【インタビュー】ヴァージュ、進化のための「遺言」

ヴィジュアル系バンド・ヴァージュが8月18日(水)に初のベストアルバム『遺言-2017〜2021-』をリリースする。
◆ジャケット
2017年に始動し、多くの人が想像する“ヴィジュアル系”らしい楽曲を中心に、インディーズシーンで活動してきたヴァージュ。これまでに5枚のシングル、2枚のミニアルバム、1枚のフルアルバムとたくさんの楽曲を発表しており、それらを網羅したベストアルバムを出すことには不思議はない。しかし気になるのは、そのタイトル。2形態でリリースされるベストアルバムには、「悲鳴」盤、「遺言」盤という、一見不吉なタイトルが付けられている。
このベストアルバムはどういった意味を持つものなのか。遼(Vo)へのインタビューで、詳細を探っていきたい。
◆ ◆ ◆
■先入観や固定概念を捨てました
──このタイミングでベストアルバムを出すことになった経緯は?
遼:もともと去年あたりから、ヴァージュに持たれているイメージを一度壊したい、バンドとして進化をして変わりたいと思い始めて。曲数も多くなってきたし、去年からはコロナ禍で思い通りに活動もできなくなってしまい、一旦区切りをつけるなら今かなと思いリリースを決めました。ただ過去の曲も大切なので、捨てるという意味ではなく今のヴァージュを見てもらおうと思って再録もしたベストアルバムを出すことにしたんです。
──“ヴァージュに持たれているイメージ”とは、体感としてどのようなものだったのでしょうか。
遼:よく、昔のヴィジュアル系っぽいって言われていました。いわゆる“古き良きヴィジュアル系”みたいな感じに思われていた気がします。
──遼さんはもともとヴィジュアル系の音楽が好きだったかと思いますし、確かに硬派なヴァージュは“古き良きヴィジュアル系”の系譜だと認識していました。
遼: コンセプトも最初から作っていなくて、自分が好きなものを作っていたら周りの人からそう言われるようになって、その時に初めて「あぁ、うちってそういうバンドなんだ」と思って。去年あたりからもっと自分自身外側を向いていかなきゃいけないんじゃないかと思い始めて。自分の中に無意識のうちに作られたこうでなきゃいけないという先入観や固定概念を捨てました。

──改めて自分たちを見返したわけですね。「自分自身外側を向いていかなきゃいけないんじゃないか」と思ったきっかけはあったんですか?
遼:何かと比べられているから、“古き良きヴィジュアル系”だと言われていたと思うんですよね。「〜っぽくて良い」とか、何かと比べられて言われるのも嫌になってきて。それってヴァージュが良いわけじゃないじゃんって思って。“古き良きヴィジュアル系”が好きな特定のファンに対して媚びているように感じてしまって、格好悪いなと気づいたんですよね。それから考えが変わりました。
──ヴィジュアル系って良くも悪くも特殊な世界なので、「〜っぽい」と言われがちな部分もありますよね。
遼:そうですね。今だから思うこともあるんですが、ウケを狙ってるだけだったり、誰かに似せてそれっぽくなるなら、音楽をやる必要もない。その時点で自分自身が死んでいるわけだし。ただ、実際にこの世界だとそれも許されてしまう部分もあるのは事実です。だから自分で考えて、自分で納得できる抜け道を見つけていくしかないと思うんですよね。大切なのは本当に自分が伝えたいことを歌って演奏できているのか、自分がやりたいことなのかどうか。誰かに合わせる必要はないです。
──取材にあたり過去の曲を振り返っていたら、ヴァージュが変化したなと思ったポイントがいくつかあったんです。初期の「不透明な雨」あたりの楽曲はすごくダークで悲しい感じ、3rdシングル「四季」で意外な一面を見せ、「私ノ悪イ癖 / 白昼夢 」は初期のダークさと透明感が混在。そして5thシングル「千」で明らかに変化を迎えたなと。
遼:その通りです。先ほどお話した悩みを持ちながら作ったのが「千」で、自分でも自信を持って良い曲ができたと納得できるものが作れたと思っています。だけど「千」以降はしばらく曲が作れませんでした。というより、次にリリースする事が怖かったです。自分の中で「千」を越えられる曲が作れるかどうかで結構悩んでいました。
──「千」は確かにいい曲です。ダークさを一新、美しいメロディで儚いけれど、背中を押してくれるような……。
遼:コロナ禍でいろんな変化もあり音楽は生きていく上で必要ではないって事が明確になってきて、でもそれは音楽をやってる身からしたら悲しいじゃないですか。音楽がなくても生きてはいけるけど、それを認めたくないというか。「千」は元々その前から作っていて何回か披露もしていたんですけど、こんな状況だからこそ音楽を大事にしたいなと思って、元々あった曲からアレンジして一新しました。この状況だからこそできた曲です。
──そして「千」からの制作の苦悩を超えてできたのが、今回のベストアルバムに収録される新曲「悲鳴」と「遺言」ということですか?
