【インタビュー】UNCHAIN、緻密なアレンジやメンバーが織りなすハイレベルなプレイが凝縮したAL『LIBYAN GLASS』

ポスト

UNCHAINが『LIBYAN GLASS』と名づけられたフル・アルバムを完成させた。ブラック・ミュージックに通じる洗練された味わいを核としつつ随所にオリジナリティーが注入された、スタイリッシュな楽曲群は実に魅力的。緻密なアレンジやメンバー全員が織りなすハイレベルなプレイなども奏功して、“シティポップ”という一言では括れない、独自の心地好い音楽を創りあげることに成功している。そんな『LIBYAN GLASS』について、メンバー4人に大いに語ってもらった。

■月や星空が美しいという夜の砂漠の情景から
■イマジネーションを膨らませて作ったのが「Libyan Glass」


――新しいアルバムを作るにあたって、テーマや構想などはありましたか?

谷川正憲(以下、谷川):最初はそういうものがなくて、漠然と制作を進めていったんです。僕らは音源を作るときにテーマを掲げるときもあれば掲げないときもあって、前作や前々作は目指すものがなんとなくあって作り始めたんですけど、今回はネタ切れというか(笑)。10年間で10枚アルバムを作ってきたこともあって、そういうときもあるんです。なので、特に何も決めない状態で曲作りに入っていきました。そういう中で、曲出しミーティングをしたら、まったく聴いたことのないサウンドが流れてきたんですよ。誰かのCDを流しているのかなと思ったら、ドラムの吉田君が作った曲のデモだったんです。それが、今回の表題曲になった「Libyan Glass」です。良い曲ですよね。吉田君はバンド人生22年の中で曲を作ったことがなかったから、みんなビックリしました(笑)。吉田君はメロディーを考えて、トラックはDTMができる人と一緒に作ったらしくて。彼が凝ったデモを作るとは思っていなかったから、そういう面の驚きもありましたね。

佐藤将文(以下、佐藤):順番に曲を聴いていって、最後に「Libyan Glass」が出てきたんですよ。音が良すぎて、“作家さん、キターッ!”と思いました(笑)。

吉田昇吾(以下、吉田):メンバーをビックリさせたくて、デモを作っていることがバレないようにコソッと作ったんです(笑)。「Libyan Glass」を作ったときは、夜の砂漠のイメージから入っていきました。僕は最近自然が好きで、自然の映像とかをよく見ているんですけど、たまたま夜の砂漠の動画があって、感動するくらいきれいだったんです。それで、淋しさがありつつ、月や星空が美しいという夜の砂漠の情景からイマジネーションを膨らませて作ったのが「Libyan Glass」です。

谷川:吉田君からいい曲があがってきたので、この曲をもとにしてアルバムを膨らませていこうということになったんです。だから、今回のアルバムは「Libyan Glass」ができたことが、大きなポイントになりましたね。


――ブラック・ミュージックに通じる洗練感やロマンチックさを纏った「Libyan Glass」は、アルバムを象徴する1曲といえますね。それに、本作はスタイリッシュな味わいで全体を覆いつつ、様々な表情を見せていることも印象的です。

佐藤:そういう作品になりましたね。僕の中で特に印象深い曲を挙げるとしたら、4曲目の「butterfly effect」かな。僕は歌詞を書くことは得意ではなくて、歌詞を書きたいと思うことはあまりないんですけど、この曲は書かせてもらいました。谷川君が持ってきたデモのピアノ・リフを聴いたときに、歌詞を書きたいと思ったんです。ピアノのリフから蝶々の羽ばたきを連想して、自分の中に“パパパパッ”と世界観が浮かんできたから。それは今までになかったことなので、強く印象に残っています。

――「butterfly effect」の歌詞はダイレクトな表現ではなく、象徴的な言葉で痛みや哀しみを表現しているのがいい。それに、今作の中ではブラック・ミュージック感が希薄で、独自の翳りを帯びた曲調も注目です。

谷川:この曲はピアノのリフが一番最初にあって、そこから膨らませていきました。僕は、そういうことが結構多いんですよ。最初に出てきたリフをどういうふうに使うかということと、リフからの展開がうまくできれば、音楽として面白いものになるというのがあって。この曲もそういう考えのもとに試行錯誤して、いい感じのサビをつけられて良かったなと思います。それに、これは黒っぽくないから違うかな…みたいなことは考えなかった。もちろん黒っぽい音楽は好きだけど、意識してそちらに行こうとは今回は考えていなかったから。そもそもうちのメンバーはみんなブラック・ミュージックが好きなわけではなくて、バラバラなんですよ。

――えっ、そうなんですか?

谷川:はい。むしろ、好きなのは僕くらいです。

――……驚きました。そういうメンバーで、いい感じにブラック・ミュージックを香らせていることからは、皆さんのスキルの高さがわかります。

一同:本当ですか?

