokyo/contents/733904

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