【インタビュー】ふたりの才能が閃光する、辻仁成&SUGIZOの舞台世界
2018年2月22日(木)より開幕した舞台『99才まで生きたあかんぼう』の初日公演は、4回のカーテンコールを受け、最後は会場の明かりが点くことで終演となった。
大好評を得ている舞台『99才まで生きたあかんぼう』は、辻仁成の原作・脚本・演出による人間ドラマで、人間の一生を様々なシーンで切り取り、99歳まで生きた喜怒哀楽を通じて生きていくことの意味を問う濃密なコメディ作品だ。その内容と目まぐるしく展開するストーリーと渦巻く正のエネルギーは、どんなことにでも全力で立ち向かうまさしく辻仁成の哲学そのものでもあり、誰もが感じ思い描く感情の起伏を辻哲学とシンクロさせてしまう、見事な力量を見せつける作品でもある。
舞台『99才まで生きたあかんぼう』は、琴線に触れる言葉の応酬をもって、心震わせる金言に出会えそうな予感とともに、次々と降り注ぐ共鳴感動の波状攻撃を生み出していく。そして、そんな舞台を色鮮やかに浮き立たせているのが、音楽監督を務めたSUGIZOの音楽だ。
辻仁成とSUGIZO…妥協を知らない濃密で個性振り切れたふたりのアーティストは、なぜ、どのようにタッグを組む事になったのか。2時間食い入るように人々を吸い寄せてしまう舞台『99才まで生きたあかんぼう』を作り上げた、表現者2人に話を聞いた。
──この2人が作品作りで名を連ねるのは…
SUGIZO:三作目ですね。
辻仁成:4年前に、このよみうり大手町ホールのこけら落としで行った『海峡の光』という舞台で、SUGIZOと初めて作品を作った。その後、去年公開された映画『TOKYOデシベル』の音楽もやってもらって、それで今回が三回目。
──もともとどういうきっかけで?
SUGIZO:もともとは共通の知り合いがいたっていう感じだね。
辻仁成:SUGIZOとお会いしたときに、気が合っちゃったんですよ(笑)。お互い同じような映画とか同じようなものを見ていることが分かってね、で、僕は本を贈ったんだけど、その本をSUGIZOが絶賛してくれたんです。『日付変更線』という上下作のすごく長い作品なんだけど、あそこまでしっかりと感想を言ってくれた人ってなかなかいなかったから。
──ふたりとも尋常じゃないこだわりやですから(笑)、極端にハモるか敵対するかどちらかしかなさそうですね。
辻仁成:それがめっちゃハモるんですよ。
SUGIZO:ハモりますね。
辻仁成:お互いのリスペクトがあるのかわかりませんけど、もめることがないんですよ。多分ね、僕の年齢が10歳も上だから、凄い気を遣ってくれているとは思う(笑)。
SUGIZO:そりゃもう、大先輩ですから(笑)。
辻仁成:打てば響く鐘のように「こういうものがほしい」というときに、本当によく応えてくれるの。彼もね、演出家や作家の気質を持ってる人なので。
──辻さんから見て、SUGIZOはそういう人物に見える?
辻仁成:うん、ミュージシャンとしてだけじゃなく、SUGIZOという人は演出家や小説家、詩人としての力もある人だよ。文学とか映画に対するリスペクトも凄い強いし。僕みたいないろいろやる人間を、真剣に馬鹿やる人間を面白がってくれて、力を貸してくれているって感じかな。
──SUGIZOからみて、辻仁成という人物は?
SUGIZO:純粋にリスペクトです。もちろんエコーズというミュージシャンとしての大先輩であることは子供の頃から重々承知の上ですし、僕からすると、彼は言葉の芸術家なんですね。辻さんの音楽にも強い言葉が入ってくるでしょ?僕がソロアルバム『ONENESS M』で辻さんにお願いした「感情漂流(feat.Jinsei Tsuji)」も、吐き捨ているような言葉の使い方がとても好きで。僕は辻さんを日本のルー・リードだと思っている。
辻仁成:SUGIZOが1回僕のライブを観に来てくれてね…
SUGIZO:1回…って何度も観てますよ(笑)。
辻仁成:そか(笑)。僕のライブってね、その時その時で適当なラップをやるんですよ。それを見てね、突然ある日「1曲歌ってもらえませんか?」って言われたのが「感情漂流(feat.Jinsei Tsuji)」だったの。
──音楽にとどまらず映像や脚本、演出…といった表現/創作において、2人の共通項があったわけだ。
SUGIZO:僕にとって辻さんは、本当は欲しかったけど自分で持っていないものを全部持っている人。僕は本当は言葉の人になりたかったし、詩人に憧れていたし、言葉の芸術がすごく好きだから。それがこれからできるとも思っていないし。
辻仁成:いや、できるでしょ(笑)。
SUGIZO:だからこそ逆に、よりいっそう音の人であろうと思ったわけ。辻さんのような人がすでに存在しているからね。音を追求している狂人と言葉を追求している狂人がちょうどハモっているんですよ。
辻仁成:舞台『99才まで生きたあかんぼう』なんて、ほとんどが言葉でできているでしょ?言葉をどう降らせているかの演出で、そこに役者の力、舞台美術が加わって、そこで音楽が揺さぶりますよね。言葉を響かせるところにあのSUGIZOの音楽が入ってくると、イヤでも涙腺が切れる(笑)。『99才まで生きたあかんぼう』って、どんな人でも必ず一回は経験しているところ…みんなの人生のときがそこに流れるんでね。
