【インタビュー】智×海(vistlip)、昔と今を繋げる初期衝動

ポスト

今年の七夕に結成13周年を迎えるvistlipが3月18日にミニアルバム『No.9』をリリースした。

◆ミュージックビデオ・試聴動画

本作には各自が初めて曲を作ったときの初期衝動に向かい合い、いまのvistlipのテイストを加えアップデートした新曲たちを収録した全6曲が収録される。リードトラック「DANCE IN THE DARK」はヒップホップとヘヴィロック、EDMが混ざり合うハイブリッドなナンバーに仕上がり、結成当時から“ストリート系×ヴィジュアル系”を体現していたインディーズ時代のvistlipのエッジと熱量が洗練されたスタイルで表現されている。5人のルーツを掘り返したことで生まれた化学反応について智(Vo)と海(G)に話を聞いた。

  ◆  ◆  ◆

■昔に戻すわけではなく、いまの持ち味で作りあげる

──ミニアルバム『No.9』はメンバーそれぞれの初期衝動に向き合った上で制作されたということですが、そこに至る経緯を教えてください。

智:前回のツアー中に俺とYuh(G)とTohya(Dr)でゴハン食べてるときに、そういう話になったんです。当時はミニアルバムを作ることは決まっていたもののコンセプトがなかった時期で、俺は出すなら意味を持たせたかったんですね。そんなときにお店の中に流れていた懐メロを聴いて「そういえばTohya、昔、こういう曲作ってたよね」って話になって、ふとYuhがvistlipを組む前に作っていたテイストの曲が聴きたくなって「じゃあ、それをコンセプトにしようか。いま、もう1回、聴きたいから作ってよ」って。

──なぜ、昔、作っていたテイストの曲を聴きたくなったんですか?

智:バンドをやっていると全員の総意で音楽の方向やアレンジが変わっていくこともあると思うんですけど、作曲者がいまやりたいことだったり、そのときどきのブームで方向が変わっていく面もあるんですよ。僕はvistlipの中で唯一、曲を書かないので、「あの頃の曲好きなんだけど、もうやらないのかな?」って思うこともあって、単純に「聴かせてよ」って思ったんです。

──3人で話してから、どういうふうに発展していったんですか?

智:それぞれに昔のテイストがあったと思うから「みんな思い出してみて」っていう感じですね。

海:俺と瑠伊(B)は翌日のライブで話を聞いて「そういう意図なんだ」って。

▲智(Vo)

──ということはvistlipの初期衝動というより各自が曲を作り始めたときの衝動という捉え方でいいんでしょうか?

智:そう、そう。

海:特にYuhとTohyaはそこを念頭に作ってましたね。ウチのメンバーの中では作曲に関しては瑠伊がいちばん曲の幅が広がって変化したと思うんですよ。だから、「どうしようかな」って試行錯誤してたけど、俺の場合はもともと、そんなに曲作ってないから「気にしないで作ろう」って(笑)。

智:瑠伊は自分のヒストリーの中のどの部分をつまんで作ろうかって悩んでいたみたいですね。

──vistlipが初期に持っていたものを取り戻そうとか、そういう意図があったわけでもないんですね?

智:そうではないですね。例えばリードトラック「DANCE IN THE DARK」
はバンドの初期のテイストをいまのvistlipでしっかり作りこんでいるので最新のサウンドになっていると思うんですよ。昔に戻すわけではなく、いまの持ち味で作りあげるというか。

──確かに「DANCE IN THE DARK」は初期のミクスチャースタイルの進化形という印象を受けました。

智:Yuhの話によると「好きにやった」という感じみたいですね。

──自然に作ると、できる曲みたいな?

智:じゃないですかね。

海:たぶん、いまやりたかったことと合致したんじゃないかな。あとは何度も作り直してましたね。誰もなにも言ってないのに「メロディ変えた」とか(笑)。

智:力入ってたね。

海:Yuhは智とvistlip以前からバンドをやってて、つきあいが長いし、自分のメロディを智が歌ったらどうなるか想像がつくらしいから、そうじゃないときしかスタジオに来ないんですけど、今回は歌録りにずっとついてて。

智:いましたね。家で軽く歌うのと本番でブースに入って歌うのと変わる部分があるから、2人で微調整しながら作業していました。


──この音、付け加えてみようとか?

海:そう。見ていて面白かったですね。

智:でも、実は「DANCE IN THE DARK」って2回、レコーディングしてるんですよ。最初は海もYuhも朝までいてくれて完成させたんですけど、ラップの入れ方とか僕が気になるところがあって、最初のテイクを踏まえた上で組み直して歌詞も書き直したんですよね。

海:録り直すって聞いたとき、最初、俺は疑問だったんですね。「100%のものができてるじゃない?」って。でも、新しくレコーディングしたものを聴いたら100%を超えてたので「なるほど!」って。

──アレンジも変わったっていうことですか?

