【コラム】ついにパッケージとなった、伝説の宴<アルファミュージックライブ>
撮影:三浦憲治
日本の音楽シーンに一時代を築いたアルファミュージックの創立50周年を記念し、伝説の宴<アルファミュージックライブ>の模様が『ALFA MUSIC LIVE-ALFA 50th Anniversary Edition』完全限定生産盤)としてリリースとなる。発売は2021年の3月だ。
豪華アーティストたちが集結した夢のような<アルファミュージックライブ>は、アルファミュージックの生みの親である村井邦彦氏の古希(70歳)を記念して開催されたライブイベントだった。松任谷正隆の構成・総合演出によって約4時間に及ぶボリュームを誇り、日本の音楽シーンに一時代を築いたアルファミュージックのアーティストたちが集結するという過去にも例を見ない豪華なものとなった。
日本音楽シーンの宝が輝く『ALFA MUSIC LIVE-ALFA 50th Anniversary Edition』をよく知る文筆家の松木直也氏に、この作品の魅力を紐解いてもらった。
▲村井邦彦氏
◆ ◆ ◆
村井邦彦氏によって1969年音楽出版社としてアルファミュージックが創設。1972年、自社スタジオが完成。1978年アメリカのA&Mと業務提携し、日本のレコードレーベルでは、オリジナリティあふれる自由な音楽をつくり続けた唯一無二のワールドワイドな存在だった。
その歴史のなかで、1970年代に共に音楽をつくったアーティストたちが2015年に東京で伝説のライブを行った。今、そのストーリーが完全パッケージとして、ここに蘇った。
この『ALFA MUSIC LIVE -ALFA 50th Anniversary Edition』は、2015年9月28日に行われた『アルファミュージック』のライブ、約4時間のステージを収録したものだ。
観客席からは観ることのできなかった、楽器を奏でる演奏者たちの指先、シャツの袖口のボタン、シンガーたちの眼差しや息遣いまでリアルに感じ取ることができるなど、丁寧な編集でまとめられている。
ライブは、村井さんが古希を迎えたことを記念して、9月27日、28日の2日間に渡って東京・渋谷Bunkamura オーチャードホール(客席2150)で開催され、総合演出は松任谷正隆氏による。
6月末に主催のニッポン放送、ホットスタッフ・プロモーションからプレス発表があり、翌日「19年ぶり荒井由実名義でライブ。YMO、ガロ、赤い鳥にサーカス….1970年代を席巻したレジェンド集結」とマスコミは大きく取り上げた。アルファで活躍したアーティスト20数名が一堂に会するという、これまで一度もなし得なかったライブのチケットは8月1日から発売され、即完売となった。
ライブ開催の半年前、ロサンゼルスに住む村井さんを取材した。陽ざしが降りそそぐ仕事場のパソコンの画面には出演予定者の名前と曲名がつらなり、それを見ながら楽しそうにこんなことを話してくれた。
「同窓会モードだよ(笑)。詳細は松任谷君と相談しているところだけど、今回のライブを僕がなぜ『アルファミュージック』というタイトルにしたかというと、モータウンミュージックのアーティストと同じように、アルファの音楽も誰のどんなものか、聴いただけですぐにわかるからね」
モータウンは、創設者ベリー・ゴーディー氏によって1959年から1960年にかけて車産業の街(モータウン)デトロイトで誕生し、1972年にロサンゼルスに移転。キラ星のごとくアーティストが所属し、才能ある作曲家やプロデューサーといった裏方も揃っていた。
ゴーディー氏は村井さんより16歳年上だが、この二人にはいくつかの共通点がある。ゴーディー氏は「the 3-D Record Mart 」、村井さんは「ドレミ商会」というレコード店を若い頃に経営していた。その後、作曲家の道を歩み、やがてインディーズのレコード会社を20代に自作曲のヒットで得た資金で創設したのも同じだ。そして、モータウンもアルファも自社にレコーディングスタジオがあり、共に「スタジオA」と呼ぶ。
▲アルファミュージック スタジオA photo by 吉沢典夫
1960年代のデトロイトのヒッツヴィルUSA のスタジオAではスモーキー・ロビンソン、ダイアナ・ロス、フォー・トップス、ジャクソン5、スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイらがレコーデイングし、全米チャートの上位を占めている。きっとスタジオの待合いはアーティストたちが演奏の準備やジョークを飛ばしたり、賑やかだったに違いない。
