【2014年グラミー賞座談会】グラミー賞の影響力と位置づけ、見どころと受賞予想

世界最高峰の音楽の祭典“グラミー賞”。トップアーティストたちのパフォーマンス、ここでしか見られないコラボレーションなど、見どころ満載の授賞式は音楽ファン必見の1年に1回のビッグイベントだ。そこで今回、1/27(月)にWOWOWで生中継となる第56回グラミー賞授賞式を前に、日本の音楽シーンをけん引するメディアが集結し、『グラミー賞受賞予想&このコラボが見たい座談会』を開催。参加者は、日本最大級の音楽情報サイト『BARKS』の烏丸哲也、音楽専門誌『MUSICA』創刊者で音楽ジャーナリストの鹿野淳、タワーレコード株式会社で長年グラミー賞のプロモーションに携わってきた高谷信夫、多くのグラミー賞ノミネーションアーティストを抱え、今年度のコンピレーションCD『2014 GRAMMY(R)ノミニーズ』発売元のワーナーミュージック・ジャパン株式会社で同作品のプロダクトマーケティングを担当した小野誠二、小阪弥生。グラミー賞の魅力や記憶に残るパフォーマンス、そして現在の日本の音楽シーンにおける洋楽の位置づけについて、その想いを熱く語ってもらった。
■洋楽不況の中でのグラミー賞の位置づけ

烏丸:僕らの世代は1970年代から1980年代の音楽をよく聞いていて、あの頃の洋楽は、MTVが出てきて、グラミー賞の情報は音楽好きの中で普通に回ってきていた。そこから得るアーティストに対する憧れや、こいつらはすごいというのを知る意味でも、グラミー賞は大きな存在でしたね。でも今は、日本の音楽シーンの中で洋楽の占めるパーセンテージが低くなってきている。グラミー賞の権威は変わっていないのに、位置づけが弱まっていますよね。だから、僕の立場としては、こういう機会に「グラミー賞ってこんなに面白いんだよ」とか、「音楽のヒントや楽しみ方がいっぱい詰まっているんだよ」と、今の若い子たちに伝えていきたい。楽しむというより、そういう立ち位置になっている感じですね。

高谷:僕はタワーレコードに入って15年になるのですが、毎年グラミー賞キャンペーンは行っていますね。洋楽がすごく調子の良かった時は盛り上がったのですが、最近は邦楽の方が調子良くて、洋楽が低迷している。だから今は、そういったお客様にアプローチしていく、いいきっかけになっています。グラミー賞の担当を5年ぐらいやっていて、キャンペーンで10万円のギフトカードを山分けしたり。とにかく興味を持ってもらいたいので、予想も途中経過をツイッターでアップして盛り上げていく、といったことは毎年やっています。実際にノミネーションが決まると、特に主要部門の作品は売上が伸びていくので、お店としてはお祭り騒ぎにしています。なかなかアカデミー賞レベルまで注目度がいかないのは、映像など色々な権利的な関係もあるのかなと思いますね。
――行われる時間帯も早朝で、テレビでは少し見づらいかもしれませんね
高谷:今回は違いますが、いつも2月の休日に発表されるので、休日出勤してラジオを聞きながらツイートしたり、POPを作ってすぐ店に配信して出したりしていますね。
鹿野:あの、アデルとかは、受賞前からイギリスやアメリカでは話題になっていましたが、日本ではアルバムのセールスがあまり動かなかったじゃないですか。でもグラミー後は、OL層なども買っていた記憶があるんですね。現実的に最優秀レコード賞などを受賞したアーティストは、リアルにCDが“動く”んですか?

烏丸:昔は着うたが瞬間的に売れるケースがありましたけど、グラミー賞は年間かけて売れていく。その影響力の長さはありますよね。
高谷:売れる方向性も変わってきます。アデルが来ると、女性ボーカルモノが流行ったり。今回はブルーノ・マーズがいっぱい獲って、シンガーソングライター的な流れが来たらいいなぁと思いますけどね。ワーナーさんもいることですし(笑)。
小野:今度、来日しますしね。4月の10日と12日・13日。ここだけの話、東京公演のプレミアムは最初は席の想定だったんですけど、もっとたくさんの人に見てもらうべくスタンディングになりました。
鹿野:とてもソウルフルだしチャーミングだしダンサブルなライヴだからスタンディングのほうがリアルですよね、ブルーノのライヴは。でも、スタンディングになったらあの人凄く小ちゃいから見えなくなっちゃうかも(笑)
■グラミー賞の影響力。コアファンには豪華なコラボ、ライトユーザーにはスタート

