【インタビュー】ヴェイダー、「俺達の音楽は“デス・メタル”」
11作目となるニュー・アルバム『ジ・エンパイア』をリリースしたポーランドのデス・メタル・バンド、ヴェイダーをキャッチ、ギター&ヴォーカル担当のリーダー、ピーターに、エクストリーム・メタルの王道を突き進む新作『ジ・エンパイア』に関し、話を聞いてみた。
◆ヴェイダー画像
30年以上のキャリアを誇るヴェイダーは、単にポーランドを代表するデス・メタル・バンドというだけではなく、ポーランドにも素晴らしいエクストリーム・メタル・シーンが存在することを、全世界に知らしめた先駆者でもある。30分強を一気に駆け抜ける『ジ・エンパイア』は、21世紀版『Reign in Blood』とでも言うべき仕上がり。1980年代のスピリットを頑なに守り続けているヴェイダーの作品は、デス・メタル・ファンだけでなく、スラッシュやスピード・メタル好きにもたまらない作品だ。
──ニュー・アルバム『ジ・エンパイア』は、以前のアルバムと比べてどんな仕上がりになっていますか。
ピーター:今回のアルバムは音質が非常に向上していると思う。以前よりもアグレッシヴでソリッドだろ。Wieslawski兄弟とHertz Studioでレコーディングするのもこれで6枚目だから、お互い経験も豊富になってきたし、スタジオの機材も良くなったからね。今回はあまりテクノロジーには頼らず、オールド・スクールなやり方でレコーディングするようにしたんだ。『ジ・エンパイア』は以前のアルバムと比べると、音楽的にはバラエティに富んでいるけれど、激しさは一切失われていないだろう?モダンなブラスト・ドラミングと、オールド・スタイルなギター・リフを融合させているから、とてもスピード・メタルっぽい感触のあるアルバムに仕上がっていると思う。
──確かに今回のアルバムは、以前に比べてスラッシュ色が強いように思いましたが、意図的なものなのですね。
ピーター:まあまず「スラッシュ」と「デス」の違いを明確に定義してくれるのなら、俺もどう答えれば良いのかわかるのだけどね(笑)。もちろん君が言わんとしていることはわかるよ。だけど個人的には、「スラッシュ」と「デス」がどう線引きされるのか、イマイチよくわからないんだ。長い間ヴェイダーはデス・メタル・バンドとしてカテゴライズされてきたし、俺としては「デス・メタル」という言葉は俺たちがやっている音楽を非常によく表していると思う。1980年代には、俺たちもスラッシュ・メタルとか、時にはブラック・メタルと言われることすらあった。主に歌詞のせいでね。俺は25年もの間グロウルし続け、そしてまたグロウルもスキルも上がり、歌詞もよりクリアに聞き取れるようになっていると思う。歌詞もいまだにルシファーや地獄、この世の終わりについてだよ。もちろん現実の出来事に基づいたり、歌詞のクオリティも上がっていると思うけどね。ニュー・アルバムの音はどちらかというと軽めで、ギターやベースも他の楽器から分離してはっきりと聴き取れる。おそらくそのせいで、今回はスラッシュっぽいという印象を与えるのかもしれない。あるいは今回はいつもよりさらにジューダス・プリースト・スタイルのクラシックなリフを多用したからかもしれないな。いずれにせよ、俺たちのスタイルがどうカテゴライズされようと、俺にはどうでもいいことなんだよ。ヴェイダーはエクストリーム・メタル、もっと言えばデス・メタルをプレイしている。もちろんスラッシュ、スピード、あるいはヘヴィ・メタルだと思うならばそう呼んでくれても構わないさ。そのことで君を嫌いになったりはしないからね。約束するよ(笑)。
──なるほど、ヴェイダーはデス・メタルと言われるのが個人的には一番しっくりくるということですね。
ピーター:そう、俺は「デス・メタル」という呼び方が、俺たちのやっている音楽に一番ぴったりだと思うからね。曲調にバラエティが出てきた、キャッチーさが増した、ブラスト・ビートが減ったからといって、デス・メタルじゃなくなるわけではない。俺たちは今でもヘヴィで速くて、怒りに満ちていて、地獄の軍団に忠誠を誓っている訳だから。
──ヴェイダーのアルバム/曲は短めですよね。これは1980年代へのオマージュなのでしょうか。