1970年代の東京・芝浦のアルファのスタジオAでは、荒井由実の『ひこうき雲』(1973年)からはじまり、雪村いずみ『スーパージェネレーション』(1974年)、吉田美奈子『FLAPPER』 (1976年)、ハイ・ファイ・セット『ラブ・コレクション』(1977年)、サーカス『サーカス1』(1978年)、YMO『イエロー・マジック・オーケストラ』(1978年)、シーナ&ロケッツ『真空パック』(1979年)などなど、1970年代を代表するアルバムの数々がレコーディングされている。こちらのスタジオの待合いも長髪青年が楽器を持ち、好きなレコードの話を語らい賑やかだったらしい。
才能にあふれる若い音楽家たちと裏方の職人気質とが結びつき、テイストや表現法は違っても同じようなマインドを持つアーティストたちが互いによいものを、ベストなものに練りあげていける音楽環境がアルファにはあった。誰もが自分の世界を描きはじめる時期、音楽づくりに夢中になっていた。そして誰かがそれを包み込んでいた。
なぜか、スタジオAでつくられた音楽は今でも新鮮だ。同じ時代に同じスタジオで同じ空気を吸いながらつくられた音楽、それが上質、これがアルファミュージックだ。
さて、このDVD『ALFA MUSIC LIVE -ALFA 50th Anniversary Edition』をあらためて観てみると、時代の名曲を歌う豪華な顔ぶれ、脇をかためたプレイヤーたちの凄さもさることながら、ステージがはじまるまでの冷やりとした緊張感やざわざわとした興奮を思い出す。プレゼンターが楽曲リリースの年代の時間軸にそってアーティストを紹介していく演出。
「どこかの街の灯りが見えるような、埃が舞っているのが見えるような、それがアルファだったのかもしれないし、それがあの時代だったのかもしれません」と、荒井由実時代を遠くに見る松任谷由実氏の凛とした表情が胸を打つ。
また、それぞれがアルファでの思い出をユーモラスに語り、ブレット&バターやサーカスのメンバーなど何人かは、レコーディングがとても厳しかったことを話した。
それはディレクターの有賀恒夫氏が音程に対し妥協がなく、何度もやり直しを食らったことなのだが、自社スタジオを使用していることもあって、レコーディング時間は潤沢に見積もられ、なかには四小節のコーラスの歌入れに丸一日を要したこともあったという。以前のインタビューで有賀氏はこう話した。
「レコードはずっと残るものだから完璧に近いものをつくっていかなくてはいけないという村井さんの考えがあり、僕は歌い方、特にピッチ(音程)がバラバラになるのは許さなかった」
ライブ終盤、村井さんがYMOとして参加し細野晴臣氏、高橋幸宏氏と登場した。村井さんがラテンビートにアレンジした「RYDEEN」(1979年)をピアノ演奏し、前奏のアレンジの妙にいつも革新的なその人柄が伝わってきた。
演奏が終わると村井さんは客席に向かって「今日は40年前に一緒に音楽をつくってきた仲間たちと音楽会ができて、夢を見ているような気持ちです。ずっと後ろで聴いていましたけど、それにしても素晴らしい音楽家たちです」と、話しはじめた。
静かな客席、誰もが次の言葉を待っていた。
「結局みんなやろうとしていたことは一緒だったんです。真剣勝負で『いい音楽をつくろう』と頑張って来た仲間たちですから。僕たちは次の世代へ引き継ぐ大事な何かをつくれたと思います」
これは単なるミュージックビデオでない。おおよそ30数年ぶりに再会を果たしたアーティストたちのドラマティックなドキュメントでもある。
ファイナルのカーテンコール、ステージには出演者が全員集まり、笑顔の村井さんを囲む。それぞれがこの日を楽しみに、ようやく実現したという喜びと何か誇りみたいなものを分かち合うシーンは、これまでの日本の音楽産業の名場面ではなかろうか。
『ALFA MUSIC LIVE -ALFA 50th Anniversary Edition』の発売は2021年3月4日、この日は村井さんの76歳の誕生日にあたる。
文:松木直也
【参考資料】ネルソン・ジョージ 林田ひめじ訳『モータウン・ミュージック』早川書房 1987年
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『ALFA MUSIC LIVE-ALFA 50th Anniversary Edition』
Blu-ray Disc(2枚組)+Blu-spec CD2(2枚組)+ブックレット 三方背BOX
MHXL-92¥13,000+税
監修:村井邦彦
<収録予定>
DISC-1(Blu-ray Disc)
