【ライブレポート】過去の自分たちを超えて…After the Rain、10周年の夏を神戸で刻む

2026.09.06 18:00

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そらるとまふまふによるユニット・After the Rainの結成10周年を記念したアリーナツアー<After the Rain 10th Anniversary Tour ~ 春夏秋冬 ~>。その“夏”公演が8月29日と30日に兵庫県 神戸ワールド記念ホールにて開催された。

このツアーは「アニバーサリーイヤーとなる1年間を、季節の移ろいに添いながらリスナーとともに過ごしたい」という思いが込められており、各季節各都市で四季折々の演出やパフォーマンスが予定されている。初回となった春の神奈川ぴあアリーナMM公演に続いて開催された夏の神戸公演では、9月16日にリリース予定のフルアルバム『春夏秋冬』収録曲も披露され、様々な夏の風景に加えて新たなAtRの表情を切り取った灼熱の空間となった。このレポートでは8月30日公演の模様を記す。

ステージの上にかかる虹の中央には、“夏ノ雨”の文字が掲げられている。春公演のセットをベースに夏仕様に彩られた空間は、竜宮城を彷彿とさせるように神秘的で優雅だ。会場が暗転すると、モニターにオープニングムービーが流れる。春夏秋冬を駆け巡った後に夏の海の景色が広がると、ステージには黒いジャケット姿のそらるとまふまふが登場した。

そらるが勇ましく「来たぞ神戸! 春夏秋冬ツアー“夏”、今日もよろしくお願いします!」と呼びかけると、1曲目は「マリンスノーの花束を」。夏の海の水しぶきを彷彿とさせる爽やかでエネルギッシュなサウンドに、切なさも含んだ情感豊かなメロディが重なり、会場をたちまち夏景色に包み込む。そこから一転、「アンチクロックワイズ」では火の玉が次々と飛び上がり、そらるとまふまふもしのぎを削るように全身を震わせて衝動的なボーカルを響かせた。

そらるは真夏の開催ゆえに体調に気を付けて楽しんでほしいと観客を慮る。まふまふも熱中症への注意喚起をし、「みんな元気に帰れるように楽しんでいきましょう!」と呼びかけた。そして「みんな声出していこう!」と告げ、夏公演の前日にリリースされたばかりの新曲「シャッターチャンス」を届ける。ふたりの歌声にも優しい笑顔が滲み、落ちサビでのまふまふのファルセットは、楽曲の透明感をより美しく引き立てた。

その後も10代の繊細な感情を落とし込んだ、純朴なギターロックが続く。「夏空と走馬灯」では心の奥に秘めた感情を丁寧に差し出すようなふたりの歌声が胸を打ち、アルバム『春夏秋冬』に収録予定の新曲「青の足りない世界」ではサイドステージに足を伸ばし、夏の持つエネルギーとセンチメンタルな面をどちらものびやかなボーカルに乗せた。「待ちぼうけの彼方」ではそらるがマイクスタンドを使い、まふまふがギタリストに徹する。感情を吐き出す絶唱と耳を劈く鋭い音色が作り出す焦燥感は非常に生々しく、歌詞の一言一句がこちらの心に襲い掛かるようだ。ふたりの一挙手一投足にも気迫が通い、その迫力に会場も熱い視線を送った。

まふまふが袖に下がり、そらるがひとりステージに残ると、ここからはソロパフォーマンスのセクションに入る。そらるはセットリストを夏仕様にして春公演と大きく変えたこと、この神戸公演前にアルバムの音源が完成したことに触れ、「今回はアルバムから少しだけ曲を持ってきている」と期待を煽った。そしてRADWIMPS「なんでもないや」のカバーと、アルバム収録のソロ曲「ハイドランジア」を披露する。マイクをしっかりと握り、ノスタルジックなムードからしなやかにスケールを増していく前者、お立ち台に腰掛けて足を組むなど自由に身体を動かしながら色香と憂いを歌に込めた後者と、異なる方向性で観客を魅了した。

そらると入れ違いでステージに現れたまふまふは「夏を楽しんでいこう! 一緒に歌ってね!」と呼びかけて「林檎花火とソーダの海 – 2026 Arrange ver. -」を歌唱する。その後のMCでは「一緒に歌う曲っていいなあ……。そういう曲が僕にはあんまりないから」と観客のシンガロングを交えて歌えたことへの喜びを噛み締めた。そしてそらるに続きアルバムに収録されるソロ曲を披露する旨を明かし、「9月の曲です」と告げ「エフェメロン」を届ける。陰と緊迫感のあるオルタナテイストのロックナンバーで、揺れ動く感情を落とし込んだメロディとボーカルも、楽曲に描かれた心象風景をディープに映し出した。

