【インタビュー】Little Black Dress、「路線とか音楽に関係ない。やりたいことは山ほどあるんだから!」
■日本語って、すごく繊細で表現力も幅広い
■その素晴らしさを発信できるミュージシャンになりたい
──上京後、MISIAさんの付き人を2年間やられていたんですよね。その時期で印象深かったのはどんなことですか?
LBD:レコーディング現場でお茶汲みをしつつ、後ろのほうで初めて見学させてもらったときのことですかね。どういう体勢でいたらいいのか迷っちゃって、ひたすら正座してたのとか懐かしいです(笑)。MISIAさんはいつも「今日の工程で何がわからなかった?」と聞いてくださるんですよ。「パンチインとパンチアウトってなんですか?」みたいな質問をしても、「そこからなんだねー!」と笑顔でひとつひとつ丁寧に教えていただけたのが嬉しかったですね。
──ステージで堂々とパフォーマンスできるところも、その2年の経験が大きかったりします?
LBD:いや、それはもともとの目立ちたがり気質かも。私、ミュージカルをやっていたんですよ。4歳のときに演劇のスクールに通い始めたことが自分の原点で、舞台上では化けるものだっていう認識があるんです。歌を歌って生きていきたい情熱もその当時からずっと変わっていなくて。小っちゃい頃は“大きくなったらテレビで歌えるんだ!”と思ってたくらい、テレビに出るのが目標のひとつでした。このへんも昭和っぽい考え方ですよね。
──曲ごとにガラッと表情が変わるのは、ミュージカルの影響でしたか。
LBD:冒頭にも言いましたけど、七変化してますね。曲にはそれぞれ性格があって、曲によって良さが違うと思っているんです。良い作品を生み出すために、その性格に合ったアレンジャーさんを探して、私も曲の主人公になり切って演じるような感覚で歌い方を変えていくイメージでやってますね。なので、自分の曲すべてを受け入れてほしいわけじゃない。“今日のライブのあの一曲がすごく響いた”“アルバムの中でこの一曲が大好き”となってくれたら、それでもう嬉しくて。聴いてくださる方にももちろん性格があるから。どれか一曲でもフィットしてもらえればいいっていう気持ちです。
──Little Black Dressの全曲を愛してほしい、みたいな考えではないと。
LBD:音楽ってそういうおこがましい想いでやるべきじゃないし、もっと自由でありたいんです。メジャーデビューシングルの「夏だらけのグライダー」はR&B色が強い曲で、“昭和歌謡路線で行くんじゃなかったの?”みたいな声もあったんですけど、私はそんなつもり微塵もなかったし、“つまらないこと言わないでよ”と思っちゃうんですよね。路線とか、音楽に関係ない。やりたいことは山ほどあるんだから!
──LBDさんはご自身で作詞・作曲もできるシンガーソングライターですけど、そこにもヘンに囚われていない感じがしますね。
LBD:別の方に書いてもらうのも歌謡曲スタイルだし、そういうシンガーになるのも夢のひとつだったんですよ。川谷絵音さんには、MISIAさんの楽曲提供(※2021年4月発表の「想いはらはらと」)の際、合わせてお声がけをさせていただきました。ゲスの極み乙女。も私としては歌謡曲のテイストを感じる部分があって大好きなので、ごいっしょできて嬉しかったです。歌に集中して、また自分の新しいプロフェッショナルコースを開拓するチャンスだと思って取り組みました。
──1stアルバム『浮世歌』(※2021年5月発表)を完成させて、またやりたいことが変わってきたところもありますか?
LBD:それもありますね。やっぱり、ひとつの区切りになったというか。ここから何を挑戦しても原点回帰はいつでもできるような、そんなアルバムが完成したので。メジャーデビューのタイミングでは、より大胆なチャレンジに臨めたのかなと。
──2ndシングル「雨と恋心」も引き続き川谷絵音さんプロデュースの楽曲です。曲を受け取ったときの印象などを教えてください。
LBD:「夏だらけのグライダー」も素晴らしい曲なんですが、「雨と恋心」のほうがよりグッときてしまいました。今年の5月にMISIAさんのオープニングアクトとして出させていただくライブがあったとき、朝7時くらいに河口湖のホテルの部屋で受け取って。目をこすりながら聴いたのを覚えているんですけど、冒頭の“まっさらになりたいよ”でもうハッと飛び起きちゃう感じでした。衝撃が走って、すぐに“ああ、歌いたい!”と思いましたね。
──おお!