1.【プレゼンター:荒井由実(松任谷由実)】
2.愛は突然に/加橋かつみ
3.花の世界/加橋かつみ
4.【プレゼンター:吉田美奈子】
5.竹田の子守唄/紙ふうせん
6.【プレゼンター:ミッキー・カーチス】
7.学生街の喫茶店/大野真澄
8.【プレゼンター:服部克久】
9.蘇州夜曲/雪村いづみ(演奏:ティン・パン・アレー)
10.東京ブギウギ/雪村いづみ(演奏 ティン・パン・アレー)
11.【プレゼンター:野宮真貴】
12.ひこうき雲/荒井由実(演奏 ティン・パン・アレー)
13.中央フリーウェイ/荒井由実(演奏 ティン・パン・アレー)
14.【プレゼンター:細野晴臣】
15.ほうろう/小坂 忠(演奏 ティン・パン・アレー+高橋幸宏)
16.機関車/小坂 忠(演奏 ティン・パン・アレー+高橋幸宏)
17.【プレゼンター:向谷実】
18.朝は君に/吉田美奈子
19.夢で逢えたら/吉田美奈子
20.【スピーチ:桑原茂一】
DISC-2(Blu-ray Disc)
1.【プレゼンター:紙ふうせん】
2.MR.サマータイム/サーカス
3.アメリカン・フィーリング/サーカス
4.【プレゼンター:サーカス】
5.ピアニスト/山本達彦
6.【プレゼンター:坂本美雨】
7.あの頃のまま/ブレッド&バター
8.Monday Morning/ブレッド&バター
9.【プレゼンター:ブレッド&バター】
10.La vie en rose/コシミハル
11.【プレゼンター:鮎川誠】
12.ユー・メイ・ドリーム/シーナ&ロケッツ
13.LEMON TEA/シーナ&ロケッツ
14.【プレゼンター:高橋幸宏】
15.hot beach/日向大介 with encounter
16.【プレゼンター:荒井由実(松任谷由実)】
17.ライディーン/YMO、村井邦彦
18.翼をください/Asiah、大村真司、林 一樹、村井邦彦、紙ふうせん、村上"ポンタ"秀一
19.音楽を信じる We believe in music/小坂 忠、Asiah、大村真司、林 一樹、村井邦彦、村上"ポンタ"秀一
20.美しい星/村井邦彦
DISC-3(Blu-spec CD2)
1.愛は突然に・・・ / 加橋かつみ
2.花の世界 / 加橋かつみ
3.竹田の子守唄(シングル・バージョン)/ 赤い鳥
4.学生街の喫茶店 / ガロ
5.蘇州夜曲 / 雪村いづみ
6.東京ブギウギ / 雪村いづみ
7.ひこうき雲 / 荒井由実
8.中央フリーウェイ / 荒井由実
9.ほうろう / 小坂 忠
10.機関車 / 小坂 忠
11.朝は君に / 吉田美奈子
12.夢で逢えたら/ 吉田美奈子
DISC-4(Blu-spec CD2)
1.Mr.サマータイム / サーカス
2.アメリカン・フィーリング / サーカス
3.ピアニスト / 山本達彦
4.あの頃のまま / ブレッド&バター
5.MONDAY MORNING / ブレッド&バター
6.La vie en rose / コシミハル
7.YOU MAY DREAM / シーナ&ロケッツ
8.レモンティー / シーナ&ロケッツ
9.Hot Beach / INTERIOR
10.RYDEEN / YELLOW MAGIC ORCHESTRA
11.翼をください(シングル・バージョン)/ 赤い鳥
13.音楽を信じる We believe in music / 小坂 忠、Asiah
14.美しい星 / 赤い鳥
<アルファミュージックライブ>
エクゼクティブ・プロデュ―サー:村井邦彦
構成・総合演出:松任谷正隆
主な出演者:荒井由実(松任谷由実)、大野真澄(元GARO)、加橋かつみ、小坂 忠、コシミハル、後藤悦治郎(赤い鳥&紙ふうせん)、サーカス、シーナ&ロケッツ、鈴木 茂(Tin Pan Alley)、高橋幸宏(YMO)、浜口茂外也、林 立夫(Tin Pan Alley)、日向大介 with encounter、平山泰代(赤い鳥&紙ふうせん)、ブレッド&バター、細野晴臣(YMO&Tin Pan Alley)、松任谷正隆(Tin Pan Alley)、 村井邦彦、村上"ポンタ"秀一(赤い鳥)、山本達彦、雪村いづみ、吉田美奈子 他 ※五十音順
映像制作・発行:WOWOWエンタテインメント株式会社
CD制作・パッケージ販売元:ソニー・ミュージックダイレクト
◆『ALFA MUSIC LIVE-ALFA 50th Anniversary Edition』オフィシャルサイト
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