和楽器バンド、ツアーファイナルで「来てくれて、待っていてくれてありがとう」
和楽器バンドが、<JAPAN TOUR 2023 -I vs I->ツアーファイナル公演を2023年10月29日(日)に福岡・福岡サンパレスホテル&ホールにて開催。オフィシャルから届いたライブレポートを掲載する。
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伝統的な和楽器特有の音色とロックサウンドを融合させた楽曲と華やかなライヴパフォーマンスで、日本のみならず世界中にファンを持つ和楽器バンド。今年7月から4か月にわたって開催してきた全国ツアー<和楽器バンド Japan Tour 2023 I vs I>が、10月29日(日)、福岡・福岡サンパレスホテル&ホールにてファイナルを迎えた。メンバー8人全員が揃った完全体でのツアーは念願であり、3年半にわたるコロナ禍のライヴ規制が緩和されたことにより、会場は終始大歓声に包まれていた。約3年ぶりのオリジナルアルバム『I vs I』全曲に加え、遊び心溢れる演出も交えたエンターテインメントショウの模様をお伝えする。
「Overture」に乗せてメンバーが一人一人ステージに登場し、スポットライトを浴びて決めポーズをすると、ファンはその都度喜びの声で迎えた。黒流(和太鼓)、山葵(Dr)、亜沙(Ba)、蜷川べに(津軽三味線)、神永大輔(尺八)、いぶくろ聖志(箏)、町屋(Gt&Vo)、そして最後に姿を現した鈴華ゆう子(Vo)がセンターに辿り着くと、現在地上波にて放送中のアニメ『範馬刃牙』野人戦争編のオープニングテーマでもある怒涛のロックナンバー「The Beast」がスタート。イントロに乗せ、盛り上げの牽引役である黒流が「和楽器バンドのライヴへようこそ! ツアーファイナル、行くぞ!」と叫ぶと、観客はペンライトを力強く振りながら「Oi Oi!」と声を上げた。「さあ、やってきました<和楽器バンド Japan Tour 2023 I vs I>、一緒に盛り上がって行くぜ!」と鈴華が勇ましく煽ると、「宵ノ花」へ。スクリーンには夜桜、舞い降る椿などの花が映し出され、幻想的な美しさを醸し出しながらも、歌と演奏は力強くアグレッシヴでロックバンド然としている。尺八、箏、和太鼓、三味線の音色で神秘的に幕開ける「修羅ノ儀」も、曲が進むにつれ次第に昂りを見せていく。尺八を吹きながら右拳を繰り返し突き上げる神永の先導で、会場には一体感が広がった。
「来てくれて、待っていてくれてありがとう。今日は皆の笑顔をたくさん作りに来ました」と、この公演に懸ける想いを溢れさせた鈴華。コロナ禍によるライヴの規制緩和後初のツアーということで、声出しの「練習をしていきたい」と提案し、「福岡の人!」「九州の人!」など様々な呼び掛けをしていく。女性への呼び掛けは蜷川が担当し「淑女の皆さん!」と声を張り上げ、男性に対しては亜沙が「九州男児の皆さん!」と語り掛け、それぞれに会場からは大きな声が返ってきた。その迫力に鈴華は「合戦が始まるじゃん!」と驚きの声を上げる。“戦い”をテーマとしたアルバム『I vs I』の世界観は、戦火の絶えない現実世界を見ると絵空事とは到底思えないし、コロナ禍で大きな打撃を受ける音楽業界を戦い抜いてきた和楽器バンドの軌跡、メンバー一人一人の自分自身との戦い……そういった様々な戦いを想像すると、1曲ごとの重みが増して感じられた。それでも、あくまでもエンターテインメントとして全てを包み込んだ上で表現し、音楽という形で彼ら・彼女らはオーディエンスに届けていく。
カラフルな和柄のイメージ映像が流れる中、「名作ジャーニー」は手をワイプする振りを交え、明るく楽しいムードでパフォーマンス。かと思えば「生命のアリア」ではグッと重厚に、時計の歯車やシャンデリア、街灯のモチーフが織り成す映像を背に、シリアスで壮大なバラードに聴き入らせた。三味線ソロ、尺八ソロに続いて全員で音を揃えた場面に息を呑み、ラストは鈴華のロングトーンに耳を奪われた。青いサーチライトの中でスタートした「藍より青し」は、ステージ上に青一色の巨大な円が出現。ファンがリズムに合わせて振り上げるペンライトの光の海も演出の一部となって、会場全体が美しい光の世界を構築していた。
鈴華が「海外から来てくれた人いますか? From overseas?」と問い掛けると、アメリカから、アフリカから、カナダから、香港から、という声が方々から上がり、「すごいね、皆。ありがたいですね」と鈴華は感謝。和楽器バンドのグローバルな人気を実感する場面だった。また、黒流は母親が福岡出身で「第二の故郷」だと語り、「“帰って来た”感がすごくあります」と声を弾ませる。コロナ禍の規制が緩和されたことに対しても、「皆さんの声援を聴くとうれしい。ずっと聴けなかったですからね」と感慨深そうだった。