佐藤:僕はブラック・ミュージックも好きで聴きますけど……。

谷浩彰(以下、谷):僕は、本当に感覚でベースを弾いているので、よくわからないです。

谷川:UNCHAINは、そういうバンドなんですよ。でも、昔からバラバラで、バラバラのものを集めて自分達の音楽を創るというのがUNCHAINなので、それでいいと思っています。特に今回はそういうスタンスが活きた曲が多くて、最初にテーマを決めなかったのは良かったんじゃないかなと思いますね。

谷:いろんな曲ができたからね。僕の中で印象の強いのは歌詞つながりになりますけど、「アイスクリーム」という曲です。この曲は谷川に“アイスクリーム”というテーマだけを提示されて、歌詞を書いてほしいと言われて。“マジか?”と思ったけど、“アイスクリーム”は食べるアイスクリームと、叫ぶという意味の“I Scream”の両方に取れることに気づいたんです。意味としてはまったくつながらないけど、両方を使って書いてみようと思って、それはうまくできたかなと思います。

谷川:“明日に向かって走れ”という前向きなメッセージを発信しているようで、実はちょっと後ろ向きというところもいいと思う(笑)。今回の制作で最初に作ったのが「アイスクリーム」だったんです。新しいアルバムで個人的にやりたい感じというのが、ヒップホップの要素を入れたものだったんですよね。90年代の洋楽のヒップホップ……TLCみたいに1グルーブのヒップホップはカッコいいなと思って、そういうものをUNCHAINなりにやってみたくて作りました。僕らの場合、誰かをイメージして曲を作っても、絶対そういうものにはならないというのがあって。いつもちょっと違うものになるんですけど、それがオリジナリティーにつながるので、いいかなと思っています。

吉田:僕は「Libyan Glass」以外で1曲挙げるとしたら、「FLASH」ですね。曲もカッコ良くて好きですけど、この曲はねごとのアオヤマサチコさんが歌詞を書いてくれて。サチコちゃんの歌詞が、すごくいいんですよ。お願いして、できた歌詞を最初に見たときに、もうバッチリだと思いました。メロディーに対する言葉の乗せ方がうまいですよね。

谷川:そうだね。“楽しくやろうよ”という内容で、ライブに合うというのもいいと思うし。「FLASH」は楽曲的には、ちょっとネタ切れ状態の中で、苦しんで苦しんで絞り出して、これは結構うまくいったと思えた曲です。吉田君が書いた「Libyan Glass」があがってくるまでは、これがリード候補でした。アオヤマさんに歌詞をお願いしたことで、より化けたという印象がありますね。


▲谷川正憲

――今作の出だしの「Libyan Glass」から「FLASH」へと移る流れは、すごく心地好いです。

谷川:ありがとうございます。みんなが挙げた曲はどれも気に入っているけど、僕の中で印象が強いのは完全に「33」です。メンバーみんなは多分この曲はあまり好きじゃなくて、スタッフも好きじゃないんですよ。でも、僕はこの曲が一番好きです。この曲は僕が33歳のときに作った曲で、売れていないバンドマンは30歳で音楽をやめようと決断できればやめられるけど、33歳までいってしまうと、もう戻れないという心境になるんですよ。かといって、前を見ると高い壁が立ちはだかっていて、挟まれた状態になっている。それに、体力も落ちてきて、アイディアもなくなってきて…みたいなところで苦悩している内面を、そのまま反映させた曲です。

――「33」の無機質かつ幻想的な世界観も魅力に富んでいて、強く惹き込まれました。異色ということでは、インストゥルメンタルに近い「-Beyond The World-」もアルバムのいいフックになっています。

谷川:この曲は、僕らの中ではインストとして捉えています。本当は2曲くらいインストを入れたかったんですけど、1曲が「33」になってしまったという(笑)。


▲佐藤将文

――なるほど(笑)。「-Beyond The World-」はベースとドラムだけになるAメロのグルーヴィなベースやBメロのジャジーなギター、後半に出てくる4ビートなど、それぞれの見せ場があって楽しめます。

谷:ベースがやっていることはシンプルだし、ほんの4小節のループなんですよね。でも、ニュアンスがすごく大事で、淡々と弾くと面白くともなんともないというのがあって。そういうことを意識して弾いて、いい味を出せたと思います。

佐藤:ジャジーということは、意識しました。曲を作っていく中で、そういう話になったんです。僕はジャジーなものは得意ではないんですよ。でも、本物にならないというか、なれない感じがいいんじゃないかなと思って、あえて突き詰めないようにしました。「-Beyond The World-」は、そんなふうに、いい意味で肩の力が抜けているところを楽しんでもらえればと思います。

吉田:4ビートも出てくるのは一瞬だけだし。サラッとした感じに仕上げたのは良かったんじゃないかなと僕も思います。

――同感です。それにしても、『LIBYAN GLASS』に収録されている楽曲は、緻密なアレンジも光っています。皆さん、完成形に近いデモを作られるのでしょうか?

谷川:佐藤は、結構作り込んできますね。

佐藤:前は、ギター1本と歌だけでメロディーが突き抜けていいものということがテーマになっていた時期があって、その頃はラフな感じで持ってきていたんです。でも、今回は自分がやりたいことを最初の段階で見てもらったほうがいいなというのがあって。なので、今回は結構アレンジを詰めた状態のデモを作って、みんなに聴いてもらいました。

谷川:でも、弾き語りみたいなデモでも問題ないですね。作曲者の中に完成形のイメージが強くあるときは別として、僕らはわりと作り込んだデモがあってもガラッとアレンジを変えてしまうことが多いんですよ。そういう意味では、メンバーそれぞれの個性が活かされている曲が多いです。

◆インタビュー(2)へ
この記事をポスト

この記事の関連情報