【インタビュー】マーシャルで音を出してみたら、新しい世界が見えてくる

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ギタリストにとって避けては通れぬアンプ・ブランドがある。Marshall(マーシャル)である。

ギタリストであれば誰もが知るブランドであり、伝統と格式/革新と挑戦の歴史は、そのままロック/ポップスを創造してきたポピュラーミュージックの歴史とピタリと符合する。マーシャルというアンプが叩き出したオーバードライブサウンドはギタリストの本能を鷲掴みにし、ギタープレイ自体を急速に加速させていった。ジミ・ヘンドリックスがストラトを咆哮させ、エディ・ヴァン・ヘイレンがハムバッカーでブラウンサウンドを叩き出し、1980年代にはヘヴィメタル/スラッシュメタルまでをも生み出すことになる。サウンドがグルーブを生み、トーンとエッジがリフを生み、サステインがギタリストの感性をも引っ張り上げたのだ。

一方でAC/DCのようなハードクランチなトーンやアンディ・サマーズのようなクリーンクランチサウンドもマーシャルが刻み込んだ歴史的なトーンの一角である。長き歴史の中で、未だマーシャルが王者の風格を放ち続けているのはなぜなのか。<楽器フェアオンライン>開催を記念し、マーシャルの輸入代理を務める株式会社ヤマハミュージックジャパンの担当氏(以下YMJ)にマーシャルの魅力を尋ねてみた。


──それにしても、マーシャルがロックシーンに与えた影響を語りだせば、いくら時間があっても語り尽くせないですね。

YMJ:1946年にレオ・フェンダーがフェンダーを発足させて、ギター作りとアンプ作りの基礎を作るわけですけど、「とりあえず作ってみようぜ」っていう何もなかったところから、音楽シーンがどんどん変わっていくことになるんですね。スウィングからロックンロールになって、でかい音で圧倒するっていうのがクリームが発祥だとかザ・フーが発祥だとか言われますけど、1969年にウッドストックでジミ・ヘンドリックスがあの演奏をするわけです。そういう節目節目の中にいるブランドですよね。

──ロックの象徴的な立ち位置ですね。

YMJ:マーシャルは1962年創業なので、アンプメーカーとしては後発なんです。もともとショップから始まってるので、「こういうの売ってよ」「じゃあ仕入れよう」、「こういうアンプないの?」「じゃあ作ってみよう」というのがスタートなんです。当時の大手楽器メーカーとマーシャルの一番の違いは、会社か個人かみたいなところだと思います。ノリが完全にインディペンデントなんです。

──ノリが違うのか。

YMJ:ピート・タウンゼントが100wのアンプが欲しいって言ったら、とりあえず作ってみたり、8発SP入ったキャビ作れって言われたらとりあえず言われた通りに作って、「やっぱりでかすぎて困った」って言われたところから4x12”のSPキャビネットを2段縦積みにする今でいう「フルスタック」が生まれたり、そういうことを繰り返していってスタンダードになっていったんですね。インディペンデントで後発だからミュージシャンが求める新しいものを作って、ミュージシャンから思いも寄らないフィードバックがあって、さらに音楽が進化していったという歴史です。

──出てきたサウンドに刺激されて、曲やリフが生まれたりもしたでしょうね。


YMJ:それは間違いなくあるでしょうね。フィードバック奏法とか新しい奏法も生まれてくるわけです。

──ピック・スクラッチだって、マーシャルがなかったら誰もやらなかったかも。

YMJ:車でも建物でも「でっかいことはすごいこと」という高度成長の時代ですよね。当時はとにかく作ったもん勝ちっていうか「どうだすげえだろ、こんな音出るんだぜ」っていうのがあったんだと思います。今はまったく逆で、小さければ小さいほどいいのかもしれませんけど。

