【ライブレポート】みきとP、音楽キャリアを網羅した活動16周年記念ワンマン「20周年に向けて応援してください」

2026.09.26 21:00

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みきとPの活動16周年を記念した<MIKIROCK BYPASS vol.5>が、7月に京都、8月に東京、9月に韓国・ソウルの計3都市で開催された。

<MIKIROCK BYPASS>は2015年から始まったみきとPのワンマンライブシリーズ。今回のvol.5は約8年半ぶりの開催である。中日にあたる東京・池袋harevutaiは完全ソールドアウトで、観客も少年少女からみきとPとともに年齢を重ねて大人になった男女まで、さらには海外勢も揃うなど、非常に幅広い。バンド編成の瀟洒なグルーヴと新旧織り交ぜたセットリストは、そんな多彩なフロアをもれなくロマンチックな興奮で包み込んだ。

YouTubeチャンネル「世界の七不思議 えむちゃんねる」のえむちゃんによる影アナからほどなくして、バンドメンバーの新妻凜生(G)、アヤコノ(B)、横山惠士(Dr)、Sosaku Sasaki(Key)、友達募集P(Mp)が現れる。最後にみきとP(G, Vo)が登場すると、スマートフォンゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』で活躍する4人組アイドルユニットMORE MORE JUMP!へ書き下ろした「カラフルファンデーション」のセルフカバーで幕を開けた。同MVと同様にメンバーはサングラスをかけ、ボーカルパートを彩るのは初音ミクの歌声だ。セッションのようにカジュアルな雰囲気もありながら、そこはかとない緊張感がほとばしるグルーヴは、スマートにオープニングを彩った。

そこからドラムカウントとつなぎを挟んで「バレリーコ」に入ると、みきとPがボーカルを執る。軽快なリズムと屈強なアンサンブル、陰を纏いながらも飄々としたソフトな歌声、しきりに笑顔で会場を盛り上げるサポート陣などは、物悲しくもユーモラスで、ポップネスとロックを併せ持つみきとPの音楽をより効果的に映し出した。

みきとPがインタールードに乗せて「来てくれてありがとう。めっちゃうれしい、今日は楽しんでってね」と呼びかけると、「ちょっと変わった彼女はAB型」という口上から「You are エイビー」へ。AOR調のアレンジが夏の甘い風を運び、「世田谷ナイトサファリ」ではアンニュイかつエッジの効いたセンチメンタルなサウンド、各楽器の手堅いリフとミクのソフトな歌声のコントラスト、メンバー全員のソロ回しなどで観客の心を大きく震わせた。

みきとPはチケットがソールドアウトしたことや、ファンをはじめ様々な人に支えられて活動16周年を迎えられたことへの感謝を述べる。そして「初期みきとPサウンドの決定版という位置づけの曲だと思っています。ちょっと奇妙な診療所の曲」と告げ、「刹那プラス」を披露する。メランコリックでありながらも優しく、それでいて閉塞感のあるサウンドは会場をさらにディープな世界へと引き込んだ。

ドラムに浮遊感のあるギターが重なるゆったりとしたインタールードから「YONAKI」につなぎ甘美で幻想的なムードを作り出すと、アウトロからシームレスにキーボードソロへと入り、みきとPと新妻がアコギに持ち替えると青い光が差し込んで「少女レイ」へ。イントロの少女の笑い声と同曲のシンボルでもあるスティールパンの音色が響くや否や、フロアからは大きな歓声が沸いた。

みきとPには夏をモチーフにした楽曲が多く、このワンマンにおいてはその要素をより強めたライブ運びやライブアレンジが施されていた。曲間のつなぎは夏のふとした瞬間に頬を撫でるそよ風のように心地よく、瑞々しい音色は青空に浮かぶ大きな雲、飛び出す水しぶき、水面にきらめく太陽、アスファルトに揺れる陽炎、陽の光を燦々と浴びた木の葉の動きなど、様々な情景を想起させる。さらにはメンバー全員の手練れながらにどこか洗練されすぎないインパクトのある演奏と、それらが折り重なる骨太のグルーヴは、ライブならではの刺激的な躍動感を作り出す同時に、楽曲の情景や心情を生々しく立ちのぼらせる。みきとPの描く夏の景色や仄暗い感情、バンドセットのライブの高揚、自分自身が過去に観てきた夏、彼の楽曲に触れた当時の個人的な記憶などがない交ぜになり、喜怒哀楽のすべてを揺さぶられるようだ。

