【コラム】イエロー・マジック・オーケストラを輩出したアルファレコードの快進撃

ポスト

撮影:三浦憲治

1980年代のアルファレコードは、YMOことイエロー・マジック・オーケストラとともにあった。そう言って異論を挟む者はいないだろう。このバンドがイベントのトリ的立場を務めるのが、2015年に行われたコンサートを収録したブルーレイディスク(BD)『ALFA MUSIC LIVE』。ディスク2(BD)が、ユーミン登場の後、アルファがレコード会社として再出発~YMO大ヒットでピークを迎える、1970年代後期~1980年代のヒストリー編にあたる。


▲村井邦彦氏

村井邦彦がGS時代からの盟友、エンジニアの吉沢典夫を誘って、機材調査のために渡米。そこからアルファの本格的な歴史は始まった。西海岸の名匠トム・ヒドレーを設計デザイナーとして招聘し、1972年に芝浦にスタジオAが作られる。まだ珍しかった16チャンネルの設備は、モウリ・スタジオに次いで日本では2つ目。続いて、LA録音のハイ・ファイ・セット『ダイヤリー』(1977年)を再生する設備がないからと、日本で最初の24チャンネルレコーダーを輸入したのもアルファレコードである。「洋楽のようなサウンド」はけっして比喩ではなく、海外と同じスタジオ設備から生まれた。技術が音楽を支えていることをスタッフは元々熟知していたのだろう。ここからYMOというバンドが誕生するのだ。

譜面を重視せず、コード譜だけで演奏しながらアレンジを固めていく。海外で数多くの名盤を生んだ「ヘッドアレンジ」という手法を初めて持ち込み、村井邦彦+ティン・パン・アレー時代に培ったプロデュースが、グルーヴの概念を日本に定着させた。遂にYMOの時代になると、作曲もスタジオで行われ、レコーディング現場は壮大な実験場となる。今日、ほとんどの録音で使われている打ち込み録音の手法の多くが、この時期にYMOの制作のためにスタジオAで生まれ、レコーディングの基礎となっていく。

アルファレコードのスタジオAはモータウンになぞらえたもので、初期の傑作のバッキングもレッキング・クルーのような常連で固められた。細野晴臣がジェームス・ジェマーソンなら、佐藤博はアール・ヴァン・ダイクてな具合。そもそもYMOの3人もそう名乗る前から、スタジオAのハウスバンド的なグループであった。今回、ユーミンのバックを務めているティン・パン・アレーが、その発展的解消後、松任谷夫妻、鈴木茂、林立夫と各々が活動を活発化させるが、それらティン・パンの後継のひとつとして、細野晴臣が坂本龍一、高橋幸宏を誘って結成したのがYMOである。ディスク2収録の「あの頃のまま」をヒットさせたブレッド&バターは、その証言者的立場と言えるだろう。スタジオアルバムは、細野らYMOのメンバーが前期を、林立夫らパラシュートが後期のバッキングを務めた。プレゼンター役で出演している向谷実のカシオペアがバックを手掛けるシングルもある。コンサート活動に際して機動力のある若手メンバーでツアーバンドが組まれるが、そこでギターを担当していたのが『ALFA MUSIC LIVE』を通して演奏で貢献している、若き日の鳥山雄二である。

YMOのメンバーが名うてのプレイヤー集団だったことが、打ち込みユニットだったYMOにまったく別の可能性の扉を開く。1977年にアルファレコードは、アメリカのA&Mと配給契約。海外デビューのためにインストゥルメンタルグループとして誕生したYMOは、思惑のとおり米A&Mからの全米デビューを果たす。「作家の自由な発想で作品を作る」と村井のもうひとつの夢だった「自分たちの音楽を海外に売り出したい」という願いは、こうしてYMOの海外進出に託された。矢野顕子、渡辺香津美といったアルファの縁の深いメンバーがサポートプレーヤーとして同行。国外バンドがライヴを重ねて現地で支持者を集める、アメリカのショービズ界の習わしに従い、LAで行われた最初のチューブスのサポート公演では、前座でありながら異例のアンコールが求められるフィーバーぶりとなった。国際戦略は川添象郎が陣頭指揮を執り、これが逆輸入のカタチで日本に於けるYMOブームの火付け役となる。クリエイション、サディスティック・ミカ・バンドなどの前例はあったが、本格的な世界ツアーを成功させたのは彼らが初めて。その影響力が伝えられるのはむしろYMO解散後かも知れない、坂本龍一はその後、本格的に活動拠点をアメリカに。YMOの再結成ツアーが、スペイン、ロサンゼルスから先に行われているように、歴史は今日にも繋がっている。