──今はエコロジーですから。それでも今もなおマーシャルはアンプ界に君臨していますよね。

YMJ:実は「マーシャルはこういうブランドだからこういうものしか作りません」ではなく、意外と思いついたらとりあえずやってみるブランドなんです。資料を紐解くと、過去の商品には「なんだコレ?」っていうものがたくさんありますよ(笑)。1980年代ではマーシャルもプリとパワーを分けたりしましたからね。ステレオやMIDIにも対応する。伝統は守りながらもニーズに応え進化を続けています。

──柔軟にいろんなチャレンジをする。これだけギタリストから絶大な信頼を得ているのに、守りに入らないんですね。

YMJ:今も昔もユーザーの声に真摯に応えているということだと思います。JCM800がフラッグシップの時代に「もっと歪むやつがほしい」と言われればJCM900を開発し、その後「JCM800のニュアンスも欲しい」と言われれば、もっと歪むけどベースはJCM800のパワーアンプに近づけたJCM2000を発表する。2chでは足りないから4chで今までのマーシャルの音全部が出るようなものを作ろう…とか、どれだけ今の人が使いやすくできるかっていうところですよね。

──エディのブラウンサウンドは最も素晴らしいマーシャルサウンドのひとつですが、あれはどう捉えてますか?

YMJ:あの音はやっぱり今聞いてもほんとにすごいなと思いますね。ただ究極のマーシャルサウンドって人それぞれあって、そこが面白いなあって思います。ブラウンサウンドは、ハードロックな究極のサウンドのひとつですけど、全員があのサウンドだったらこれだけハードロックという音楽のヴァリエーションは豊かになっていなかったと思います。でもあの頃はみんなあの音を出したくて、それでハイゲインアンプというジャンルが育ったのでしょうね。

──世界中であのサウンドの秘密を解明しようとしていましたよね。

YMJ:あの音、面白いですよね。すっごい歪んでいると思ってハイゲインアンプがたくさん生まれたけど、振り返って聞くと、実際はそんなに歪んでない(笑)。この音圧って何だろう、この音の太さって何だろうみたいな。


──歪んでいるように聞こえますけど、非常にクリーンですよね。

YMJ:そこがマーシャルのマジックなのかな。実はそれほど歪んでいないけど歪んでるように聴かせることができるって。

──マーシャルには不思議な魅力がありますね。

YMJ:1959にしてもJCM800にしても完成形が40年以上前にできちゃっているんです。でもその時の最先端ですから、今見ると改善の余地は多々あると思うんですけど、でも完璧じゃないからこそ引き出される要素があると思うんです。モディファイ・アンプなどは、それを完璧に近づけるというものですよね。もっと歪ませてもっとサステインを長くとか。そうやって完璧に近づけるモディファイをすると、一方でマーシャル独特のマジックが消えていってしまうのかな、とは思います。

──「歪んでいるように聞こえるけど実はあんまり歪んでない」というポイントは、プロにとって最大の武器となりますが、初心者にはとても弾きこなせないサウンドですよね。

YMJ:デジタルのディバイスやヘッドフォンアンプでプレイしていると、いろんな機材がプレイを補正してくれて「俺って超うまいな」みたいな感じで聴こえてくる。でもいざマーシャルの歪みで弾くと「なんで音がこんなにバラバラなの?」みたいな(笑)。

──ギタリストというのは「ギターという楽器で自己表現をする人のこと」ですから、表現者/クリエイターの領域で活躍したいなら、そういう自分を引き出してくれる機材を使わないとダメだろうというのはあります。

YMJ:エディ・ヴァン・ヘイレンにしても、ハーモニクス・プレイがうまいですけど、大きな音でちゃんと弾いてみないとああいう複雑なハーモニクスは見つけられないでしょう?

