【インタビュー】「Cassette Week Japan」10年目に見る、カセットカルチャーの現在地

2025.07.22 13:00

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音楽のリスニング環境はすっかりストリーミングが定着し、ツールはスマホ、聴くのはイヤホン/ヘッドホンというスタイルが生活に密着したことで、CDパッケージの存在感は少しずつ確実に影を落としている。そんな状況にもかかわらず、アナログレコードに続きカセットテープの人気と需要がじわじわと再燃していることはご存知だろうか。

2013年にロンドンでスタートし、ヨーロッパ、アメリカ、アジア各国に世界的な規模に成長した「Cassette Store Day」は、2021年から米「CASSETTE WEEK」が後継イベントとなり、毎年途切れることなく世界規模でカセットテープの祭典が繰り広げられている。ここ日本でも2016年から公式スタートしており、2025年は節目の10年を迎えるアニバーサリーイヤーとして10月13日~19日に「Cassette Week Japan 2025」が開催される予定だ。

全国の参加レコード店・賛同ストアやイベント会場で様々な催しが予定されており、限定商品の発売・公式ライブ・レコード店舗による独自イベントはもちろん、特別アイテムとして様々なアーティストのレア音源がカセットテープで限定販売される点も見逃せないところ。

いま再び注目を集め人気が再燃しているカセットテープは、近年のレトロブームやリバイバル・アナログメディアとして再注目されていると言われがち。…だが、若年層から強い支持を受けていると当時に、多くの若き現役アーティストがカセットでのリリースを敢行している現実をみれば、単なるノスタルジー・ムーブメントではないことは火を見るよりも明らかだ。

カセットテープ製作『CASSETTE EXPRESS』を運営しているSide-Bクリエーションズは、音楽カルチャーとしてのカセット普及・振興を目的として「Cassette Week(Cassette Store Day)」日本事務局を務め、イベントを通じて多くの人にカセットの魅力を存分に楽しんでもらうべく活動を重ねている。事務局が考えるカセットテープの魅力とは? 何がそれほど人を引き付けるのか、2025年におけるカセットテープの存在感はいかなるものなのか…事務局長を務める遠藤剛正氏(Side-BクリエーションズCEO)に話を伺った。

遠藤剛正氏(Side-BクリエーションズCEO)

──「Cassette Week(Cassette Store Day)」は、2025年で日本開催10年となる節目を迎えるそうですね。

遠藤:そうなんです。10月に1週間通して「Cassette Week Japan 2025」が開催されます。

──そもそも遠藤さんが、カセットテープに着目したのはいつ頃の話なんですか?

遠藤:私、以前はアメリカの投資銀行にいたんですが、定年退職後にセカンドライフとして新しいことをやりたいなという気持ちもあって、縁あった音楽レーベルの方とお仕事したり、渋谷にライブハウスを一緒に作ったりしていたんです。そんなときにアナログレコードが世界的に注目されてきていまして、これはビジネスとしてニーズがあると思いレコードの制作仲介の会社を始めたんですね。ただ、その当時は日本でもレコードをプレスする会社はあったんですけど、カセットを作っている会社は見当たらないんです。同じアナログメディアっていう観点からカセットもできないかなっていうことで、欧米の業者にコンタクトしまして、海外でカセット制作の事業を始めたんです。そこがそもそものきっかけですね。

──アナログレコードのみならず、カセットにまでも見出したその魅力というのはどういうものだったんですか?

遠藤:そもそも「人がやってないものをやりたい」っていうのもありまして(笑)。ビジネスの観点から、競合が少ないといわゆる戦略的には勝機があるという点もありますし、当時は海外でのCD売り上げがどんどん下がってサブスクやダウンロードが主流になりつつあったんですけど、レコードショップはまだまだ残っていたんです。CDショップはほとんどないのに。アナログに対するムーブメントがちょっと見えてきたタイミングでもあって、特にアメリカの西海岸とかUKではアナログに対する需要が上がって、販売数量も増えてきていたんですね。

──日本はガラパゴス化していた頃ですね。

遠藤:日本は凄く遅れていました。特にメジャーレーベルさんなどは、昔のメディアでもあるレコードをもう1回作るということに対しては、戦略的にも非常に難しいものがあったと思います。でも、その流れがいずれ日本にも来るんじゃないかなっていうのが、私にとっての1番の原動力でしたね。

