【インタビュー】フェンダー開発最高責任者J.ノーヴェル「メテオラは新しいプラットフォーム」
今からさかのぼること10年、2012年12月にフェンダーから「PAWN SHOP SEIRIES(ポーン・ショップ・シリーズ)」が登場したのをご存知だろうか。1960年代後半から1970年代中頃に見られるフェンダーのエキセントリックなモデルにインスパイアされたと語る、フェンダーのDNAをしっかりと受け継ぎながらもこれまでに見たことのない異端なシリーズとして世に登場したモデル群だった。
PAWN SHOP SEIRIES(ポーン・ショップ・シリーズ)
あれから10年近くたった2022年3月、メテオラがPlayer Plusシリーズから登場したことで、BARKSではその魅力を徹底解剖するべくギタープラネット吉岡氏と柳津氏・イケベ楽器の西岡氏というフェンダーギターを熟知する見識人3名の協力を仰ぎ、メテオラの魅力とその実態を徹底解説してもらった。様々な事実が明らかとなったが、同時に素朴な疑問も湧いてきた。そもそもどのような経緯で生まれたデザインなのか。どういうコンセプトがあったのか。フェンダーが提示するメテオラの最大の特徴はどこになるのか。
この疑問を解決するべく、直接フェンダーの開発最高責任者ジャスティン・ノーヴェル氏にインタビューを敢行した。そこで出てきたエピソードが、先に述べた「ポーン・ショップ・シリーズ」だった。メテオラの出生エピソードは10年もさかのぼるものだったようだ。
フェンダー 開発最高責任者 ジャスティン・ノーヴェル
──メテオラは、そもそもどのようにして生まれたデザインだったのですか?
ジャスティン・ノーヴェル:Player Plusのメテオラは、最初のポーン・ショップ・シリーズ(2012年12月発売)の頃から、「私たちの歴史に存在しないが、存在しうる楽器を作る」というコンセプトで考えていたデザインなんです。スウィンガーやマーヴェリックなどを参考にしていたんですが、当時はお預けになったんですね。
──なぜ、未発表に?
ジャスティン・ノーヴェル:デザインが嫌だったというわけではなくて、その時はもっと過激で突飛なものを求めていたからなんです。それでメテオラのコンセプトは、ずっと私たちの頭の片隅に留めてきたわけですが、その後になって、R&Dチームの優秀なメンバーのひとりであるジョス・ハーストがこのメテオラのデザインを起こす形で誕生することになりました。
──メテオラは、どのようなコンセプトで設計されたギターなのですか?
ジャスティン・ノーヴェル:クリエイティブ面においてもベストを尽くしましたし、しっくりくるまで追求しましたよ。創業者のレオ・フェンダーはテレキャスターやストラトキャスターに留まらず、ジャズマスター、ジャガー、ムスタングなどで進化を続けてきましたけど、メテオラもその理念のもとでフェンダーの系譜を辿っている、そういうギターなんです。
──未発表の仕様やお蔵入りになったアイデアなどもあったのでしょうか。
ジャスティン・ノーヴェル:一番最初のメテオラ(2018年「パラレル・ユニバース・シリーズ」で発表された2018 Limited Edition Meteora)は、新しいデザインながら美的な快適さも提供したいと考え、フェンダーのパラダイムにもフィットするようにブロンドボディにテレキャスターの仕様を採用したシェイプでデビューを果たしました。それに対して、今回発表したPlayer Plusのメテオラでは、一番最初に作ったバージョンは金属製のピックガードが搭載されていたりして、より過激で未来的なデザインだったんですよ。
──メテオラが誕生したとき、フェンダー社内での評判はどうでしたか?
