【コラム】Official髭男dismが人生を描く、最新シングル「Chessboard / 日常」

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Official髭男dismの最新シングル「Chessboard / 日常」は、人の人生をマクロ視点/ミクロ視点から捉え、豊かに表現した作品だ。シングルCDのリリースから約半月が経つが、ままならないことばかりの──しかし、時に自らの手で力強く物事を手繰り寄せなければならない日々を伴走してくれる音楽として、あらゆる世代のリスナーから愛されている。

◆ミュージックビデオ

第90回NHK全国学校音楽コンクール中学校の部課題曲として書き下ろした「Chessboard」は、人の“一生”の始まりを、チェスボードの上に降り立ったと喩えた楽曲。最近のOfficial髭男dismには、革新的なメロディ/コード展開に驚かされることが多かったが、様々な人が歌うことを考慮してか、あるいは人生というテーマに呼ばれたのか、この曲では普遍的なメロディが採用されている。なだらかに起伏するAメロのメロディ(〈チェスボードみたいなこの世界へ僕らは〉)は、その造形自体が人生を表象しているよう。このメインテーマを繰り返しながら楽曲が展開していくクラシック的な構成になっている。



まず、チェスボードというモチーフ選択の的確さ、そして〈幸せと悲しみの市松模様〉、〈王様もいないこの盤上で僕らは どんな役を与えられたんだろうか?〉といった表現でなぜチェスボードなのかを暗に語る歌詞のスマートさに、さすが藤原聡(Vo, Pf)と感じ入った。この曲の世界では“歩く”と“飛ぶ”の対比が存在している。飛んでいるのは、偶然の産物としての風に身を任せる〈綿毛〉や〈大きな歩幅で ひとっ飛びのナイトやクイーン〉。対して、主人公は、やがて〈いつしか地に足がつき始めた〉という自身の変化に気づき、〈自分で決めて歩いていく〉と決意している。

そしてこの曲は、主人公と同じく、不器用ながら一歩一歩進む人たちの人生とその歩みを肯定している。ボーカルのメロディが1オクターブ上がる5回目のAメロ(〈ゲームは続いてく〉)、そして楽曲の半分を過ぎたところで初めて登場するCメロ(〈大きな歩幅で〉)と新たな展開の中で歌われるのは、自分がその足で踏みしめた地面から草木が芽生えるようなイメージ。また、その後のDメロでは、幸せの白も、悲しみの黒も、いつの日にか〈美しい緑色〉に変化するのだと歌い、その美しさを祝福するように全楽器が壮大に歌っている。泣き笑いの経験全てが自分の生きた証であり、尊いものであるのだと。


先述の通り、メインテーマを繰り返す構成、しかも5分21秒の大曲ということで、一歩間違えれば冗長な印象になりかねない曲だ。しかしそうなっていないのは、“歩く”と“飛ぶ”、地面と上空の対比を描く空間的な歌詞世界、そして物語上の景色(≒人生の場面)の変化や時間の流れを表現するバンドアレンジによるところが大きいだろう。

冒頭では、遠くで鳴るギターとピアノ、ボーカルが、たった一人で人生を歩み始める瞬間を表現。藤原が〈不意に誰かが隣に来て 風が吹けば離れ離れ〉と歌うBメロでは、バイオリンベースやアコースティックギター、パーカッションが加わり、オーガニックな音像によって“自然”のイメージが伝わってくる。2番に入ると、ブレイクビーツによるAメロを経て、フルートやオーボエなど木管楽器の温かい響きが際立つBメロへ。そして〈一歩づつ大切に種を蒔きながら…〉とボーカルがロングトーンする中、途切れたメインテーマを引き継ぐようにギター&コーラスがフレーズを繋ぎ、ドラマティックなCメロが始まっていく。

藤原がコーラスとともに〈クイーン〉と気持ちよくロングトーンしたと思いきや、そこでメロディを終わらせず〈みたいになれる日ばかりじゃない〉と続けるなど彼特有の節回しを披露していたり、歌詞に掛けて小笹大輔(G)がブライアン・メイを思わせるアプローチをしていたりと、遊び心も覗かせつつ、華やかさを湛えたまま、今度はDメロへ突入。



メロディをコーラスに託すアイデアは合唱の課題曲だからこそ生まれたものと思われるが、このDメロは楽曲内で唯一、第三者視点からの言葉が歌われているブロックであり、歌詞の構成を踏まえても効果的なアレンジと言えるだろう。〈役に立たない思い出も 消したいような過去も いつかきっと色付くのでしょう〉と主人公に語りかけているのは、過去の自分を見つめる未来の自分か、人生を共にするパートナーか、はたまた全てを祝福する神のような存在か……。

真実は分からないが、自分のことを確かに見守ってくれている存在がいるのだと思えるかどうかによって、日常の景色は一変するはずだ。ラストはメインテーマに帰結するが、ギターはこれまでのAメロで鳴らしていたリフではなく、全く新しいメロディを奏でている。ボーカルとともに歌っていると言って差し支えない、熱量の高いフレージングだ。最後に歌われている言葉は〈知らないままでただ息をする〉。序盤にも登場している表現で、つまり主人公の現在地は変わっていないのかもしれないが、それでも、以前よりも少しだけポジティブな気持ちでいられているはずだ。



“一生”を描いた大曲「Chessboard」に対して、日本テレビ『news zero』の2023年テーマソングとして現在オンエア中の「日常」では、長い人生の中の“一日”にフォーカス。イントロのムード溢れるギターに耳を惹きつけられるとともに、オフィスビルの建ち並ぶ都会の景色を早速イメージしたくなるが、どうやらこの曲の主人公は、出口の見えない日々に沈んでいる模様。そういえば、夜景を彩る明かりの一部は、残業する人たちの灯す明かりなんだよな……と思いつつ、ロマンティックな音像と滲む悲哀を結びつけるとともに、随所の言葉選びから、会社員の経験もあるこのバンドならではの眼差しを感じ取った。様々な悩みを経て辿り着く〈変わらない人たちに悩まされては癒される/強がれるこの強さが割と大事みたいだ〉という結論の、温かくもシニカルなテンションが心地いい。

文◎蜂須賀ちなみ

ダブルAサイドシングル「Chessboard/日常」

2023年9月13日(水)発売
・CD+Blu-ray:PCCA-06224 ¥2,750(税込)
・CD+DVD:PCCA-06225 ¥2,750(税込)
・CD only:PCCA-70563 ¥1,320(税込)

収録内容:
《CD》
1. Chessboard(第90回NHK全国学校音楽コンクール中学校の部課題曲)
2. 日常(日本テレビ『news zero』テーマソング)
3. Chessboard -Instrumental-
4. 日常 -Instrumental-

《Blu-ray/DVD》
・2021年8月28日開催「Official髭男dism 『Editorial』発売記念ONLINE FREE LIVE」
I LOVE...
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アポトーシス
・「日常」Recording Document

(DVD:音声16bit 48k PCM 2ch/ 5.1ch DTS Digital Surround)
(Blu-ray:音声24bit 48k PCM 2ch / 24bit 48k Dolby true HD(Dolby Atmos))

予約:https://hgdn.lnk.to/Chessboard_nichijo
※価格、収録内容は予告なく変更される場合があります。

法人別特典:
・Amazon.co.jp:メガジャケ2枚組
・その他法人:A4クリアファイル
・楽天ブックス:Official髭男dism オリジナル配送パック

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