──欧米において、なぜCDは衰退するのにアナログレコードは再燃していくという現象が起こったのでしょう。

遠藤:やっぱりフィジカルのメディアであるという点が1番大きいと思います。レコードは必ず30cmのジャケットがありますよね。そのアートワークは飾れる商品でもあったわけです。高所得の人は絵を買ったり、いろんなインテリアを買えると思うんですけど、一般の人たちはレコードを飾ることが昔から文化としてあったと思うんです。カセットに関して言えば、まだ10年ぐらい前の話ですけど、意外とアメリカの中古車にはカセットプレイヤーがついていたりもしたんです。

──アメリカでは動かなくなるまで乗り潰しますものね。

遠藤:そういった意味ではカセットの文化っていうのは、衰退はしましたものの無くなってはいなかったんです。その後の世界的な流れとして、やはりSNSの影響があります。インスタとかXもそうですけど、アートワークのある音楽メディアなので映えるんですよ。そういった部分が今の世代にとって「新しい」と捉えられてきたんです。

──レトロブームではなく、新しいアイテムとして注目され出したということですね。

遠藤:10年前から比べますと、取り扱ってる量が変わりましたね。カセットテープに関しては、始めた当初は1日に数件しかなかったのが、今は2桁以上のリリースのご依頼をいただいています。コロナ禍でコンサートができなかった頃、やっぱりグッズ販売も低迷していましたので、配信とともにアナログメディアをつけるというレーベルの戦略もありました。そういった意味では、もちろん配信がメインなんですけど、それに加えてアナログを出すっていうことが定着してきた感じがします。ここにきてメジャーレーベルさんからのご依頼も非常に増えてきています。

──カセット人気がじわじわ高まっているのは肌でも感じます。

遠藤:実はカセットって安価に作れるんです。レコードはだいたい1枚あたり2000~3000円もコストがかかるので、どうしても高価格になってしまう。インディペンデントのアーティストも初回はファンが買ってくれるんですけど、2回目は買えないですよね。「お小遣いがないよ、そんなにたくさんリリースされても困る」って感じになっちゃう。その点カセットは1本数百円で作れるんです。それにレコードは早くても1か月ちょっと、最近は混んでいるので製造に数ヶ月かかることもあるんですが、カセットは比較的早くて数週間でできるというメリットがあります。

──コストがぜんぜん違うんですね。

遠藤:あとはカラーバリエーションですね。レコードもカラー盤がかなり増えてきたんですけど、カセットは本体もケースもいろんなカラーバリエーションが対応可能なので、自分のアーティストカラーとかライブ会場によって変えるとか、いろんな販売方法が作れるんです。

──自分たちの個性や表現に即したアイテムとして使いやすいんですね。

遠藤:グッズになる音楽メディアなんです。そもそもカセットって、ダビングして自分でミックステープを作るというカルチャーもありましたから、クラブ系DJなどにも非常に相性がいいですし、西海岸のヒップホップとかラジカセなどのカルチャーにもテイストに合った商品を作れる魅力がありますね。今では、全ジャンルにわたって多くのアーティストに浸透しましたけれど。

──カセットでリリースしたいと思っても、「みんなプレイヤーを持っていないからダメ」とNGになるパターンも容易に想像できるんですが、そのあたりはどうでしょう。

遠藤:わかります。でも、以前にも統計が出ているんですけど「レコードを買った人の6割ぐらいが聴けない」って感じなんですね。

──プレイヤーを持っていなくても買うのか。

遠藤:そうなんです。モノとして魅力があるんです。いわゆる所有する・手に取れるというフィジカルとして所有する需要があるということです。4~5年前にレコードがブームになったアメリカでは、年末商戦でいわゆるポータブルのレコードプレイヤーが家電製品で1番売れたという実績があったりもしますが、今でも家電量販店さんで安価なレコードプレイヤーも売っていますから、そういった意味ではまだ聞けるんです。カセットに関しては、ポータブルのカセットプレーヤーを一緒にデザインしてセット販売されることもあります。弊社でもそういうご提案はよくしています。

──カセットプレイヤー自体もファンアイテムになるんですね。

遠藤:そうです。そこまで戦略的にできるわけです。

──なるほど。

遠藤:アパレルメーカーさんもカセットプレーヤーを作られていたりして、カセットって見た目の可愛らしさとか色の展開も含めて、非常にファッションとの結びつきもあるんですよね。

