【インタビュー】BAND-MAIDの“原点”と“現点”
それは去る1月13日のこと。新型コロナ感染拡大に歯止めがかからず、緊急事態宣言が拡がり、さまざまな自粛が求められる中、2月11日に予定されていた待望の<BAND-MAID日本武道館お給仕>の中止が発表された。何もかもが停滞し続けた2020年を乗り越えた先にある希望に満ちた出来事として、この武道館公演を楽しみにしていた読者はそこで、見えかけていたはずの出口が閉ざされたかのような感覚を味わうことになったのではないだろうか。
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ただ、当然ながら、光が完全に断たれてしまったわけではない。同日、バンドのオフィシャルサイトには「今、私たちにできる一番の選択は中止することだと決断しました」という実にきっぱりとした声明が掲出されているが、彼女たちのメッセージは「いつか、最高の状態で日本武道館公演を成功させたい」「世界征服という夢への道はまだ始まったばかり」「先がどうなるか見えない状況ではありますが、引き続き音楽を通して皆様に元気をお届けしたい」と続き、「夢に向かって、止まることなく進んでいきますので、今後とも私たちについてきてくれたら嬉しいです」という実に頼もしい言葉をもって締められている。
今回お届けするインタビューが行なわれたのは、2020年師走のこと。同月末、日本武道館では、観客数制限を伴った状態でこそあれ、連夜、大きなライヴが開催されていた。その時点では、まさか年が明けた先にこのような事態が待ち受けているとは誰も想像していなかったことだろう。もちろんそれは彼女たちにとっても同じことだし、ここで語られているのは、メジャー第4作となるニューアルバム『Unseen World』を完成させ、“夢の実現に向けての大きな一歩”となるべきライヴを見据えていた5人の、“まだ見ぬ世界”へと進んでいく決意だ。結果的には、この時間経過の中でこのアルバム自体が持つ意味合いにも少なからず変化が生じているのかもしれない。が、同時点におけるBAND-MAIDがどんな思いを抱えていたかを、ここから先の長いやりとりの中から感じ取っていただければ幸いだ。
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■改めて今までの自分たちの基礎の部分を見直すことができました
──今回は当然ながら『Unseen World』に関することを中心に聞きたいところではあるんですが、その前に2020年を振り返っておきたいと思います。12月13日には通算3回目となる<オンラインお給仕>が行なわれました。前2回と違って今回は初のフルサイズの配信ライヴとなったわけですが、まずはその感触から聞かせてください。
MISA(B):3回目とはいえ、久々のステージでしかもフルサイズということで、テンションの持って行き方とかペース配分とかの部分で、ちょっと難しいところがありました。そこにちょっと久々感が出ちゃったかな、という気もするんですけど、すごく楽しくできたのは確かです。
AKANE(Dr): 66ヵ国以上からのご視聴があったと知って驚きました。やっぱり普段のお給仕ではなかなかいろんな国には行けないので、配信を通していっぱい観てもらえたのは嬉しかったですし、フルサイズでのオンラインお給仕は初だったわけですけど、「やっぱりライヴって楽しいな!」っていう感覚を改めて思い出すようなところもあって。「コレだコレだ!」みたいな(笑)。だからあの機会を経て、ご主人様、お嬢様と一緒にライヴをやりたいなっていう気持ちがいっそう強くなりました。
小鳩ミク(G,Vo):そうですっぽね。やっぱり1回目、2回目とやってきて、だんだん慣れてきたっていうのはあったんですけどっぽ。ただ、これまでの2回というのは短い60分ぐらいのセットリストでやっていて。その時と同じテンション感で今回も臨んだところがあったんですけど、結果的にはそれによって全部出し切れたというか、終わる頃には「もう全部出したっぽ!」っていう状態になっていたので、ご主人様、お嬢様にもそれを感じていただけたんじゃないかと思いますっぽ。それから、いつもだったら声で届くものがコメントの文字で届くというのがまた新鮮だったので、それはそれでいい経験になったっぽ。このコロナ禍の状況じゃなかったら、きっとやっていなかったはずのことだと思うので、貴重なお給仕ができたんじゃないかって思いますっぽ。
