【インタビュー】南こうせつ、“自分の心の声に耳を澄ませた”新アルバム『夜明けの風』
南こうせつが9月8日、2年半ぶりのオリジナルアルバム『夜明けの風』をリリースした。日本のフォークを代表するグループ“かぐや姫”では「神田川」、「赤ちょうちん」、「妹」など数々のミリオンセラーを記録するも、人気絶頂のときに解散。その後ソロでも「愛する人へ」、「夏の少女」、「夢一夜」をヒットさせ、33歳になると大分に移転し、以来田舎暮らしを続けながら精力的に音楽活動を続けている南。今作は2019年、デビュー50周年を迎えたときに出したアルバム『いつも歌があった』後の最新作となる。
コロナ禍でほとんどのコンサートが延期、中止となった2020年、大分の自宅で日々を過ごすなか、ひたすらに自分と向き合った南。「“何もしない”をすることは、いつも最高の何かにつながるんだ」というのは映画『プーと大人になった僕』を通して描かれたプーさんの人生哲学。自分の心だけに耳を澄ませて、自分が本当にしたいことだけをする──。今作はそんなところから生まれた作品だ。
◆ ◆ ◆
■南こうせつという人にじっくりと向かい合う時間ができて、
■それはとても快感でした。
──まず、今作を作ろうと思った経緯から教えて下さい。
南こうせつ:コロナ禍でコンサートが全部延期や中止になっちゃったもんですから、ライブがゼロという状態の中で日々を過ごしていたんですけれども。私はいま大分県の国東半島というところで田舎暮らしをしてるんですね。みかん山を買いまして、そこにお家を建てて過ごしているんです。自分が植えた木やお花に「元気か?」っていいながら、季節を感じさせる風が吹いてきたりすると“ルルル〜”とかいったりするんですね。ミュージシャンだから。それで「こういうメロディーっていいな」と思いながら出来た歌が今回のアルバムです。
──メロディーの生まれかたは、コロナ禍になる以前と今回では違うんですか?
南:そうですね。今回はしっかりと自分と向かい合ったんで。本当に変な話なんですが、南こうせつという人はどういう人なんだろう、この人はいままで50年以上歌ってきたけど本当は何を表現したいんだろうとか。そこにじっくりと向かい合う時間ができて。それはとても快感でした。長いこと歌ってきた中で、南こうせつが歌ってきた人生を自分が(客観的に)見つめ直すことができたことは、僕はすごく良かったなと思ってます。僕は性格的に、聴いてくれる方がいればどんな小さな会場でも「行きます!」ってコンサートをしに行っちゃうタイプなんです。ですから、コロナがなければこんなに向き合うことはなかったと思います。あのまま歳をとって、活動を続けていくだけだったと思いますから。
▲南こうせつ/『夜明けの風』
──ではそこでいままでの自分の音楽人生と向き合っていくなか、なにが見えたんでしょうか。
南:まず、ライブをやってる時は毎日弾いてたギターをほとんど弾かなかったんですよ。朝起きて歯を磨いて、外に出たら鳥がピッピーって鳴いてる。「お前いい声だね」って褒めてあげて。面白いカラスがいるのを発見したりして。みんな鳴き方が違うんですよ。あるとき“カーカーカー、カッ”と鳴くカラスを見つけて。次にそいつを見つけたとき、そいつが鳴きだしたときに、最後の“カッ”のところを先に僕が言ったら周りをキョロキョロみながら驚いて飛んでってしまったやつもいれば。夕方になるとカラスのなかには“カーカー”をマイナーコードで鳴くやつもいたり。そんなに日常を過ごしてたら、気がついたら1年経ってました。
──烏、カラスの観察をしていたら(微笑)。
南:だから、本当にギターを弾いてなかったんですよ。でもあるとき、ボロ〜ンと弾いたら「ギターはいい音色だな」と感じて。そうしたらぽろぽろと歌ができはじめて。それが5曲溜まったところで、せっかくだからレコーディングしようかと思ってみんなに話したら、ミュージシャンのみんなも「いいですね」「やりましょう」と言ってくれて。今回のアルバムはそうやって出来たものです。自分は何を歌いたいのかなと考えていたので、「こういうブルースも歌いたい」「こういうフォークも歌いたい」というのが出てきて、全部違うタイプの曲になりました。
──こんなアルバムを作ろうというのが先にあったのではなくて、でてきたものを集めたらこうなってしまった、と。
南:それが良いんですよ。運命に任せきるというのが。自分の意思を出さないで、身体はいま何が好きなんだろう、何を欲してるんだろうというところに任せる。そうするとこういうアルバムができた。生き方もそうなりましたね。70歳を過ぎて。
──それはどういうことですか?
