【インタビュー】Alex from Tokyoが世界へ届ける、80年~90年代の素晴らしき日本の音楽
80年代末期より、DJ・音楽家として世界を股にかけ活躍するDJ、Alex from Tokyoが、80年代~90年代の日本のエクレクティックな楽曲をコンパイルしたアルバム『Alex from Tokyo Presents Japan Vibrations Vol.1』をリリースした。パリで生まれ、幼少のころから東京に在住し、80年代よりクラブミュージックの現場で10〜20代を過ごしてきた音楽愛好家のAlex from Tokyoが、日本の素晴らしい楽曲を世界へ紹介したいということで制作された本作は、各々の曲から日本の音楽の水準の高さを感じるだけでなく、当時の東京の音楽とカルチャーを知ることができる内容になっている。これまでにパリ、東京、ニューヨーク、ベルリンに住み、現在はパリを拠点に活動するAlex from Tokyoの自身のルーツを紐解く渾身のアルバムとは、どんな内容に仕上がっているのか、彼のDJヒストリーとともに紹介しよう。
◆Alex from Tokyo 関連音源&画像
■日本の素晴らしい音楽シーンと
■アーティスト達のストーリーを全世界に伝える目的
―『Alex from Tokyo presents Japan Vibrations vol.1 』を制作しようと思ったきっかけを教えてください。作品のコンセプト/内容を教えていただけますでしょうか。
Alex from Tokyo 子供のころに東京で育って、青春時代だった80年代末にアンダーグランド・クラブミュージックに出会い、90年代半ばにプロとして音楽活動をスタートしました。そこから30年以上日本のシーンと深く交流を持ちやってきて、日本の音楽やアーティスト、そしてシーンを世界に紹介したい強い気持ちが強くなってきました。その長年考えてきた日本企画がパンデミック中に明確になって、今回「Japan Vibrations」のVol.1として僕の東京での体験を元に、日本の80年代半ばから90年代半ばに自分が影響を受けてきたタイムレスな楽曲と優秀なアーティスト、当時の最先端で革新的なエレクトロニック・ダンスミュージックサウンドに焦点当てることを決めました。それは僕のDJのルーツでもあります。その時代を代表する音楽ヒーローである坂本龍一、細野晴臣、清水康晃を始め、ダンスミュージック・シーンと文化を創り上げた先駆者や革新者とも言えるDJ、ミュージシャン、アーティスト達、そして新世代のベッドルーム・クリアターまでをセレクトして、日本の音楽シーンの進化をショーケースしたのがこの作品になります。
―80年代はどのような環境で音楽にのめり込んでいったのですか?
Alex from Tokyo 3歳半のころに親の仕事の関係で日本に引っ越してきたんだけど、お父さんは大変な音楽ファンで、特にブルースとロックが大好きで、家ではアメリカ、イギリス、フランス、日本のヒット曲と当時の渋いブルースやロックンロールが流れてました。日本のテレビとラジオも良く掛かっていて、日本で流行っていた曲には自然に触れてました。幼稚園から高校までリセ・フランコ・ジャポネ(日仏学校)に通っていたんだけど、他のインターナショナルスクールとも交流があったから、コスモポリタンな環境で育ちました。親は東京で友達とホームパーティをしたり、六本木に遊びに行ったり、ホームパーティのためにお父さんはミックステープを録音したり、踊るのも大好きでした!
―そこからDJをやるようになったきっかけはなんだったのですか?