SAIKI(Vo):私はすごくシンプルに楽しくて、歌えることがとても嬉しかったですね。
▲SAIKI(Vo)
──「Different」を2回歌えて、良かったですよね。(註:歌から始まるこの曲の冒頭、クリックが聴こえていなかったのか、SAIKIが曲に入り損ねる一幕があり、のちにリベンジという形で同楽曲がもう一度披露された)
SAIKI:はい。もう全然、普通に忘れてたんで(一同笑)。
小鳩ミク:入れなかったっぽね、普通に。
SAIKI:「あ、ここは私からだった!」みたいな(笑)。楽器始まりじゃなく。
AKANE:しかもテンポ速いからね。
小鳩ミク:待っていてはくれないっぽ(笑)。
SAIKI:クリックがあんまり聴こえてなくて「やべ!」みたいな(笑)。いつもはさほど聴こえてなくても、KANAMIちゃん始まりとかが多いので「おお、始まった」ってなるんですけど……今後、こういうのは駄目ですね(笑)。
KANAMI(G):勉強になったねー。
──とはいえ、同じ日のうちに挽回できて良かったじゃないですか。
SAIKI:はい。最後にできたことでホントに救われましたし、自分でも「お、カッコいいやん」って思えたんで(笑)、良かったです。
──KANAMIさんはどう振り返りますか?
KANAMI:今回、セットリストが事前に3回ぐらい変わったんですね。そうやって変わるのは今回に限ったことじゃなくて、リハーサル中に通してみたうえで「ここ、変えましょう」ってなることが多いんです。今回最終的には、後半へ進んでいくにつれ畳み掛けるような感じの流れになって、そういう意味ではだいぶ満足のいくセットリストになったなあと思ってます。ただ、結構ギリギリで変えることを決めた部分もあったので、「この曲の始まりをこう変えよう」みたいなのもいくつかあったので、急いで練習しないとだったんですね。そこが大変ではあったんですけど、実際にやってみたらご主人様、お嬢様から「すごく良かった!」「感動した!」みたいな声がたくさん届いたので、頑張って良かったなあって。
──セットリストをより良いものにするためにギリギリまで変更を厭わず、大急ぎで準備をしたかいがあった、と。僕は今回、初めて皆さんの取材をさせていただいてるんですが、何が新鮮かといえば、ご主人様、お嬢様というファンの呼称がこうして普段から統一されていて、小鳩さんが実際に語尾に「っぽ」を付けていること。「あとで原稿にする時、直しておいてくださいね」みたいなことじゃないんですね。
小鳩ミク:そういうのはないんですっぽ。まんまですっぽ(笑)。
──なるほど。それはともかく、2020年はすべてが停滞してしまって、誰もが予定していた通りのことをできずに過ごしてきたわけですよね。2021年は早々にアルバムが出て、バンドは次のステップへと進んでいくことになるわけですけど、本来2020年のうちに経ているはずだったさまざまなことを飛び越えてそこに向かわなければならないというのは、ちょっと不思議な感覚が伴うことなんじゃないかと思うんですが、どうでしょう?
小鳩ミク:なんか……今までが結構、走り抜けてきた日々だったので、逆にこうしてちょっと時間を持てたことで、改めて今までの自分たちの基礎の部分とか、そういうのを見直すことができましたっぽ。もちろんお給仕が中止になってしまったり、海外に行くはずだったのが行けなくなってしまったりとか、そういうところでのもどかしさや悲しさはあったんですけど、そこで空いた時間、久々に立ち止まれる時間というのができたので。ゆっくりと自分のこと、自分たちのことを見返してみたり、しっかり練習してみたりっていうことができたので、すごく成長できる期間だったと思いますっぽ。しかも、そういった時期の間もずっと制作をしていて、なんやかんや忙しく過ごしていたので、「ぽっかり空いた」とか、そういう感じでは全然なかったですっぽ、うん。
▲小鳩ミク(G,Vo)
──皆さん頷いてますけど、ほぼ同じように感じているということでしょうか?
