【ライヴレポート】fuzzy knot、ツアー<The Emergence Circuit>完走「田澤に出逢えて良かった」
シドのShinji(G)と、WaiveやRayflowerなど様々なプロジェクトで活動する田澤孝介(Vo)によるロックユニットfuzzy knotのツアー<fuzzy knot Tour 2024 〜The Emergence Circuit〜>が、9月29日(日)に渋谷WWW Xにてファイナルを迎えた。
◆fuzzy knot 画像
SEに乗せてサポートメンバーの与野裕史(Dr)と工藤嶺(B)がスタンバイし、いよいよShinji、続いて田澤がステージに姿を現した。フロアを早速煽りながら、8月に配信リリースした新曲「Imperfect」のスリリングなイントロが鳴ると、一気にミステリアスな楽曲世界の奥深くへと誘っていく。
この日のセットリストは、2021年の始動からこれまでにリリースしてきた楽曲群を網羅。コンセプトである“90年代のムード”は保ちながらも、作品ごとにガラリと異なるジャンルの曲を繰り出してきた彼らなので、音楽性は既に多彩なのだが、そんな中でも未開拓だった領域にチャレンジしたと言えるのが「Imperfect」である。ダンサブルなエレクトロサウンドに浮遊感のあるピアノが映えるfuzzy knotの新機軸曲に、ファンは手を挙げて身体を揺らし、会場は早々に一体感に包まれた。
田澤が掌で顔を隠すジェスチャーから始まる「ペルソナ」は、Shinjiの華やかなギターソロにファンが沸き立った。ヴィジュアル系の様式美を昇華したかのような暗黒のゴシックメタル「Inferno」まで、心拍数を上昇させ続けて行く幕開けだった。
「いつの公演も、今日が初日でファイナル。そういう気持ちでやっていますが、今日は名実共にファイナルでございます」と語り始めた田澤は、「コロナ禍で結成して4年目。初心に返ってもう一回、fuzzy knotのライブの基礎をみんなと一緒につくっていきたい」と決意を述べる。ノリを先導はするが限定しないとも宣言し、「好きにやっちゃってください」と自由な楽しみ方を呼び掛け、「fuzzy knotとみんな、ではなく“fuzzy knotとあなた”がいっぱいある」と強調。あくまでも一対一の関係を聴き手と結ぶスタンスを明言した。
Shinjiが前へ出てリフを弾き始めると、「遠隔Reviver」へ。MCの前まで“地獄”を表現していた二人とは思えないような、明るく生き生きとしたパフォーマンスを繰り広げていく。「カミカゼスピリット」「ダンサー・イン・ザ・スワンプ」と曲ごとに驚くほど違った色を見せていったのだが、圧倒されたのはロッカバラード「愛と執着とシアノス」での演劇的な表現力。田澤は色香が漂うファルセットからドスの効いたローボイスまで自在に操り、遠くの目には見えない何かを探すような眼差しが印象的だった。Shinjiのギターソロはこの上なくブルージーで、言葉にならない情感を訴え掛けてくる。曲が終わり、暗闇の中で田澤がそっとお辞儀をして初めて、惹き込まれていた観客はハッと催眠が解かれたかのように拍手を送った。
打って変わって「ハーイ、東京!」とテンション高くMCをし始めた田澤。この日の東京は雨模様で、その話題からShinjiが「雨もいいもんだよ」と語り、「失意のどん底にいる人間には、晴れてるほうが痛くない?」と続ける。「B'zの歌詞なんですけど(笑)」と種明かしをして笑ったが、田澤は「それだけ堂々と言えばいい(笑)。なんならfuzzy knotにもそういう曲あるから。“青空が痛いの、この曲やから”ってギターソロ中でも言う」と予告すると、Shinjiは「オン(※マイクが生きている状態)で言って」と返し、楽しそうに二人は笑い合った。
田澤が「自分のもとを去っていく人に、何もできないけど、それから降る雨がせめて優しいものでありますように、と祈っている歌」だと解説し、「キミに降る雨」を届けた。Shinjiのギターソロを、目を閉じて柔らかな表情で聴いていた田澤。続く「こころさがし」はデビューシングルで、“雨よ やまないで このまま 涙を騙してよ”という切ないフレーズが沁み込んでくる。胸に手を当ててお辞儀をした田澤。会場からは大拍手が送られた。
メンバー紹介を挟んで、明滅する赤いライトの下「トリックスターシンドローム」で華々しく後半がスタート。田澤はリズムにノッて踊りながら歌い、Shinjiも髪を振り乱しながら演奏に没頭している様子だった。スカのリズムが小気味よい「Joker & Joker」が始まると、待ってました!感がフロアには広がって、クラップしながら思い思いにファンは身を揺らした。Shinjiが田澤のほうへと近付いて笑い合う場面は、二人とも心底楽しそうな表情で、こちらも思わず笑みがこぼれる。場内の一体感はピークに達した。
額に汗を光らせた二人は上着を脱ぐと、「ツアーファイナルと言っても、前のライブから3週間空いてる」と田澤は語り、Shinjiは「初日感があるよね。逆にいいかも。場数を踏むと緊張感が薄れるから」と前向きにコメントした。ここで、未発表の新曲を披露。煽情的でアグレッシヴなエレクトリックビートが鳴り始めると、フロアからはOi!コールが発生。田澤とShinjiはヘッドバンギングを繰り返し、オーディエンスは身体を折り畳み髪を振り乱してノッていた。その勢いのまま清々しいナンバー「ブルースカイ」へ突入すると、ギターソロの最中、田澤がShinjiに近付き「この曲です! さっきの(笑)」と予告通りに指摘。伏線回収すると会場には温かなムードが広がっていった。
