【ライブレポート】コールドプレイ、会場が一体となった6年ぶり来日公演「おおきに、毎度ありがとさん」
コールドプレイが、6年ぶりの来日公演<ミュージック・オブ・ザ・スフィアーズ・ワールドツアー>を11月6日、7日の2日間、東京ドームで開催した。ここでは、11月6日公演についてレポートする。
◆コールドプレイ 画像
世界各地で記録的な動員を誇りタイムズ紙が“史上最高のライブ・ミュージックコンサート”と評した6年ぶりのツアーへの期待感、さらに9thアルバム『ミュージック・オブ・ザ・スフィアーズ』で表現された寛容さやポジティヴィティが会場内の空気にも練りこまれているのを、会場に足を踏み入れるとともに肌で感じられた。
2022年3月にコスタリカでスタートしたこのワールドツアーでは、CO2排出量を前ツアー(2016年〜2017年開催<ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームス・ツアー>)の50%削減することを目標に、移動の効率化やバイオ燃料を使用した輸送に切り替え、チケット1枚につき1本以上の植樹を行なうカーボンニュートラルな取り組みを実施。またステージでも再生可能エネルギーを使用し、コールドプレイのショーでお馴染みとなっている観客がつけるLEDリストバンドもツアーを通じてリサイクルする(終演後にリストバンドを回収するのだが、現在回収率が最も高いのが今回の東京公演で97%)など、環境に配慮しかつサステナブルなツアーへと磨き上げているものになっている。
国や企業が主導するものでなく、バンド発信での取り組みは意義のあるものでもあり、グローバルに活動をするバンドだからこその責任感もある。高い数値目標はあるが、かと言って堅苦しく諭すものでなく、ステージ電源をサポートするエアロバイクやキネティック・ダンス・フロアが設けられて、観客が楽しんで参加できたり、ノリノリでバイクを漕いだり踊ったりする人たちが画面に映れば、ドームを埋める観客も歓声や手拍子で盛り上げたりと、会場内は終始高揚感で満ちていて、そこにいるだけでも胸高鳴るものがある。
SEのなか、メインステージから会場の真ん中まで伸びた花道の先にあるステージに、クリス・マーティン(Vo, G, Piano)、ジョニー・バックランド(G)、ガイ・ベリーマン(B)、ウィル・チャンピオン(Dr)の4人が登場し、クリスが指揮するようにして「Higher Power」がはじまるや、大量の紙吹雪が何度も噴射されて観客の興奮は一気に爆発。シンガロングに合わせるように会場一面のLEDリストバンドが点滅して熱気を煽っていくとともに、続く「Adventure of a Lifetime」ではアリーナにたくさんのバルーンが放たれて、高らかなジャンプでドームを揺らしていく。
助走なしで頭から最高潮へと駆け上がり、フルスロットルで興奮の天井をぶち破っていく感覚が、多幸感を呼ぶ。長い花道を余すことなく使い、大きな会場でもひとりひとりに語りかけるように、また全体を包み込むようにも歌うクリスのフィジカルでエモーショナルなパフォーマンスも伸びやかだ。
クリスのピアノ弾き語りでしっとりとはじまった「The Scientist」では、曲中で「みなさんこんばんは」「みんなに会えて嬉しい、来てくれてありがとう」「こんばんはアリーナ、こんばんはスタンド、こんばんは2階、こんばんは東京ドーム!」「おおきに、毎度ありがとさん」と日本語でお茶目な挨拶を挟んでフレンドリーに進んでいく。
「Viva La Vida」「Hymn for the Weekend」「Everglow」の3曲は花道の先のステージで演奏。「Viva La Vida」ではウィルが太鼓と鐘による鼓動感で観客の熱とシンガロングのボリュームをあげる。ミニマムなセットで観客の歌声とともに作り上げていく「Hymn for the Weekend」や、「Everglow」ではふたりの観客をステージに招きクリスが鍵盤を弾き語る傍に座らせて演奏したりと、開放感とプライベートな濃密さとが入り混じったステージングで魅せる。まだまだ前半だが、ドラマティックで没入感に浸れる内容だ。