福岡のご当地グルメにまつわるトークをメンバー間でやり取りし、大きな笑いが起きた後は、「コロナ禍では自分自身との戦いを経験したと思います。ツアーでしか見られない演目も楽しんでいただきたいです」との鈴華のコメント通り、7曲目には、様々なメンバー組み合わせでの“VS”を繰り広げるスペシャルな場面が用意されていた。第一戦は、狐の面をかぶって剣舞を繰り広げる鈴華VS蜷川の三味線。クラブミュージックのエッセンスを湛えたエレクトロサウンドを通奏BGMとして、スポットライトが何度も切り替わり、対戦する二人の姿を交互に照らし出していく。続いては、緑色の光の中、山葵のドラムと神永の尺八が、時にはユニゾンしながら直接対決した。青い光に移り変わり、黒流と亜沙によるリズム隊セッションは身体にズッシリと響く重量を感じさせ、続いてはピンク色のライトが広がる中、いぶくろの箏が分散和音を奏で、町屋のギターが加わると、互いに絡まり合って繊細なサウンドスケープを立ち上げる。最後は青一色の世界になり、全員で合奏。一連のセッションで生まれた和楽器バンドサウンドを体現するかのように、鈴華は淡いピンクのヴェールを天女のようにまとって軽やかに舞っていた。
言葉の入り込む余地のない音の世界に魅入られていると、「そして、まほろば」へ突入。歌詞の文字が縦書きでバックモニターに映し出されていき、永遠の“永”、幸”、“儚”という文字が浮かび上がっては消えていく、直前の場面とは対照的に言葉の持つイメージ喚起力を活かした演出である。鈴華の歌声の深みと、そこに寄り添うように重ねられていく7人の音色の豊かなニュアンスと温度感。和楽器バンドの円熟を感じさせる鮮やかな表現だった。
アルバムタイトルに因み、「最近、何と戦っているか?」についてメンバーが楽し気に語らうMCで場を和ませた後、アルバム曲だけではなくリクエストの多い過去曲のうちの1曲として「細雪」を披露。曲名をコールすると大きなどよめきが起こった。樹々に雪が降るモノクロームの情景に、縦書きの歌詞が和歌のように浮かび上がり、じっと佇んで聴き入っているオーディエンス。ぷつりと音が途絶えて曲が終わると、歓声と大きな拍手が起こった。
和傘を手にした鈴華が歌い始めたのは「時の方舟」。町屋のアコースティックギターと神永の尺八は、そこに吹く風を思わせるオーガニックな響きを宿していた。山々に囲まれた河を舟が静かに進み、桜、蓮、ひまわり、曼殊沙華などの花々が次々と浮かび上がる。戦いの後の世界観、そこに流れる死生観が音楽と映像によって伝わってくる、忘れ難い1曲となった。「Interlude~Starlight~」から繋げた「Starlight」では、ミラーボールが眩い光を放つ中、生き生きとしたパフォーマンスを展開。生の楽器の音が、すべて心地良く耳に響いて来る。フジテレビ系月9ドラマ『イチケイのカラス』主題歌として書き下ろされた軽妙でキャッチーなナンバーを、鈴華は透明感に満ちたハイトーンヴォイスで届けた。
「ドラム和太鼓バトル」は、和楽器バンドのライヴには欠かせない盛り上がりの場面。ハロウィンの時期に因んで黒流はピンクのウサギをあしらったヘッドピースを乗せて登場、「ハッピーハロウィン!」と叫び、小さなシンバルを両手で思い切り打ち鳴らした。そこから放たれた音をキャッチするのは、白いウサギのヘッドピースをちょこんと乗せた、対決相手の山葵。座席によってエリアを左右に分割された観客たちは、黒流、山葵チームに分かれ彼らの先導の下声を発し、その音量を測定して勝負を決めるというものだ。2人がステージを降りて客席を練り歩くと、観客は大歓声。「音の投げ合いを、この会場全員でやってみよう。音の投げ合いは、魂の投げ合い!」と黒流。会場全体を巻き込んだ賑やかなバトルの結果、軍配は黒流に上がり、その場でバズーカ砲を発して客席にプレゼントを投げ込んだ。近距離のファンにも手でプレゼントを撒き、更にはチーム山葵側にも投げ入れたことから、山葵は「優しい!」とうれしそうに声を上げた。メンバーが全員戻って来て始まった「愛に誉れ」は、このツアー恒例の撮影OKタイムとなり、ファンは一斉にスマートフォンをステージに向けて構えた。
