彼らはプリースト(司祭)である。
彼らはそれを「ライヴ」とは呼ばない。「コンサート」とも呼ばない。アレステッド・ディヴェロップメントのメンバーはそれを「セレブレーション(祭り、式典)」と呼ぶ。セレブレーションは神聖な儀式だ。したがってアレステッドたちは式典を司る司祭だ。
それを証明するかのように、オープニングは、グループの精神的リーダーである長老ババ・オージェが舞台左手から女の子たちを配してゆっくりと登場し、何かが始まるような予感を醸し出した。
セレブレーションの始まりを宣言し、彼は舞台後方にあるロッキン・チェアに座る。バンドがタイトな演奏を繰り広げる中、グループのリーダー、スピーチが登場。楽曲「アレステッド・ディヴェロップメント」が始まった。スピーチがステージ狭しと歌い、ダンサーが激しく踊る中、ババ・オージェは、ゆったり前後に動くロッキン・チェアに身を委ねる。時間の流れが止まるようなババ・オージェの「静」とスピーチやダンサーたちの激しさの「動」とが、非常に対照的だ。
この曲は、最新作『ザ・ヒーローズ・オブ・ザ・ハーヴェスト』に収録されているものだが、彼らのテーマ曲とも言える作品だ。いわく「僕たちのコミュニティーは、いまだにアレステッド・ディヴェロップメント(発展が停止している)状態だ。ババ・オージェは、君よりも年上だから、彼が現れたら敬意を示せ」。グループのテーマであると同時に、ババ・オージェへのちょっとした賛歌でもある。
スピーチは、ターンテーブリストである。
それを彼らはDJと呼ばない。ターンテーブルの職人、すなわちターンテーブリストと呼ぶ。スピーチが、2台のターンテーブルのところに行き、ターンテーブルをいじりだした。ジェームス・ブラウンの「セックス・マシン」のレコードを巧みに操り、観客をあおる。そして、彼らの記念すべきデビュー作からのヒット「テネシー」へ。
スピーチはセレブレーションの間、何度もターンテーブルの所に行き、レコードを回し、スクラッチをした。
観客は、こぶしを宙に掲げ、スピーチたちに応える。歌と演奏だけでなく、彼らは過去のレコードでも、観客にグルーヴを与える。
ドラムス、キーボード、ギター、ベース、そしてターンテーブリスト、バック・コーラスとダンサー、さらにババ・オージェ、スピーチという布陣のアレステッド・ディヴェロップメントは、アメリカ南部の音楽をルーツに、非常にオルガニックなヒップ・ホップ・サウンドを繰り広げる。
そして、彼らはヒストリアン(歴史家)である。
アレステッドは、温故知新のグループだ。ソウル・ミュージックの歴史をしっかりと学び、それを自分たちのものに消化し、彼らなりの方法で、先達にリスペクトを払う。
ターンテーブリストとして、「ゴッド・ファーザー・オブ・ソウル(ジェームス・ブラウンのこと)」のレコードをかけたり、あるいは、もうひとりのファンクの創始者でもあるスライ・ストーンの作品をカヴァーしたりするのもそうした表れだ。
彼らは、’60年代後期から’70年代初期にかけて活躍したファンク・グループ、スライ・アンド・ファミリー・ストーンの作品を2曲カヴァーし、セレブレーションでも聴かせてみせた。「イフ・ユー・ウォント・ミー・トゥ・ステイ」(’73年のヒット)とすっかりおなじみになっている「ピープル・エヴリデイ」(スライのヴァージョンのタイトルは、「エヴリデイ・ピープル」=’68年のヒット)だ。さらに、「マーヴィン・ゲイ」へのトリビュートを歌い、ソウルの創始者、レイ・チャールズの大ヒット「ヒット・ザ・ロード・ジャック」(’61年のヒット。アレステッドの最新作でカヴァー)をも披露する。
アレステッドのセレブレーションには、こうしたブラック・ミュージックのヒストリーの一部が盛り込まれているのだ。
スピーチは言う。「