アルバム『ミュージック・オブ・ザ・スフィアーズ』収録曲が中心となった中盤では、「Human Heart」で「Biutyful」のMVに登場するパペットによるバンドThe Weirdosのエンジェル・ムーン(Vo)がクリスとデュエット。佇まいはシュールな雰囲気でもあるけれど、ゴスペル的でエフェクティブなクリスのボーカルと繊細なエンジェル・ムーンの歌声とのハーモニーが詩的で、そこからアルバムの中でもダイナミックなリフとビートが冴えるロックチューン「People of the Pride」へと爆発的に盛り上げる。緩急で揺さぶったところに「Infinity Sign」ではキラキラのイルミネーションが瞬くエイリアンの被り物をしたメンバーが花道を歩きながらプレイ。東京ドームは、いちだんとポップできらめく空間へと様変わりした。
アルバム『ミュージック・オブ・ザ・スフィアーズ』の曲を据えながらも新旧の曲が混じり合ったオールタイムベストなセットリストとなったこのツアー。終盤では、ザ・チェーンスモーカーズとのコラボ曲「Something Just Like This」(2017年)や、BTSとのコラボで大きな話題となった「My Universe」が披露された。
シーンの垣根を超え、国や言語やカルチャーを超え、それぞれの存在を認め合いながら、前を向いて進んでいく。80’Sエッセンスのあるエレクトロサウンドで、メロディアスにエッジィに奏でられるラブソング「My Universe」からは、そんな愛の大きさを感じるし、これはアルバム『ミュージック・オブ・ザ・スフィアーズ』や本ツアー、今のコールドプレイのマインドにもつながるものだろう。
言葉にすればシンプルなことだけれども、実際には身近な日常や地球規模で見ても、どうにもそれは難しいことのようで偏見や争いが今なお絶えることがない。それでも高い目標を掲げた今回のワールドツアーの実現に向けて根気よく準備を重ね、企業や人々を巻き込んでひとつひとつの課題を乗り越えてきたように、着実なやり方で実っていくものはあると信じている。
このツアーはそんな思いを、ショーを通して体現させてくれる。本編ラストに据えた「A Sky Full of Stars」で演奏を止めるとクリスは、カメラを回すのはやめてこの曲で一体になろうと呼びかけた。
アリーナからスタンド、2階席が一面LEDできらめく光景と大量の紙吹雪が舞うなか、クリスの指揮でこの日いちばんの大合唱をドームにこだまさせた。アンセミックなサウンドとともに、まだまだこんなパワーがあったのかという観客の熱量に痺れる。
またアンコールでは、アリーナ後方に作られたステージに登場し、BTS・JINのソロシングルであり、コラボレーションをした「The Astronaut」や、再びエンジェル・ムーンが登場し「Biutyful」等を披露。多幸感の余韻が長く長く続く音楽のパワー、ライブのエネルギーを存分に感じる一夜になった。
取材・文◎吉羽さおり
撮影◎Teppei Kishida
<ミュージック・オブ・ザ・スフィアーズ・ワールドツアー>セットリスト
1. Higher Power
2. Adventure of a Lifetime
3. Paradise
4. The Scientist
5. Viva La Vida
6. Hymn for the Weekend
7. Everglow
8. Charlie Brown
9. Yellow
10. Human Heart
11. People of the Pride
12. Clock
13. Infinity Sign
14. Something Just Like This
15. Midnight
16. My Universe
17. A Sky Full of Stars
18. Sparks
19. The Astronaut
20. Fix You
21. Biutyful
この記事の関連情報
コールドプレイ、「ウィー・プレイ」を先行配信
スティーヴン・ウィルソン、「コールドプレイはくそったれ」メッセージの真相を明かす
コールドプレイ、「feelslikeimfallinginlove」のミュージック・ビデオを公開
コールドプレイ、『Moon Music』輸入国内盤CDも2024年10月4日(金)に発売
コールドプレイ、2024年10月4日にニューアルバム『Moon Music』を発売
コールドプレイのクリス・マーティン、歩行困難なファンを車で送る
コールドプレイの公演にテニスのフェデラー元選手がサプライズ出演
YOASOBI、コールドプレイ来日公演にゲスト出演決定
コールドプレイ、『ミュージック・オブ・ザ・スフィアーズ』世界ツアーが日本上陸