【インタビュー】世界が認めるピアニスト反田恭平「僕は基本的に適当な人間ですが、ピアノの演奏だけは別」

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■ 勉強しても答えがないからきつい仕事ですよね
■ でも、答えがないから楽しいのかもしれない

▲(c) Andrea Monachello

── そのバッティストーニと組んだ演奏が、1曲目のラフマニノフ、ピアノ協奏曲第2番。今年の夏、トリノでの録音です。どんな思い出がありますか。

反田:RAI国立交響楽団は、素晴らしいオーケストラでした。去年、イタリアでコンチェルトを弾き実力をためしたいと受けに行ったチッタ・ディ・カントゥ国際ピアノ協奏曲コンクール。イタリア人がどういう反応をするのかが気になったんですが、古典派部門で優勝することができ、イタリアの聴衆とすごく合うなということを実感しました。何よりイタリア人と波長が合うというか、すごくいい経験になりました。それから今回のレコーディングのお話をいただいて、トリノは初めてでしたけど、すごく楽しみでした。バッティストーニのラフマニノフ2番のコンチェルトは聴いたことがなかったので、どういうふうに持って行くのか、どういうふうに戦うのか、どういうふうにオケを鳴らすのか。すごく考えましたけど、想像以上で。

── それは、具体的に言うと?

反田:僕が好きなイタリア人は、みんなフレンドリーというのが一つあります。フレンドリーだと何が起こるかというと、日本とは違うオケ内での緊張感があるんです。日本ではとても真面目な緊張感が多いですけど、イタリアは音楽を楽しんでいる、でもその中に緊張感がある。休憩時間もしゃべりかけてくれて、「元気? どこに住んでるの?」って。「東京」って言うと喜んで、「オリンピック!」とか言ってましたけど(笑)。そういった人のあたたかみを感じられるオーケストラでしたし、そうやって会話することによって、弾いてる間もアイコンタクトが取りやすくなる。それがあるのとないのとでは大きく違いますし、バッティストーニも、祖国で祖国のオーケストラと一緒にやる自信もあったのではないかと。100人が合わせるより一人が合わせたほうが話が早いので、僕もイタリア人っぽい性格寄りにして、態度をあらためて(笑)。演奏は別ですけど、結果、いいものができました。

── 素晴らしい演奏ですね。

反田:ありがとうございます。レコーディングは1日でしたが、リハーサルをして、そのまま録って終了。限られたその数時間は非常に濃かったので、今後に生かせるのではないかと思います。

── クラシック・ファンはもちろんですけど、ごく普通の音楽好きの方にもすっと聴けると思うんですね、反田さんの作品って。すごいテクニックですけど、あくまで親しみやすさがあって、はつらつとしている。反田さんは、どんな音楽家を目指していますか。

反田:やはり、もっとクラシックが身近になってほしいですね。それを考えるのが私たちですから。同世代は、日本で言うと大学4年生ですけど、音楽学校に行ってる友達にもこういう気持ちを持っている人は残念ながら少ないです。僕は適当にピアノを始めた人間ですけど、もっと真摯に、音楽界をちょっとでもいい方向に伸ばして行けたらなというのが僕の夢です。そのためには今、たくさん曲を勉強して、たくさん名前を知ってもらって、それが最初のステップだと思います。今後とも、いろいろ面白い演奏会を企画していくと思うんですけど、9月の浜離宮朝日ホールでの3夜連続コンサートと3日間の追加公演の計6日間のコンサート(※3日間テーマを変えて演奏した)がそのきっかけになったのかなということは、SNSを見ても実感してます。SNSはすごいですね、ぱっと見えちゃいますから。面白いのは、ツイッターで“反田恭平はほんとに人間だった”というのがあって(笑)。

── あはは。何だと思ってたんだろう。

反田:CDでしか聴いてなかったから、人間だとは思わなかったって。“ほんとに指10本だった”って。10本ですよ(笑)。それに僕の手は決して大きいほうではなくて。

── 見せてもらっていいですか。あ、確かに、そんなに大きくはない。

反田:身長の割りに普通の手で、職業柄ちょっと指が伸びたぐらい。指が開くのは開くんですけど。

── ラフマニノフは確か2メートルの大男で、手も大きかったとか。

反田:そう、ドからオクターブのソまでを押さえられた。僕はドからミなので、その2度のハンデは大きいです。必然的に弾けない曲は出てきますから。でも世界のピアノ人口の97%ぐらいは、それができない手なのでみんな何かしら工夫をしてやっているわけです。