鹿野:レコード会社的に受賞したら、アメリカ本社から「世界中で売っていこう!お前ら気合い入れろよ」的な世界共通社内メールが配信されたり、そういう流れがあるんですか?
小阪:ノミネートされた時点で受賞を想定しておくと言うか、宣伝やプロモーション来日を組んだりしますね。やっぱり、受賞すると本国からのプライオリティも変わります。あと、2014年はワーナーから『GRAMMY(R)ノミニーズ』というCDをリリースさせていただきました。これはアメリカのメジャーレーベルが4年に1回持ち回りでリリースしているもので、洋楽不況と言われる中でも毎年コンスタントに5~6万枚くらいは確実に売れていますね。とにかく収録曲が良くて、今年のヒット曲はほぼ入っているという、グラミー協会でしかあり得ない作品ですよね。
鹿野:こういうオムニバスの購入層はどんな感じなんですか?OLが買っているのか、グラミー賞ファンという層がマーケティングとしてあるのか、あるいはコアな洋楽ファンなのか?
小野:最初に買う方は、毎年グラミー賞を見ているようなグラミー賞ファンだと思いますが、受賞後にもけっこう売れるんです。
高谷:グラミー賞というよりは、すごい豪華なコンピみたいな感じで。全部入ってますからね。
烏丸:「グラミー賞だから」ということで協力しているアーティストもきっといますよね。
小野:これ、毎年ノミネートが発表されてから権利関係を処理して、制作が始まって2カ月足らずで発売するので、いつも超特急なんです。グラミー賞だから、アーティストも許諾をする。コンピレーションまで出してっていうのは、他の国のアワードではないですよね。
鹿野:ブリットアワードもないんだっけ?
高谷:ブリットアワードもないですね。うちでかなり告知もしますが、そこまで影響はないです。
烏丸:各社協力するっていうこと自体が、完璧にグラミー賞に対する敬意を表していますよね。例えばこれ2枚組にして、同じ曲を日本のアーティストにカバーしてもらって、この楽曲の良さを日本のファンに伝えつつ、その売り上げはチャリティに回すとか。それが半年後に出るのが定例になったりするような、そんな暖かい企画があればいいですよね。勝手なこと言っていますけど(笑)。
小野:余談ですけど、これはグラミー協会監修なのですが、規制されている部分もいくつかあって、今回は「歌詞・対訳を入れてはいけない」という話もあったんです。でも、だいぶ戦いまして(笑)、入れさせていただきました。

鹿野:今の時代は、情報や権威を軽くしようとするといくらでも軽くなる時代で。だからグラミーのようなものの重さと威厳を守るのは大変な筈ですよね。そのために協会側も相当徹底したマネジメントをしているんでしょうね。
烏丸:それは、いいことでもありますよね。対訳もアーティストの表現の部分の検閲が難しいということだと思うんですけど、やっぱり日本人にとっては訳がないと内容がわからない。歌詞の世界って各アーティストにとって大事な部分だから、そういう架け橋をここで手に入れるのは大事ですよね。
鹿野:でも今の話って凄く現実的な話だと思う。もし、日本のマーケットが他の国に比べてCDが売れなかったら、平たいルールを守らなきゃ駄目だったと思うんですよ。そういうお願いを本国が聞いてくれたってことは、これだけ世界中でCDが売れない中、まだ、日本のマーケットがグラミーにとっても大きいということですよね
小野:英語の文化圏以外の国では、特段に大きいマーケットだと言えると思います。
――唯一の女性である小阪さんはいかがですか?

■「ありえない掴み」が用意されるパフォーマンス
――グラミー賞授賞式の目玉と言えば、一夜限りの超豪華なパフォーマンスです。2014年の授賞式で気になるパフォーマーを教えてください。

鹿野:僕はダフト・パンクとスティービー・ワンダーの共演が一番気になります。これはおそらく、電子音楽家達が一番熱かった時代のファンクやソウルを再現しようというダフト・パンクの“いたずら”が究極の形になる瞬間だからです。ダフト・パンクはEDMに対するカウンターとも言えるような、生の音で構成されたアルバムを作った。これまで自らが開拓してきたマーケットに敢えてカウンターを打って、その上で世界に認めさせています。本当に凄い復活撃でした。今回のステージでは、エレクトロとソウルの融合を、ヨーロッパとアメリカの融合を、大御所を連れて行うことになる。これまで、ケミカル・ブラザーズもアンダーワールドもファットボーイ・スリムもできなかったことをダフト・パンクはやろうとしている。これは電子音楽界として、1つの頂点に達したことを証明するステージになると思っています。
烏丸:ナイル・ロジャーズを持ってきたのがエポックですよね。そして、作品を認めた観衆のすごさもある。「かっこいい」と受け入れる土壌があって、最後に行きつくスティービー・ワンダーというオチが素敵すぎると思います。

小野:何かとサプライズを仕込んでいるグラミー賞なので、この他にも隠している気がしますし楽しみですよね。
烏丸:グラミー賞のパフォーマンスは、新しいアーティストを知るきっかけとして、すごく分かりやすいと思います。レジェンドとの共演があって初めて知るアーティストもいるでしょう。その時はピンと来なくても、例えばプリンスとビヨンセが共演した時もそうですし、ありえない掴みがあったりします。威厳があるのでしょうね。お祭りとしても、力の入れ方に僕らの想像を越えるものがある。
■背景を知れば結果の見方も変わる。ノミネーションを徹底考察
――今年のノミネーションを見て受ける印象はいかがでしょうか?

