【ライブレポート】キズ × DEZERT、己の信じる“VISUAL”を掲げて

舞台裏から気合入れの声が轟き、暗転してメンバーが順に登場すると、きょうのすけ(Dr)はドラム台に立ち上がって、さっそくオーディエンスを煽り立てる。彼らの背後にそびえる全面LEDに三本の赤い“キズ”が映し出され、長いオープニングSEから続いたのは最新シングル「鬼」だ。アカペラ始まりから朗々と声を張り上げる来夢、岩のように硬いスラップを放つユエ(B)、舞台上を闊歩しながらもソロでうねりを上げるreiki(G)と、相変わらずの己を貫くプレイに場内からはクラップが湧き、来夢は歌詞を引用して「だりぃよなぁ!」と声をあげる。
「全然たんねーじゃん!」とオーディエンスを挑発しつつ、ひたすら“生きていたい”と歌い綴ってDEZERTのライブとも絶妙にシンクロしながら、衝撃的だったのは《この命をくれてやろう》というフレーズの痛切すぎる響き。そこには何の誇張もなく、彼らが命を賭して“ライバル”とのステージに臨んでいることが、ひしひしと伝わってくる。

そこから「おい、寒いから飛ばしていくぜ!」と来夢がギターをかき鳴らした「平成」では「死ぬ気で来い!」とヘッドバンギングを誘い、「声くれ! お前らの存在を見せてくれよ!」と求めて、客席を熱狂の渦に叩きこむ。「鬼」で《生きていたい》と訴えた直後に《一緒に死のうよ》と繰り返すギャップは半端ないが、曲中で「日比谷! 命燃やせるか!? 俺と一緒にヴィジュアルロックのために命燃やせるか!?」と発破をかけたことからもわかるように、この曲における“死ぬ”とは命を燃やす──すなわち“生きる”ということに他ならない。ガサついた声で「俺と一緒に……死んでくれるか、日比谷!」と放たれる来夢の叫びは凄まじい反語となり、曲を締めくくるreikiのキレあるギターと共に、オーディエンスの心に消えない爪痕を残していく。

その後も、4人はキズというバンドの真なる核を、さまざまなベクトルから照射。「かざせ、日比谷!」とオーディエンスの手を掲げさせた「ストロベリー・ブルー」では、異世界を映す映像にメンバーのシルエットが重なって、なんとも神秘的な世界観を生みだしていく。さらに、手数の多いドラマティックなドラムプレイにワウギターが続いて、約束の“あの場所”へと駆け上がると、そのまま「俺の声に応えてくれ、日比谷!」と間髪いれず「地獄」を投下。聖なる映像は一瞬にして血の色の真紅に塗り替えられ、「首置いて帰れ!」と命令されたオーディエンスは懸命に首と身体を振りたくる。「救われたい奴だけ……救われたい奴だけついてこい!」というおなじみのフレーズは、もちろんこの日も健在で、むしろ「生きてんの、そこ?」と客席を詰問する始末。スクリーンに映る楽器隊のシルエットも暴れまくり、たとえ対バンだろうとまったく手加減のないスタンスを明かしていく。

ここで「今日の一番の宿敵は花粉かもしれないです。やべーよな、花粉!」と、自身が花粉症であることを明かした来夢は、「タイトル<This Is The “VISUAL”>ということで、タイトルを聞けば伝わると思ったので、何もプロモーションしませんでした」と千秋のMCに返答。そしてアカペラ始まりで披露した「黒い雨」の曲中、LEDに歌詞を映しながら何度も「歌えるか!?」と求めた来夢は、曲終わりに「届いてるか!? 俺の歌が! 届いてますか!?」と問いかける。歌と歌、声と声のシンクロニシティを果たし、続くデビュー曲「おしまい」ではオーディエンスが一斉にジャンプして物理面での一体感を証明。
「これがヴィジュアルロックだ!」と宣言した来夢は、しかし、青いライトとスモークの中から現れるや「俺の耳が腐ってんのか? 声がちいせぇぞ!」と客席の声に耳を澄ませ、「豚になれ!」と放った「豚」で客席を狂乱させる。拳を振って跳ねるオーディエンスを、バッハの「小フーガ ト短調」のメロディを交えたギターソロでreikiが煽れば、きょうのすけも懸命にドラムスティックを振るい、ユエに至っては暴れすぎて大きく脚を振り上げ、曲終わりにステージに倒れ込む場面も。さらに「日比谷! まだいけんのか? いけるよな、てめぇら!」と「リトルガールは病んでいる。」になだれ込んで、シリアスな詞世界と痛快に暴れるオーディエンスという、まさに“VISUAL”ならではの光景を存分に体現していった。
そして「あいつ、メッチャ喋りすぎや! いつもあんな喋るんか」と千秋のことを揶揄し、冒頭のライバル論をMC。「あいつ、いっつもいるんですよ!」というのは、つまり逆も然りであり「僕が今日、言いたいことは……これからもDEZERTのファンからすれば僕は登場します。皆様の人生に登場します。なので、ちょっとでも……好きになってくださいは違うな。なんか感じ取ってください。そんだけです!」と、DEZERTファンに断りを入れた。