アウトロの衝突音と少女の笑い声、踏切の警報音に、耳を劈くようなギターのフィードバックノイズとドラムが重なると「エンドロールに僕の名前をいれないで」へ颯爽とつないで、ミクのなぞる情緒を帯びたメロディとつんのめるような演奏で焦燥感を作り出した後は、来場者特典CDに収録された新曲「NUMAN」を披露する。“声に沼(NUMA)ってしまった男(MAN)の歌”という洒落も効いたタイトルの通り、小気味よくもどこか危険な香りのする楽曲は、彼自身が歌うからこそありありと響く。一転「友達のあの子に捧げます」と告げて届けた「小夜子」はミクが歌唱し、痛みを穏やかに抱きしめるような音色が、観客一人ひとりの心の奥までじっくりと滲んだ。

みきとPは活動15周年のタイミングでアニバーサリーライブを開催しなかったことに触れ、その理由が2024年の夏に不安障害を患ったからであると明かす。そこから休み休み活動を続けて人前に立つまでには回復したこと、ライブをとても楽しめていること、家族や友人、バンドメンバーなど身近な人たちを大切にしたい、そういう人たちから愛される人になりたいと心の底から思ったこと、それが生活の礎になると痛感したことなどを告げ、「16周年を祝うという中途半端な感じもみきとPっぽくていいかなって」と続けると、フロアからは朗らかな笑いが沸く。シリアスに受け取られがちな話題を自然に受け入れる会場の空気はとても柔らかく、そのムードはみきとPがこの16年間で発信してきた音楽とも通ずるものがあった。

「ゆらゆらロックしながら共に歩いていきましょう」と呼び掛けて「きゅりあす」でアットホームな空間を作り、「非公開日誌」ではGUMIを自身のボーカルでサポートする。観客とシンガロングに興じる様子は非常にピュアでエモーショナルだ。そこからすかさず「ロキ」へとつなぐとフロアからは歓声が沸き、鏡音リンとの息の合った完璧なデュエットと豪快な演奏は大きな興奮を作り上げる。するとその勢いを追い風にして「PLATONIC GIRL」へとなだれ込み、GUMIとのデュエットでスリリングかつ痛快に駆け抜けた。

「20周年に向けてしっかりやっていきます。……いや、しっかりではなく楽しんでやる。楽しいことをしてないと続かないから」「これからも20周年に向けて応援してください」と告げ、「ぼっち幸福論」と「夕暮れツイッター」で本編をしめくくる。寂寥感をポップに本人が歌い上げる天邪鬼テイストの前者、寂寥感をさらけ出すようにmikiが歌う青春を切り取ったような後者。それぞれ趣向は異なれども、みきとPの音楽が悲しみに暮れた若者の心を思慮深く照らしてきたことを再確認する。その音色はとても情熱的で隅々まで澄んでおり、夏の終わりを惜しむような感傷に襲われた。

アンコールでは「16周年スペシャルライブということで、ゲストを迎えて1曲やります」と告げると、みきとPがボカロPを始める前に組んでいたバンドのメンバーであり、「Who are」「E S P R」などのレコーディングに参加している、菅原将之(B)とにうまん(Dr)を迎え入れる。そして友達募集Pを加えた4人編成で、2014年の楽曲「しゃったーちゃんす」を披露した。曲中で新妻とSasakiによるギターとキーボードの音色が加わるとサウンドのスケールはさらに増し、会場もその大きくうねる音の波に身を委ねた。

ゲスト2名が去るとみきとPは「ゲストがまだ出ます」と告げ、“みきと会”のメンバーであるemon(Tes.)、友達募集P、buzzG、はりーP(針原翼)を呼び込む。そして2015年にこの5人でカバーしたみきとPの楽曲「クノイチでも恋がしたい」を全員で歌唱した。観客もスペシャルゲストの登場に大いに盛り上がると、「みんな最後、歌って帰りましょう!」というみきとPの呼びかけから「いーあるふぁんくらぶ」で大団円を描く。5人の声、GUMIとリンの声、フロアのシンガロングと様々な歌声が入り交じり、爽快感のなかライブはハッピーエンドで幕を閉じた。

みきとPは「窮屈ななかありがとうございます。めちゃくちゃ楽しかったです。良い夏休みを過ごしてください」と告げ、ステージを後にした。みきとPの音楽キャリアを網羅したワンマンライブ。彼が健やかに音楽活動を行えていること、20周年に向けてポジティブなヴィジョンを見据えていることが伝わる、非常にすがすがしい夏のひとときだった。

取材・文◎沖さやこ

※本稿におけるボーカロイドの歌唱は、歌唱音源(同期)での演出となります。