【コラム】ABBA復活を高らかに告げる、聖杯のような作品『ヴォヤージ』
Photo by Baillie Walsh
2021年9月2日に発表された「ABBA復活!」の一報は、インターネットに乗って一瞬で世界を駆け巡った。
およそ40年前に活動を停止したグループが、新曲を制作し、コンサートをおこない、アルバムもリリースするというビッグニュース。それは彼らの音楽を青春の思い出にしていた世代を感涙させ、リアルタイムではない世代のファンを狂喜させた。新曲「アイ・スティル・ハヴ・フェイス・イン・ユー」のミュージックビデオは、公開から2か月で2500万再生を突破した。そして今、待望のニューアルバム『ヴォヤージ』が目の前にある。ABBA復活を高らかに告げる、ファンが探し求めていた聖杯のような作品がここにある。
ABBA=アバについて、あらためて説明は必要ないだろう。アメリカとヨーロッパでNo.1を記録した「ダンシング・クイーン」を筆頭に、「マンマ・ミーア」「テイク・ア・チャンス」「ギミー!ギミー!ギミー!」など、1970年代から1980年代にかけて世界的ヒットを数多く持つ、スウェーデン出身のスーパーグループ。もちろん日本でも大ヒット連発で、1982年に活動を停止した後も、1990年代にベスト盤『アバ・ゴールド』が世界中でNo.1になったり、彼らの音楽が使われた1999年初演のミュージカル『マンマ・ミーア!』がロングランを続けるなど、その人気は途切れることなく受けつがれてきた。
復活に寄せたメンバーのコメントによると、2022年5月にロンドンで開幕するコンサート<アバ・ヴォヤージ>が、すべてのインスピレーションの源だった。ジョージ・ルーカスが設立したインダストリアル・ライト&マジック社が、モーションキャプチャを駆使して作り上げたメンバーのアバターと、10人編成の生バンドがデジタル的に共演する画期的なコンサート。制作過程の一部を、「アイ・スティル・ハヴ・フェイス・イン・ユー」のミュージックビデオと、コンサートのためのトレイラー映像で見ることができるが、完成度の高さは驚異的の一言。そのコンサートのための新曲を含むニューアルバムが、1981年の前作『ザ・ヴィジターズ』から実に40年振りのニューアルバム『ヴォヤージ』ということになる。
アルバムの内容は、往年のアバらしさを随所に残しつつ、ある意味で意表を突くほど新しく、ある意味でルーツ音楽への回帰を思わせる、多層的でイマジネーション豊かな音楽と表現したらいいだろうか。先行公開された3曲のうち、「アイ・スティル・ハヴ・フェイス・イン・ユー」は、バッハを思わせるクラシカルなメロディと、後半から登場するバンドサウンドとが絶妙に絡み合う、荘厳なバラード。「ドント・シャット・ミー・ダウン」は、往年のアバらしさに近いディスコ調のエレクトロビート、きらめくストリングスとピアノが織り成す、高揚感あふれるダンスナンバー。「ジャスト・ア・ノーション」は、60'sアメリカのガールズ・ポップを思わせる、みずみずしいオールディーズ感覚が楽しい曲だ。
アルバムのほかの曲は、さらにバラエティ豊かな個性派が揃う。大らかで陽気な「ホエン・ユー・ダンスト・ウィズ・ミー」と、しっとりとスローな「バンブルビー」は、ケルト音楽を思わせるメロディと楽器構成で、日本人の心に不思議な郷愁を誘う。「リトル・シングス」は、木管楽器中心の柔らかなオーケストレーション、オルゴールやベルの音、かわいらしい子供の合唱に心洗われる。「アイ・キャン・ビー・ザット・ウーマン」は、せつないラブストーリー映画の主題歌に似合いそうな美しいバラードで、「キープ・アン・アイ・オン・ダン」は、アルバムの中で最もシリアスでダークなムードを持つ、かっこいいエレクトロポップ。かと思えば、「ノー・ダウト・アバウト・イット」は元気で軽快なポップ/ロック、そして10曲目のバラード「オード・トゥ・フリーダム」で、1曲目「アイ・スティル・ハヴ・フェイス・イン・ユー」の荘厳でクラシカルな要素をリプライズさせながら、深い余韻を残してアルバムは幕を閉じる。
アップテンポの曲では、往年のアバらしさとメロディアスなポップスの魔法を。スローナンバーでは、ケルトやクラシックや教会音楽など、ルーツにさかのぼるような荘厳なイメージを。全体を通して、一本の映画かミュージカルを見終えたような聴き応えだが、中でもひときわ耳を引くのは、やはりアグネタとフリーダの素敵な歌声だ。二人のユニゾンで始まる「リトル・シングス」や、サビでハーモニーを重ねる「ドント・シャット・ミー・ダウン」を聴くと、ああアバだとすぐにわかるし、「キープ・アン・アイ・オン・ダン」は、あえて低音域の迫力で聴かせるなど、年齢を重ねたゆえの工夫もある。無理なく自然体で歌っているからこそ、時の流れを超え、アバらしさをしっかりと感じ取ることができる。
日本版CDは、なんと4種類。すべてSHM-CD仕様で、「スタンダード・エディション」のほかに、ベスト盤『アバ・ゴールド』をカップリングした2枚組、そして現在は入手困難な、1978年と1980年の来日時のライブ&ドキュメンタリーDVD『アバ・イン・ジャパン』をカップリングした3枚組、さらにレア映像を含む36曲のミュージックビデオを収録したDVD『エッセンシャル・コレクション』が付属するものと、どれを選んでも充実の内容だ。
<アバ・ヴォヤージ>のコンサートが始まる来年夏にかけて、アバ再評価の波はますます高まっていくだろう。アルバム『ヴォヤージ』はその先駆けとして、かつてのアバと現在のアバ、そして往年のファンと新しいリスナーとを結ぶ懸け橋になるだろう。アグネタ、フリーダ、ベニー、ビョルン。4人が作りあげたアバという伝説は、新しいページをめくってさらに未来へと続いてゆく。
文◎宮本英夫
ABBA『ヴォヤージ』
ヴォヤージ - スタンダード・エディション
UICY-16026 ¥2,750(税込)
ヴォヤージ with 『アバ・ゴールド』(CD)
UICY-79761/2 ¥3,960(税込)
ヴォヤージ with 『アバ・イン・ジャパン』(2DVD)
UICY-79763 ¥5,500(税込)
ヴォヤージwith 『エッセンシャル・コレクション』(DVD)
UICY-79764 ¥5,500(税込)
◆ABBAレーベルサイト
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