【インタビュー】fuzzy knot、新機軸「Imperfect」に覚悟「完璧なんてない世界で、だけど完璧を夢見て戦う美しさ」
Shinji(G / シド)と田澤孝介(Vo / Rayflower, Waive)によるロックユニットfuzzy knotが8月12日、新曲「Imperfect」を配信リリースした。Shinjiが影響を受けた“'90年代の音楽を織り込む”という結成時のコンセプトはメロディーラインのキャッチーさの中に見出せるが、新機軸を感じさせるダンサブルな仕上がりだ。
◆fuzzy knot 画像 / 動画
アレンジャーを迎えての制作はfuzzy knotとしては初で、加わったピアノの旋律は、蝶が空を彷徨う軌跡のように揺らめいて美しい。歌詞の世界観は、8月24日にHEAVEN'S ROCKさいたま新都心VJ-3から始まるツアーのタイトル<The Emergence Circuit>とも繋がる大きな物語の序章となっているようだ。“不完全”が完全になるためには何が必要なのか? 更なる飛翔のタイミングを迎えたfuzzy knotの今について、Shinjiと田澤に訊いた。
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■新しい風を吹かせたい
■という狙いが根底にあった
──「Imperfect」はダンサブルで、「時の旅人」(2023年9月配信リリース)とはまたガラッと変わった新境地に驚きました。どのような経緯で生まれたのでしょうか?
Shinji:今回は結構話し合いましたね。田澤とはもちろん、スタッフも含めて。これまでもfuzzy knotはやりたいことをさせてもらってきたんですけど、“新しいところに行ってみたいな”というのもあったし。あとfuzzy knotには“'90年代の雰囲気やメロディー”というコンセプトはありながらも、アレンジでハッとする新しいことがしたいな、というところから始まっていきました。
──曲の方向性としては、いろいろと選択肢があったのですか?
Shinji:他にもいろいろとつくっている中で、田澤に聴かせて「これいいね」という反応が強かったもの、というのが今回選曲した一番の理由ですかね。
田澤:「今までにやってないよね」というのにプラスして、シンプルに自分の好きなメロディーだったし、“いい曲!”と自然に思いました。これからfuzzy knotが何をしようとしているのかも示唆できるし、いいことしかないのでは?と。「この曲でいこうぜ」と言わせていただきました。
──アレンジャーとして参加している炭竃智弘さんは、田澤さんのソロではご一緒されてきた方なんですね?
田澤:そうなんです。デモを聴いた時に、もちろんそのままでもいいんですけど、きっと炭竃くんに手を加えてもらったら、とてもいいふうに化けるんじゃないかなと直感して。そもそもアレンジャーをfuzzy knotでは入れたことがなかったので、まずShinjiに「アレンジャーをお願いするっていうのはどう?」と相談したら、「いいよ」と言ってくれまして。「じゃあちょっと預けてくれへんか」ということで、炭ちゃんにお願いしたという経緯です。
Shinji:曲調的にも、ピアノがさり気なく加わったらよりいい曲になるかな、とは僕も想像していたんです。僕はわりと何でも屋さんで、ベースも弾いたりするんですけど鍵盤はやらないので、知識の深い方にお願いしたら絶対に化けるだろうなと思い、今回はお力を借りました。
▲Shinji (G)
──Shinjiさんから炭竃さんに対して、リクエストはなかったのでしょうか?
Shinji:あまりなかったんですよ。なぜかと言うと、アレンジャーの方にお願いするのは大体がアレンジを突き詰めた挙げ句に「もうちょっとプラスしてもらいたい」という時なので。この曲に関しては既にガッツリと僕がアレンジしていたので、語らずとも方向性が分かってもらえると思ったし。すごいのが、お渡ししてわずか半日ぐらいで返ってきたという。そんな速度感でしたね。
──炭竃さんと元々交流のある田澤さんからは、例えば「fuzzy knotというのはこういう感じのユニットだから、こうアレンジしてほしい」とか、何か要望なさったのですか?
田澤:あえて何も言わなかったですね。新しい風を吹かせたい、という狙いがそもそも根底にはあったので。「ギターとヴォーカルのユニットでそれっぽく」みたいな話をしちゃうと、可能性が狭まる気がしたんですよ。まずは思うままにやってみてもらって、出過ぎたところを削るほうが、想像よりも大きな円になるんじゃないかなと。自分が思っていた以上のものが返ってきたので、“さすが。預けて良かった”と思いました。
──歌詞のテーマは奥深そうですが、田澤さんはどのような設定で書かれたのでしょうか?