Alex from Tokyo 音楽との出会いは学校の友達から広がっていきます。リセで一緒だった幼馴染のトミー・ワダ(今でも東京でDJとしても活動中)から、10代のころに最新のアメリカのアーバンなサウンドやヒップホップを教えてもらい、フランスにいる従兄弟からUKとフランスのニューウェーブを聴かされて、幼馴染と幅広く音楽にハマって、モデルで活躍していた学校の先輩から誘われて、14歳のころに初めてディスコに遊びに行き始めました。同時にレコード屋さんにも通うようになって、高校1年生のときには先輩の下で学校のダンスパーティでDJを始めたり、ある日レコードショップ「WAVE」の店員さんに勧められて、六本木の先にある飯倉の地下クラブ「The Bank」に学校帰りに行って、そこで初めてクラブとハウスミュージックを生で体験したんです。
「The Bank」では、当時の東京のベストDJ達がプレイしていたから、世界中の最先端で革新的なサウンドにヤラれてしまって、そこからアンダーグランド・ダンスミュージック・シーンにどっぷりハマって、毎週のように東京の面白いクラブやパーティ、レコードショップに行き出すようになったんですよね。学校の友達3人でDJユニットを始めることになって、当時はヒップホップ、アシッドジャズ、ハウス、アシッドハウスとテクノを混ぜてかけていました。クラブでのDJデビューは、フランス人のプロモーターのジャン・マリーに誘われて’91年芝浦GOLDの5Fの「Love&Sex」でのSMパーティでプレイしたのが最初。’91年に大学でパリに行って、学生をしながらパリで東京スタイルを活かしてDJをして、’95年には東京に戻ってから再び日本のダンスミュージック・ブームを体験して、渋谷・宇田川町をベースに音楽活動を本格的にスタートした感じです。
―第一弾の作品で日本のエレクトロニック・サウンドに着目した理由と、曲の魅力を教えていただけますでしょうか。
Alex from Tokyo 日本のエレクトロニックサウンド、日本の素晴らしい音楽シーンとアーティスト達のストーリーを全世界に伝える目的で「Japan Vibrations」のコンピレーションシリーズを始めました(収録されている楽曲の紹介を以下に)。
・Haruomi Hosono 「Ambient Meditation #3 」
ニューエイジの伝説的ミュージシャン、ララージと、アンビエントの巨匠、ブライアン・イーノに捧げられたこの美しく、優しく、夢のような静謐な曲は、ララージがシタールを奏でるこの音楽の旅への完璧なオープニング・トラックである。1993年3月21日、Alex From Tokyoの20歳の誕生日にリリースされた、細野晴臣のアルバム『Medicine Compilation From The Quiet Lodge』より。
・Silent Poets - Meaning In The Tone ('95 Space & Oriental)
‘93年の2ndアルバムに収録されていた「Meaning In The Tone」をソロになったデュオがセルフ・リミックスしたもので、’95年に竹村延和の新レーベル「Idyllic records」のコンピレーション第1弾としてリリースされた。Silent Poetsは当時は既に日本の主要なトリップ・ホップユニットとして海外でも知られていたし、僕はそのころに下田みちはるさんと春野たけひろさんに千駄ヶ谷のスタジオで会ったことを覚えている。
・Quadra - Phantom
スローパーカッシブでエモーショナルなシネマティック・ダウンテンポ・シンセの逸品。ボストンのバークリー音楽大学を卒業後、ニューヨークで活動していた’95年から’96年にかけて、渡辺ヒロシがQuadraという別名義でプロデュースした1stアルバム『Sketch From A Moment』(当時は「Frogman Records」からCDのみリリース)に収録されている。彼と僕は、彼がこのアルバムに取り組んでいるときにニューヨークで出会って、イーストヴィレッジのアンダーグラウンドクラブ 「Save The Robots 」や、マンハッタンのダウンタウンにある家に行って、アルバムの制作過程を見せてもらったりしていた。
・T.P.O. 「Hiroshi’s Dub(Tokyo Club Mix)」
藤原ヒロシ、高木完、K.U.D.O.らによるタイニー・パンクス・オーガニゼーション(T.P.O.)による、藤原ヒロシのダブテイク。「Hiroshi's Dub Remix」は、B2に収録されているパラダイスガラージにインスパイアされたディープハウス・リワーク(高木完がマイクを握り、シカゴのマーシャル・ジェフーソンを模倣した雷雨のイントロが特徴的)で、札幌出身の最も初期の日本のガレージハウスDJのひとりであるHeytaがさらにリミックスしたもの。僕にとっては、’89年の東京のクラブシーンの究極のサウンドトラックである。
・Prism 「Velvet Nymph」
日本のエレクトロニック・ミュージックの巨匠の一人、(故)横田進による傑作ディープハウス・トラック。Prism名義ではデトロイトテクノ・サウンドを屈折させ、洗練させた『Metronome Melody』を、山崎学が主宰する日本のテクノレーベル「Sublime Records」から’95年にリリース。山崎さんと初めて会ったときこのアルバムのプロモ盤をもらってDJセットで何曲かプレイしたことを覚えています。僕自身は渋谷にあった「Mr.Bongo」で横田さんに会って仲良くなったのだけど、横田さんはとても好奇心旺盛で、純粋で、生産的なアーティストで、新しい音楽を発見するためにMr.Bongoに来ていた。97年には僕は横田さんに呼ばれて「Skintone」という小さなパーティを一緒に始めたのだけど、彼は間違いなく日本のエレクトロニックシーンを変えたひとりだと思う。
・C.T. Scan「Cold Sleep (The Door Into Summer) 」
C.T.スキャン(シンセポップ・アーティスト、J-POPのプロデューサーCMJK、電気グルーヴの初期メンバーとして知られる)が、渡辺健吾と佐藤大が主宰する影響力の大きいレーベル「Frogman recordsの1994年のファースト・リリースとして制作した、日本のテクノシーンを紡ぐ壮大なフューチャリスティック・テクノ・アンセムでコンピレーションを締めくくる。ロバート・A・ハインラインのSF小説にインスパイアされたこのトラックは、過去にタイムスリップして自分自身を見つけるというもので、内省的で浮遊感があり、優しく未来的だ。未来を創造するために過去を振り返る、最高のジャパン・ヴァイブス。
■『Japan Vibrations Vol.1』は時代へのオマージュであると同時に
■日本のファンに向けた僕からの個人的なラブレターでもある
―今回、各曲のリマスターをTokyo Black Starとして共に活動するサウンドエンジニア熊野功(PHONON)が手掛けておりますが、どのようなサウンドに仕上がったと思いますか?