YouTubeなどを通して日本のポップスが広く聞かれるようになった今は、むしろ初期アルファのほうがなじみ深いかも知れない。再評価著しい和製シティポップのレーベルとして、アルファは若いリスナーを現在進行形で集めている。原盤会社アルファ&アソシエイツ時代から、東芝配給の荒井由実を筆頭に、日本コロムビア配給のマッシュルームレコードの小坂忠、ガロ、トリオ配給のショーボートレーベルの吉田美奈子など、各社の音楽水準を高める名盤を制作。後にアルファレコードの正式なアーティストとなった吉田美奈子「TOWN」(1981年)が、海外でマキシとしてシングルカットされ、ディスコキッズを熱狂させている情景は、1980年代初頭のYMOの世界ツアーの続き、あるいはその種まきが実った成果といえるかもしれない。

また、高感度なファッション人脈に支えられたことが、YMO以降のニューウェーヴ、パンク時代に傾斜していくアルファレコードと、2つの歴史をひとつに繋げる。アルファレコードの国内作品は彼らが洋楽部で扱っていたジョー・ジャクソン、ポリス、スクイーズらにまったく見劣りしなかった。

BD『ALFA MUSIC LIVE』の後半は、その時代を駆け足で紹介している。なかでも1977年のアルファレコード始動時に、プロデューサーとして招聘された細野晴臣の存在は欠かせない。ユーミン(荒井由実/松任谷由実)、『スーパー・ジェネレイション』で共演した雪村いづみ、小坂忠、最後のYMOまで、プレイヤーとして出ずっぱり。「荒井由実」名義で所属レコード会社主導で行われた1996年の中野サンプラザコンサートのリユニオンでも揃わなかった、ティン・パン・アレーのフルメンバーが結集した、今現在唯一のコンサート記録となった。

サーカスは、赤い鳥から繋がっているアルファのコーラスグループの伝統的存在。同時期にディスコメイトからリリースしたクレスト・フォー・シンガーズの「世界の言葉、マクドナルド~♪」と並行して、広告人種の人気に支えられた。化粧品会社のCMに使われた「Mr.サマータイム」(1978年)はオリコン1位に。アイドル全盛期にこのアダルティなコーラスグループは引っ張りだことなり、紅白歌合戦への出場も果たす。5枚目のシングル「アメリカン・フィーリング」(1979年)では、編曲の坂本龍一が日本レコード大賞編曲賞を受賞する栄誉を受けた。

YMOブームは、多くの才能をアルファに結集させた。コシミハルはRVC、シーナ&ザ・ロケッツはエルボン(キャニオン配給)からの移籍組で、細野の薫陶で再デビュー。「hot beach」を演奏している日向大介は、バークレー音楽大学に留学していた元はジャズミュージシャン志望者で、YMO『BGM』を聞いて海外で衝撃を受け、国際キャリアを捨てて日本に帰国。インテリアを結成して細野のYENレーベルからデビューしている、ポストYMO世代。高感度なアルファが一早くアンビエントに目を付け、ニューエイジの祖といわれるレーベル、ウィンダムヒルと契約した際には、現地スタッフに気に入られ、アメリカに逆輸入された編集盤は4万枚をセールスする成功作となった。フジテレビ『ラブ・ジェネレーション』(1997年)の音楽で、日向が異例のサントラ盤のセールス記録を作るのはその後の話。

最後に、今回の『ALFA MUSIC LIVE』ではNY在住で欠席した坂本龍一に代わって、村井がYMOメンバーの一員として「ライディーン」を演奏。至福の体験を味わえる、イベント当日のハイライトとなっている。

