【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話002「ネットで記事を書いてみて愕然とした話」

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ネットメディアに身を置く前は、音楽雑誌の編集をしていた。文章を整えたり心地よいデザインを作るのは当たり前として、雑誌編集の領域として文字組みにもずいぶんと気を遣っていた。いくら内容が良くても、読みにくいレイアウトだと、内容が頭にスラスラと入ってこないからだ。

段組みによって、読みやすさは格段に変わってくる。同じフォントでもカタカナは字間を詰めたり句読点の幅にも気を配り、言われなければ気付かないレベルの微調整を重ねることで、美しい文字の並びに整えた。日本語には漢字もひらがなもカタカナも英数字もある。重量感もバラバラという厄介な言語だ。でもこれらをひとつの文章で調和させ溶け込ませると、疲れることなくいつまでも読み続けられるようになる。そういうものだと思っていた(というかね、文字をきれいに組む写植屋さんが、美しい日本語文化を育んでくれたとも思うの)。

音楽雑誌出版社に務めて10年、音楽サイトを立ち上げるべく雑誌社を辞めてBARKSをスタートさせた。そこで原稿を作り、記事化しようとして愕然とした。

文字の大きさが自由に決められない。フォントが選べない。文字間が動かせない。行間も動かせない。

なんだこれは。これで「メディアでござい」と言って文章を表現するのか?インターネットの人口普及率がまだ4割にも満たない時代だったけど、あまりにもブサイクで不器用で、日本語を美しく表現しようなんて余地は皆無だった。実用的なスタイルシートもまだまだ存在しなかった。

今までの雑誌編集の価値観のまま記事ページを作ったけれど、どうにも読みにくい。行間が狭すぎて縦読みしたくなるような醜さなんだから。他のネットメディアを見ても同じ。「こりゃこれまでの常識は取っ払って、マイルールを作るしかないな」と開き直って、10年慣れ親しんできた慣例をぶっ壊した。そこで決めたルールはふたつ。

1.「改行したら、必ずもうひと改行する」
2.「文頭にスペースを空けない」

これだけ。慣れ親しんだ日本語の美しい段落は完全に失われた。でもこれによって、文章がブロックごとに目に入り、全体の分量や流れが視覚からも捉えられやすくなった。文章は音楽と同じでリズムと呼吸がとても大事だから、息切れする前に段落が終わることを伝えたい。この見え方は、音楽で言うAメロ・Bメロ・サビといった構成自体を、最初から俯瞰で伝える役目を持つと考えた。

2000年夏にはYahoo!に初の音楽カテゴリ「Yahoo!ミュージック」がオープンしたけれど、邦楽のみならず洋楽の音楽情報やアーティストデータベースなど、そのコンテンツはBARKSが提供していたので、Y!ミュージックの音楽記事も、文頭のスペースのないブロック形式で掲載された。私は「BARKSとY!ミュージックだけ超読みやすいじゃん」と思った。

ほどなくして、ウェブでの日本語組みは、ぜーんぶそうなっていったけど。

もちろん、細かいところで言えば、雑誌と違ったウェブならではの表記ルールはもっとある。例えば、インタビュー記事の発言者の表記。最初だけフルネームで載せて「以下○○」と名字だけ記載するという表現が、未だ当たり前のように使われているけれど、それでいいんでしょうかね。掲載スペースに限度がある雑誌がゆえのやむない手法だったはずなのに、無限にページを組めるウェブで何故にそれ?名前は省略したほうがいい?そのほうが読みやすいですか? ま、BARKSでもそういう表記が今でも使われている記事があるし、そんなのどーでもよくね?と言われれば、まあね…くらいの話で、労力を割く場所はそこじゃないと言われればそれまでのこと。ただ、古き慣習を思考停止状態で使っているのであれば、一度考えたほうがいい、とも思ったり。

おっと、ちょっと口うるせえじじいになっちゃったので、このあたりで自己規制。気をつけます。

文◎BARKS 烏丸哲也

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