【インタビュー】小曽根真「ゲイリーのビブラフォンは音が見えるんです。湯気になってふわっと浮かんでくるのが見える」

ポスト

一人の偉大なミュージシャンの音楽人生が、この日本で静かに幕を下ろそうとしている。ゲイリー・バートン、74歳。ビブラフォンという楽器の革新者として、優れた演奏家を育てる教育者として、ジャズ界のみならず現代の音楽シーンに巨大な足跡を刻んだ彼が、5月末から6月にかけて最後のツアーのために来日する。パートナーは、長年の師弟関係を超えてベスト・フレンドとお互いに呼び合う間柄となったピアニスト・小曽根真だ。<小曽根真&ゲイリー・バートン TOUR 2017 Final>は、音楽界からの引退を決意したゲイリーから、日本のファンへの最後の贈り物。一世一代の舞台に臨む心境を、小曾根真が語ってくれた。

■最前線の音楽をやっていないとゲイリーはつまらないんですよ
■そういう音楽ができないならスパッとやめるということなんです


――突然の発表に驚いたんですが、ゲイリー・バートンさんは、これで演奏活動からの引退ということになるんでしょうか。

小曽根真(以下、小曽根)::もうね、本人は音楽界から離れるって言っています。彼は今、インターネットを通じてレッスンをやっているんですけど、それもキリのいいところでやめたいと。なぜなら、それをやっている以上は自分がちゃんと弾けないと話にならないし、弾きたくなるだろうから、それもどこかでやめて、完全に音楽からは引退するというふうに本人は言ってます。

――残念というか、もったいないというか。何とも言いようがないです。

小曽根:彼は心臓の手術を以前に数回したことがあるんですが、最近は長旅をしたり、長時間ステージで続けて演奏すること自体が肉体的にかなりキツくなってきたようです。それと、彼はずっと音楽の世界ではパイオニア、常に何かをクリエイトしていないとエンジョイできない人なんですけど、最近は時々演奏中に意識が飛んじゃうことがあるんですって。「あれ、今どこ?」って。そういうことが起こり始めて、ステージに上がることが怖くなってると言うんです。それで2~3年前に引退を考え始めて、「マコトとのコンサートが決まっているからこれを最後に」って、どこかで決断したんでしょうね。


――ということは、今回のスケジュールを決めた時点ではラスト・ツアーのつもりではなかった?

小曽根:結果的にそうなったんです。もういいかなと思った時に、このツアーのスケジュールを見て、「マコトとなら最後のツアーは自分が安心して弾けるからいいんだ」って。でもそれを僕が知ったのは、本人からじゃなくて、去年の6月にロチェスター(ニューヨーク州)のジャズ・フェスに出た時に、元ゲイリー・バンドのサックス奏者で、スコットランド生まれのトミー・スミスから聞いたんです。彼がメールを見せてくれて、そこに「いろいろ考えて、来年のマコトのツアーを最後にリタイアする」って書いてあって、「え、俺知らないよ!」って。

――まさに青天の霹靂。

小曽根:でもその文章があまりにも淡々と書いてあったので。ゲイリーはものすごくインテリジェンスな人なので、これだけ冷静に書くということは、熟考に熟考を重ねた上での結論だろうと....。読んだ時にはショックでしたけど、これはもう決めたことなんだなと。

――覆せないと。

小曽根:で、今回の宣伝を打つのに“ファイナル”って入れるかどうか迷ったんですよ。売り文句みたいにはしたくないし。でも本当に彼は引退すると決めているので、あとになってお客さんに「なんで言ってくれなかったの」って言われるのは嫌だから、ここはちゃんと知らせようと。それでもこの“ファイナル”という意味を、そういうふうにとらえていない人がいらっしゃるんですよね。ツアーの最終日だからファイナルだと思ったとか....。じゃなくて本当にラスト・ツアーだから。まさかゲイリー・バートンが引退するなんて、誰もつながらないみたい。

――長いツアーに出るのはこれで終わりという意味かと、僕も思ってました。

小曽根:ツアーもしんどいけど、やっぱり最前線の音楽をやっていないと彼はつまらないんですよ。完璧主義者なので、そういう音楽ができないならスパッとやめる。楽しくないんだと思います、彼には。周りの人は、「仕事のペースを落とせば続けられるんじゃないの?」とか言うんだけど、そういうことじゃないんだよね、というのは僕もよくわかる。オール・オア・ナッシング。だから今回のツアーは、僕らがやってきた34年間を振り返って、彼が本当に楽しめる曲、オールド・レパートリーもけっこう入ってくると思います。何十年ぶりにやる曲もいっぱいあるので、楽しいんですよ。だけど、もし今後も彼がコンサートをやる気なら、今わざわざそういう曲をやらないと思うんですよね。やっぱり彼は新しいものをやりたがると思うので。でもそういうスタンスで音楽をやることが不安になってきて、最後のツアーで何をしよう?と言った時に、「俺が好きな曲を弾きたい。楽しんで終わりたい」と言ったので、「OK」って。それこそ、そんな話をしている時ですよ、この写真は(宣伝用フライヤーの写真)。


――これは本当にいい写真ですよ。会話が聞こえてくるようです。

小曽根:二人の34年の歴史がここにある感じですね。ゲイリーが“最後はマコトで”と言ってくれたのが本当にうれしいです。先日アメリカでツアーをやりましたから、この日本ツアーを終えたら、ゲイリーは音楽界から本当にバイバイする。で、この間のアメリカ・ツアーの時に言ってたんだけど、仮に90歳まで生きるとして、「85歳ぐらいになったらおまえに会いに日本に行くよ」って。それが最後のワールド・ツアーだって。そこまで自分の人生を計算してるんですよ。

――すごい人ですね。つくづく。

小曽根:世界中にいる友達にさよならを言って、「俺たち友達になれてよかったな」って言いに行くんだって。そういう人なんですよ。だから、仕事をのペースを落とせばいいとか、簡単な曲をやればいいとか、言えないんですよ。もうわかってるから。だから本当に一人でも多くの人に、この最後のツアーを見てほしいです。

――楽しみたいですね。ちょっと、湿っぽくなるかもしれませんけど。

小曽根:エモーショナルにはなるって言ってましたけどね。そこは二人で楽しんでやれればいいかなと思います。

◆インタビュー(2)へ
この記事をポスト

この記事の関連情報