「星の如く」ではタオル回しで盛り上がりながら一体感の中で曲を届け、曲を終えると鈴華はタオルを客席に投げ入れた。コロナ禍の規制下では、ピック1枚投げることすら許されなかったことを思うと、一つ一つ自由を取り戻しつつあることに気付かされる。本編ラストの「BRAVE」で響き渡った、メンバーとファンが力強く歌うコーラスもその一つである。<つづら折りな道>という歌詞とリンクする山道など、自然界を切り取った悠大な映像がスクリーンには映し出されていく。メンバーは頭上でクラップし、ファンの声を飽くことなく求め続けていた。生命力に溢れていた、鈴華の歌声。最後、空を光が照らす映像は、未来への希望を感じさせた。
アンコールを求めるファンは、「暁ノ糸」を合唱しながら手拍子を送った。福岡ならではの「明太子!」コールで沸き立ったところへメンバーが登場。「こちら(自身の右側を示しながら)の人がいない」という神永の言葉から、会場全員で「亜沙!」と呼び込むと、やはり彼ら・彼女らのライヴには欠かせない「亜沙カメラ」のコーナーへ。亜沙自らカメラを構えファンクラブ限定動画を撮影していった。スクリーンには、某レジェンドメタルバンドを思わせるASACAMETALのロゴが映し出され、「渾身のオリジナル曲を用意してきました」と亜沙。本ツアーで結成したメタルバンドのライブが始まったかのようなMCを皮切りに、「頭を振って行こう!」と声を掛け、亜沙、黒流、町屋、山葵の4名による激しいメタルナンバーが始まると、ヘッドバンギングの嵐が巻き起こる。ツアー開始以来「4カ月いろんなことがありました。今回の千秋楽を以て、ASACAMETALバンドは解散します!」と泣き声で発表、亜沙カメラのコーナーも有終の美を飾った。
ファンクラブで募ったアンケートの中から毎回違う曲を届けて来た本ツアーのアンコール曲、ファイナルのこの日、「皆一緒に声を出して盛り上がっていきたい。久しぶりに『星月夜』を聴いてください」(鈴華)と告げると、「おお~!」という歓喜の声が轟き、いぶくろの箏の音色から密やかに始まった。和楽器バンドの人気を決定付けた「千本桜」を最後に届けると、メンバーは最後の力を出し切るように渾身のパフォーマンスを繰り広げていく。「福岡、全員で掛かって来い!」という黒流の煽りに、「Oi Oi!」と食らい付いていくオーディエンス。鈴華を中心に亜沙、神永、町屋、蜷川が前方で一列に並んだ様は壮観だった。町屋といぶくろは後方に顔を向け、山葵とアイコンタクトを取ってタイミングを合わせ最後の音を鳴らした。8人は前へ出て一列に並んで手を繋ぎ、マイクを通さずに「ありがとうございました!」と大声で感謝を叫んだ。「皆さんのお陰で最高のファイナルになりました。また会いましょう! ありがとうございました!」と叫んだ鈴華。暗転するとすぐに特報が流れ、2024年の1月7日(日)に日本武道館にて新年恒例のワンマンライブ<和楽器バンド 大新年会 2024 日本武道館 ~八重ノ翼~>を開催することを発表した。
終演後、ホールのロビーに飾られた和太鼓の前には、ファンが列を成して撮影、募金していた。和楽器バンドが日本の伝統芸能・文化をサポートするために行っている「たる募金プロジェクト」の第五弾としての展示である。第一弾、第二弾では三味線、箏の製造元への支援を既に行っており、第三弾では楽器以外では初の支援となる岐阜和傘を、第四弾では沖縄の三線をサポートしてきた。自分たちの音楽表現だけに留まらず、しかも単発ではなく持続的に、本物の音を次世代へと繋いでいく活動を行なっている。ライヴ本編だけでなく、こうした志の高い活動の継続も含め、コロナ禍という過酷な戦いを8人で乗り越えた彼ら・彼女らの“音楽を続けていくことへの決意と覚悟”をより一層強く感じられる2023年のツアーだった。2024年、デビュー10周年を迎える和楽器バンドの動きから目が離せない。
取材・文:大前多恵
撮影:西槇太一
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【セットリスト】
01. The Beast
02. 宵ノ花
03. 修羅ノ義
04. 名作ジャーニー
05. 生命のアリア
06. 藍より青し
07. I vs I セクション
~ 鈴華ゆう子 vs 蜷川べに
~ 神永大輔 vs 山葵
~ 黒流 vs 亜沙
~ いぶくろ聖志 vs 町屋
~ 和楽器バンド
08. そして、まほろば
09. 細雪
10. 時の方舟
11. Interlude ~Starlight~
12. Starlight
13. ドラム和太鼓バドル ~射音爆打~
14. 愛に誉れ
15. 星の如く
16. BRAVE
<ENCORE>
亜沙カメラ
16. 星月夜
17. 千本桜
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