【インタビュー】和楽器バンドらしく、真っ直ぐに。デビュー満10年を目前に“戦い続ける”ことを証明するアルバム『I vs I』完成
和楽器バンドが7月26日に、約3年ぶりとなるオリジナルアルバム『I vs I』をリリースした。
◆撮り下ろし写真
和楽器バンドはコロナ禍でも歩みを止めず、2020年夏にコロナ禍では初のアリーナ規模でのライブを開催し、その後も楽曲制作、ホールツアー開催などを行ってきた。2022年は彼らの原点のひとつでもあるボカロ曲をカバーした、超絶技巧の『ボカロ三昧2』をリリース。23都市23公演となるツアーを回っている途中で、ボーカル・鈴華ゆう子が一時離脱、楽器隊だけでツアーを乗り切った。いつも逆境に負けない、芯の強いバンドだ。
そんな和楽器バンドが新たに打ち出したアルバムのテーマは、“戦い”。その収録曲を聴いて、このアルバムはとても興味深いと思った。これまでのアルバムの中でも、上位で好きだ。その気持ちを持っていぶくろ聖志(箏)、黒流(和太鼓)、町屋(G, Vo)、山葵(Dr)の4名と、このアルバムについて語り合ってきた、その内容をお届けしよう。
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◾️1曲だけこれを聴くっていうのではなくて、作品として聴いていただきたい
──私は今作、過去イチでコンセプチャルなアルバムだなと思いまして。メタっぽく言うと前半タイアップの後半完全オリジナルみたいな構成になってるし、 ストーリー風に言うと戦国時代から現代に歴史が移り変わる感じもある。戦いを経てその後の未来へ繋がっていくようにも感じられるし、面白いなと思いました。
町屋:和楽器バンドは基本的に毎回コンセプチャルには作ってはいるんですが、作りながら割と不安だったんですよ。まとまるかなって思いながら、なんとかまとめなきゃと思って作ったというか。
──それは、シングル曲が多いからですか?
町屋:そうです。「生命のアリア」「Starlight」「名作ジャーニー」はもう既に世に出ていて、「The Beast」も先行配信されていたり。それ以外のタイアップがついているものは一斉に世に出るわけなので。やっぱり、タイアップものってクライアントありきで楽曲を書き下ろすので、アルバムのために書いたものではなくて。それを1枚のアルバムの中で、どう共通性を持たせるかというところで不安だったんです。“戦い”というテーマで進めはしたものの、時代背景もこんなに違って果たして本当にうまくいくかな……と思ってたんですけど、制作していく過程の中で「シングルの寄せ集めとかそういうアルバムじゃない!」と思える作品になりましたね。
──そうなんです、シングル曲が多いのに、1曲目から順番に聴いていくと一貫したものを感じました。
町屋:“戦い”をテーマにしつつ、前半はひたすらあらゆる場面で戦い、後半は戦いを経た先の希望……みたいな感じで。「BRAVE」で終わるっていうのは決まってたんで、「BRAVE」に向けてどう持っていくかを考えました。
──ということは、最初に「BRAVE」ができてたんですか?
町屋:いや、そういうわけではないですけど、「BRAVE」ができた時点でこの曲はアルバムのラストで綺麗に終わりたいと思いましたね。そこから間の曲の並びだったり、歌詞も含めての自然な流れを考えていく、という作り方をしましたね。
──「BRAVE」は山葵さん作詞曲。コロナ禍にリリースされたアルバム『TOKYO SINGING』のラスト「Singin' for...」も山葵さん曲で。どちらもコロナ禍から解き放たれた時のことを歌っていて、2曲がリンクしているようにも思えてエモいです。
山葵:あぁーなるほど。そこの流れは特に意識はしていなかったんですけど、確かに「Singin' for...」を作った頃はコロナが猛威を奮っていた時期で、それを乗り越えてみんなで歌えたらいいなという思いで書きましたね。先日のファンクラブライブで初めてお客さんと一緒にあの曲を歌えて、自分の中でもやっと完成した気がしています。今回の「BRAVE」はようやくコロナも落ち着いてきて、今までのような盛り上がり方ができるようになったので、環境は違えど、“お客さんと僕らでひとつになりたい”という根本の思いは共通しているかなと思います。
──この曲が『I vs I』本編の締めになっていることが、とてもいいですね。
町屋:わかりやすいリード曲としての「The Beast」、そこからいろんな時代背景や形の戦いの曲が続き、「Interlude ~Starlight~」で切り替え。リミックスした「Starlight(I vs I ver.)」から、和楽器バンドならではのロックバラード「そして、まほろば」。この辺も、結構手が混んでいますね。そして久々にドラムベース和太鼓がない小編成の「時の方舟」を経て、「BRAVE」で締まる。
山葵:最後は、タイムスリップして終わる的なね。
──すごくよくできたアルバムですよね。配信で単曲を聴くよりも、通しで聴いた方が面白いと思います。
黒流:今はなんでも配信で聴けちゃう時代ですが、このアルバムは、アルバムとして聴いてほしいなと思っています。映画をハイライトだけ見ても面白くないのと同じで、1曲だけこれを聴くっていうのではなくて、作品として聴いていただきたいですね。
──その通りだと思います。「Interlude」を入れるのも初めてじゃないですか?