鹿野:日本だと、今はロックフェスや音楽フェスがマーケットの中心になっています。つまりリリースは夏前と夏後がメインになっている。フェスの前に上げ上げのアンセム系シングルを出して、そこからフェス参加を経てアルバムをリリース、そして大きなツアーという流れに似ていますね。アメリカで、年末にピークを持って来るというのは、彼らがグラミー賞を取りたいことの表れだと思います。
小野:プロモーション活動を含めた、一連の長いプランがありますよね。ロードもそうだと思います。

烏丸:エド・シーランやジェイムス・ブレイクのようなスタイルの、硬派な女性アーティストは不在だった。テイラー・スウィフトやケイティ・ペリーといった華やかな女性アーティストは多くいるけど、それとは逆だったのでみんなの目が向いた側面はあると思います。
鹿野:グラミー賞を受賞した時のノラ・ジョーンズやエイミー・ワインハウス、アデルも若くして熟したアーティストだったと思います。えてして女性アーティストの方が早期に完成されていることが多いと思いますが、17歳のロードに関しては伸びしろばかりで、タイプとしてはビョークに近い印象を持ちました。この先どうなるかが本当に楽しみです。
烏丸:3年後にどんなアルバムを出しているか、想像もできない程ですよね。
高谷:今回のノミネーションが発表されてから、一番レコードの売上が伸びているのがロードです。プロモーションも行っていますが、ノミネーションで露出があって、3倍に近い伸びを見せています。国内盤も2月に出るので、受賞となれば打ち出し易いですし、販売側としてはすごく嬉しいですね。

烏丸:以前、グラミー賞でアデルと一騎打ちと言われていた時がありましたよね。そこからアデルは、結婚や出産もあって目立った活動をしていないけれど、ブルーノは、ハワイで生まれてこんな歌やパフォーマンスがあってと、本質となる魅力が着実に伝えられてきた。あの当時よりも、今の方が彼に対する理解があると思います。それは「本当に良いよね」という底上げになっていて、日本で見聞きしても感じることなので、アメリカではそれ以上だと思います。それだけに、ここでグラミー賞を取って本物でしょうと。今なら、彼が受賞した時に心から拍手できると思います。
小野:2013年1月にプロモーションで来日した時に、「新しいアルバムはグラミー賞に入るよね」といった話をしました。それで、おそらくテイラー・スウィフトがライバルだろうという話題になった時、本人が「でも俺たちはだめかもな」みたいなことを言っていたのが興味深かった。つまり、テイラー・スウィフトにはカントリーのマーケットがあって、その違いは大きいと。それは僕らが考えている以上で、その層の票が多く入るものだと話していました。とは言え、ブルーノ・マーズは本当に、珍しいくらい老若男女に受け入れられていますね。
高谷:洋楽で何が好きかと聞かれて「ブルーノ・マーズ」と答えるのが一番ちょうどいいと思います。たとえば面接とかでそう答えられると、こいつはわかっているなと(笑)。外すことが無いだけに、逆に優秀すぎてグラミー賞の受賞の少なさに繋がっているんですかね。

小野:マックルモア&ライアン・ルイスはワーナーで販売を手がけているのですが、もとはインディーズで、今現在、国内盤は出ていないなど特殊な形態になっています。アルバムが出たのはそれなりに昔で、ヒップホップ・ファンだけが聴いているのかと言えばそうでもないし。ロードと同じとは言わないまでも、若年層から支持があると思います。海外では「来ている服はボロでも心は錦」みたいなスタイルが共感を得ているのかな。グラミー賞受賞の可能性も十分あると思いますし、新人賞は獲るかなと思っています。
烏丸:マックルモア&ライアン・ルイスが獲ったら、みんな納得するでしょうね。個人的にはエド・シーランに獲ってほしいと思っていますが。
鹿野:あとはヒップホップですね。今回もケンドリック・ラマーが主要部門にきちんとノミネートされていたり、アメリカのヒップホップは数年かけてきちんと地殻変動を起こしたと思います。もはや、昨年くらいから完成された感さえある。ムードがあってセクシーで、腰の落ちたヒップホップが今までのヒップホップに変わって新しいメインカルチャーを作っている。もし彼が最優秀を受賞するなら、それも今を象徴する流れとも言えると思います。
■栄冠は誰の手に。受賞予想を公開