── 今日は興味深い話が聞けました。正直に言いますけれど、お会いするまでは音楽オタク系の人かなと思っていたんですよ。

反田:逆ですね。何事もまんべんなく、です。

── もちろん、集中する時にはものすごくするんでしょうけど。

反田:そういう性格ですね。僕は短期集中型なので、基本的にコンサートの前以外はまったく弾かないです。本当にピアニストかってくらいに弾かない(笑)。ぼーっとしてます。でも弾かないけど、常々頭の中では考えてますよ、もちろん。楽曲の分析ですね。頭の中で何度も再生して、ここのメロディで、下が動いて、何度になって…って、けっこう細かく考えちゃうほうなので。僕には出来ないんですが、弾けないところを3時間ぐらいやる人がいますよね。あれ、ゲシュタルト崩壊になりません?

── あはは。なるかもしれない。

反田:僕、3分でなりますよ(笑)。だから基本的に、通しでしか練習しないです。まず最初に構成をしっかり見て、できない部分をそれから多少やるかもしれないですけど。まず何が必要かというと、頭で理解してから弾かないと意味がないと思うんです。それこそサッカーも一緒だと思いますし、相手がいて、どういうフェイントをすればかわせるかとか。料理も一緒だと思うんですよ。ピアニストって何する人ですか?っていう質問が、よくわかっていない人には、たとえばちびっことかにはあると思うんですね。「ピアノを弾いてお金がもらえる」と言うと、普通の仕事をしているのと一緒になりますけど、でも本当に一緒で、スポーツ選手もプレーすることでお金をもらってる。でもそのためには綿密な練習と計画性が必要で、それはピアノも一緒。ちゃんと練習して、頭で考えるということは、どの分野でも一緒だと思うんですよね、極める人というのは。そこから脱線しないように、頑張るのみです。

── 頼もしいです。期待しています。

▲(c) Andrea Monachello

反田:すごく思うのが、自分にとって刺激的な人たちと共演を重ねて、今しかできないことを吸収したいです。世界には沢山います。今回のRAIとバッティストーニとの録音は、僕にとってすごく大きな変化のきっかけにもなりました。自信にもつながりましたし、いろいろ勉強になることが多かったです。生涯勉強ですから。勉強しても答えがないからきつい仕事ですよね。でも、答えがないから楽しいのかもしれないし、飽きないのかもしれない。

取材・文=宮本英夫
撮影=大橋祐希

  ◆  ◆  ◆

▲『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番/パガニーニの主題による狂詩曲』

反田恭平『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番/パガニーニの主題による狂詩曲』

2016年11月23日発売
SACD Hybird COGQ-97
¥3,000 + 税

1. ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18
2. ラフマニノフ:ピアノとオーケストラのための「パガニーニの主題による狂詩曲」 *

反田恭平(pf)、アンドレア・バッティストーニ(cond)
RAI国立交響楽団 東京フィルハーモニー交響楽団 *

録音:2016年7月7日、Auditrium(トリノ)
2015年9月11日、東京オペラシティ・コンサートホール(ライヴ)

■公演情報

【佐渡裕指揮×反田恭平(ピアノ)
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団】
<プログラム>
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ほか

2017年
4/14(金)府中の森芸術劇場  チケットふちゅうTel:042-333-9999
4/16(日)静岡市清水文化会館マリナート  静岡新聞社・静岡放送事業部Tel:054-281-9010
4/17(月)刈谷市総合文化センター  刈谷市総合文化センター Tel:0566-21-7430
4/18(火)バロー文化ホール(多治見市文化会館)  バロー文化ホール Tel:0572-23-2600
4/21(金)キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)  テレビ信州チケットセンター Tel:026-225-0055
4/22(土)コラニー文化ホール(山梨県立県民文化ホール)  山日YBS事業局 Tel:055-231-3121
4/23(日)藤沢市民会館  茅ヶ崎市楽友協会事務局Tel:0467-82-3744
4/26(水)須賀川市文化センター  福島放送 事業部Tel:024-933-5856
4/27(木)秋田県民会館  ABS秋田放送 企画事業部Tel:018-824-8500
4/28(金)リンクステーションホール青森  青森テレビ 企画事業部Tel:017-741-1588

【2017年夏リサイタルツアー】

■東京、札幌、名古屋、兵庫、福岡 他で開催決定。
※詳細は随時オフィシャルHP http://soritakyohei.com/ にて掲載

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