続いては今回のアリーナツアーの恒例であるソロのメドレーセクションへと入る。春公演では時代もジャンルも超えた春曲5曲をつないだそらるだが、今回は夏を舞台とした作品『カゲロウプロジェクト』の楽曲5曲に振り切るという大胆かつ最適解とも言うべき選曲で観客を驚喜させた。軽快でユーモラスな「夜咄ディセイブ」から「カゲロウデイズ」「ロスタイムメモリー」と熱量を高め、「オツキミリサイタル」ではテンション高く軽やかにステップを踏みながら歌唱する一幕も見せる。メドレーのラストには『カゲプロ』のエンディングとして位置づけられる「サマータイムレコード」を堂々と歌い切る。そらるというフィルターを通した『カゲプロ』の世界や夏の突き抜ける青空が、会場を鮮やかに駆け抜けた。

まふまふは2019年の富士急ハイランド公演でも着用したおもちゃの兵隊モチーフの衣装にチェンジして再登場する。春公演で自身が作詞作曲をした楽曲をメドレーにして披露した彼は、夏公演ではカバー曲を中心とした選曲で様々な夏の風景を詰め込んだ。バルーンの「雨とペトラ」で雨の湿度を声で巧みに表現し、和風のメロディが耳に残る一二三の「猛独が襲う」で寂寥感を作り出すと、kemuの「地球最後の告白を – Arrange ver. -」では持ち前のハイトーンボイスを発揮する。そしてみきとPの「少女レイ」で清涼感を作り出し、夏祭りの景色を落とし込んだまふまふのオリジナル曲「夢のまた夢」でメドレーを締めた。歌唱面でかなりハードな箇所が続いたゆえか、途中で「みんな力を貸してくれ!」と頼み、一部を観客に歌ってもらうという微笑ましい共同作業も見られた。こんなふうに彼が自然体でステージを楽しんでいるのも、AtRの10年の活動の賜物と言えるだろう。

まふまふと揃いの衣装に着替えたそらるがステージに合流すると、ふたりで「打上花火」を歌唱する。DAOKOのパートをまふまふが、米津玄師のパートをそらるが歌唱し、夏の夜を煌びやかかつ情熱的に彩った。最後にそらるが「一緒に!」と観客を煽ると、客席からはシンガロングとワイパーが起こる。その一体感はどこまでも澄み渡り、ぬくもりに溢れていた。

夏をテーマにした公演にちなんで今年の夏のエピソードを話そうとするも、夏っぽいことを何もしていないというそらるは「まふまふは春を犠牲にしてアルバムの曲を作って、俺は夏を犠牲にしてアルバムのミックスをした」と彼ならではの言い回しで渾身のアルバムを制作したと作品の手ごたえを語る。そして次の曲に行こうとするそらるを、まふまふが「もう少し話したい」と引き止め、しばらくテンポのいいフリートークを繰り広げた。ふたりともMCで観客と前のめりにコミュニケーションを取るわけではないが、彼らの会話の空気感には、常に観客一人ひとりの居場所が存在している。ふたりのそばで話を聞いているような和やかなムードを、観客も楽しんだ。

そらるが「まだ夏っぽい曲もそうじゃない曲も用意しているので、最後まで楽しんでいきましょう」と士気を高めると、ライブは佳境に突入する。「叢雲に風、花に月」では日本の夏を彩度高く届け、「アイスリープウェル」では静と動を乗りこなしたスリリングなツインボーカルが観客の心に火をつけた。AtRオリジナル曲かつライブのキラーチューンならではの安定感と突破力は、ユニットの強みをより輝かしく映し出す。颯爽と力強く会場を巻き込んだ「四季折々に揺蕩いて」は、ユニットとしての10年の歴史を実感させる結束と説得力に富み、彩り豊かで盛大な打ち上げ花火のように痛快だった。

そらるはこの神戸公演で「ひとつ夏の思い出ができた」と笑みを浮かべる。まふまふもAtRや自身の活動でライブツアーを回ることが久しぶりであることに触れ、関西圏のファンに会いに来ることができた感慨に浸った。そして「10周年というとひと区切りみたいな感じがするかもしれないけど、今もうすでに次の話をしてる。たぶん来年とても面白いことになる。待っていてください」と含みを持たせ、そらるも「まだまだ道半ばなので、みんなも気楽にこれからも遊びに来てください」と今後の活動に意欲を見せた。その後の「桜花ニ月夜ト袖シグレ」の集中力が漲る歌唱は、今後のAtRの充実した未来を約束するように頼もしい。本編ラストの「世界を変えるひとつのノウハウ」もポジティブな空気が会場を包み、晴れやかなハッピーエンドを描いた。

