「M-SPOT」Vol.023「心地よいR&B系ボーカルと、そこに鳴っているトラックの時代性」

2025.06.25 12:00

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歌詞がないだけインストは面白い。聴く人の想像性によって、あるいはその時の環境によっても楽曲のイメージや印象が変化する。前回はそんなテーマでひとりのインスト作家をご紹介したが、今回は一変して心地よいボーカルを楽しめるR&Bな楽曲をご紹介。

心地よいボーカル・メロディと同時に、そのトラックがどのようなアレンジで、どのような展開を見せるのか、そこにも時代性やアーティストの影響が見え隠れする。いつものように、ナビゲーターはTuneCore Japanの堀巧馬と野邊拓実、進行役の烏丸哲也(BARKS)である。

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──前回はインストの面白さに言及するお話になりましたが、歌ものの良さには「このボーカル好き」とか「この人の声が好み」みたいな、わかりやすい直球な理由もあって、理屈じゃない魅力を持っていますよね。

野邊拓実(TuneCore Japan):僕は自分でも音楽を作っている側なので、「どこに僕らしさがあるか」とか「人がやっていなくて自分がやっていることはどこか」みたいにいろんなことを考えたり、トラックの使い方とか音の作り方にすごくこだわったりするんですけど、リスナーと触れ合ってみればみるほど、リスナーはそんなとこ聴いてないみたいな現実もありますね。「いい歌かどうかそれだけ」みたいな(笑)。

──ありがちですね。でもこだわることは大事ですから。

野邊拓実(TuneCore Japan):そういうのが歌自体にも出ていると思うし、歌の印象を決める演出でもあるのでね。

堀巧馬(TuneCore Japan):そういう意味では、例えばkeigoの「Real ones (feat. MUD)」というR&Bなどは、普通にいい曲だなって思います。

──気持ちいい声ですね。

野邊拓実(TuneCore Japan):曲も気持ちいいし、声も気持ちいい。

堀巧馬(TuneCore Japan):単にR&Bというよりグループが黒いですね。

──ラップにも出てきますが、沖縄の方みたいです。

堀巧馬(TuneCore Japan):言葉の間の取り方とかめちゃくちゃいいですね。

──ここでひとつ疑問というか皆さんへの投げかけなんですが、フィーチャリングを入れる理由・目的って何なんでしょう。今回はMUDさんというラップなんですが。

堀巧馬(TuneCore Japan):なんとなくですけど、R&BでAサビ~Bサビという構成だった時に、AとBの違いって作るの難しいんですよね。R&Bってなんか同じふうに聴こえる傾向にある。で、この曲で言えば3分36秒の中でサビのあとに新しいリズム感とかメロディーを入れたくなった時に、ラップ調なものはその雰囲気をガラッと変えるのにはすごいいいスパイスになりますよね。

──なるほど

堀巧馬(TuneCore Japan):…とか、勝手ながら思いましたけど、ホントは「思いつかねえから、なんか誰かラップしてくんねえかな」ぐらいのやつかもしれないし(笑)。

野邊拓実(TuneCore Japan):僕の妄想の話をすると、このkeigoさんとMUDさんが「なんか一緒にやろうぜ」から始まったんじゃないかな、と。

──なるほど、それもありますね。

野邊拓実(TuneCore Japan):で、keigoさんが「曲を作ってくるわ」ってどちらの要素も入った曲になっているっていうのが、自然な流れかな。

堀巧馬(TuneCore Japan):だから、もしMUDさんが曲を作っていたとしたら、多分サビのコーラス部分でkeigoさんがフィーチャリングされる。

野邊拓実(TuneCore Japan):そうそう、そんな感じ。

──なるほど。なぜこんな問いかけをしたかというと、曲の構成上、昔だったらギターソロだったんだろうなって思ったんですね。マイケル・ジャクソンが「Beat It」でエディ・ヴァン・ヘイレンをフィーチャリングしたあの構成と同じだなと。新たなスパイスやフックが欲しい時、何を持ってくるかで時代性とか音楽性、趣味や嗜好性が表れますよね。今時のラップはギターソロなのかって勝手に思ったんです。

keigo

堀巧馬(TuneCore Japan):確かにその考え方で言ったら、仮に俺がプロデューサーだったとしたら、ラップじゃなくてジャジーなピアノ・ソロとか入れたくなるね。

野邊拓実(TuneCore Japan):そうっすね。

堀巧馬(TuneCore Japan):そういうのも似合うよねぇ。でもピアノも凄く上手くないと成立しなさそうな感じもする。声に負けちゃうかな。

野邊拓実(TuneCore Japan):あるいは、逆にめっちゃ当たり障りないものを入れちゃう(笑)。でも普通すぎてつまんないねって言って、「何かもっと落とそうか」ってビートも消しちゃってピアノソロだけにする…みたいなことを考えがち(笑)。

──好き勝手言ってますな(笑)。

野邊拓実(TuneCore Japan):でも、現代のラップって、そういう風にも使えるんだなっていうのは、確かにそうだと思いますね。

堀巧馬(TuneCore Japan):烏丸さんの視点で言えば、確かにR&Bにラップを入れるっていうのはもはや定型化していて、「それ、なんでラップ入れる必要あるんだっけ」と問い正したら、もっといろんな選択肢が出てきますよね。そのピアノでもいいし、別にギターソロがあっちゃいけない理由なんてないし、別に無理やりバンドサウンドを入れる必要もないけど。

──もちろんこの曲は、声も良くていいグルーブでそれに受けてラップがあって、よくできた楽曲ですから、何の問題も文句もない前提で話してますけどね。

野邊拓実(TuneCore Japan):僕もラップが入る曲なんだと思いつつも、そこにも全く違和感はなく、変わらず気持ちいいねみたいに聴いていましたから。

──ですよね。一方で、この曲も気持ちいいですよ。Shunnnさんの「Bae」という曲です。

──まるで洋楽テイストで、サム・スミスみたいでしょ?福岡出身のミュージシャンなんですがバンコクで活動してるという方なんですよ。

堀巧馬(TuneCore Japan):20歳だそうですよ。この年齢でこのこなれ感。

──どういうこと?って感じですよね。凄くないですか?

