「M-SPOT」Vol.027「多才なキャリアを持ってこそ生まれる、まだ見ぬ新たな可能性」

TuneCore Japanからワールドワイドに音楽作品をリリースしているインディペンデント・アーティストには、多種多様なあらゆるタイプのミュージシャンがいる。そんな中でも今回はひときわ多彩な才能を持っていると思しきアーティストをピックアップしてみたい。
「人生何周目なんだ?」と言いたくなるような履歴を持っていたり、「天は何物をこの人に与えているんだ」と呆れるほどのスペックが発覚したり…と、天賦の才がゴロゴロ転がっていたりする。お話の相手はTuneCore Japanの野邊拓実、進行役は烏丸哲也(BARKS)である。
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──このM-SPOTに応募してきたアーティストの曲を聴いていると、本当にすごい才能にぶち当たることも頻繁にありまして、例えばNIis(ニーズ)というアーティストも凄いんですよ。作詞・作曲・トラックメイクを行うシンガーソングライターなんですが、ラッパーとしての高いスキルも持ちながら、実はダンサーでもあるという。あげくモデルとしても活動しているんです。
野邊拓実(TuneCore Japan):元々はダンサーの方なんですね。
──みたいですね。これだけ揃っているって、ずるくないですか(笑)?
野邊拓実(TuneCore Japan):いや、これはずるいですね(笑)。人間何週目なんだって思います。
──この「Crier」という曲には、ちょっと切なさのような気配もあって、ふと2009年にデビューしたJASMINEの「sad to say」を思い出して甘酸っぱい気持ちになったりして(笑)。
野邊拓実(TuneCore Japan):まず単純に楽曲がおしゃれですね。始まりの部分のバックのエレピのコードがシャランって鳴ってるところと、メインで鳴っているリードシンセの絶妙のアナログ感みたいなところが、今っぽくておしゃれ。そういうセンスを普通にネイティブに持っているんだなって感じました。で、ちょっと面白いなって思ったのがリズムなんですよ。ダンサーの方って、やっぱリズム感がすごくいいなと思うことがあって。
──ほう。
野邊拓実(TuneCore Japan):バンドとかをやっていると、最初のうちって結構足をパタパタさせてリズム取りがちですよね。その次の段階くらいに、身体全身でリズムを取るようになる感覚が出てくるようになる気がするんです。ただ、その先に、また足でリズムを取るようになるフェイズがある人もいるっぽいっていうのもあるんですけど(笑)。
──面白い。
野邊拓実(TuneCore Japan):そうなんですけど、足でリズムを取っている最初のうちって、「自分の外にリズムを置いている」感覚なんですよね。それが、身体全身で乗っていると「自分の中でリズムを取っている」感じになる。このあたりはプレイヤーとしての感覚の違いなんで言語化するのが難しいんですけど、ダンサーって、根っから身体でリズムを取ることが染みついている感じがして、リズムに対してすごく余裕があるなって思うんです。
──わかる気がします。
野邊拓実(TuneCore Japan):リズムを追っているのではなく、自分のリズムと音楽のリズムがピッタリ合っている余裕。で、NIisさんの「Crier」にもそれを凄く感じるんです。というのも、前半のサビ前ぐらいまで、ちょっとリズムの取り方がシャッフルっぽいなって思ったんですね。
──歌がちょっとハネている感覚、ありますよね。

野邊拓実(TuneCore Japan):メロディーだけちょっとシャッフルっぽくリズムを取っている箇所があって。意図的にそういう譜割りにしているのか、なんとなく癖でそっちに寄っちゃっているだけなのかは判断できませんけど、そしたらサビでは全然シャッフルじゃなくて16ビートになるんですよね。
──ベタな16の譜割りになった、と。
野邊拓実(TuneCore Japan):そう。Aメロで感じた違和感、シャッフル?…じゃないのかな?というリズムに対するなんとなくなモヤモヤが、サビに入ったところで全部が16ビートに揃って、コード進行で言うところの「解決」が起こったような感覚があったんですよね。サビに入って「異常に気持ちいい」みたいな(笑)。