小阪:レコードはブルーノ・マーズ。アルバムはマックルモア&ライアン・ルイス、楽曲はロード、新人はマックルモア&ライアン・ルイスだと思っています。
小野:レコードはブルーノ・マーズに獲って欲しいけど、ダフト・パンクがさくっと獲るかもなと。楽曲は、アメリカではP!NKの人気が高いので、意外にその線もあると思います。それかロードですかね。新人賞とアルバムはマックルモア&ライアン・ルイスに獲って欲しいですね。
高谷:キャンペーンでも毎年受賞予想を行っているのですが、当てられなくて(苦笑)。それでもアルバムはダフト・パンク。ちゃんと獲って流れを変えて欲しいと思います。日本でもすごく売れたけど、全国的にはまだ余地があるので、これで伸ばして欲しい。レコードはブルーノ・マーズで、楽曲はロード。新人賞はマックルモア&ライアン・ルイスと思いつつ、エド・シーランが獲ると嬉しいです。
鹿野:私この仕事長いもので、結構毎年予想しているんですが、15年前くらいからまったく当たらないんですよ。それでも一生懸命考えました。アルバムはダフト・パンク。シングル曲だけよりも、様々なアーティストとのコラボレートへの評価、アルバムの完成度への評価が高いと思います。で、一つ謎なのがロードの立ち位置。17歳の新人ロードが新人賞にノミネートされていない理由がわからない反面、だからこそ他でがっつり獲るんじゃないかという予想をしました。だから楽曲もレコードもロードで。最後に新人賞は、ヒップホップに焦点を当てて、ケンドリック・ラマーに授けます。
――根拠にとても説得力がありますね。

■それぞれの視点から見るグラミー賞授賞式の価値

烏丸:ぜひ、録画もして見て欲しいと思います。ライブの興奮ももちろんですが、その時には気付かない発言や、お宝のようにキラキラと光る瞬間がたくさんある。後から見直した時に、喜びを何度も味わえる番組だと思います。反芻するに値する魅力がたくさん詰まっているので、一度のライブを見ただけで済ますのはもったいない程です。
高谷:タワーレコードでは3月16日までキャンペーンを行っています。グラミー賞祭りなので、ぜひお店へ足を運んでいただき、まずは『2014 GRAMMY(R)ノミニーズ』の国内盤を買っていただいてから、授賞式をお楽しみください。
小野:宣伝ありがとうございます(笑)。改めて、『2014 GRAMMY(R)ノミニーズ』をぜひ。先日、特設サイトをオープンしたのですが、主要4部門予想キャンペーンでは、マーシャルのスピーカーの最新型のプレゼントなどもあります。

鹿野:近年、日本で暮らす人々が海外の音楽を聴かなくなっている現実があるのですが、その多くは空豆とかブロッコリーとかと同じで単なる食わず嫌いだと思います。何を食えばいいのか分らなくて、加えて日本にも美味しい音楽があるから十分という状態の音楽リスナーはたくさんいると思う。そういった方々にとって、グラミー賞は絶好のきっかけになると思います。世界中には日本の何百倍ものミュージシャンと音源が出回っていて、それだけの数があるから、ものすごい才能とアイデアとイメージが広がっています。新しい鍵を開けるような気持ちで、グラミー賞授賞式を見ていただければきっと楽しいと思います。実は私、今回のグラミーは授賞式に合わせて現地へ行くという楽しいお仕事いただきまして。昨年末にと紅白歌合戦の裏側を出演者のスタッフとして見せていただく機会があったのですが、日本の芸能と権威が、あれだけの緻密さと何百人ものスタッフで作られているのをまざまざと見ました。それも踏まえて、グラミー賞というブランドがどのように守られているのかを見て、後日レポートでまとめたいと思います。そちらも是非、ご期待ください!
※掲載情報は1月15日時点のもの。
「生中継!第56回グラミー賞授賞式」 ※生中継 ※同時通訳
2014年1月27日(月)午前 9:00[WOWOWプライム]
同日リピート放送
「第56回グラミー賞授賞式」 ※字幕
2014年1月27日(月)よる10:00[WOWOWライブ]
「いよいよ明日!第56回グラミー賞授賞式 直前スペシャル」 ※生中継 ※無料放送
2014年1月26日(日)午後1:00[WOWOWプライム]
『生中継!第56回グラミー賞授賞式』
1月27日(月)午前9:00~[WOWOWプライム]
◆WOWOW『生中継!グラミー賞ノミネーションコンサート』サイト
◆WOWOW×BARKS2014年グラミー特集チャンネル