SUGIZO:あのストーリーはね、なんてことのない誰でも経験する世の中にあふれていることなんだけど、辻さんの魔法にかかると感動になるんです。もし言葉の使い方や演出がつまらなければ、ただ人の一生を追っただけの話ですよ。それでいてこれだけの感動とエネルギーをもたらすのは、やっぱり辻さんの言葉の力と演出力。そこの反作用から僕の音楽は生まれているので。
辻仁成:言葉は本業だからね。でも今は演出がすごく楽しいんですよ。映画にしても舞台にしても人を動かすのがね。動きから振り付けからダンスのシーンから細かいニュアンスまで、「こうなんだよ、ここはこういうことなんだよ」と全てをひとつひとつ役者に伝えている。
──そうか、あの舞台のエネルギー感は、そこが源泉なのか。
辻仁成:もちろん音楽もやってみたいしいつかはミュージカルも手がけたいけど、自分のキャリアが音楽からスタートしているこそ音楽を中途半端にはできないので、信頼できる人にしか僕の舞台の音楽は頼めない。『海峡の光』の時のSUGIZOが本当に素晴らしかったんでね。
SUGIZO:光栄です。
辻仁成:『99才まで生きたあかんぼう』はコメディだから、もしかしたらSUGIZOにとっては新しいチャレンジだったかもしれないね。コメディ専門の音楽家に頼むより彼に頼んだほうが絶対おもしろいものができると思っていたからさ、裏目に出なくてよかったね(笑)。
SUGIZO:『99才まで生きたあかんぼう』は99年を走馬灯のように猛スピードで駆け抜けていくドラマだから、そこに上手くオーバーラップさせたくて、実は、僕のこの20年の音楽要素を各所に散りばめているの。
辻仁成:そうなんだ。
──そして、あの若き6人の役者たちも素晴らしいですね。とても6人とは思えない多彩な登場人物を演じています。
SUGIZO:あのバイタリティは凄いよね。舞台の現場は音楽の世界ともまた違うので本当に多くの刺激を受けるよね。ミュージシャンの甘えているところとか、逆に素晴らしいところとかも感じるし。
辻仁成:演劇の世界は、稽古の仕方もお客さんの入れ方も、動かすシステムも違う。挨拶のしきたりも楽屋の使い方も、音楽の世界とはまるで違うよね。でもこれだけのお客さんが感動してくれて、泣いてくれたり笑ってくれたりすると、嬉しいよ。
──コメディというけれど、決してふざけているわけじゃないし。
辻仁成:そう。真剣に生きているから笑いが出る。実はシリアスな喜劇というか、人生仕方なく笑っているみたいな話だよね。いっぱい笑っていっぱい泣く。人間って、いっぱい笑うと涙が溜まってくるでしょ?それで涙腺が切れる。これが泣き笑いのポイントなのかなと思うよ。
SUGIZO:想像以上にみんな笑ってくれてすごく良かったね。
──私も2時間、泣き笑いしながらすごく集中していました。
SUGIZO:音楽のライブと違ってすごく音が小さいでしょ?だから、耳を立てるよね。
──そう。一言一句を聞き逃したくないので、自分の感度がすごく上がってたのが自分でよくわかります。
SUGIZO:ロックの現場ではなかなかない状況だよね。
辻仁成:でもね、シリアスな舞台であればあるほど眠くなっちゃうのもあるのよ。だからそういうところで笑いってすごく重要だと思う。あと音楽だったりダンスだったりね。今回はそういうものもフルに使ってお客さんを眠らせないように、集中させているわけ(笑)。涙腺を緩ませてはぐっとつかむみたいな、鷲掴みの攻撃ね(笑)。一人の一生を追っているから、ひとつのシーンって1分半くらいしかなくて、もうジェットコースターに乗っているような感じだよね。それで最後までいっちゃうみたいな。
──常に全力で生きる主人公を見ていると「なんだ、これ辻仁成そのものじゃん」とも思いましたが(笑)。
辻仁成:そうね、だから僕が音楽までやっちゃうとうるさいから、クラシックの力を持った冷静な人が関わることで、僕の作品を冷静なポジションに持っていける。SUGIZOは素晴らしい司令塔でもあるんですよ。ぼくにとって良いパートナーだね。
SUGIZO:ありがとうございます。光栄です。
2月22日に幕を開けた舞台『99才まで生きたあかんぼう』は、3月4日までよみうり大手町ホールにて開催され、その後は名古屋市芸術創造センター、福岡市民会館大ホール、大阪梅田芸術劇場シアター・ドラマシティと、3月末まで全国を回る。
「3月24日の千秋楽まで、一緒に駆けぬけよう」──辻仁成
取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也
舞台『99才まで生きたあかんぼう』
会場:よみうり大手町ホール(東京都)、名古屋市芸術創造センター(愛知県)、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ(大阪府)、福岡市民会館大ホール(福岡県)
◆舞台『99才まで生きたあかんぼう』オフィシャルサイト
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