──音楽再生機はスマホしか知らない世代にとって、カセットにはファッション性も関わってくるんですね。

遠藤:まず形の可愛らしさですよね。見たことないシェイプなんですよ。これに音が入っているっていうのが非常に新しいんです。

──なるほど、「新しいアイテム」なのか。

遠藤:レコードもカセットも聴くときに儀式がありますよね。レコードジャケットから出して、ターンテーブルに乗せて回転させて、で、針を落として、ある意味ゆっくりと向かい合う。カセットもそうで、プレーヤーを開けてカセットを入れてプレイボタンを押す。通常は、皆さんプレイリストでどんどん曲が流れてきて、それを聴いているんですけど、カセットやレコードってアーティストのライブとかと同じで、基本的にセットリストの通りに聴かなきゃいけないものですから、自分の推しているアーティストのメッセージ性を非常に受けやすいという側面があると思っています。で、A面からB面に替えるときにひっくり返さなきゃいけなくてですね、その手間がまた新しいんですよ。

──サブスクのプレイリストで受動的に曲に触れるのではなく、まず何を聴くのかを自分で決めるという時点で、音楽に対する姿勢が違いますよね。曲に対する期待感が自ずと上がり聴こえ方も変わってくる。

遠藤:あとは、デジタルと違って音がいいという方もいらっしゃいますし、カセットは音に丸みがあったりして、今までと違った聴こえ方をすると思います。

──デジタルになれた子たちの耳に、カセットの音はどう響くんでしょうか。

遠藤:最初は、今まで聞いたことのないノイズが聞こえるんです。レコードに関してもパチパチとかですね、カセットだったらさーって音が聞こえたりするんですけど、それが今の世代にとってレトロ感を感じるポイントのひとつですよね。

──決してデメリットではないんですね。

遠藤:そうなんです。ポータブルのカセットプレーヤーでしたら持ち運びもできますし、たまにそういった人を見かけると「わかってるな」とか思っちゃうんですよね(笑)。アーティストにとって、A面の1番最後の曲とB面の1番最初の曲には色々思い入れがあるんですよ。7インチのシングルもそうですよね。A面の曲がメインで、それに対してB面に何を入れるかも皆さんそれぞれ思い入れがあって選んでいますので。

──2025年10月13日~19日には「Cassette Week Japan 2025」が開催されますが、いまから楽しみになってきました。

遠藤:まだ色々検討している最中ですが、2024年は広い会場を借りていろんなレコード会社さんレーベルさんに出店いただいて、いろんなカセットテープとか関連グッズを販売できるようなマーケットを開きました。非常にたくさんの方に来ていただきましたけどインバウンドの方も多かったですね。日本に来られる若い方ってファッションや音楽も好きな人が多いので、日本に来たらレコードショップに行くのもひとつの定番になっていますし、タワーレコードのバイナル・フロアも多くがインバウンドの方ですよね。特にカセットなどはほぼ日本製ばかりですから、日本に来たらそういう需要は高いんです。

──昔からカセット関連は日本製が強かったですよね。テープもラジカセも今思えばほとんど日本製だった。

遠藤:日本は強かったですね。カセットに関してはライセンスをフリーにしたので、誰でも作れたんです。ちょうど高度成長期がピークになってきた頃で、いろんなアイデアがあって、ダブルカセットにしたりテレビをつけてみたり、オートリバースを付けたりとか日本のメーカーの技術力が反映されたアイテムになったんですよね。革新的なものが次々に誕生しましたね。

──レコードを痛めたくないので、いつもカセットにダビング(録音)して聴いてたからなあ。こんなに再燃するのなら、カセット捨てるんじゃなかったと後悔します(笑)。

遠藤:そういう人多いですよね(笑)。意外とまだ実家にあるかも、とかいう人もいますけど。カセットって音楽だけじゃなくて、自分でメッセージとか吹き込んだり、自分で曲を作って学校に持っていって友達に貸して、友達がその後にまた自分の曲を入れたりとか、今で言うSNS的なアイテムにもなっていましたし、ドライブするときには、必ず自分でミックステープを作ってカーステレオでかけていましたよね。大事なデートの時には曲にこだわって、高速に乗ったらこの曲が流れる…ぐらいな感じで作ったりとか(笑)。

