【対談】MSTK × LINDBERG、'90年代サウンドの魅力とライブ共演を語る「そこに中毒性がある」
■’90年代って邦楽が独自進化を遂げた時代
■日本人に伝わりやすい旋律や音で構築されてる
MASATAKA:MSTK始動直後、新型コロナウィルスで世の中が一変してしまって。メンバー同士でさえ、なかなか会えない時期が続いたんです。たとえばAZが曲を作っても、メンバー全員が直接会ってアレンジを詰めることができなかった。でも、それこそ最近AZと話したのは、「合宿やりたいよね」ということだったり。
渡瀬:私達めっちゃ合宿したよね? 山中湖のスタジオとかで(笑)。
平川:したした。合宿レコーディングしたことも一度あるよね。しかも、東京に戻ってから再びレコーディングし直したり。ホント豪勢な時代だったよね(笑)。
▲AZ (G)
──1990年代と現在ではレコーディングにかけるバジェットも異なりますか?
MASATAKA:1990年代の音楽業界はバブリーでしたから。レコーディングのために、わざわざLAまで行ったり。僕はデビュー直後の1994年、レコーディングとミュージックビデオ撮影のためにニューヨークに行きましたし。
渡瀬:藤重君がニューヨークへ行きたかったの?
MASATAKA:いや全然。だって僕は、そのとき生まれて初めて飛行機に乗ったんですよ。初めての飛行機がニューヨーク。もう気が狂いそうになりました。10数時間、鉄のかたまりに閉じ込められるわけだし、そもそもどうして鉄が飛ぶんだ!?と思っていたから(笑)。
平川:俺らも、その頃にLAへ行ったよね?
渡瀬:そう。なぜミュージシャンの人は「一度はLAでレコーディングしたい」と言うんですかね?
MASATAKA:空気が乾燥しているからドラムが鳴るし、電圧が高いからギターの音もいい。日本でレコーディングするよりもサウンドがいいと言われてましたよね。
渡瀬:そうなんや。私は、LAに行ったら空気が乾燥してて、喉にとっては最悪だった。LAレコーディングしたアルバムだけ、“この声、誰?”っていうくらいハスキーボイスになっているという(笑)。
MASATAKA:気候が違いますからね。僕が “海外レコーディングが苦手”だということに行ってはじめて気づいたのが、“日本語詞が書けない問題”でして。現地で歌詞を書こうということになってたんですけど、海外なので当然、周りは英語だらけですよね。そうすると日本語、恋しい…みたいな気持ちになって、全然書けなくなってしまったんですよ。結果、帰国してから書くことになったという(笑)。ただ、実際に海外へ行ってみないとわからないことがいっぱいあったから、いい経験をさせてもらったなと思っています。
渡瀬:そうだよね。
平川:時間も費用も掛かるので今はできないよね、効率的ではないから。弦楽器はスタジオを使わずとも、DTMの進化によって自宅レコーディングができちゃう。そのデータのやり取りで音源を完成させることも可能だから、予算を削れるしね。以前はスタジオに入って、そこで曲作りするみたいな贅沢なことをしてたんですよ。当然そこからマジックが生まれるというメリットもあった。でも今は、スタジオを使わずともDTMを駆使することで予算や時間を有効に使えるとか、そういうメリットが生まれてますよね。
▲渡瀬マキ(Vo)
──ここにきて1990年代の音楽が再評価されていますが、その魅力を挙げるとしたら?
AZ:僕は、メロディーの素直さと曲構成のシンプルさが魅力だと思います。ヒット曲は、すごくキャッチーで一度聴いただけで覚えてしまうようなものが多いじゃないですか。わかりやすいけど、決して薄っぺらい音楽ではない。今回、LINDBERGさんの曲をカバーさせていただいたんですけど、これでもか!というくらい最後にサビを畳みかけてますよね?
MASATAKA:「今すぐKiss Me」とか、“今、何回目だっけ?” “何回チューしたっけ?”と思いながらサビのリフレインを歌うという(笑)。でも、そこに中毒性があるんですよね。あと思ったのが、僕は楽器隊ではないですけど、“1990年代の曲はリアレンジするよりも、オリジナル通りに演奏するのが一番いい”という結論に至るんです。
AZ:アレンジのアイデアはたくさん出すんですけど、実際に演奏してみるといまいちピンとこない。
MASATAKA:LINDBERGさんの曲もそうですし、僕自身のデビュー曲「愛してるなんて言葉より」(1994年6月発表)をセルフカバーしたときもリアレンジのしようがなかった。つまり、メロディーやコードはシンプルだけど、ものすごく緻密で。これしかないというアレンジが施されているんですよね。
平川:僕が思うに、1980年代初期までは洋楽と邦楽って交わらなかったじゃないですか。洋楽好きは洋楽しか聴かないし、邦楽好きは洋楽を全く聴かない。でも、現代の若い子は洋楽も邦楽も分け隔てなく、年代すら超えて聴いてますよね。音楽を作るときもそれらの両方を採り入れているから、結果、キャッチーさという部分では滲んでしまっているのかもしれない。対して、その中間に位置する1990年代って、邦楽が独自進化を遂げてJ-POPが確立された時代で。つまり、日本人に伝わりやすいメロディーと洗練されたアレンジやサウンドで構築されているんです。それが今も、時代を超えてリスナーを惹きつける理由だと思います。
MASATAKA:日本人の好みが詰め込まれている音楽なんですね。
──実際、1990年代から今に伝わる名曲は多々ありますし、当時から現在まで第一線級で活躍するアーティストも少なくありません。ただ、今流行の音楽とのギャップを感じたり、自分達の音楽が若い子に響かないんじゃないか?とか感じることってあるんでしょうか?
渡瀬:はい、そう思ってます(笑)。
AZ:そんなことはありません(笑)!
平川:少し前から、LINDBERGはLINDBERGのサウンドしかできないんだから、現代に迎合して、自分たちをムリに変えるようなことはしないほうがいいって、そう思えるようになったんです。昔は変えたくてしょうがなかったけどね。今は自分たちが作って、たくさんの人に愛されてきたのがLINDBERGなんだから、それでいいと思っている。
MASATAKA:それが一番強いですよね。
平川:ただ時代のサウンドメイクというのはあって、そういうところにはアンテナを張って追究していきたいというのはありますけどね。
渡瀬:TikTokで、広瀬香美さんの曲に合わせて若い子達が踊ったりしているんですよね。それを見て、“こういう再ブレイクの仕方ってあるんや!”って。LINDBERGも、そういう幸運に恵まれるかもしれない、みたいな(笑)。
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