次々と新しい歴史を作り続けてきたブライアン・イーノ

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ブライアン・イーノは、音楽界の象徴として君臨する中で次々と新しい歴史を作り続けてきた。熱心な音楽ファンにとって、イーノは数多くの顔を持つ伝説的人物だ。ロキシー・ミュージックの初代メンバーであり、デヴィッド・ボウイの往年の仕事仲間、トーキング・ヘッズ、ディーヴォ、U2、コールドプレイのプロデューサーでもある彼は、ロバート・フリップ、ジャー・ウォブル、バーバ・マール、ジョン・ケイル、デヴィド・バーン、ジョン・ハッセル、ダニエル・ラノワ、グレイス・ジョーンズ、ロバート・ワイアットらと素晴らしい音楽を作り、“アンビエント・ミュージック”のコンセプトを確立した。数々の優れたサントラを生み出してきたイーノは、ジェネレーティヴ・ミュージックのパイオニアで、魅力溢れる未来思想家でもある。

ごく普通のリスナーでは、彼の名前を耳にしたことはあるが、という人が大半だろう。他のアーティストの何百万枚というアルバムの売上げに貢献してきたイーノだが、本人名義では40年以上の音楽活動でヒット・シングルを1曲も出していないからだ。イーノのファンは、それぞれの好みと彼の音楽から何を発見したかによって、彼の膨大な作品の中で好きな曲が異なるのが特徴だ。その中でもイーノが活動初期に書いたポップ主体のソロ作品や、ベルリン三部作と呼ばれるボウイとの『ロウ』『ヒーローズ』『ロッジャー』、デヴィッド・バーンとのコラボレーション作品などが人気だ。今回は、高い評価を受けているイーノのインストゥルメンタル・ミュージックに焦点を当てて、そのトップ10を紹介したい。

10.『クラスター&イーノ』(Cluster & Eno)1977年
ドイツのミュージシャン、ハンス・ヨアヒム・ローデリウスとディーター・メビウスと作ったアルバム。プロデューサーはクラフトワーク、ノイ!、ホルガー・シューカイを手がけたことで有名なコニー・プランク。このアルバムは、柔らかいループの上をキラキラとゆらめくサウンドと、ゆっくりとどこまでも紡がれていくメロディーが特徴。

9.『ベル・スタディーズ・フォー・ザ・クロック・オブ・ザ・ロング・ナウ』(Bell Studies for the Clock of the Long Now)2003年
ロング・ナウ・ファウンデーションのために作られたチャリティー・アルバム。シンプルで美しいベル音と、現実と想像から生まれたどこまでも続く上音の震動を追求している。元々レコード店で取り扱いがなく、今でも見つけるのは難しいが探す価値のある作品だ。

8.『第4世界の鼓動』(Fourth World, Vol. 1: Possible Musics)1980年
トランペット奏者のジョン・ハッセルとの共作。ハッセルは複数の文化と近代テクノロジーから影響を受けた音楽を“fourth world(第4世界)”、もしくは“コーヒー色のクラッシック音楽”と呼んだ。アルバムの大部分はハッセルのトランペットをイーノが加工したサウンドになっているため、幅広い質感が特徴で、トランペットがまるで動物の声の様に聴こえてくる箇所もある。

7.『イヴニング・スター』(Evening Star)1975年
イーノと何度もコラボレーションしているキング・クリムゾンのロバート・フリップとレコーディングした作品。フリップがギターの演奏、イーノがスタジオの演奏を担当したと言える1枚だ。加工されたギターのテープ・ループ、ドローン、散りばめられたシンセとピアノによって形成されたサウンドが特徴。このアルバム収録の2曲は、1983年の映画『ブレスレス』に起用された。

6.『アンビエント 4:オン・ランド』 (Ambient 4: On Land)1982年
本質的にはアンビエントだが、このアルバムの音楽にイーノはより明確な方向性を与えた。それぞれの曲では特定の場所が描写されている。ビル・ラズウェルがベースを担当した「リザード・ポイント」は、最近映画『シャッターアイランド』にフィーチャーされた。これまでに多数のコンピレーションに収録されてきた「ランタン・マーシュ」は、イーノの故郷の近くの地名をタイトルにした曲。古代の港町の名前を引用した「ダンウィッチ・ビーチ、オータム」は、イーノとダニエル・ラノワによる初めてのコラボレーション曲でもある。