ジャスティン・ノーヴェル:もちろん古典派も革新派もどちらもいますから、最初は賛否両論だったと思います。でも、過去にとらわれることなく、みんなで前進していくのが我々フェンダーですから、新しいデザインを推し進めるというコンセプトは誰もが是認してくれています。もちろん、古典派には受けがたいデザインだと分かっているんですけど、だからこそ実行することに意味があるんです。私たちはヴィンテージのリイシューも作っていますが、メテオラも作るんですよ。
──実際の設計や仕様の決定はスムーズでしたか?
ジャスティン・ノーヴェル:意見の相違はないんですけど、仕様には多くの協議を行って詰めてきました。新しい楽器を生み出すというのは、単に新しい形をしていることではなく、アイディアを完成させることなんです。それは常にフェンダーが目指してきたところですから。
──デッサンから設計に落としていく際に、問題となったところや変更となった点は?
ジャスティン・ノーヴェル:それはもちろんあります。トレモロアームの可動域を確保するために、コントロールの配置にも調整が必要でしたから。当初はSHのピックアップ配列だったのをHHに変更した点も、結果的に非常に満足した点ですね。研究開発のプロセスは奥が深く課題がつきものなので、何度も試作を行いフィードバックを得ていく。その都度学ぶことがあるんですよ。
──細かいこだわりもたくさんありそうですね。
ジャスティン・ノーヴェル:Player Plusメテオラは、これまでのものよりもアグレッシブにしたかったので、HHというピックアップ構成に合わせて、指板のラジアスをよりフラットなもの(12"R)にしました。ギターをデザインするというのは、パーツごとの仕様を選ぶのではなく、スムーズに機能するシステムとして設計することなので、完璧な設計を詰めるとPlayer Plusメテオラはこのラジアス指板になるというわけです。
──カラーリングも新鮮でしたね。
ジャスティン・ノーヴェル:カラーバリエーションは一度に決定したんですが、シルバーバーストは1990年代前半のストラトバーストのカラーリングを思い起こしながら、そのアイデアを現代風にアレンジしたかたちです。
──最終的にメテオラをPlayer Plusシリーズで発売することになった最大の理由は何ですか?
ジャスティン・ノーヴェル:Player Plusシリーズが、ヴィンテージのファンではなくモダニスト向けのシリーズだからです。メテオラというギターは、モダンなプレイを目指すプレイヤー層にぴったりと合っていると思っていますから。
──ちなみに、メテオラというネーミングの由来は?メテオラキャスターではダメですか(笑)?
ジャスティン・ノーヴェル:実は、この名前は私が考えたものなんです。ストラトキャスターやStratosphere(ストラトスフィア)のように、宇宙をテーマにした名前を独り言のように繰り返しつぶやいていた中で思いつきました。でも、名前に「caster」は決して付けたくはなかったんです。だって、ジャガーやムスタングがせっかくその壁を打ち破ってくれたんですから(笑)。
──実際発売となり、米国をはじめ、世界のギタリストからの反応はいかがですか?
ジャスティン・ノーヴェル:多くのプレイヤーが個性を求めて他の多くのギタリストと差別化を図ろうとしていますが、まさにメテオラこそ、それを実現するのに最適な楽器だと感じています。ストラトキャスターやテレキャスターを最初に手にした人たちが、当時のセミホロウボディを持ちたがらなかったように、数世代後の今も同じような価値観の変動がおきていますよね。PARALLEL UNIVERSE 2018 メテオラから2019 Alternate Reality メテオラ、そして今回のPlayer Plus メテオラへと進化していく中で、すべての学びを採り入れて、それまでの知識と経験を基にさらに磨きをかけてきました。それが私たちにとって継続的な改善プロセスです。現時点では次のモデルは決まっていませんけど、ジャズマスターやジャガーのようにメテオラが新しいプラットフォームとなり得ることを願っています。
取材・文◎烏丸哲也(統括編集長)
◆【メテオラ徹底解説】楽器店が語る、フェンダーPlayer Plusシリーズの魅力とメテオラの可能性
◆フェンダーPlayer Plusシリーズ/メテオラ オフィシャルサイト
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