──「Atomic Punk」のイントロとか、テールピースのキラリンとかもそうですよね。

YMJ:アンプがちゃんと鳴ってるから発見できるプレイであって、そういうことを今の子たちにも体験してほしいですよね。

──弾く人によって音が変わってしまうのもマーシャルの面白さであり魅力なので、SC20Hなどは、お手軽ながら紛うごとなきマーシャルサウンドが堪能できる、今一番おすすめしたいモデルですね。


YMJ:ライブやリハスタへのポータビリティの面でもいいですし、何なら家でも使えるサイズ感がすごくいいと思います。実はレコーディングでもライブでも大きすぎる音は支障があったりしますから、会場のキャパシティや他の楽器とのバランスとの兼ね合いで、これぐらいのサイズの方がむしろちょうどいいことも多いですよ。

──サウンド的に得意・不得意はありますか?

YMJ:一番得意なのはエッジの効いたロックですけど、ローインプットを使うと温かいクリーンが出るんです。太くてエフェクターの乗りがいい音も出ますし、意外と幅広く使いやすいですよ。

──マーシャルのローインプットって忘れがち(笑)ですけど、そこ大事なんですね。SC20H…30年前にほしかった。

YMJ:でも、あの頃はステージ上が賑やかでないと他のバンドに舐められるというのがありましたからね。

──確かに。あの頃はマーシャルで壁を作るのが最終到達地点でしたからね(笑)。今、どのマーシャルを買うべきかは、楽器屋さんと相談するのがいいですか?

YMJ:そこは昔と変わらなくて、楽器を探したり選んだりするときにはぜひ楽器屋さんに頼ってほしいです。最近はまずネットで情報を集めると思いますが、ネットの情報だけじゃなくて楽器屋さんの話を聞くのは絶対お勧めです。あそこの店員さんはこう言ってたけど実際はどうなんだろうって、そこでまたひとつ知識が増えていきますから。

──言うことが違ってもどっちも正解だったりしますよね。

YMJ:そうなんです。そういう振り幅をもってもらいたい。「ネットに書いてあったからそうなんだ」で止まってほしくないんです。ちなみに僕は初めてマーシャルを買ったのが23歳でした。みんなマーシャルを使っているから避けていたんですけど、やっぱりマーシャルが一番だった。そもそも僕が好きなギタリストはみんなマーシャルを使ってるんですけどね(笑)。当時JCM2000 DSLが出て「これが一番俺の好きな音だ」って思ってすぐ買いました(笑)。JCM2000 DSLはジェフ・ベック、リッチー・サンボラも使ってたし、ゲイリー・ムーアも使ってましたね。そう言えばリッチー・ブラックモア的なサウンドが好きな人はJCM2000 DSLではクランチChをフルゲインにしてる人が多かったですね。

──それは大人なセッティングだなあ。マーシャルって、弾き手のニュアンスをものすごく出しますよね。弾く人の技量を要求するアンプですよ。

YMJ:そういう意味ではまさに楽器ですよね。演奏者の演奏を表現するのであって特定の音色を出すためのものではない。セッティングもありますが、いい音が出るかどうかは演奏者次第っていう。あと長い間マーシャルを弾いていると、どんどん歪みが低いタイプがほしくなるんですよね。

──クリーントーンでも歪んでるようなニュアンスを出せるようになっちゃうんだと思います。

YMJ:手元のコントロール含めて、やっぱりそれが「マーシャルで弾く」ということですよ。手軽なデジタル機器全盛のこの時代に、一生懸命練習して上手に弾かないといい音が出せないアナログなアンプ(笑)。