さらに、曲に行こうとした瞬間「ちょっと待って!」とストップをかけ、「あいつ、なんか撮らせてたじゃん。わかったんです。データフォルダに推しがいるって、すごくいいことだなって」と、今、自身のデータフォルダにボクシングの井上直哉選手がいることを告白。「辛いときがあったら、花粉症の中でも頑張って歌ったボーカルを思い出して頑張ってください。それだけです」と、続く「鳩」で急遽撮影の許可を出した。キズのレパートリーの中でも、じっくりと歌を聞かせるバラード曲を朗々と歌い切って、来夢は「いろんなヤツに見せてくれ! お前らの推しが最強だってことを!」とリクエスト。事実、現在SNSにはエモーショナルな演奏シーンや曲中で語らう4人の微笑ましい映像があふれているので、ぜひ、チェックしてみてほしい。
そこからは「スマホしまえ! やるぞ!」と灼熱のエンディングへ。ステージから放射されるレーザー光線の下、「蛙-Kawazu-」で頭を振るオーディエンスも楽しそうなら、演奏される音も文字通り躍って、アウトロでは来夢がreikiをバックハグ。「もう、あんまねぇぞ。まだ残ってるなら出せよ。全部俺らが受け取ってやる!」と、武道館で初披露されたばかりの最新曲「R/E/D/」では、早くも客席からクラップが湧き上がり、サビではヘドバンを繰り出して、すでにファンへと深く浸透し始めていることを示してみせた。そのサビにある《紅い傷痕》という歌詞から繋がるように、「いけんのか!?」と最後に贈られたのは「傷痕」。大きな旗を掲げて、お立ち台に這いつくばって頭振りながら歌う来夢の喉は限界を迎え始めていたが、だからこそ生まれる“君の中で生きたい”という魂の叫びには、キズとDEZERT双方のファンが心を揺さぶられたに違いない。

曲が終わるとLED画面には<キズ×DEZERT This Is The “VISUAL”>とライブタイトルが大きく映し出され、「この先も期待しててくれ! ありがとうございました!」と来夢が挨拶。これぞ己の信じる“VISUAL”であるという強い信念を掲げて、互いに発奮し合う両バンドは、これからもシーンを活性化し続けていくに違いない。
文◎清水素子
撮影◎小林弘輔( @style_k_ )
セットリスト
【DEZERT】
1.「殺意」
2.「絶蘭」
3.君の脊髄が踊る頃に
4.異常な階段
5.私の詩
6.大塚ヘッドロック
7.再教育
8.「君の子宮を触る」
9.TODAY
10.神経と重力
【キズ】
SE
1.鬼
2.平成
3.ストロベリー・ブルー
4.地獄
5.黒い雨
6.おしまい
7.豚
8.リトルガールは病んでいる。
9.鳩
10,蛙-Kawazu-
11.R/E/D/
12.傷痕
キズ INFORMATION
2025年4月9日(水) RELEASE
LIVE DVD『キズ 単独公演「焔」2025.1.6 日本武道館』
https://ki-zu.com/discography/
DEZERT INFORMATION
・映像配信
DEZERT SPECIAL ONEMAN LIVE at NIPPON BUDOKAN「君の心臓を触る」
U-NEXT独占見放題ライブ配信
ライブ配信:2025年3月30日(日)19:00~
見逃し配信:配信準備完了次第~2025年4月6日(日)まで
https://t.unext.jp/r/dezert
・商品情報
2025年5月14日発売
Blu-ray
『DEZERT SPECIAL ONEMAN LIVE at NIPPON BUDOKAN「君の心臓を触る」』
https://www.dezert.jp/discography/detail/5015/