町屋:そうですね。「Starlight(I vs I ver.)」がどうしても浮いちゃうので。もともとの曲から全体をリミックスして、和楽器を目立たせたアルバムバージョンになっているんですが、「Interlude ~Starlight~」でしっかり和楽器を聴かせることで、耳がそっちにシフトするんです。和楽器が聴こえやすくなる。オーケストラを組んでみたりとかいろんな繋ぎを試してはみたんですけど、あまり盛大になりすぎても「Starlight (I vs I ver.)」が沈んでしまうし。ほど良いバランスのものができたんじゃないかなと思ってます。
山葵:ステーキ続きからの、急にお刺身感。箸休め的な。
──あぁ確かに(笑)。で、デザートに向かっていく感じがいいですよね。激しい和風曲が多めの前半と、現代的な曲が続く後半でミックスは違うんですか?
町屋:いや、あんまり変えないようにはしてます。基本は「The Beast」合わせで。「Interlude ~Starlight~」とか 「Starlight (I vs I ver.)」とかも、「The Beast」のサウンドをリファレンスとして作っていますね。ただ、曲によってやっぱりこういったマスタリングが合う合わないとかっていうのはもちろんあるので、 それは曲の流れで聞いた時に違和感がなく、かつ「The Beast」と並べても違和感がないという点を意識してマスタリングしましたね。
──前半の曲は『八奏絵巻』の頃の、往年の和楽器バンド感も思い返させられるんですけど、あの頃とは品質というかクオリティが高くなっていて。和楽器バンド自体の歴史も感じられました。
いぶくろ:そうかもしれませんね。
町屋:確かに勢いのある感じが、『八奏絵巻』にちょっと似た部分はあるかな。ただ、もう勢いだけじゃなくて、僕らはいろんな表現の方法をこの10年の間に培ってきたので、それを今回のサウンドでアウトプットできたかなとは思ってます。
──“戦い”というテーマは、タイアップありきで生まれたものなのか、皆さんの悔しい思いとか負けたくない思いとかが、10年目に向かおうとするいまここで結集したからなのか。
町屋:両方じゃないですかね。
山葵:みんなが大変だったこの3年間を戦い抜いたことをはじめ、戦国時代の戦い、己との戦い、いろんな戦いの形を表現しましたが、まだ戦いは続くよ、というところは意識していました。
──“戦い”といっても、反逆だけで終わらない感じが和楽器バンドだなと思います。成熟しているというか。
町屋:そうですね(笑)。あと10年我々の平均年齢が若かったら、もっと全曲早いかもしれない。
──とはいえ、今回もドラムが結構早くて激しい曲が多いとは思ったんですけど。
山葵:そう(笑)。今回も結構やばいです。
──毎回毎回ヤバさが更新されていくイメージがあります。自分との戦い、お好きですよね。
山葵:割とそういうメンバーが多いかも(笑)
黒流:この職業、戦っていないとダメですからね。現状維持は無理だと思います。
──今回、“戦”っぽい曲が多いので、黒流さんの掛け声もたくさん聴けますね。
黒流:自分で聴くと、うるせえなと思ってます(笑)。掛け声に関しても、昔とは入れ方がかなり変わったなと感じていて。
いぶくろ:狙ってるわけじゃないんですね(笑)。
黒流:狙ってない(笑)。成長なのかなと思います。もちろん、作曲者の楽曲の作り方が変わってきてるので、要求されるものも変わってきてるというのもありますが。やってて面白いですね。
──やっぱり黒流さんの声があることで、躍動感が生まれますよね。
黒流:ライブ感が出ますね。今回はライブで声が出せるので、こういう曲があることで、ライブでもより一体感が出るのだろうなと、制作中から楽しみでした。
町屋:これからはね、コロナに代わってクロナが猛威を振るう!ってね。
一同:失笑
──ライブで聴きたいですね! 箏についてはいかがでしたか?
いぶくろ:今回、箏が目立つようなリミックスをしていただきました。前半はずっと左側から結構主張が強い音が聴こえてくると思います。今回は作曲者がフレーズを指定してくることが多かったんですが、そこに僕が手を加えることで出る意外性、このバランスがすごく面白く作用したなと感じています。作品として、作曲者がここにこの音が欲しいっていうものと予期してない音との、狙ったものと偶然の産物、それがすごくいいバランスで入ってるんです。
──CD Only盤には全曲のインストゥルメンタルも入っているので、細かいフレーズはこちらで聴くとより面白いですよね。和楽器バンドはインストゥルメンタルも必聴ということは、常々伝えていきたいと思っています。
黒流:和楽器が入った楽曲って最近世界的に増えてきてるんですが、あくまでピンポイントで“ぽい”音が入っているだけで。僕らはバンドで、常に和楽器がいる状態。それで9年やってきて洗練されたバンドサウンドを奏でられているので、僕たちでしかできない音を作っているんだと実感していますね。
──そんな黒流さんがアルバムの中で印象的だった曲というと?