遼: そうですね。ずっと曲自体は作っていたんですが、作っては消してを繰り返していて。バンドとして変わりたいと思っていたんですが、それをどう表現していけば良いのか、はっきりとしたものが見えていなかったんです。で、めちゃくちゃ悩んで先輩や仲の良い友人に相談したら、「一旦何もかも無視した状態で自分のかっこいいと思える曲を自由に作れば良いじゃん、とらわれる事はない」って言われて。その言葉で吹っ切れたものがあって作ったのが、「悲鳴」です。
──それぞれ、どのような思いが込められていますか?
遼:去年からライブ含め世界でいろんな事が延期、中止と繰り返されてきて、誰もがどこにもぶつける事のできない怒りやもどかしさを持っていたと思うんですよね。それにコロナ禍が原因で人同士が争って誰かがターゲットにされて、それが原因で亡くなってしまった方も身近にいて。今世界中がこんな状況だからということは言い訳にしたらいけないと思い、「悲鳴」を作りました。いつ何が起きるか分からないということを痛いほど感じたし、このバンドもいつ死ぬかなんて誰にも分からないじゃないですか。なので遺書として残しておこうと「遺言」を作りました。
──曲を聴くまでは「もしかしてヴァージュは終わってしまうの?」とちょっと不安でした。
遼:いろんな関係者の方にも、ベスト出すしそのタイトルだし、「解散するの?」って言われました (笑) 。全くその気はないです。
──安心しました。2つともいい曲ですし、クオリティも格段に上がったなと思いました。
遼: サウンドもエンジニアさんと話し合いながらこだわりました。今までしてこなかったようなサウンドにしたくて。ギターもドラムも今までにはないアプローチが入っているので、フレーズも聴いてもらいたいですね。
──「悲鳴」はもがきながらも生きていくという強さ、「遺言」は悲しみを受け入れる強さを感じました。絶望の淵からでも立ち上がっていこうという意志というか。
遼:はい、その通りですね。「遺言」は誰かに共感してほしいわけでもなく、この曲を良いって思ってもらいたいわけでもなく、ただ自分の書きたい事だけを残しました。

──そしてこの2曲ができたからこそ、それぞれを収録した悲鳴盤、遺言盤という2形態でリリースすることになった形でしょうか。
遼:そうです。収録曲もそれぞれ「悲鳴」と「遺言」という言葉に合うような曲を振り分けました。
──各盤からバンドとして思い入れのある曲を挙げるとするなら?