5.『ミュージック・フォー・フィルムス』(Music For Films)1978年
ロック・ミュージシャンが、まだ映画音楽の仕事にほとんど興味を示していなかった時代に作られたアルバム。イーノは、映画で使われることを視野にいれてこのアルバム全体を構築した。

4.『アンビエント 1:ミュージック・フォー・エアポーツ』(Ambient 1: Music For Airports)1978年
ドイツ・ケルンのボン空港での長い待ち時間に流れていた退屈なBGMからインスピレーションを受けたアルバム。イーノの作った音楽に、イーノのコラボレーション仲間であるソフト・マシーンのドラマー、ロバート・ワイアットとエンジニアのレット・デイヴィスが参加した。収録曲「2/1」の技術的な特徴は、様々な長さの6つのテープ・ループで形成されたヴォーカル・サウンドで、どちらかと言えばインストゥルメンタル・ドローンの様に使われている。この作品がイーノの初めての“アンビエント”アルバムという意見もあるが、これ以前の作品の兆候も見過ごせない。その1つは、1973年のロバート・フリップとのアルバム。今でこそ高く評価されている作品だが、発表された当初は前作から作風が極端に変わったこともあり、否定的な評価がほとんどだった。もう1つは、パッヘルベルのカノンをニ長調に脱構築した1975年の『ディスクリート・ミュージック』。この2作品が、アンビエントという方向性へイーノを導いたといえる。このアルバムの音楽は、実際にニューヨークのラガーディア空港をはじめとする様々な空港でBGMとして使われている。

3.『ネロリ』(Neroli)1993年
全1曲、58分のアンビエント作品。美しく、繊細で瞑想的なこのアルバムの与える鎮静効果は、病院で出産する時のリラックス音楽、ヨガのBGM、日曜日の朝を静かに楽しみたい時など、様々な目的に利用されてきた。

2.『ザ・パール』(The Pearl)1984年
砂漠に住むピアニスト/ギタリストのハロルド・バッドとのコラボレーショで、ダニエル・ラノワと共同プロデュースした作品。この世のものとは思えない独特の優美感は単に耳に心地良いだけでなく、リスナーをその奥にある世界へと誘ってくれる。ペット・ショップ・ボーイズのニール・テナントは、このアルバムを最も好きな作品にあげている。

1.『アポロ』(Apollo)1983年
アポロ号の月への宇宙飛行を描いたNASAのドキュメンタリー番組『フォー・オール・マン・カインド』のサウンドトラックとしてレコーディングされた、ダニエル・ラノワとのコラボレーション作品。ラノワによるペダル・スチール・ギターのゆっくりとしたサウンドが、不思議な空気感を作り出している。このアルバムには、イーノの実弟で音楽家のロジャーが参加した。現実離れした別世界の産物である様なこのアルバムには、「オールウェイズ・リターニング」「ディープ・ブルー・スカイ」「アン・エンディング・アスペクト」などイーノ作品の中でも最も人気のある曲が収録されている。

最後に、もう1つ、『アナザー・グリーンワールド』を紹介したい。全曲インストゥルメンタルではない作品だが、元々は通販でしか入手できなかった「ソンブレ・レプタイルズ」やフリップとイーノの共作「ザ・エクエイトリアル・スターズ」など、素晴らしいインストゥルメンタル曲が収録されている。

10月20日にワープ・レコードからリリースされる最新インストゥルメンタル・アルバム『スモール・クラフト・オン・ミルク・シー』で、ブライアン・イーノは再び興味深い音楽を私達に届けてくれる。このアルバムを聴いた人は、瞬間的にイーノの音楽であることを認識しながらも、彼が過去の繰り返しを避けて好奇心をかき立てる新しい道へと進んで行っているのがわかるだろう。

キース・カフーン
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