──でもギターという楽器を選んで音楽を楽しんでいるのなら、マーシャルとの出会いは大きなステップに繋がります。

YMJ:そうですね。ひとつ手に入れて使い倒してもらいたいですよね。とにかくマーシャルアンプで音を出してみたら、新しい世界が絶対見えてくると思います。

──それはギタリストとしての血肉になるわけで。

YMJ:引き出しにできて、新しいフレーズが生まれるかもしれない。新しいコード、違うサウンドによって新たな発見もあるだろうし、楽曲も変わってくるかもしれない。

──理屈じゃない「この音、かっけー」でいいんですもんね。

YMJ:そうです。1時間ピッキングスクラッチやってたっていいんです。キューンキューン「この角度かな、このピックがいいかな、材質はこれかな」とかね(笑)。今や100WのJCM800で屋根が吹っ飛びそうな音を出さなくても、SC20HであればJCM800さながらの真空管ならではの立体感やニュアンスを家でも味わえますからね。もちろん予算の中で好きなアンプを選んでもらえればいいんですけど、「ライブやらないから真空管アンプじゃなくていいや」じゃなくて「いい音で弾くとギターって楽しいな」ということを知ってほしい。今の音楽でも、JCM800のニュアンスを感じさせるものはたくさんありますし、そういう人たちにもっとアンプや音の魅力を知ってもらえたらと思います。

──ロックサウンドが好きであれば、避けて通るのは損ですね。

YMJ:もともとアンプって音を大きくするもので、歪ませるためのものではなかったですよね。ただ、たまたま歪んじゃった音がかっこよくて、それに刺激されて曲ができたりして、そういう音でやることを前提としたロックミュージックが生まれたわけです。そして多くのロックミュージシャンの要望から、ついにアンプで歪ませることを前提とした「マスターボリューム」を搭載したJCM800 2203の原型であるJMP2203/2204が登場します。そこで大きくギターアンプの歴史が変わったんです。歪むために、音をかっこよくするために作った最も原始的なアンプ…その音で作られた音楽をみんながかっこいいと思って、それが40年以上継承されているんです。

──確かに2203や2204が登場してなかったら、HR/HMブームは生まれてすらなかったかも知れない。音楽を表現する重要な楽器あるからこそ、ギタリストには注目してほしいなあ。

YMJ:音を良くしたいのであれば、アンプを良くするのが一番の近道なのかもしれません。よく言われる話ですけど、「1万円のギター&10万のアンプ」と「100万のギター&1万のアンプ」、どっちがいい音する?ってね(笑)。みんなエフェクターにはすごくこだわりますけど、テクノロジーが発展した時代だからこそ、いいアンプとエフェクターで組み合わせると最高なんです。エフェクターだけにこだわっても、その楽しさはわからない。しっかりしたアンプとエフェクターで存分にエレキギターの世界を楽しんでほしいですね。

取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)
協力◎株式会社ヤマハミュージックジャパン


Studioシリーズ

Studioシリーズ
歴代のマーシャルアンプの中でも圧倒的な人気を誇る往年の名機の操作性とサウンドを忠実に継承し、現代のニーズに適した20Wクラスへと小型化したハイエンドラインの真空管ギターアンプ。「Studio Vintage」「Studio Classic」「Studio Jubilee」の3種類のタイプがあり、それぞれコンボアンプ、アンプヘッド、1x12”スピーカーキャビネット、2x12”スピーカーキャビネットがラインナップされている。
・マーシャル アンプヘッド「Studio Vintage SV20H」 140,000円
・マーシャル コンボアンプ「Studio Vintage SV20C」 160,000円
・マーシャル スピーカーキャビネット「Studio Vintage SV112」 70,000円
・マーシャル スピーカーキャビネット「Studio Vintage SV212」 95,000円
・マーシャル アンプヘッド「Studio Classic SC20H」 140,000円
・マーシャル コンボアンプ「Studio Classic SC20C」 160,000円
・マーシャル スピーカーキャビネット「Studio Classic SC112」 70,000円
・マーシャル スピーカーキャビネット「Studio Classic SC212」 95,000円
・マーシャル アンプヘッド「Studio Jubilee 2525H」 140,000円
・マーシャル コンボアンプ「Studio Jubilee 2525C」 160,000円
・マーシャル スピーカーキャビネット「Studio Jubilee 2512」 70,000円
・マーシャル スピーカーキャビネット「Studio Jubilee 2536A」 93,000円


◆マーシャル・オフィシャルサイト
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