──なるほど。例えば、寺尾聰の「ルビーの指環」はあの絶妙なハネ具合が肝という話がありますけど、リズムの変化によって「解決」させるというアレンジは、今まで聞いたことがないな。
野邊拓実(TuneCore Japan):プレイヤーがいることの面白さって、そこだとも思うんです。AIが出てきちゃっている時点で、現場における演奏力も問われず「AIでいいじゃん」みたいな感じも出てきていると思うんですけど、そうなった時に、音源でもライブでも癖で絶妙にハネちゃってるみたいな部分って、人間にしかできないというか人間じゃないと意味がないポイントだと思うんですよね。これって今後の音楽の楽しみ方のひとつとしてあるべきだなっていうのを最近感じます。
──そこにその人の癖や個性、ミュージシャンシップが表れますからね。
野邊拓実(TuneCore Japan):そうなんですよ。ずっとジャズ・ブルースやってきましたみたいな人が、気を抜いた時にちょっとハネちゃうとかって、結構あると思うんですよね。「根っこに染みついているのがハーフタイムシャッフルだから」みたいな。
──ありがちですね。で、そこが最大の魅力だったりもして。
野邊拓実(TuneCore Japan):そういう癖とか色のようなものこそ、そのアーティストをアーティストたらしめてる要素のすごい重要なひとつだったりするので、NIisさんにはそういうことをちょっと感じたかな。リズムに対して何かルーツを持っているのかなと思ったら、プロフィールに「元々ダンスをやっていた」とあって、納得みたいな。
──同じフレーズを弾かせても人によってリズムの乗り方が違いますからね。
野邊拓実(TuneCore Japan):そうですよね。要はリズムってものの捉え方の話で、リズムを真正面から見てる人もいれば、ちょっと前から、ちょっと後から見てる人もいて、そういう癖って良い悪いじゃなくて個性じゃないですか。その癖を出すべきところで出して出さないべきところでは出さないみたいな、空気を読んで個性をオン・オフすることができるものだと思うので、そういう表現は今後もAIに対して価値があるものになっていくと思いますね。
──それを音楽で感じた時の面白さや興奮が、リスナーのワクワクでもありますからね。そういった聴き応えのある多彩なアーティストという点では、Lisa Yoshitomiも凄いんですよ。まずは聴きましょう。
野邊拓実(TuneCore Japan):この人、すごい経歴ですね。壱岐をルーツに持つけど日・英・仏のトリリンガル。19歳の時にパリでファッションデザインを学んでパリコレの複数のメゾンでアシスタントを経験し、2024年から自宅で作詞作曲を始めてSoundCloud等で曲をアップロードするようになった、と。
──2024年からってことは、曲を作り出したのは去年ですよ。
野邊拓実(TuneCore Japan):ヨーロッパをはじめ、ドバイ、香港など世界40都市以上を旅しながら各国の文化に触れ、中・韓・仏・西・露などの非英語圏の音楽シーンも好んで聴くそうです。
──で、極み付けは、2025年に「能楽金春流入門」だって。ヤバいでしょ。
野邊拓実(TuneCore Japan):やばすぎですね、すげえな。
──この「Better Days」という曲は、カテゴリーとしては「ヒップホップ/ラップ」とのことですが。
野邊拓実(TuneCore Japan):もともとヒップホップってものすごい器の大きいジャンルで、広いものを受け入れる土壌のあるジャンルだとは思っているんですけど、にしてもこの方のインプット量っていうのは広すぎないか(笑)みたいな。
──常軌を逸していますよね。
野邊拓実(TuneCore Japan):最後、能楽にランディングしている感じも含めて、すごくいいなと思うのは、日本独自なものへの追求とか、日本人だからできる音楽とか日本人のメンタリティーって何なのかみたいなところに注力した時、結局は海外と日本を相対的に見れていないと見い出せないことだと思うわけです。ちゃんと海外を経験して、一次情報として海外の生のものに触れてきて、そういった海外にすごく染まっている人こそ、1番日本独自のものは何なのか、日本の魅力っていうものに気付きやすいと思いますよね。そういう文脈からも、2025年に能楽に落ち着いているというところに、そのメンタリティーを感じます。