野邊拓実(TuneCore Japan):僕は、結構レディオヘッドっぽいなって思いました。レディオヘッドの2枚目『ザ・ベンズ』とかに入っていそうなアコギで始まりつつ、途中から入るちょっとディレイがかった音とかは、後半の『イン・レインボウズ』あたりの影響を受けていそうな音の使い方だなって。全体的にUKっぽいですよね。

堀巧馬(TuneCore Japan):なるほどね。サム・スミスもイギリスでしたっけ。

野邊拓実(TuneCore Japan):ロンドンですね。

堀巧馬(TuneCore Japan):なんだろうね。UKバイブスみたいなものってあるのかな。

野邊拓実(TuneCore Japan):UKに影響を受けてるな…みたいな人って、上手く言語化できないんですけど、多分僕はコードの使い方…コードとコードに対するメロ感みたいなものでUKっぽさって感じられてると思うんですよね。ちょっとオンコードっぽいというか。僕が今32歳なんですけど、僕の世代って高校生の頃にレディオヘッドを聴いていた世代なんですよ。大人になるとレディオヘッドとかに影響を受けた音楽をやるみたいな人が多い世代だと思うんです。でも今20歳ってなると、40代ぐらいのお父さんお母さんが聴いてたのがレディオヘッドみたいな。

──なるほど、ちょうど当てはまりますね。

野邊拓実(TuneCore Japan):『パブロ・ハニー』が1993年なんで、その後『ザ・ベンズ』とか『OK コンピューター』を聴いていたお父さんお母さんの家庭で育った子が、今20歳になったという。

堀巧馬(TuneCore Japan):でも福岡出身、20歳でバンコクで活動って凄いですよね。

野邊拓実(TuneCore Japan):ちょっとわからないですね。

Shunnn

堀巧馬(TuneCore Japan):家庭の事情でバンコクに引っ越したのかもしれないけど、音楽活動としてバンコクでやっていくことを20歳で実行しているのだとすれば、逆に「なんでこの人売れてないの?」ってことですいよね。もう、超ブレイクしそうなポテンシャルを感じます。

──つくづく、チューンコアは宝の山ですね。

野邊拓実(TuneCore Japan):逆にこういう方たちが世に知られてないということは、僕らの課題でもあるので、こういうすごい人たちが見つかるたびに、申し訳ないという気持ちになります。

堀巧馬(TuneCore Japan):僕らが頑張らないと、もったいないというか、日本の損失だよね。

野邊拓実(TuneCore Japan):インディペンデントって、そういう人たちが本当にゴロゴロいるところなので、万人受けするような…例えば紅白歌合戦に出る人か?と言われたら、多分そういう方向ではないとは思うんですけど、でも、こういう音楽やアートが好きな人って日本にもすごくいっぱいいて、そういう人たちにちゃんとダイレクトに届けられるようになるといいなとは思うんですよね。そういうターゲットマーケティングみたいなことが、日本の音楽業界全体的でレベルが上がってくると、誰にも知られずに消えていく天才たちも少なくなっていくと思います。

──そうですね、音楽産業に関わる人たちの大きな課題、それが大事な仕事ですね。

野邊拓実(TuneCore Japan):全然知られてない人たちをなるべく知ってもらうための動きみたいなものが、音楽業界全体的に活性化すると文化全体のレベルが上がってくんじゃないかなって思いますね。

協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.

keigo

沖縄の地でHIPHOP/R&Bに影響を受けて2020年から音楽活動を開始。 同郷のビートメーカー、NGONGとのコラボシングル「Trust」にて本格的にキャリアを歩み始め、2023年にはYo-Seaの1stアルバム『Sea Of Love』収録の「Grateful」にて客演参加。その後もプロデューサー/DJのTOMiとのコラボシングル「Way Good」や、Awichが主宰する『098 RADIO vol.2』 収録の「ユーフォリア (feat. CHOUJI & RITTO)」、GOTTZの最新アルバム『numbers』収録「Soldiers」、5278『SEASON 1 (Deluxe)』収録の「Better Days」に客演参加するなどキャリア初期にして多岐に渡る活躍を見せている。 GroovyなR&Bから軽快なAfro beats、Reggae、HIPHOPまで幅広いジャンルをリリースしており、シンガーのみならずラッパーとの楽曲制作など、独自のスタイルで音楽を追求している。 2024年11月から2025年2月まで連続で毎月1曲ずつシングルをリリースしており、2025年3月26日に自身初となるR&B楽曲を収録した EP「Imagination」をリリース。2025年4月30日にHIPHOP、Dance Hall、Roots Reggaeなどのオールジャンル楽曲を収録した2nd EP「Creation」をリリースした。
https://www.tunecore.co.jp/artists/Kethug-446

Shunnn

2004年福岡県生まれの海外を拠点にするR&Bアーティスト/プロデューサー。ジャンルや言語に縛られずたくさんの音楽からインスパイアを受けてきた彼から生まれる曲は唯一無二の世界観を表現している。2025年には多くの楽曲リリースが期待されている。
https://www.tunecore.co.jp/artists/shunnn

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