【ヴォーカル対談】怜[BAROQUE] × 田澤孝介[Rayflower]、ツーマン前哨戦で「“歌”って人柄だと思ってる」
■曲が生きるか死ぬかは作詞に掛かってて
■だから、作詞のほうが偉いんです(笑)
──圭さんとの大喧嘩とはどのような?
怜:2018年7月から年末まで30数本ライヴをしたんですけど、久しぶりということもあったりして、“俺とバンドの意思との距離がちょっと離れてるんじゃないか?”という話になって。サポートチームもバンドメンバーのような意識で一緒にやってるんだけど、「まるで怜が1人でやってるように見える、違和感がある」と言われたり。それが積み重なることで、俺自身もう訳が分からなくなっちゃって……。もちろんお互い、嫌味はないんですよ。
田澤:クリエイティヴな感想を言ってるだけやもんね。
怜:そうです。でも、ツアーの最中に何かのきっかけで、あんなに怒鳴ったのは初めてというぐらいに俺が「ふざけんじゃねえ!」って爆発して。「もう俺は帰る!」って(笑)。
田澤:あはは!
怜:でも、そこで俺が「ソロなんかに興味はない。俺はこのバンドのヴォーカルがやりたいんだよ!」ってことを言ったことで、自分自身の本心に自分が改めて気づいたというか。その後のツアーは上手くいったんですよね。
田澤:それって怜くんが、“自分が背負わなあかん”という赤レンジャーの責務を全うするために、自分的ミッションを一生懸命やっていただけで。でも、メンバーからは「1人でやってんじゃねぇ!」みたいに言われて、心外だったということだよね。
怜:はい。ただ、そう見えてしまったことも理解できるんですよ。もっとコミュニケーションを取るとか、できることはあったはずだし。「お客さんとの距離感もなんか遠いよ」みたいな意見を、俺がうまく受け取れていなかったこともあるので。
田澤:いいグループやなぁー。
怜:はい、その時に改めて気付きました、“俺には、こんなことを言ってくれるヤツがいたんだな”って。あんなに怒鳴ったのに最後はなだめてくれたり、嬉しかったですね。いろいろと乗り越えることができて、今、バンドは本当に調子がいいんです。2018年にシングルを数作リリースしてるんですけど、去年の上半期は作詞担当の俺が全く書けなくなってしまって、初めてのスランプに陥っていたんです。その理由は当時分からなかったんですけど、やっぱり気持ちをどこかで抑えていたのか……。でも、そのツアーを機にまた言葉が出るようになりました。
▲田澤孝介[Rayflower] |
怜:意外です。結構書いてらっしゃいますもんね?
田澤:うん、でも書く工程が嫌いでね。作詞って時に、自分の至らなさと向き合う作業というか、自分の体験を引っ張り出すのに、嫌な記憶に触れなきゃいけないこともあるじゃない? 体験をそのまま書くわけじゃないけど、本当に思ったことじゃないとダメだから。で、それを表現しようとした時に、なかなか上手くいかなかったりすると、“あぁ、なんて才能のないやつなんだ俺は”みたいに、輪をかけて落ち込んじゃう。だけど、ピタッと言葉がハマッた瞬間の気持ち良さがあって、そのためにやってる。ある程度の壁を超えれば楽しくなってくるんだけど、楽しいポイントに行き着くまでがいつも過酷ですね。
怜:なるほど。ご自分で作曲したものって、メロディと詞は別々に考えてるんですか?
田澤:そう。俺の場合、これまで詞を先に書いたことはなくて、仮歌でメロディーと同時にフワッと出てきた言葉だけを活かして、それをマストに歌詞を広げていく感じ。出ない時はもう出さないよね。わざわざメロディーを変えて、“別の人が書いたメロディーだ”ぐらいの気持ちで歌詞を乗せたこともあるけど。
怜:僕は作曲をしないので。
田澤:え!? これまで1曲も?
怜:はい。「この曲のメロディーはお願い」と任されてメロディーのみ作ったことはありますけど、構成を含めて1曲全部とかはなくて、作詞一本です。曲を書くことに全く興味がなかったんですよね。作詞は得意ではなかったけど、文字を書くのは好きなんです。たとえば、“こういう気持ちで書いてください”っていうテーマをもらったら、ひたすら文章を書くんですよ、もう涸れるまで。途中で嫌な気持ちになることもあるんですけど、そういう場合は“嫌”というテキストファイルをPC上に用意して“嫌な気持ち”を全部書く。それで、また元のテーマに戻るという(笑)。遠回りなんですけどね。
田澤:でも、書き方は俺も一緒だな(笑)。1曲の歌詞を書くのに、テキストファイルが何個も立ち上がるんですよ。最終的に“どれを仕上げればいいの?”って分からなくなるんだけど(笑)。
怜:ははは。俺は、たくさんある文字の中に“本当に言いたいことが絶対どこかにある”って、そこに線を引いていくんですね。
──選び取るために、いったん全て言葉として吐き出す作業が必要ということですか?