海:楽器はもとのままです。Yuhの曲とは思えないほど特にギターはシンプルなんですよ。頭のリフのタイム感すら掴めたら、なんの問題もなく弾ける。だからこそ、歌でいろんなことができる曲なので。

智:そう、そう。ラップの部分はフリースタイルなので俺次第なんです。納得できなかったから持ち帰って勉強したんですけど、最近ラップはポピュラーなものになってるから、絶対にひけはとりたくなかったんですよ。

──智さんは昔からラップしてますからね。

智:そう、そう。「ちょっとかじってるんだね」って思われるようなものは絶対に出したくなかった。単純に失礼だし。なのでやり直したんです。

──ラップ、さすがです。vistlipの初期のナンバー「Edy」(2008年)と核にあるものは変わってないんだけど、EDMのテイストが入っていたり、攻撃的なストリートスタイルのvistlipの現在地だと思ったんです。

智:ありがとうございます。

──“存在自体がイレギュラー”というリリックが出てきますが、これは昔からvistlipがそう思われていたということでしょうか?

智:歌詞は音楽業界のことを書いてるんです。まわりから終わってるみたいなことを言われてますけど、ミュージシャン的にはなにも変わらないし、昔から音楽が好きで楽しくやっているだけなので、暗雲がたちこめていたとしても「俺たちは楽しくやるだけです」ということを書きたかった。音楽シーンの中でヴィジュアル系はイレギュラーな存在で、その中にいる俺たちはさらにイレギュラーっていう。vistlipは浮く瞬間が多いので。

海:“異端児”って言われますからね(笑)。

智:(笑)。いまとなっては異端でもなんでもないと思うけど、波に乗らない面があるからね。

▲海(G)

──確かに。以前は全然、ほかのバンドとつるまなかったし。

海:まわりがやってるとやりたくなくなる傾向があるんですよ。「先にやられちゃったから、いいか」っていうメンバーが揃ってるので。

智:面白いなら、やるべきだけどね(笑)。

海:まぁ、昔に比べたら「いいじゃん」って感じになってきたけどね。私生活でも私服かぶるの、めっちゃ嫌がるし。

智:だって、普通に恥ずかしくないですか? 握手会で以前、全員、チェックになっちゃったことがあって。

海:そういうところがあらゆる面であるんですよね。服は俺は全身かぶっても全く気にならないんです。だって智と俺が全く同じ格好をしていたとしても見え方が違うと思うので。

智:はははは。

──曲に話を戻すと“FBAから進化を遂げ SPXを履き潰す”っていうフレーズにもvistlipの曲のタイトル(「FIVE BARKIN ANIMALS」)が盛り込まれていたりと、ファンはニヤッとする部分がありますね。

智:そうですね。自分の歴史というか、SPXは前に履いてたスニーカーなんですけど、そういう過去があっていまがあるんだよっていう。

海:マジで思うのはカラオケに向かない(笑)。

智:慣れちゃうと簡単だけどね。

海:オマエはな(笑)。

智:歌ったら楽しいと思いますよ。

海:マスターしてラップがうまくハマった瞬間は気持ちいいから、ぜひチャレンジしてください。俺はやらないけど(笑)。

──ライブでやってくださいよ。

海:キーが合わないもん。

──リリックを書いているときは、そんなこと想像してなかったろうけど、パンデミック宣言まで出たいまの世界と照らし合わせるとゾクッときます。

智:書いた当時は思ってもいなかったけど、なるほどね。

──2人の共作曲「J's Melancholy」は切なさの中に開放感があって扉から風が吹き込んでくる感じが海さんっぽいなと思いました。

智:確かにそうかも。

──ギターもキラキラしてるし。

智:キラキラだからビックリしちゃって(笑)。

海:箱の中に入り込んだような曲も書くけど、僕の根本って、それこそ風が吹いてくる感じの曲だなと思ったんですよ。こんな見た目だけど、実はそんなに激しい曲とか聴かないので。でも、持っていったら智に「もっとドロドロした曲ないの?」って言われて。

智:だって明るいんだもん(笑)。

海:智に言われて違う曲も作ったんだけど、今度はほかのメンバーに「これはvistlipじゃないだろ」って言われて、最終的にこの曲になったんです。メロディとコードだけTohyaに渡してアレンジしてもらったからTohyaのテイストも入ってるんですけど、聴いたときは俺も「思った以上にキラキラしてるな」ってビックリした(笑)。

──じゃあ、智さんは歌詞に悩んだんですか?

智:悩みましたね。

海:めっちゃ時間かかったよな。「書けねーよ、まじで」って言ってて。

智:自分が明るくないから。

──(笑)。

智:明るい曲っていつも歌詞書くのが大変で「そんなに楽しいことある?」
みたいな(笑)。

海:俺がこういう曲作ると青春っぽくなるからね。

──見た目からは青春、感じないですけどね(笑)。

海:そういう時代を味わってきてないので(笑)。

智:海からアニソンをイメージしてほしいって言われたんですよ。

海:サビになった瞬間に青空がわっと広がるみたいな。

智:そういうイメージと自分が思っていることを絡めて歌詞にしたんですよね。

海:音楽じゃないんですけど、この歌詞と同じような題材を扱っている映像作品をたまたま見てたんですよ。聞いたらインスピレーションを受けたものが智と一致して「気持ちわるっ」って(笑)。

◆インタビュー(2)へ
この記事をポスト

この記事の関連情報