──鬼才ですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):この人が本気で「日本独自っていうのはこういうことだ」みたいなものを作ろうと思ったら、多分作るんじゃないかなみたいな気がして。「Better Days」はちょっとエスニックな雰囲気のギターのフレーズが印象的ですけど、途中でリズムが消えた時に、バックのギターがコードを鳴らすフレーズに変わるでしょう?それ以降のトラックでは、また最初のフレーズがそのまま続くんですけど、ちょっとずつバックの変化が作られてるところに、制作に対する丁寧さも感じますね。なんなら変わったことに気付かないぐらいの緻密さで変化が起こっていくような丁寧な作りって、個人的に好きなんですよ。変化自体は起きてるから飽きずに聴けるみたいな。でも最後の方には、ガラッと印象が変わるような歌い回しになる。
──後半の英語のラップなどは、感情の発露を感じさせますね。
野邊拓実(TuneCore Japan):そういう演出がうまいところとか、丁寧なところからダイナミックなところまで全部作れるんだなって感じて、「これは2024年から音楽を始めた人の作り方ではないでしょ」「1年でここに到達できるのか…」って思います。もしかしたら、デザインとか他の領域でそういうダイナミックスを学んで、その感性を音楽に転用することで短期間で身につけたのかな。

──これまでのキャリアがどう活きるか、今後も楽しみですね。日本の四季感とか花鳥風月のような独自の価値観、日本語の美しさなどを世界目線で理解できるというのは、とてつもない財産・大きな才能ですから。
野邊拓実(TuneCore Japan):普通の人には出せない要素がありますからね。世界を見てきた彼女が、これからどういう風に日本を捉えていくのかは、すごい楽しみ。「Better Days」でも英語と日本語の部分が極められていたと思うんですけど、逆に日本語と英語の違いを突き詰めていけば、どういうメロディーの違いになるのかみたいな、他の人にはできないことができますよね。日本語ってひとつの子音に対してひとつの母音がつくという独特な発音体系を持っているから、1単語の音節数がすごく多いという日本語の特徴が、メロディー感や譜割りの違いみたいなのを生むと思うんです。
──勝手ながら夢が広がりますね。1999年生まれという若さでこのキャリアなんだもの。能楽を通して日本人独特の感情表現を会得したりすると音楽にどう反映されていくのか、まだ誰も到達していない世界を体現してほしいですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):真の意味でのJ-POPを作り上げるのはこういう方なのかもしれないなって、ふと思ったりします。
協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.
NIis
幼少よりダンスを始めHIPHOPカルチャーと出会う。 15歳から独学でギターを始めたことをきっかけに地元で音楽活動を開始。上京後はモデルとして活動しながら、R&B/HIPHOPをベースにDTMでオリジナル曲を制作する日々を過ごす。 自ら作詞・作曲・トラックメイクを手がけ、ダンススキルも高水準で兼ね備えるマルチプレイヤー。SSW/RAPPER/DANCERという肩書きを持つZ世代のニューフェイス。2023年12月に初音源となる「REGRET feat. YOSHIKI EZAKI」をリリースし、アーティスト活動を開始。
https://www.tunecore.co.jp/artists?id=809252
LISA YOSHITOMI
1999年生まれ。東京を拠点とするシンガーソングライター。地元・壱岐をルーツに持つ。日・英・仏を話すトリリンガル。 19歳にて渡仏、パリでファッションデザインを学びパリコレの複数のメゾンにてアシスタントを経験後、2024年より自宅で作詞作曲を開始、SoundCloud等で曲をアップロードするようになる。 ヨーロッパをはじめ、ドバイ、香港など世界40都市以上を旅しながら各国の文化に触れ、普段から英語のみならず、中・韓・仏・西・露等の非英語圏の音楽シーンも好んで聞く。 言語の壁を超える音楽への可能性を見出しながら、自身も特定の枠に囚われない楽曲制作に取り組んでいる。2025年能楽金春流入門。
https://www.tunecore.co.jp/artists?id=922490