SAIKI:はい。まあ、寂しさという部分での心の「ぽっかり」感はあるんですけど、そのぶん、それを糧にして曲に表したいという気持ちとか、いつかそれを届けられるはずだっていう希望への想いのほうが強かったので。だか、その「ぽっかり」と空いた穴を埋めるために忙しく頑張ったかな、という感覚ではありますね。
──そこで頑張れたのはきっと「この状態がずっと続くわけじゃない」と信じられたからこそだろうと思うんです。
SAIKI:そうですね。やっぱり、これを乗り越えれば、ほぼ1年ぶりにご主人様、お嬢様に会えるはずだというのもあったし。でも、会えずにいた間も自分たちは変わってないし、「ずっとずっとあなたたちのことを思って曲を作ってたんだよ!」というのが伝わるように、という気持ちを変えることなく過ごしてきました。
──それこそ個人練習とか、そういったことにもかなりの時間を費やしてきたわけですか?
AKANE:そうですね。それぞれに、楽器も歌も。リモートでリハーサルみたいな感じでやったりもしてきましたし。週に3回ぐらい、テレビ電話を繋げてミーティングをしてきたんです。お互い「今日はこういう練習をするんだ」みたいな報告をして、それから何時間か練習して、「今日はこれをやりました」みたいな感じで。
小鳩ミク:普段だったらリハーサルとかに入ってるはずの時期に、自宅に居なきゃいけないってことになったので、それで練習が止まっちゃったら嫌だっぽ、とみんなで話し合って。じゃあその時間、ホントだったらみんなで会って音を合わせてる時間は、各自課題を掲げてそれぞれ練習しましょう、ということになったんですっぽ。
──場所は違えど、同じタイミングで同じように。宿題付きのリモート授業みたいな。
小鳩ミク:そうですっぽね。BAND-MAID学校をやってたみたいな感じですっぽ(笑)。
SAIKI:なんにもしないっていうのが、とにかく不安過ぎて、みんなそれは同じだったはずで。最初にそういうことをしたいって提案してくれたのKANAMIちゃんだったんですね。「これ以上止まっているのは嫌だ!」って。そこでみんな「確かに!」ということになって。
小鳩ミク:じゃあやろうっぽ、と。
SAIKI:そういう方法があるのか、みたいな。
KANAMI:私、お兄ちゃんがいるんですけど、お兄ちゃんがリモートワークしてるのを見てたんですよ。そこで、あのやり方は活かせるなと思って、みんなに「やってみてもいい?」って聞いてみたら、快く「いいよ!」って言ってもらえたので。
小鳩ミク:実はみんな寂しいんですっぽ(笑)。やっぱそれまで、365日中300日ぐらいみんなと会ってたのに、急に自粛で会えなくなっちゃったので。会わずにいると変な感じがしちゃうというか、「大丈夫かなあ」っていう焦りみたいなものが出てきたり。でも、そうやって提案してくれたことによって、動画を通してですけどしょっちゅう顔を合わせて話もできるようになって……そこで安心感を得られたのが大きかったですっぽね。
SAIKI:なんか、ほぼ寂しさでしたね。寂しさでどうにかなってしまいそう、みたいな。
全員:そうそうそう!(笑)
小鳩ミク:仲良しなんで、みんなホントに。周りのバンドの方たちと話してても、「BAN-MAIDってホントに仲いいんだね」っていつも言われてますっぽ。
SAIKI:仲良すぎて気持ち悪いとか言われるくらいです(笑)。
小鳩ミク:なので、ずっと一緒にいられないこと自体に違和感があって。だからミーティングが終わった後もテレビ電話をずーっとつないだままのメンバーがいたり。繋いだままそれぞれの生活をしてたりしてて。
▲KANAMI(G)
──誰かが画面から消えたぞ、と思ったら実は洗濯してたりとか?