田澤:どこから語ればいいかな…というのも、まずは<The Emergence Circuit>というツアータイトルありきで。“羽化への回路”…生まれてから羽化するまでのサイクルというイメージがあったんです。“新しい風を吹かせたい”というのは、実はそこから始まっていて。
──曲単体の話ではなく、fuzzy knotに吹かせたい新しい風ですね。
田澤:とはいえ、“どう表現しようかな?”と考えていて。作詞のテーマを見つける時は僕、散歩するんですけど、歩きながら“Imperfect”という言葉がバッと出てきて。ちょうどその頃、“サナギの中ってどうなってんねやろう”と調べたんですね。羽化する前に、どうやら一回ドロドロになっているらしいんです。“これは今書こうとしてるところと通ずるものがあるんじゃないか”とピンときて、繋げていきたかった。歌詞のテーマが決まったのはそこからですね。
▲田澤孝介 (Vo)
──不完全な状態を、一概にネガティヴとは捉えていない歌詞だと感じました。
田澤:完璧ってないじゃないですか。それでも僕らは完璧を目指している。なぜ完璧がないかというと、たぶん、何ごとも一人では完結できないからだと思うんですよ。絶対に誰かと生きているから。完璧というものがないんだとしても、それでもみんなが一緒に完璧を目指すことが美しいんじゃないかと。そういうことを書こうかなと思って。
──素晴らしいですね。
田澤:僕らの中だけで完璧なものに仕上げることって、そもそも不可能なんです。例えば、こちらがそう思っていても相手にそう届くかは分からない、という時点できっと不完全なものなんですね。ただ、僕らとリスナー、受け手との関係値の話に当てはめてみると、受け手が最後の形をつくってくれる気がするんです。それが完璧なものかどうかというのはまた別の話になるんですけど、“それが美しいんじゃないの”みたいな。
──創作物は、受け取る存在がいて初めて完成し、循環する輪が生まれるというか。
田澤:解釈というものに救われている部分って絶対にあるじゃないですか。描きたかったものとは違うふうに届いたとしても、それがその人の中で“そういう作品”として完成するわけで。それはそれで一つの完成形なんじゃないかと。
──前シングル「時の旅人」のテーマともリンクしますね。近年の田澤さんの中でのテーマなんでしょうか?
田澤:そうかもしれないです。やっぱり一人では生きていけないな、というのが結構根強くあるのかもしれない。個人レベルで話をすると、ファンの皆さんに助けられているところがあるなと。助けられている…という言葉が正しいか分からないですけど、僕らが僕らでいられる、その価値をつくってくれているのは、完全にファンの存在ですよね。僕ら自身じゃなくて、ファンの皆さんなんです。“価値があるよ”と見出してくれている人らのお陰なんですよね、それはスタッフも含めて。例えば、自分たちだけで「アートをやってます」と言ったところで、それが“アートだ”と認めてもらわなければアートじゃないわけですからね。そういうことを痛感しながら、ここ最近生きているので。
▲デジタルシングル「Imperfect」
──なるほど。
田澤:だから、表現として吐き出すものにも、その成分はどうしても沁み込んでいるのかもしれない。例えば、ファンの方からお手紙をいただいて、「ライブを観たり歌詞を読んでこういう印象を受けました」みたいなことが書かれていて、それはすごく力になるんです。僕は全く意図してなかったとしても、一個のストーリーがその人の中でできた、ということが“これ結構すごいことじゃない”って。じゃあ何百人か集まったら何百通りのストーリーがあるって思うと、美しいなって。
──すごいことですよね。
田澤:それに支えられて生きてるんだなって。聴いてる人たちにとって、自分に置き換えやすいシチュエーションで表現ができているということが、きっとポピュラリティーなのかなと思うから、そこは追求しつつ。でもやっぱり僕にしか書けないものをまずは追求して。“僕が書けば、何だって僕にしか書けないものになる”というのは、ある種暴論じゃないかと。よりたくさんの人に伝わっていくにはどうしたらいいか、ということを追求し続けるのが使命だと、そういう気もしています。ものを伝えたい人たちは、そのさじ加減にきっとみんな頭を抱えてるだろうから。一生そこと戦っていこう、と。完璧なんてない世界で、だけど完璧を夢見て戦っていこうよ、という決意でもあります。
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