最新作『A GIRL IN SUMMER』を松任谷由実本人が全曲解説!

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01. Blue Planet 試聴はこちらから!
「生まれた街で」(アルバム『MISSLIM』収録)ができた時のように、聴いていているだけで、リクツ抜きに気持ちがよくなるような曲ができ上がって、“あ、これは絶対に波、サーフィンだ!”。言葉の響き、メロディ、リズムが一緒に聞こえると“ワァ! サーフィンしたくなっちゃう!”みたいな気持ちにさせる曲にしよう、って。

<白い光のナイフでそびえるウォールを垂直に滑ろう>って歌詞が書けたとき、“やった!”っていうようなスリル、興奮を覚えましたね。今まで書いてきた歌詞では、一番好きなぐらいのフレーズです!

波に取り組むサーファーたちへの賛歌ですが、困難に出くわしても繰り返し努力を重ね、何か大きなもの、未知のもの、至福の時を目指して立ち向かっていく人にもあてはまる歌です。それって、日頃、私自身が考えていることだし、この歌は私自身の今の気持ちを表現した歌でもあります。


02. 海に来て 試聴はこちらから!

最初に“見えた”のは、引き潮の砂浜にのめりこんだ素足。もう砂は温かいのに、水はまだ冷たくて、砂浜に足を取られ、つんのめりそうになっている姿。そうしたら、まるで映画のシーンのように素足のクローズ・アップが次第に後ろに引いていって、佇む人の姿、背景に広がる情景が、俯瞰的なショットで見えてきました。春の名残りがまだあって、夏にはまだ早い季節。それぞれの人にとっての遅い春の訪れ。新しい学校、新しい会社、新しい仕事を始めた頃になって、ふと、卒業前の出来事が蘇ったり、ずっと強がりを言って孤独だった人がやっと見つけた春。そんな風にいろんな人物像、主人公が思い浮かぶはず。遊び疲れた人が、ようやく見つけた春、っていうのもアリかな(笑)。



03. 哀しみのルート16 試聴はこちらから!
ルート16、国道16号線というのは、横浜や横須賀と厚木、座間の基地を結ぶ米軍の物資を輸送する軍用道路でした。八王子の生まれで、基地も近かったし、私があの頃感じた独特のキッチュ感を、歌に織り込んで……。最初はゾンビーズのような曲を書いてましたが、サーフィン・サウンドを合わせて。フランツ・フェルディナンドのような、イギリスの男の子たちがやってるちょっと間抜けっぽい感じのレトロな60'sをやってみようか、って(笑)。

思い浮かんだのは、国道を疾走する車。フロントグラスを叩きつける激しい雨、土砂降りの雨。昼間なのか、夜なのか、土砂降りの雨でわからない。時刻がわからない。それに前も、先も見えない。募る不安、焦燥感。今日限り、これっきり、という最後の別れのドライブ……。

メロディの構成が次々に変わっていくあたり、特にBメロのコール&レスポンス風な構成、土砂降りの雨の国道を走っているのに、海に続く道、海の匂いのする光景。これも書き終えて“ヤッタ!”な感覚でした。

この曲、自分で相当、気に入ってます。気合が入りました。



04.もうここには何もない
ポップでキャッチーなメロディを組み合わせていって、すんなりと書けた曲でしたが、いざ歌うとなると、大変でした(笑)。歌唱力以上の作品を生んでしまった、というのはこれまでに何回もあって、それが歌唱力を仕方なしに向上させてきた(笑)。UKロックとかユーロのテイストが反映されているのは、昨年、LIVE8を目の当たりしてきたことに関係がありますね、きっと。それに、UKロックにどっぷりつかってた昔の頃のことが蘇ったり。歌詞にその名残りがあります。夜明けの海、国道のノイズが聞こえてきそうな海の情景が思い浮かびました。最後の別れの朝。倒れた砂時計。止まった時間。それがこの歌のすべてを象徴しています。

<未来はいつも 後から来ては全てをさらってゆく>という歌詞がありますが、それは、『acacia(アケイシャ)』の頃から再び考え始めた過去、現在、未来、時間の経過についてのことをテーマにしたものです。


05. あなたに届くように(Album Version)
どこともいえない知らない街に降り立って、目の当たりにした風景や出会った人のことを思い出す。旅先から出した、旅先から届いたカードや手紙が思い浮かびました。旅をしている人の足音が聞こえるような歌、っていうことで書いた歌です。最初、メロディやコードの感じから、ラテンやスパニッシュ、フォルクローレのようなイメージがありましたが、フュージョン的な仕上がりになって。今回、生ギターを入れたら、あたりに南国の湿度感が……。そんなこともあって、歌を入れ直しました。

歌詞を書くときには、やはりいろんな遺跡に行った時のこと、場所、風景、温度、湿度までもが蘇りましたね。それで、<立ち止まり ふりかえる>という歌詞ですが、それは旅先で目の当たりにした風景だけではなく、自分自身が歩いてきた道程、という意味も含まれています


06. Many is the time
ボサ・ノヴァやラテン・テイストを織り込んだポップ・ソングです。私自身、この手の刹那さが好きですから。“マンネリしてる!”って言われるかな(笑)。「Smileagain」で一緒にやった韓国のイム(・ヒョンジュ)さんのソウル公演にゲスト出演した時、韓国では初雪が降ったら、好きな人に電話をする、っていう風習があるって聞いて。それが、いいなあと思ったのがこの歌の歌詞のテーマ、キッカケになりました。

カフェからかける電話、といえば今では携帯ですよね。それに、電話よりも携帯のメールで、って人が多いかもしれない。でも、やっぱり電話ということなら、声が聞いてみたい。もう会うことがないだろう別れた恋人の声なら、なおさら。電話って、心が締め付けられる。電話がかかってこないこと、電話しても相手が出ないこと、通じて話をしたとしても、そこにかけたエネルギー分だけ未練がふりつもる……。

<as much as~>という表現がそれを物語ってます。

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