遼:悲鳴盤からはやっぱり「千」ですね。自分の考えが変わるきっかけにもなった曲なので。遺言盤からは「遺言」です。色々と悩む事もあってリアルタイムな感情を詰め込んだ曲だからですかね。
──改めてリレコーディング、リマスタリングも行ったそうですね。
遼:リレコーディングに関しては、紫月(G)も弾き直したいって言っていたのもあるんですが、昔の音源の自分の歌がどうしても受け付けなくなったんですよね。発声の仕方も声質も。
──え、そうなんですか。
遼:何か変える為に何をするかと考えて、まずは歌から見直そうと思って。昔の歌を見直しても全体的に平坦で、グルーヴ感も何もない歌い方だったんですよね。だから表現方法を増やす為に発声も変えて休符やアクセントを意識するようにしました。歌い方で変えた部分はそのくらいなんですけど、それ以前にこのボーカルはどうして歌っているのか、聴き手に何を感じ取ってほしいのか分からないと強く感じて、これじゃあダメだなと。昔はただ歌を「歌っているだけ」だったんですよね。だから多分ファンも歌を「聴いているだけ」だったと思うんです。それって何も伝わっていないんですよね。「千」を作った時からは、少しでも歌で何かを感じ取ってほしいって気持ちが強くなって、歌詞の言葉ひとつひとつを大事にしなきゃな、と思うようになりました。なので時間も限られていたので全てではないんですが、前の曲は出来る限り再録しました。
──自分で“昔はただ「歌を歌っているだけ」だった”と気付いたということは、すごく遼さん自身が変化したってことですよね。
遼:当時はきっと、ただ歌を聴いてほしいだけのボーカルだったんだと思います。うちのバンドはMCも滅多にしないし、だらだらと話すのも好きじゃないんで、歌や音、パフォーマンスで思いを伝えるしかないんですよね。だから、歌だけでも何かを感じ取ってもらうということが大事になってくると思って。上手く歌うとかそういう事じゃなくて、歌に説得力がないとなって思っています

──その遼さんの姿勢だけでも、ヴァージュがいいバンドだということ、これからもいい意味で変わっていくんだろうな、ということがわかる気がします。ヴァージュはこれからどういう風に歩んでいくのでしょうか?
遼:うちのバンドにしか出せない物がもっと必要になってくるんじゃないかと思っています。それはそれぞれの個性や技量とかもですが、自分達の曲をどう活かすかがこれからのテーマだとメンバーとも常に話しています。曲を活かすも殺すも自分達次第なので。
──ベストアルバム発売後のワンマンツアーのタイトルが<境界線>であることも、新たなヴァージュのスタートだという意味合いでしょうか。
遼:そうですね。このワンマンツアーで、バンドとしても成長して新しい顔を見せれたらと思っています。新曲も含め、過去の曲ももちろん披露していきます。
──今は、コロナ禍でライブハウスを中心に活動してきたバンドが苦境に立たされていますよね。特にインディーズのヴィジュアル系バンドは大規模な配信ライブもなかなか実施できないですし、厳しい状況にありますよね。コロナ禍を経てインディーズヴィジュアル系シーンはどうなっていくか、また、どうなっていかなければいけないと思いますか?
遼:音楽をやってる側としては、これしかない生きがいとしてライブをやっているんですけど、ファンからしたら音楽って日常のほんの一部でしかないですよね。コロナ禍でライブに行けなくなってしまい、いつの間にか音楽を聴くことも減ってきて、音楽が不必要だと感じた人もいると思う。でも音楽が好きだった人に音楽の素晴らしさを忘れてほしくないので、それを忘れてしまった人達の日常の一部にまたなりたいと思うし、僕らもそういう音楽をできたらと思っています。
取材・文◎服部容子(BARKS)
ベストアルバム『遺言-2017〜2021-』
【悲鳴盤】S.D.R-367-A(CD) ¥4,400(税込)
【遺言盤】S.D.R-367-B(CD) ¥4,400(税込)
収録曲
【悲鳴盤】
01.-ガラシャ- (Re-recording)
02.私ノ悪イ癖
03.ボクノ悪イ癖 (Re-recording)
04.ベラドンナリリーにナイフを添えて (Re-mastering)
05.共依存 (Vocal Re-recording)
06.春愁
07.線香花火
08.影 (Re-mastering)
09.蓮華 (Re-recording)
10.紅いドレス (Vocal Re-recording)
11.海月
12.深海 (Re-recording)
13.オルゴール (Vocal Re-recording)
14.千
15.悲鳴(新曲)
【遺言盤】
1.夜想 (Re-mastering)
2. お人形遊び (Vocal Re-recording)
3. 凶夢(Re-recording)
4.毒苺 (Re-recording)
5.Vanish (Re-mastering)
6.止マヌ雨
7. 相思華 (Vocal Re-recording)
8.未練雪
9.万華鏡
10.紋白蝶 (Re-recording)
11.琥珀 (Re-recording)
12.白昼夢
13.二枚舌 (Re-recording)
14.Le ciel (Re-recording)
15.遺言(新曲)
<ヴァージュONEMAN TOUR「境界線」>
2021年9月11日(土)大阪RUIDO
2021年9月12日(日)名古屋ell.FITS ALL
2021年9月20日(月・祝)新宿BLAZE
◆ヴァージュ オフィシャルサイト
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