【ライブレポート】クリエイター&ヴェイダー、エクストリーム・メタルの二層攻撃
クリエイターとヴェイダーが2017年9月、来日公演を行った。
現代のエクストリーム・メタル界で絶大な支持を誇る2大バンドのライブを1枚のチケットで見ることができるこの公演だが、コスト・パフォーマンス的にはお得である一方、オーディエンスの体力の限界に挑戦する危険なラインアップでもある。会場に集まったメタル・ファンの表情からは、ある種の“覚悟”を見て取ることができた。
音楽スタイルもデビュー時期も異なる両バンドだが、そのポジションには共通するものがある。クリエイターは1980年代前半、ドイツにおいてスラッシュ・ムーブメントを切り開いた先駆者だ。ヴェイダーも1990年代にポーランド出身のデス・メタル・バンドとして世界にその名を轟かせている。どちらも出身国にエクストリーム・メタルのシーンを根付かせ、ワールドワイドな規模で成功を収めた革命家たちである。
ダブル・ヘッドライナーと言っていいこの日の公演だが、まずステージに上がったのはヴェイダーだ。最新作『ジ・エンパイア』(2016)が顔面を直撃するデス・メタルの快作だったこともあり、同作からのナンバーを中心にプレイするか?…と思いきや、『リタニー』(2000)からの「翼 Wings」でスタート。1990年代・2000年代のヴェイダー・クラシックスを交えた選曲が新旧ファンを驚喜させる。『デ・プロフンディス』(1995)から「沈黙の帝国」「ソーティス」「炎の中の再生」の3曲が披露されたのは嬉しいサプライズで、早くも場内にサークル・ピットが巻き起こった。この日のセット・リストは今回のアジア・オーストラリア・ツアーでほぼ共通のようだが、既に何度も訪れている日本の観衆とのコミュニケーションは良好で、ギタリスト兼ボーカリストのピーターは「ゲンキデスカ!」「アリガトーゴザイマス!」など積極的に日本語で話しかけていた。
新作からも「テンペスト」、そしてラストに「センド・ミー・バック・トゥ・ヘル」がプレイされ、熱狂的な反応を得ていた。全10曲、約45分ちょっとのライブではあったが、濃密度と殺傷力は申し分なく、『スター・ウォーズ』シリーズの「帝国のマーチ」に乗って彼らがステージを去ると早くも消耗し過ぎて倒れ込むファンもいるほどだった。
▲ヴェイダー
だが、彼らのエクストリーム・メタルへの飢えが癒やされたわけではない。ヘッドライナーへの期待が高まる中、温度も上昇していき、場内が暗転するや空気が膨張して爆裂した。
最新作『ゴッズ・オブ・ヴァイオレンス』からでも初期の名曲でもなく、2009年のアルバム『ホーズ・オブ・ケイオス』のタイトル曲というオープニングで意表を突いたクリエイターだが、助走をつけて超絶スピード・スラッシュへと頭から突っ込んでいく。35年にわたって民衆を暴徒へと変貌させてきた彼らのプロの技は、この日も健在だ。
一貫して攻撃性を重視、デス・メタル的なアプローチも採ってきたクリエイターだが、長いことやっているだけあり、その音楽性は実に多彩なものだ。「フォビア」ではバンドと観衆が一体となってシンガロングし、「ゴッズ・オブ・ヴァイオレンス」ではサークル・ピットが起こる。まるでフロアが巨大な洗濯機になったように人々がグルグル回るが、回れば回るほど汗臭くなるという不思議な洗濯機だ。
初期のナンバーである「トータル・デス」にも大きな声援が起こり、ずっとクリエイターの炎を燃やしてきたギタリスト兼ボーカリストのミレ・ペトロッツァはコワモテの案面に笑みを浮かべた…ように思えた。実際にはスモークと逆光のライティングで、メンバー達の表情はほとんど見ることができなかった。彼は「殺し合えーッ!」と観客を煽動していく。
クリエイターの魅力は、すべてを破壊するスラッシュ殺人マシンであるのと同時に、ヒューマンな感情を持ち備えていることにある。「フロム・フラッド・イントゥ・ファイア」では哀メロも聴くことができるし、ミレのステージMCでは「1993年に初めて日本に来て、また来ることができて本当に嬉しい」としんみり語っていた。
アンコールでは「ヴァイオレント・レヴォリューション」「プレジャー・トゥ・キル」が演奏され、観客は残ったエネルギーとアドレナリンをすべて使い切るべく、フロア狭しと暴れまくる。ミレも「殺し合う最後のチャンスだーッ!」と煽り、1時間半のステージはクライマックスを迎えた。
夏の終わりを燃え上がらせたエクストリーム・メタルの二層攻撃は、燃えカスすらも残さない完全燃焼で終わった。だが、その日のショーを体験したオーディエンスの心には、永遠に消えることのない火種が宿ったのであった。
▲クリエイター
文:山崎智之
Photo by Teppei Kishida
◆クリエイター『ゴッズ・オブ・ヴァイオレンス』オフィシャルページ
◆ヴェイダー『ジ・エンパイア』オフィシャルページ