怜:はい。だから、時間掛かっちゃうので、メンバーをすごく待たせちゃいます。もらった曲から言葉が急にフッと湧いて、“この言葉からいける”ってスムーズな場合もあるんですけど、それは稀です。膨大な詩というか文章というか、最初に書くのは“なんだこりゃ?”みたいな人には見せられないレベルのものですけどね(笑)。
田澤:ラフスケッチというかね。
▲田澤孝介[Rayflower] / <Rayflower presents Night which GLORIOUS>2017年3月22日@LIQUIDROOM ebisu |
怜:ものによっては取っておきます。歌詞の形になっていない大もとの詩が結構好きで、溜めてますね。
田澤:俺は“全捨て”(笑)。ほんまに好きなんやね、書くことが。
怜:たしかに好きですね。それしかなかったというのもあるんですけどね。曲を書かないし、作詞をするんだったら常に書いてないと書けなくなるし。作詞っぽいというか、詩っぽく日記をつけていたり。
田澤:そうか、怜くんにとっては書くことがクリエイティヴだったわけだ。
怜:はい。で、それをどれだけ好きになれるかは、常に工夫してます。
田澤:メロディーとのシンクロって考えたりする?
怜:ここ最近は特に、メロディーに対しては基本的に忠実にいようと思ってます。メンバーと「このメロディーが言いたいことは」みたいなテーマについて話して、楽曲の世界を感じるところから初めて。“このメロディーはこう言いたいんだろうな。じゃあ、言葉の踏み方にはメロディーに忠実にしよう。でも、ここははみ出したほうがいいかもな”とかを、自分で一回計算していく作業をしますね。
田澤:自分で作曲しないのに、そこにポイントを置くってすごいね。でも、すごく分かる。変な言葉を乗せちゃうと、メロディーって死ぬんですよ。スピード感も死ぬ。締切の都合で、本当はもっとふさわしい言い回しがあるはずだけど泣く泣くそうした、ということも実際にはあったりするでしょ。“言いたい内容はこれだけど、この言葉を乗せてしまうとメロディーが死ぬ。かといって、このメロディーを活かしつつ、これと同じ意味の言葉が浮かばない”みたいな時に、“俺は才能がない”ってなる。
怜:その通りです。一番苦しいところですね。
田澤:曲が生きるか死ぬかって実は作詞に掛かってて。だから、作詞のほうが偉いんです(笑)。偉いというのは“おおごと”って意味ね。責任がある、絶対。
怜:“0を1にする作曲はすごいな”と僕は思ってますが、確かに言葉が曲調すらも変えちゃいますからね。本当に何もかもを。
田澤:作詞って人形に目を描いて入れるような作業やと思うから。目の表情で、笑ってるのか泣いてるのかが決まる。ダルマに目を入れる作業。
──もちろん、ダルマのボディがないと始まらないんだけど。
田澤:そう。作詞と作曲はそういう関係です。だから、“人が作ってきたダルマ”というのがやっかいなんですよ。“この大きさか。俺は今、小さいダルマの気分やねんけどな~”って。そういう意味では、シンガーソングライターは“今回は四角いダルマにしよう”っていう取っかかりから決められて、いいなと。
──でも、そこが他者と組む醍醐味だったり、バンドの良さだったりもしますよね。
田澤:良し悪しがあるんですよね。作詞側のことを考えてない作曲者の気楽さが、助かる時もあるし、ムカつく時もある(笑)。
怜:なるほど(笑)。
◆インタビュー(4)へ
◆インタビュー(2)へ戻る
この記事の関連情報
【ライヴレポート】fuzzy knot、ツアー<The Emergence Circuit>完走「田澤に出逢えて良かった」
<VOCAL SUMMIT 2024>開催決定、栄喜(ex.SIAM SHADE)が初参戦
【ライブレポート】Rayflower、1年ぶりワンマンで新曲「FORCES」初披露「この時代に果たしてどう響くか」
田澤孝介、3ヶ月連続リリース第三弾デジタルシングルを配信スタート
Rayflower、2年8ヵ月ぶり音源となる新曲「FORCES」を3/21配信リリース
【ライブレポート】SOPHIA、フルオーケストラと初共演の大阪城ホールで30周年の幕開け「良いスタートがきれました」
【ライブレポート】fuzzy knot、Shinjiバースデイ公演で「人生最大に嬉しい誕生日になりました」
【インタビュー】SOPHIA、記者会見で語った再契約の真意と10年ぶり新曲「俺には決めたことがある」
【ライブレポート】SOPHIA、全4時間全27曲の<獅子に翼>ラスト公演「心の距離は今までよりもずっとそばにいます」