南:任せきるんです。あそこに行こうとか考えずに“縁”から“縁”へとつながっていくことに任せきる。こうして今日あなたと出会うのもそう。知らない人のインタビューは受けません、ではなくて、せっかくこんな縁を頂いたので「いいですよ」ということで私は今ここにいるんです。このメディアに出る、このメディアは出ないとかではなくて。実際にそういうことを過去にはやってました。TVもあまり出てなかったし、出るメディアは選んでました。70歳を過ぎた頃に、ウチの街にある小さなケーブルTVがあるんですが、そこのメイン番組のテーマソングに僕の歌(「おかえりの唄」)を使っていいですかといわれたんで「どうぞ使って下さい」と応えて。そうしたら、その曲を気に入ってくれた地元の学生が吹奏楽部のブラスバンドで演奏したいから「指導に来てもらえませんか?」と言われたので学校に指導に行ったり。運命に任せるの。70歳ぐらいからはそういう生き方になりましたね。
──音楽も自分の体に任せきってみたら、今回のようなものが出てきた訳ですね。
南:ええ。だから、自分の体の中にないものは出てこないです。自分の中で培ったものだけが出てくるから。
──でもミュージシャンとしては、いまこんなサウンドが流行ってるからこういう曲を自分も作ってみたいという欲求にかられることも……。
南:ああ〜、そういう時代もありましたね。それこそ少年の頃からかぐや姫で売れた20代の頃、ソロになってから野外でコンサートイベントをやったりしてた頃はいろんな人と出会うし、自分も興味があるから「これ嫌だな」、「聴きたくないな」というものでも何かそこから得られるものがあるかもしれないという思いで、全米で1位になった曲は必ず聴いてました。どんなジャンルでも。それこそWHAM! 、Kajagoogoo、Tompson Twinsとか80年代は音楽に勢いがあってよかったよね。でも、もう表現方法はだいたい出尽くしたんじゃないかな。テクノが出てきて、ラッパーが出てきた辺りからそんなに驚かなくなったから。
──いまの日本の若い世代が作る音楽についてはどう感じてらっしゃいますか?
南:生まれたときからデジタルがある世代が作ってるものには敵わない。でも、心の奥底からは感動はしない。ビューンって猛烈なスピードのリズムで歌っていく。そこはスポーツ選手を見るように感じてます。金メダル!
──なるほど。
南:でもJohn Lennonの「Imagine」、いま聴いてもいいよね。The Beatlesが「She Loves You」歌ったときはシビれたし、Elton Johnも素晴らしいよね。80年代だったらMadonna、その次に出てきたLady Gagaもいいよね。映画見たら泣いちゃったもん。カントリーもいっぱい好きなアーティストがいます。でも、もうこんなところでいいかな。おいちゃんは(←昔からラジオで使っていた愛称)。でね、クラシックがね、面白いんだよ。また良いんだよね。バッハとかショパンはもの凄いんですよ。みんがやりたかったこと、全部をあの人たちはやっているんです。
──The Beatlesよりも先に?
南:「In My Life」のイントロはクラシックそのものですから。ヒントはクラシックにいっぱいあったんでしょうね。イギリスのロック史には。
──今作はそういうヒントをインプットして生み出す方式とは真逆で。
南:自由にほっぽらかして、あなたの好きなように、あなたが歌いたいように歌いなさい。笑われてもいいから。というのが今作ですね。だから、来年になると変わるかもしれない。
──ここからは収録曲について聞いていきますね。「夜明けの風」はまさに“いま”だからこそ届けたいという思いがひしひしと伝わってくる楽曲だと感じました。
南:コロナ禍のなか、こんなに苦しい時代だけれども、どんなに世界が暗くても夜明けの風は吹く。だから、晴れる日がくるのを信じて生きようねという歌詞なんです。もしかすると晴れは来ないかもしれない。でも「晴れる日を信じて生きようね」っていうと生きられる。人間ってそういう生き物なんですよ。
──ええーっ!
南:人間って、自分でそういうイメージを作っていくと、それが現実となっていくんです。「ずっと闇のままだ」と思ってたら、ずっと闇のままなの。だから、自分がなにかに向かっていくときには絶対こうなるというイメージを作って、それを信じてやるとそれがだんだん体現できていくんです。
──えーっ…本当ですか?
南:だってね、科学者の人にどんなに暗くても夜明けの風は吹くといわれても、なにを根拠に、なんのデータであなたはそういってるんですかって思うでしょ?
──あ、はい。
南:だけど、そんな科学者も解明できないほど人間の“感じる力”って凄いんです。気と同じように。
──気の持ちようといことですか?
南:そうだね。ちょっと話が大きくなるけど、今回のコロナは世界規模でしょ? 人間は価値観の変換を迫られてますね。誰にいわれた訳ではないけど、なにか変わらなきゃいけない。人間は。もっと自由にならなきゃいけない。例えばみなさん、デジタルを応用したものを全員持ってちょんちょんって常にやってるじゃないですか。
──はいはい。スマホで。
南:その結果すっごく便利になってるのも良く分かる。だけど、そこからもっと自由にならなきゃいけない。人間の幸せの価値観、それがお金とモノだけが中心になるとこんな風に人心が壊れ、自然が壊れ、我々は生きられても我々の次の次の世代は海も山も汚れて住めなくなっちゃうかもしれない。その責任を我々生きてる人たちは感じなきゃいけない。
──世界がこうなってしまったのは、そんな人間たちへの警告?
南:そうだね。じゃあ、ここから脱出して自由になるためには何が必要か。
──何だろう……。
南:“心”なんですよ。人間という生き物はハート、魂がある。そのハートから見る目線で物事を考えていくと、そんなにお金やモノにとらわれなくても幸せになれる方法はある。それは、一人ひとりの“感じる力”にかかってる。と、私は思います。そんなことを考えながら日々を過ごしてました。
──「夜明けの風」が一人ひとりの感じる力を呼び起こしてくれたらいいですね。
南:そんなこといっちゃうと、聴く人の心を縛っちゃうな。
──あ、そっか。
南:だから、いいんだよ。聴いてみていいか悪いか。それだけで。それで十分。
──では聞き手の心をなるべく縛らないような質問をしていきたいと思います。
◆インタビュー(2)
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