Alex from Tokyo 今回のコンピレーションのような企画をうまくまとめるには、リマスタリングすることは欠かせない重要なプロセスなので、最初から熊野さんにリマスターをお願いする予定でした。熊野さんとは25年近く一緒にクラブやパーティでの活動、ラジオ、音楽制作、Tokyo Black Starと「PHONON」をやっていて、世界で通用するとても才能のあるサウンドエンジニアです。知り合ったころは、パーティでサウンドシステムを出してチューニングしていました。熊野さんはクラブで鳴らす音と高級なハイエンドオーディオをとても良く知っていて、とても耳が良く世界でも「PHONON」のヘッドフォンのチューニングとサウンドはとても評価されてます。クラブならではの低音をきちんと出せて、ファットで解像度が高い立体的な高級サウンドを上手くミックスできる唯一の人。今回はアナログとデジタルの2つのリマスタリングを依頼したのだけど、30年前の楽曲がすべて新曲のように聴こえて僕も圧倒されました。リスニングからクラブプレイまでいける最高の仕上がりになってます。
―アナログ、CD含むジャケット周りのデザインの魅力を教えて頂けますでしょうか。
Alex from Tokyo 今回のコンピレーションのジャケットデザインは、30年前からの友人、音楽仲間である北原武彦と一緒に制作しました。僕は北原君が手がけるデザインの大ファンだから最初から彼に依頼しようと思っていたし。当時の雰囲気が伝わるよう、アートワークの中に当時の雰囲気を伝える写真……仲の良い友人、音楽関係者達やアーティスト達のプライベート写真などを載せました。中でも90年代に東京のナイトライフを撮影していた写真家の藤代冥砂さんとBeezerの写真を借りることができたのは嬉しかったです。他に作賓のロゴ、僕のロゴもデザインしてもらって、北原君のおかげで最高の仕上がりになりました。
―ジャパンツアーが終了しましたが、全国を回ってどのような感触を感じましたか? エピソードがありましたら教えていただけますでしょうか。
Alex from Tokyo 昨年の11月に行なった12日間のジャパンツアーでは、Dommuneの番組を入れて全国で9カ所リリースパーティをやりました。ミュージックバーからクラブまで、北は旭川から、南は福岡まで全国を回ることができて、お陰様で今回のコンピレーションを紹介することができました。毎日の移動は大変だったけど、まさに日本を横断する旅人気分で楽しむことができたし、どのパーティも盛り上がって、良いエネルギーを感じることができました。そういえば博多では20度だったのに、札幌経由で旭川に着いたら初雪の−3度だったり(笑)。初めてプレイした旭川のクラブ「Bassment」は素晴らしいクラブで完全にノックアウトされたし、大好きな京都の「Metro」では、Jazzy Sport Tokyoの20周年記念パーティで、僕のヒーローであるレジェンドのDJ MILOとまさかの共演。京都で僕はコンピレーションに合わせて日本モノを多めにプレイしたんだけど、実際に日本でプレイしていろいろな再発見もあって新鮮でした。他にDommuneへ集まってくれたコンピレーションの参加アーティスト達や関係者達との再会、東京の青山ZeroのDJ NORIのレジデントパーティ「Tree」でのリリースパーティではHiroshi Watanabeの素晴らしいライヴと多くの仲間達が集まって遊ぶ姿を観ることができたり、日本全国の仲間達と改めて繋がることができたと思います。
―パリ、東京、ニューヨーク、ベルリンにて生活をして、そして現在はパリで過ごされておりますが、海外からみた日本のこの時代のサウンドはどのように捉えられていると感じますか?