夏公演のグッズTシャツを身に着けて再登場し「1・2・3 – 2023 ver. -」で勢いよくアンコールをスタートさせると、そらるは次回の秋公演について「また違う表情のAtRをお届けできるように努力したい」「次のライブではアルバム曲も披露できると思うので、アルバムを楽しみにしてもらえたら」と述べる。まふまふは首都圏以外でライブができた喜びをあらためて語り、「ツアーはいつも“みんなのためにここに来た”のではなく、僕が自分の意志で“みんなに会いたくてここに来た”という気持ちでいる」「音楽を通してみんなと意思疎通を取って元気をもらいました。これを機にツアーを増やしていきたい」と各地のファンへ会いに行くという決意を表明した。そしてそらるも2017年に開催したAtRのツアーでのワールド記念ホール公演を振り返り「今回は2daysすぐ満員になって。みんなのおかげで過去の自分たちを超えてステージに立つことができて、ふたりともすごくうれしいです」とあらためて感謝を告げた。

そして「彗星列車のベルが鳴る」で夏公演の幕を下ろす。ふたりとも朗らかな表情で客席を見渡しながら楽曲を体現するようにブライトな歌声を響かせ、そらるがおもむろにまふまふに近づいて背中を合わせて歌ったシーンも、ふたりが互いに寄りかかりながら高め合い、足並みを揃えていることを象徴するようだった。最後は恒例の、会場全員のジャンプでフィニッシュする。まふまふは「また来るよ!」「また秋にお会いしましょう!」と笑顔で手を振り、そらるも何度も「また会いましょう」と呼びかけて、ふたりはステージを後にした。

『春夏秋冬』という同一のテーマで連動性を持たせながら、“夏”をテーマに新たな趣向のセットリストを組み、それを実行に移した神戸公演。それはAtRのクリエイティブに対する矜持と、観客に喜んでもらいたいという思いやりが感じられるだけでなく、すべての季節に異なる趣があることを示してくれるようでもあった。次回は10月17日と18日の広島サンプラザホールで行われる秋公演。夏公演から2ヶ月弱というインターバルで、新作アルバム『春夏秋冬』リリース後初ライブとなる。夏の余韻を残しながらも、それでいてアルバムのフレッシュな空気感が味わえる、まさに様々な文化や味覚を楽しめる秋に相応しいひとときになるだろう。個々のエネルギーと団結力を増すAtRは、新たな季節に向かって高く健やかに羽ばたいていく。

文◎沖 さやこ
撮影◎堀 卓朗[ELENORE] / 岡部 守男[ELENORE]

<After the Rain 10th Anniversary Tour ~ 春夏秋冬 ~>

2026.08.30 神戸ワールド記念ホール 夏公演
1.マリンスノーの花束を
2.アンチクロックワイズ
3.シャッターチャンス
4.夏空と走馬灯
5.青の足りない世界
6.待ちぼうけの彼方
7.なんでもないや(そらる)
8.ハイドランジア(そらる)
9.林檎花火とソーダの海 – 2026 Arrange ver. -(まふまふ)
10.エフェメロン(まふまふ)
11.そらるメドレー
・夜咄ディセイブ
・カゲロウデイズ
・ロスタイムメモリー
・オツキミリサイタル
・サマータイムレコード
12.まふまふメドレー
・雨とペトラ
・猛独が襲う
・地球最後の告白を – Arrange ver. –
・少女レイ
・夢のまた夢
13.打上花火
14.叢雲に風、花に月
15.アイスリープウェル
16.四季折々に揺蕩いて
17.桜花ニ月夜ト袖シグレ
18.世界を変えるひとつのノウハウ
[ENCORE]
19.1・2・3 – 2023 ver. –
20.彗星列車のベルが鳴る

<After the Rain 10th Anniversary Tour ~ 春夏秋冬 ~>

【秋公演】広島サンプラザホール(広島)
2026年10月17日(土)開場17:00 / 開演18:00
2026年10月18日(日)開場15:00 / 開演16:00
【冬公演】ゼビオアリーナ仙台(宮城)
2027年2月6日(土)開場17:00 / 開演18:00
2027年2月7日(日)開場15:00 / 開演16:00
詳細:https://aftertherain.co.jp/Live_2026/