文◎田中雄二


『ALFA MUSIC LIVE-ALFA 50th Anniversary Edition』

2021年3月4日発売
Blu-ray Disc(2枚組)+Blu-spec CD2(2枚組)+ブックレット 三方背BOX
MHXL-92¥13,000+税
監修:村井邦彦
<収録予定>
DISC-1(Blu-ray Disc)
1.【プレゼンター:荒井由実】
2.愛は突然に・・・/加橋かつみ
3.花の世界/加橋かつみ
4.【プレゼンター:吉田美奈子】
5.竹田の子守唄/紙ふうせん(赤い鳥)
6.【プレゼンター:ミッキー・カーチス】
7.学生街の喫茶店/大野真澄(GARO)
8.【プレゼンター:服部克久】
9.蘇州夜曲/雪村いづみ(演奏 ティン・パン・アレー)
10.東京ブギウギ/雪村いづみ(演奏 ティン・パン・アレー)
11.【プレゼンター:野宮真貴】
12.ひこうき雲/荒井由実(演奏 ティン・パン・アレー)
13.中央フリーウェイ/荒井由実(演奏 ティン・パン・アレー)
14.【プレゼンター:細野晴臣】
15.ほうろう/小坂 忠(演奏 ティン・パン・アレー+高橋幸宏)
16.機関車/小坂 忠(演奏 ティン・パン・アレー+高橋幸宏)
17.【スピーチ:桑原茂一】
18.【プレゼンター:向谷実】
19.朝は君に/吉田美奈子
20.夢で逢えたら/吉田美奈子
21.【プレゼンター:紙ふうせん】
22.Mr.サマータイム/サーカス
23.アメリカン・フィーリング/サーカス
24.【プレゼンター:サーカス】
25.ピアニスト/山本達彦
Disc-2
1.【プレゼンター:坂本美雨】
2.あの頃のまま/ブレッド&バター
3.MONDAY MORNING/ブレッド&バター
4.【プレゼンター:ブレッド&バター】
5.La vie en rose/コシミハル
6.【プレゼンター:鮎川誠】
7.YOU MAY DREAM/シーナ&ロケッツ
8.LEMON TEA/シーナ&ロケッツ
9.【プレゼンター:高橋幸宏】
10.Hot Beach/日向大介 with encounter
11.【プレゼンター:荒井由実】
12.RYDEEN/YMO、村井邦彦
13.翼をください/Asiah、大村真司、林一樹、村井邦彦、紙ふうせん、村上"ポンタ"秀一
14.音楽を信じる/小坂忠、Asiah、大村真司、林一樹、村井邦彦、村上"ポンタ"秀一
15.美しい星/村井邦彦
DISC-3(Blu-spec CD2)
1.愛は突然に・・・ / 加橋かつみ
2.花の世界 / 加橋かつみ
3.竹田の子守唄(シングル・バージョン)/ 赤い鳥
4.美しすぎて / ガロ
5.蘇州夜曲 / 雪村いづみ
6.東京ブギウギ / 雪村いづみ
7.ひこうき雲 / 荒井由実
8.中央フリーウェイ / 荒井由実
9.ほうろう / 小坂 忠
10.機関車 / 小坂 忠
11.朝は君に / 吉田美奈子
12.夢で逢えたら/ 吉田美奈子
DISC-4(Blu-spec CD2)
1.Mr.サマータイム / サーカス
2.アメリカン・フィーリング / サーカス
3.ピアニスト / 山本達彦
4.あの頃のまま / ブレッド&バター
5.MONDAY MORNING / ブレッド&バター
6.La vie en rose / コシミハル
7.YOU MAY DREAM / シーナ&ロケッツ
8.レモンティー / シーナ&ロケッツ
9.Hot Beach / INTERIOR
10.RYDEEN / YELLOW MAGIC ORCHESTRA
11.翼をください(シングル・バージョン)/ 赤い鳥
13.音楽を信じる We believe in music / 小坂 忠、Asiah
14.美しい星 / 赤い鳥

<アルファミュージックライブ>
エクゼクティブ・プロデュ―サー:村井邦彦
構成・総合演出:松任谷正隆
主な出演者:荒井由実(松任谷由実)、大野真澄(元GARO)、加橋かつみ、小坂 忠、コシミハル、後藤悦治郎(赤い鳥&紙ふうせん)、サーカス、シーナ&ロケッツ、鈴木 茂(Tin Pan Alley)、高橋幸宏(YMO)、浜口茂外也、林 立夫(Tin Pan Alley)、日向大介 with encounter、平山泰代(赤い鳥&紙ふうせん)、ブレッド&バター、細野晴臣(YMO&Tin Pan Alley)、松任谷正隆(Tin Pan Alley)、 村井邦彦、村上"ポンタ"秀一(赤い鳥)、山本達彦、雪村いづみ、吉田美奈子 他 ※五十音順
映像制作・発行:WOWOWエンタテインメント株式会社
CD制作・パッケージ販売元:ソニー・ミュージックダイレクト

◆【第1回目コラム】ついにパッケージとなった、伝説の宴<アルファミュージックライブ>
◆【第2回目コラム】アルファが発見した巨大な才能、荒井由実
◆『ALFA MUSIC LIVE-ALFA 50th Anniversary Edition』オフィシャルサイト
この記事をポスト

この記事の関連情報