Alex from Tokyo 海外では、この時代の日本のサウンドは今でもあまり良く知られていないです。世界で一番有名な日本人の音楽家は坂本龍一ですが、インターネットでも海外に流れている英語の情報はとても少ない。そういうこともあり、実際に自分が経験したシーンと音楽をここできちんと形にして世界に紹介するというミッションを感じて、今回の内容で第一弾を立ち上げたんです。90年代前半にパリでDJを始めてから、周りのDJ仲間は当時の新しい日本のサウンドにとても興味を持っていましたが、日本以外ではレコードはあまり流通されてなく手に入れることが難しかったし、日本のレコードショップやクラブについてはとても良く認知されてますが、日本の音楽についてはそこまで知られてなかったんです。それが僕が’95年から宇田川町のレコードショップ「Mr.Bongo」で働き始めるようになったくらいの頃から、海外のトップDJが定期的に来日するようになり、日本のサウンドが徐々に世界に知られるようになりました。
ヨーロッパにおいて、海外のトップ専門レーベルからリリースされる日本の素晴らしい名盤の再発企画の影響力は大きいです。周りではシティポップ、日本のジャズとアンビエントは特に人気がありますね。晴臣細野と山下達郎はスターですし、アンダーグラウンドでは流行は関係なく日本のノイズ音楽や実験音楽が好きなマニアも大勢います。
―「Japan Vibrations」というタイトルの元、これからも第二弾、第三弾と考えていらっしゃいますか?またどのような内容にしていきたいなど、展望がありましたら教えてください。
Alex from Tokyo 最初から「Japan Vibrations」コンピレーションをシリーズ化することを決めてました。音楽オタク向けだけではなく日本に興味を持ってくれそうな世界中の多くの人たちにアピールすることが目的です。第一弾の世界での反響がとても良かったので、このまま続けて第二弾に向けて動き始めようかと思ってます。内容はお楽しみにして下さい。「Japan Vibrations」はコンピレーションシリーズに止まらず、さらに範囲を広げて文化企画として取り掛かりたいと思ってます。音楽と時代がリンクするグラフィックデザイン、写真、画像、アート、ファッション等を含めて紹介していけたらいいですよね。
―作品がリリースされたにあたり、日本のファンへメッセージをください。
Alex from Tokyo 『Japan Vibrations Vol.1』は時代へのオマージュであると同時に、日本のファンに向けた僕からの個人的なラブレターでもあります。日本のおかげで今の僕=Alex from Tokyoがいるし、その僕は日本のたくさんの素晴らしい優れた音楽や、奥深い特別なソウルとハートに触れてきました。これからもその気持ちを大切にして、自信を持って、日本のクリエーターに独自なスタイルでモノを創り続けて欲しいと思うし、今回のリリースで、日本の新しい世代の音楽好きやクリエイーターの人たちにインスピレーションとパワーを与えることができたらと思います。僕自身は日本へまた行くので、日本各地の皆さんと良い時間を過ごせることを楽しみにしています!
インタビュー・文:吉岡加奈
『Alex from Tokyo presents Japan Vibrations vol.1』
world famous 2,805円
2枚組LPアナログ盤/CD/デジタルにて配信
[アナログ盤収録曲]
A side:
A1 Haruomi Hosono - Ambient Meditation #3
A2 Silent Poets - Meaning In The Tone (’95 Space & Oriental)
A3 Mind Design - Sun
B side:
B1 Quadra- Phantom
B2 Yasuaki Shimizu - Tamare-Tamare
B3 Ryuichi Sakamoto - Tibetan Dance (Version)
C side:
C1 T.P.O. - Hiroshi's Dub (Tokyo Club Mix)
C2 Okihide - Biskatta
D side:
D1 Mondo Grosso - Vibe PM (Jazzy Mixed Roots) (Remixed by Yoshihiro Okino)
D2 Prism - Velvet Nymph
D3 C.T. Scan - Cold Sleep (The Door Into Summer)
◆Alex from Tokyo オフィシャルサイト