LBD:テンション上がりました(笑)。「雨と恋心」って2番で転調してるんですけど、実は最初の時点では転調がなかったんですよ。でも“まっさらに”と“もどかしい”の2ヵ所しかこの大好きなメロディはないから、曲中で存分に七変化させたいなと思って。生意気にも、私がお願いして変えていただいたんです。
──そういうやり取りもあったんですね。この転調はてっきり川谷さんの案だと思っていました。
LBD:川谷さんからは「えっ! これよりも高いの歌えるんですか!?」みたいな返信が来たんですけど、「挑戦してみます」とお伝えしてこの形になりました。2曲目の制作を依頼するときも、「シティポップっぽい曲調や世界観をお願いしたいです」というお話をさせていただきましたね。今のトレンドでもあるし、素直にやってみたくて。
──結果、シティポップの枠にとどまらない、ソウルやソフトロックのタッチも混ざった新感覚の曲になりましたね。抜けるような気持ちよさがありつつ、たまらない切なさも含まれていて。
LBD:ありがとうございます。デモ段階ではもっとシティポップ寄りでしたけど、生バンドが入ってアレンジしていくうちに、後半はロックに歌いたくなったりもして。よりアグレッシブな曲に仕上がったのかなと思いますね。あと、“はしゃいでたって 切なくなって 涙になって 心はそっと”のところも、元は“ラビラビドゥーヤ”とスキャットを繰り返す形だったのを、わかりやすい日本語に変えていただきました。いちばん感情を込めやすいメロディだったので。
──メロディラインの起伏も特徴的でした。
LBD:自分で難しくしておいてなんですけど、歌うのはけっこう大変だったなと(笑)。だんだん感情的になっていく点を心がけました。川谷さんには「夏だらけのグライダー」のときに、「なるべく話し声のまま歌ってみてください」とアドバイスをいただいたので、Aメロのあたりはそういう飾らなさも意識してます。
──ボーカルが全体のノリを生み出していく曲ですよね。歌詞についてはどうですか? 最低な日だけど、落ち込まないように。どうにか自分で自分の機嫌を取ろうとするこの感じ。
LBD:めっちゃ日本人っぽいですよね、この詞世界。まさに、歌謡曲の空元気と哀愁に満ちていて。すごく好きです。
──そういえば、インディーズ時代のデビュー曲「双六」(※2019年5月発表)でも、平静を装ってがんばる人の心模様を歌っていましたよね。
LBD:“幸せに隠れている翳り”を歌うのは、Little Black Dressのテーマなんです。私にはいじめられたりとか、言葉で傷ついてきた経験もあって。だからこそ、綺麗事を決して歌いたくはないんですよね。素直な曲を歌いたい。人間が持つ光と闇の二面性を包み隠さずに。
──綺麗事を歌いたくないというのがロックですね。ほかに「雨と恋心」の気に入っているポイントは何かありますか?
LBD:間奏のギターですね。“ラビラビドゥーヤ”のところでスーッと入ってくるIchika Nitoさんならではのタッピング奏法が大好きです。レコーディングのときは、あのフレーズが後半に行くにつれて、川谷さんがリバーブをどんどん強くしていて、その作業もクリエイティブだなと思いました。
──レコーディングの裏話などは?
LBD:レコーディングやリハーサルの現場で会話の中心にいるのは、いつもベースの休日課長なんですよ。課長の恋愛相談にずーっと川谷さんが応えてるみたいな感じで、普段も『テラスハウス』のまんまなんだなって(笑)。賑やかな雰囲気に私も救われました。
──最後に、これから先のビジョンについて。今どんなことを考えているのかを聞いてみたいです。
LBD:当初は歌謡曲の文化を世界に発信するためにオリジナル曲を書いて、世界でライブをしたいと思っていたんですけど、コロナの状況になってしまったので、まずは日本を音楽で元気づけたいと考えてます。日本語って、すごく繊細で表現力も幅広いじゃないですか。その素晴らしさを発信できるミュージシャンになりたい、というのが目標ですね。
──自分で作った曲をまたやりたい想いも、川谷さん以外の方が手がけた曲を歌いたい想いもありますか?
LBD:もちろん、どっちもやりたいです。提供曲のみでまとめたアルバムを作ってみたかったりもしますね。シンガーとして演じ切る感じの。
──たとえば、楽曲提供をお願いしたい方は?
LBD:えーーっ! そうだなあ……コロナ禍になる前、斉藤和義さんと飲み屋でたまたま居合わせたことがあるんですよ。そのときにギターの話で盛り上がったりして。私も和義さんの曲をたくさん聴いているので、もしお願いできるものならぜひ書いていただきたいです。松本隆さんも憧れですね。歌謡曲の歴史を作ってきてくださった方になんて恐れ多いですが、まだまだ活動してもらいたいという願いもありますから。
──10月5日(火)に開催予定のブルーノート公演<Little Black Dress“CITY POP NIGHT @ Blue Note Tokyo”>も楽しみですね。
LBD:まずは、無事に開催できることを祈ってます。海外のアーティストが来られない状況において、私みたいな新人がブルーノートに出させていただけるわけですから、中身の濃いライブにしたいですね。素敵な会場で、おいしいごはんを楽しんでもらいながら。世界的に流行っているシティポップの魅力を、なるべく新たな形で発信しようと思ってます。
取材・文◎田山雄士
撮影◎野村雄治
Digital Single「雨と恋心」
作詞・作曲・編曲:川谷絵音
<Little Black Dress CITY POP NIGHT @ Blue Note Tokyo>
[1st] Open 4:00 pm Start 5:00 pm
[2nd] Open 6:45 pm Start 7:30 pm
6,600円(税込)
※ご予約はBlue Note Tokyo HPから(インターネット予約)承ります。サイドエリアL/R、カウンターのみ、お電話でもご予約を承ります。サイドエリアL/R、カウンター以外のお席は、別途シートチャージがかかります。詳細は予約ページからご確認ください。
予約ページ:http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/little-black-dress/
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