ピーター:いや、別にそういう訳ではないよ。激しい曲というのは、短くなる傾向にあるということさ。ヴェイダーがそのお手本だよ。俺は5分以上ある速い曲って好きじゃないんだ。長いと退屈だろ(笑)。俺たちにも5分以上の曲はあるけど、そういうのは「Revelation of Black Moses」みたいに遅かったり、「Hexenkessel」や「Come and See My Sacrifice」みたいにいくつかのパートから出来ているのさ。典型的なヴェイダーの速い曲はだいたい2~3分しかない。激しい曲はそのくらいの長さで十分なんだよ。
──タイトル『ジ・エンパイア』は、やはりスター・ウォーズから採られているのでしょうか。
ピーター:うーん、必ずしもそういう訳ではない。ただ今回初めてスター・ウォーズのイメージを直接的に使ったのは事実だ。アートワークにも、スター・ウォーズっぽい感触が欲しかった。『ジ・エンパイア』というタイトルは、数年前にすでに思いついていたんだ。これはスター・ウォーズというよりも、今の世界情勢についてだよ。最近世の中は少しおかしくなってきているように感じる。何となく帝国主義的な雰囲気が漂ってきているだろう。非情に緊張感があるというか。軍事的な衝突とかね。東西に分かれて核を保有していた1950年代とはまた違った冷戦が始まっているように思うんだ。それらの国は今でも核を保有しているわけだし、狂っている人間がそれを握っている訳だよ。アルバムの雰囲気はこういう世界情勢についてだよ。戦争への警告やアポカリプスのイメージが多用されているだろう。
──ヴェイダーの結成は1983年ということですが、これはメタリカやスレイヤーがデビューした年ですよね。ポーランドという共産圏の国で、当時まったく新しい音楽であったスラッシュ・メタルの情報を得るのは大変だったのではないですか。
ピーター:それはイエスでありノーだ。当時ポーランドにはメタルを扱うレコード屋もメディアもなかった。だけど一方でアンダーグラウンドのシーンは素晴らしくて、メタル・ファンの間でテープ・トレードなどが盛んだったんだよ。俺は1984~1985年頃に初めてスレイヤーの『Show No Mercy』を聴いて、物凄い衝撃を受けた。当時あのアルバムに衝撃を受けたバンドは世界中にいたと思うよ。メタリカのファーストはあまり気に入らなくて、むしろThe ExploitedやGBHが大好きだった。スピードもパワーも凄かったからね。ポーランドのメタル・シーンが変わったのは1985年くらいだったと思うよ。その頃俺たちは、すっかりスピード・メタルやブラック・メタルの持つフィーリングのとりこになってしまった。それでヴェイダーの曲も、どんどん激しいものになっていったんだ。
──では最後に、日本のファンへのメッセージをお願いします。
ピーター:どういうメッセージがいいかな(笑)。ハロー、ヴェイダーのピーターだ。この美しい国にまた来られて、非常に嬉しいし誇りに思っている。君たちがショウに来続けてくれる限り、俺たちも日本に来続けるよ。心配はしていないよ。日本はいつでも素晴らしいし、がっかりさせられたことは一度もないからね。アイ・ラヴ・ジャパン。ドウモアリガトウ。
取材・文 川嶋未来/SIGH
Photo by kobaru.pl
ヴェイダー『ジ・エンパイア』
【日本盤限定スペシャル・エディションCD+『アイアン・タイムズ』EP】¥3,000+税
【通常盤CD】 ¥2,500+税
【歌詞対訳付き/日本語解説書封入】
1.エンジェルズ・オブ・スチール
2.テンペスト
3.プレア・トゥ・ザ・ゴッド・オブ・ウォー
4.アイアン・レイン
5.ノー・グラヴィティ
6.ジェノシディアス
7.ジ・アーミー・ゲドン
8.フィール・マイ・ペイン
9.パラベラム
10.センド・ミー・バック・トゥ・ヘル
『アイアン・タイムズ』EP
1.パラベラム
2.プレイヤー・トゥ・ザ・ゴッド・オブ・ウォー
3.ピエシュ・イ・スタル(パンツァーX カヴァー)
4.オーヴァーキル(モーターヘッド カヴァー)
◆ヴェイダー『ジ・エンパイア』オフィシャルページ