黒流:それぞれの曲がその時その時の最新のものをやっているなというイメージがあって、どれもすごく印象に残っているんですが……中でも 面白かったといえば、やっぱり「Starlight (I vs I ver.)」ですかね。アルバムバージョンって和楽器バンドはやってこなかったですし、音のバランスを変えただけなんですけど、こんなにも変わるんだなって感動しちゃって。
──確かに。シングルでリリースされた時の「Starlight」は、あえて和楽器をフラットに聴かせるという作り方でしたが、それを別バージョンで聴けるのは贅沢だと思いました。
黒流:ライブの会場で聴こえている音を、もっと洗練した感じですね。バランスだけでこんなにも作品の形が変わるんだと、皆さんにも実感してもらいたいです。和太鼓としては「宵ノ花」とかで金物を打ったりとか、音をちょっと変えたりなどいろんな試行錯誤をしています。
いぶくろ:僕がアルバムを通して聴いて印象的だったのは「生命のアリア」でした。単曲で聴いてる時のその曲の存在感と、アルバムの中で聴いた時の存在感がかなり違って。イメージよりも相当ゆっくりに聴こえたんですよね。単曲で聴くと、どちらかというと疾走感がある印象の曲なんですけど、アルバムの流れで聴くと急にどしっと後ろに構えてるような、なんかこう大物感があるというか。 「生命のアリア」が持っている曲のポテンシャルを、別の角度から聴かせてもらった気がしていました。アルバムという作品の中での立ち位置で、これだけ曲の印象が変わることが面白いですね。
──「Starlight」も「生命のアリア」も既発曲ではありますが、アルバムで聴いてこその面白さがあるということですね。
いぶくろ:そうです。単曲で聞いていた人は多分すごく印象が変わって聴こえるんじゃないかと思います。
黒流:うんうん、過去曲の印象変わるよね。
──いぶくろさんが、ご自身のプレイ的に工夫した点は?
いぶくろ:「宵ノ花」が大変でしたね。この曲は作曲者のフレーズ指定が多くて。他の楽器をプレイする人が“箏でこういうのがかっこいい”って思うフレーズは、箏で弾くと結構大変だったりするんです。「名作ジャーニー」も、箏的には変なコードが入ってくるところがあって、大変です。ただ、アルバム全体としては、今までほど変な転調をしている曲がなくて。
──あ、じゃあちょっとライブがやりやすくなるかもですね。
いぶくろ:そうですね(笑)。作曲で転調を使うっていうスキルも、多分すごい重要なスキルだし、リスナーの人にその曲の高揚感を与えるっていうのもすごい大事なスキルだと思ってるんですけど、たまたま今回は直球のものが集まっていて。転調や難易度というところじゃない、楽器のそれぞれの魅力がちゃんと詰まっている作品になってるのかなって気がしますね。例えば、「そして、まほろば」はちょっと変わった曲で振り幅が広くて、すごく転調してるような印象すら持つのに、実はそんなこともないっていう。表現の仕方が、1歩踏み込んだところに行ったのかなっていう感じはありますね。
──なるほど。町屋さんとしてはいかがですか。
町屋:今回僕はですね、曲の冒頭芸人をやらせていただきました。まず、「The Beast」の冒頭は、僕がデモで録ったトラックを17声重ねてます。朝起きて、“あ。こんな感じがいいな”とひらめいて録り始めてどんどん重ねたんですけど、録り直して綺麗になっちゃうのもなんかちょっと生感がないなと思って、そのままデモのトラックを使っています。
──それによって、謎の民族感が出ましたよね。
町屋:ちょうど『範馬刃牙』野人戦争編の内容が大陸感のあるものだったので、民族音楽的なものを今回取り入れてみようと。インドネシアのケチャという音楽があるんですけど、それをもとに、“ぽい”ことをしています。
──和楽器バンドによるオープニングテーマだと聴いて、まず最初にあれが流れるのが“してやられた!”と思いまして。
町屋:はは(笑)、まあ、狙ってましたね。再生したら最初はびっくりするけど、10秒で和楽器バンドに戻るんですよね。あと、あんまり突っ込まれないので自分から言うんですけど、「愛に誉れ」の冒頭に鳴っているホラ貝。あれ、僕が吹いてます。
──え、そうだったんですね! 町屋さんはほんとになんでもできますね。ホラ貝の音って、普通は音源素材を使うことが多いと思うんですが、生でやってしまうのがさすが和楽器バンド。
山葵:結構レコーディング大変そうでしたけどね(笑)。最初の方はプヒョ〜みたいな音しか出なくて。
黒流:ライブ、吹くの?
町屋:吹かないですよ(笑)。しかもいくつかホラ貝レンタルで借りてきたから、どれを吹いたかも覚えてない。
──「宵ノ花」のイントロも歪んだバンドサウンドかと思いきや、急に和楽器に変わるとか、確かに曲の冒頭で惹きつけられる曲が多いですね。
町屋:そうですね。タイアップ曲ってやっぱり、曲の頭出しからサビまでに勢いがあったり、耳を引くものじゃないと選ばれないので。だからまあ、そういう印象的なものが多く並んではいますよね。
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