──必死でしたね(笑)。

遠藤:当時を知っている皆さんは、結構そういった思い出があるんじゃないかなと思います。

──コミュニケーションツールとしても、生活に密着していたアイテムだったんですね。カセットテープを巻き戻すあの時間すら愛おしく感じる(笑)。

遠藤:そうですよね。SDGsの観点からも、地球に対して優しいプロダクトである必要もあると思い、今では全部をリサイクル素材で作っています。アーティストが音楽でメッセージを発する際に、受け取るファンがリサイクル商品であることや再生紙で作っているものなんだっていうことをわかってもらえるように手掛けています。

──ステキですね。

遠藤:あとは、弊社1社だけでは難しいんですけど、実店舗でカセットに触れられるような場所があればいいなと思っています。お店の中でメニューと一緒にカセットプレーヤーとリストをもらって、自分のテーブルでカセットで音楽を聴けるようなおしゃれな店が台湾にはあったりするんです。そういったものが、都心の中でできたらいいなと思います。レコードは増えてきていて、おしゃれなレコードを置いてあるホテルは増えてきましたね。部屋の中にレコードプレーヤーがあってそういったレコードが聴けるとか、バーやカフェにレコードプレイヤーが置いてあって好きなレコードを聴けるようなスペースがあったりする。世界的にそういったところが少しずつできてきているんですね。

──ホテルの部屋にレコードプレイヤーがあるんですか?

遠藤:そうなんです。インバウンドが多いホテルでしたら、若者がタワーレコードで買ってきたレコードをそこで聴いたりとか。あと伊豆とか箱根の高級旅館の部屋にも似合いますよね。

──それは贅沢なひと時だ。貴重な思い出にもなりますね。

遠藤:そういった取り組みや、「Cassette Week Japan 2025」でもアナログに対して文化的な推進ができたら良いなと思っています。

──趣味や芸術・エンターテイメントは「効率が正義」ではないので、心の豊かさを育む良い取り組みにもなりそうですね。

遠藤:そうですね。右肩上がりで伸びていくメディアではないと思うんですけど、定着はするんじゃないかなって思っています。カセットやレコードを知らない世代の方がレコード会社やレーベルの最前線にいらっしゃいますから、そういう若い方々にアナログの良さが届けばいいなとも思います。とりあえず体験する場が必要だなと思うので、実際に手にとって体験できるような機会を増やしたいなと思っています。

──これからの活躍も楽しみにしております。

遠藤:個人的な感覚なんですけど、デジタルの音を長時間聴いていると、やっぱりだんだん疲れてくるんですよ。でも、カセットのテープは長時間聞いても疲れが低いですよね。なんですかね、私の中では丸みを感じるんですけど、そういったところで、できたらアジアの各国にも広げていきたいなと思います。

「Cassette Week Japan 2025」

2025年10月13日(月祝)~19日(日)
場所:参加レコード店・賛同ストアやイベント会場
内容:限定商品の発売・公式ライブ・レコード店舗による独自イベント

《アーティスト・レーベルの皆様》

新譜のみならず旧譜や復刻・コンピレーションなどの音楽作品に加えて、トーク収録、カセットプレーヤーや関連アクセサリー・グッズやアパレルなどでもご参加いただけます。
・発売日 :2025年10月13日(※)
※ご都合に合わせて会期中(10月13~19日)に自由設定

・エントリー期間:現在~9月30日
・販売方法:独自流通・販売 (規制は無く販路限定も可)

【RELEASE登録詳細 (CLICK)】
《販売店の皆様》
レコード店のみならず、オンラインショップ、セレクトショップ、アパレル店舗のご参加も歓迎
(昨年までにご参加いただいたストア様は継続してリストアップさせていただきます)
・登録期間:直前まで登録受付
・販売方法:規制はなく自由

【STORE登録詳細 (CLICK)】
《イベント企画の皆様》
カセットに関連したリリースライブや展示会・イベントの開催を歓迎
・登録期間:直前まで登録受付(イベント開催日は当該週以外の日程でも可)
【EVENT登録詳細 (CLICK)】
詳細は、Cassette Week (Cassette Store Day)事務局までお問い合わせください。

Official HP : https://cassettestoreday.jp
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Instagram : https://www.instagram.com/cassettestoreday_japan/

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