AKANE:あ、そうですそうです。作業してるメンバーもいれば、洗い物してたり、ご飯作ってたりするメンバーもいて(笑)。
──お互い一緒にいる時間が普段から長いと特に意識することもないんでしょうけど、こういう状況になった時に、いかに生活の中でバンドが大きいかに気付かされるというか。
小鳩ミク:そうですっぽ。それはすごく感じますっぽ。
SAIKI:ホントに。「バンド以外のことで、何すればいいんだろう?」みたいな。
小鳩ミク:なかったっぽね、他に。バンド以外のことって、ここ2〜3年、ホントに何もやってなかったので。
SAIKI:そこで時間の使い方がわからなくなって「やっぱりバンドのことやろう!」って(笑)。
KANAMI:私たちが寂しいってことは、やっぱご主人様、お嬢様もきっと寂しいんだろうなとか、いろいろ考えたよね。
小鳩ミク:そう。そこで「じゃあファンクラブのコンテンツを増やしたらいいんじゃないか?」とか、そういうのもKANAMIちゃんが提案してくれて。そこで、何をどう増やしたら楽しくなるかとか、みんなで話し合ったりもしましたっぽ。
KANAMI:ちょっとでも元気を皆さまにもあげたいね、という話をみんなでして。喜んでいただけてたら嬉しいなって。
──いい話ですねえ。ただ、こういう状況下にあると、テクノロジーのお陰でお互いのコミュニケーションは容易にとれるとはいえ、ひとりで考えごとをする時間とかもおのずと長くなってくるじゃないですか。そういった時間というのも、この『Unseen World』というアルバムには無関係じゃなかったはずだと思うんです。今回は“原点回帰”“現点進化”というテーマが掲げられていますけど、この時間を通じていろいろと考えてきた中で、自分たちが成長できているという実感がないと出てこない言葉じゃないかと思うんです。
小鳩ミク:そうですっぽね。やっぱり曲自体とかも全部、コロナ禍の中で作ってた曲たちなので。ただ、最初からこのテーマを掲げながらアルバムを作り始めたわけでは全然なくて、曲を作っていくうえで「どういう曲を作ろう?」とか「ああいう曲やりたいっぽ!」というのを、みんないろいろとKANAMIちゃんに言っていって……それで徐々に曲が揃っていく中で、最初の頃の私たちみたいな空気を感じられるような曲と、今現在の自分たちらしい挑戦的な楽曲というのが両方入り混じってる感じがあって「じゃあ、これをひとつにまとめよう」ってなった時に、どうしたらいいだろうっていう話をしたんですっぽ。そこで、自分たちが前からやってきたようなものを感じられる楽曲については“原点回帰”、それとはちょっとニュアンスの違うカラフルな感じとか、最近の私たちがチャレンジしてるような展開の多い曲ついては“現点進化”というふうに分けてみたらまとまりが良くなるんじゃないか、という話になって。だから確かに、作っている時間、考えている時間が多い時期だったからこそこうなった、というのはあるかもしれないですっぽ。
──そもそもコンセプトなどとは関係なくどんどん曲を作っていたなかで徐々にそういった分類ができることに気付かされた、ということなんですね?
小鳩ミク:はい、そうですっぽね。
──KANAMIさんとしては、皆さんからさまざまなアイデアが出てくるなかで「このままだと収拾がつかなくなるんじゃないか?」みたいな感覚もあったんじゃないですか? 「このまま1枚のアルバムにまとまり得るのかな?」みたいな。
KANAMI:私自身は、いろいろ作っていきながら「こういうの出来たよ」みたいな感じでしかなかったというか(笑)。そういうのを上手くテーマでまとめてくれるのがこの2人(=小鳩、SAIKI)なんですよね。「いろいろ集まってきたね」「なんかぐちゃぐちゃだね」「どうしよっか?」「たとえばこういうのは?」みたいな。そうやって言葉が出てきたうえで、“原点回帰”っぽい曲と進化を感じさせるような曲を作ってみたり。そこでさらに“原点回帰”と“現点進化”を繋ぐ1曲が欲しいよね、みたいな提案があって「わかった! じゃあ作るね」となったり。
──もしかして、そこで作ったのが「Manners」だったわけですか?
小鳩ミク:はい。「Manners」がそうですっぽ。この曲がいちばん最後でしたっぽ。この“原点回帰”と“現点進化”っていうのも、曲作りを進めていく途中で「じゃあそれをテーマとして掲げましょうっぽ」ということになって、作業全体の後半になってから決めたことだったので。そのうえでアルバム1枚ぶんの曲が揃った時に、「もう1曲、架け橋になるものがあったほうがいいんじゃないか?」ということでKANAMIにお願いしたっていう感じでしたっぽ。
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