「ダイナマイトドリーム」ではファンが手を挙げながら繰り返しジャンプして、床が激しく揺れるほど。Shinjiは立ち位置から離れてステージ下手へ、田澤は行き交って上手へ。ギターソロをShinjiが奏でている間、田澤は笑みを浮かべながら観客を見つめていた。ファン一人一人と向き合い、目を合わせる。自分たちの音楽を、ただ表現するだけではなく、しっかりと届けようとする真っ直ぐな姿勢が、この日の二人のパフォーマンスの随所から伝わってきた。田澤は3度飛び上がり、4度目の特大のジャンプを合図に演奏の音が止まった。静寂の中、メンバーの名を呼ぶ声がいつまでも響いていた。
「ラストスパートです。全部置いていきましょう。全部燃やせ!」と田澤が叫ぶと、「Set The Fire !」へ。ファンは手を挙げて飛び跳ね、妖艶に身を揺らしながら歌い、その歌心を引き継ぐようにしてShinjiは魅惑的なファンクギターを奏でた。この曲でも、Shinjiはステージ下手へと移動し、田澤は上手へ。両手でマイクを握り仰け反り、シャウトをロングトーンで響かせる。「声出せ!」(田澤)と煽って「Hello, Mr. Lazy」を投下すると、ヘッドバンギングしながら田澤は野性剥き出しで歌い、Shinjiは不穏な響きのコードを分散和音で奏でた。「#109」では人格が次々と変わっていくような歌唱を繰り出した田澤。Shinjiも何かが憑依しているかのような狂気じみた激しさでプレイし続ける。迫真のパフォーマンスには、興奮を越えて少しの戦慄を覚えるほどだった。
熱狂の余り呆然自失の状態で、現実へと意識が戻り切らないようなムードが漂う中、田澤は「東京! 生きてるかい? 生きてるかい!」と叫んだ。「しんどいことばっかの昨今ではありますが、お互いこの時代を、日常を、困難を乗り越えられるように。ラスト、ありったけの幸せが降り注ぎますように、全部絞り出していきます。しっかり受け止めてください。ラストソング!」と叫んで「Before Daybreak」を放った。ウォーウォーと観客がシンガロングし、勇ましくOi!コールする中、眩い光を感じさせる清々しいナンバーを届けていく。田澤に「Shinji!」とコールされ、Shinjiは伸びやかな美しいフレーズを奏でた。
Shinjiは「最高のファイナルでした、ありがとう! 恥ずかしいけど、田澤に出逢えて良かったなと本当に思ったし。私、クサいこと言うのはあまり好きじゃないですが、君たちのようなファンを持って本当に幸せです、ありがとうございます。いつまでもついて来いよ!」と飾り気のない、驚くほど真っ直ぐな言葉を叫んだ。ファンはもちろん、大歓声と大拍手で答えた。
田澤は「小粋な一言やったなぁ」とShinjiの決まり文句を引用してコメント。「でもね、俺も同じ気持ちよ。fuzzy knotに誘ってもらえて、最初は思ったように進まなくてさ」と打ち明け話をし始める。最初にデモ曲を1曲だけ渡した時点では、事務所社長の反応が薄かったそうで、「10曲頑張って持って行ったら、“やりなさい!”と言ってくれて。世の中に出る前から、俺らのfuzzy knotとしての時間は始まっていて。それをみんなと共有できているのが幸せだし、この先も共有できたらいいなと思ってます」とコメント。
未来の話として、具体的なことは特に決まっていないと断りつつも、「今、新曲をつくってます。しかも結構な量。作詞まみれの人生です。ライブだけじゃなくて、全部置いていくって、そういうことかなって。悔いのないように全部残していきたいなと。ついて来てください」と挨拶、深いお辞儀をしてステージを去った。
Shinjiと田澤という二つの才能が出逢いfuzzy knotが誕生したことは、もちろん結成当初から刺激的なニュースではあった。しかし今、二人の“人と人”としての関係性はより密な結びつきへと変化し、熱量を高めていることは、ライブパフォーマンスからもありありと感じ取ることができる。それぞれに他のバンド活動がある中、この二人で新しい音楽を生み出すことの必然を実感できる、意義深いツアーが今回だったのではないだろうか?
“羽化への回路”を意味するツアータイトルは、蝶が生まれてからサナギを経て、羽化するまでのサイクルをイメージした、とツアー開始前のインタビューで田澤は語っていた。セットリストの1曲目に選んだ新曲「Imperfect」の歌詞とリンクするその物語は、今回のツアーに限らず、fuzzy knotの二人がファンと共に紡いでいく未来そのもののメタファーだと感じる。現在制作中だと明かされた新曲たちを聴ける日を心待ちにしながら、fuzzy knotの今後を見守っていきたい。
取材・文◎大前多恵
撮影◎江隈麗志
■<fuzzy knot Tour 2024 ~The Emergence Circuit~>2024年9月29日(日)@渋谷WWW X セットリスト
02. ペルソナ
03. Inferno
04. 遠隔Reviver
05. カミカゼスピリット
06. ダンサー・イン・ザ・スワンプ
07. 愛と執着とシアノス
08. キミに降る雨
09. こころさがし
10. トリックスターシンドローム
11. Joker & Joker
12. 新曲
13. ブルースカイ
14. ダイナマイトドリーム
15. Set The Fire !
16. Hello, Mr. Lazy
17. #109
18. Before Daybreak
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