【ライブレポート】椎名林檎、ツアー<党大会 令和八年列島巡回>に死角なし “全27曲の濃厚で美しい響き”

2026.05.29 12:00

Share

最新アルバム『禁じ手』を3月11日にリリースし、3月17日から5月28日まで18公演を回るツアー<椎名林檎 党大会 令和八年列島巡回>を行った椎名林檎。<党大会>と銘打ってライブを行うのは、デビュー15周年だった2013年の11月に<党大会 平成二十五年神山町大会>として、渋谷Bunkamuraオーチャードホールで5DAYSのライブを行って以来。つまりツアーとしての開催は、これが初めてである。

「今回は、党大会に相応しい、音響に定評のある会場を選りすぐりました。そのため、通常のライブツアーで訪れたことのない場所も多く、常連のお客様には新鮮な印象をお持ちいただけるかと思います」──公式サイトより

ということで、オーチャードホールがそうであったように、クラシック音楽仕様、もしくはそれに準じた造りの各地のホールを回るスケジュールになっている。普段の椎名林檎のライブよりも小さいサイズのハコになるため、たとえば東京公演は、すみだトリフォニーホール(約1,800キャパ)を4デイズ行う(ツアー前半で2本 / 後半で2本)、というような対策がとられていた。

では、以下、その東京公演の4本目であり、全体の14公演目だった5月1日(金)、東京・すみだトリフォニーホールのライブレポートをお届けする。

石若駿(ドラム)、鳥越啓介(ベース)、名越由貴夫(ギター)、林正樹(ピアノ/キーボード)、村田陽一(トロンボーン)、西村浩二(トランペット)、山本拓夫(サックス/フルート)、吉田宇宙(バイオリン)、名倉主(バイオリン)、奥田瑛生(ヴィオラ)、林田順平(チェロ)。バンドは以上の11人編成。後方上部にパイプオルガンがそびえ立つステージには、セットらしきものはほぼなく、ホーンの3人とストリングスの4人はライザー(台)の上だが、他のメンバー4人は、本人も機材も床にベタ置きである。

そして、考えたら当然かもしれないが、ホールに足を踏み入れてから気がついた。ビジョン(画面)がない。いわゆる演出映像も、ステージ上の演者たちを映すサービス映像もない、ということだ。前者がないのは、現在の椎名林檎のライブとしてはかなりレアだし、後者に関しては、サービス映像がないということは、それが必要ないくらい観客と演者の距離が近い、ということである。

開演時刻の19時きっかりにベルが鳴り、メンバーが配置につく(ただし頭2曲はホーンは山本拓夫のみ)。1曲目「ポルターガイスト」のイントロを奏で始め、ハンドマイクの椎名林檎が歌いながらステージに現れる。という段階で、そのすべての楽器と歌の音のクリアさ / 柔らかさに、“音がいい会場でやりたい”ツアーなのではなく、“音がいい会場じゃないとできないことをやりたい”ツアーであることがわかる。後奏で椎名林檎が吹くスライドホイッスルの音も、きれいに響いた。オーディエンスは皆、座ったままで大きな拍手を贈る。

続く「おいしい季節」の後半では、パッとケープを脱ぎ、後ろを向いてそれをきれいに畳み、イスに置く椎名林檎。ホーン隊が3人揃った「カプチーノ」では、チューブラーベルを、自身の右に置いて叩きながら歌う。「少女ロボット」では、黒の扇子で顔を覆いながらマイクに声を乗せた。

7曲目「cry me a river」を終えたところで、いったんステージから去り、その間を、本人のナレーションがつなぐ。「前回とは打って変わって、苦みに焦点を当ててお送りしております」「今回は思い切って、いわゆるラブソングのみに絞りました」という趣旨説明のあと、メンバーがひとりずつ紹介された。続く「秘め初め」は、最後までステージに姿を現さないまま歌唱。次の「SI・GE・KI」で、衣装替えを終えた状態で、向井秀徳のおなじみのあのリリック“くりかえされる諸行無常 よみがえる性的衝動”を口にしながら再登場する。音源どおり、途中から向井秀徳の声が入ってきて、後半ではツインボーカル状態になった。10曲目と11曲目は、椎名林檎が初めてこのツアーのような音楽性に踏み込んだ作品である、3rdアルバム『加爾基 精液 栗ノ花』からの曲、「おこのみで」と「迷彩」が続いた。

ジャズのスタンダード曲のカバーである「take five」、しゃがんだ態勢で歌った「TOKYO」を経ての「Between Today and Tomorrow」は、自身が弾くピアノとストリングスチームのみの演奏。いつの間にかガウンを羽織っている。衣装替えして戻って来たメンバーと入れ替わりにステージから消えた彼女。次の「覚め醒め」は再び姿なし、でも声は聴こえる状態で歌に入り、曲が大サビにさしかかると、赤い衣装をまとって、赤い扇子で顔を隠して、出て来た。

傘(も赤)を差して歌い、途中でサッとコートを脱いだ「至宝」からの「パパイヤマンゴー」と、ラテンなリズムが楽しい「松に鶴」の2曲は、この日初めての、椎名林檎とオーディエンスが、ちぎれんばかりに手旗を振った曲。「公然の秘密」では、再びチューブラーベルを叩きながら歌う。「赤道を越えたら」のイントロでは、「すみだにお集まりの皆様、お目にかかれてうれしいです」と挨拶。再び赤い扇子を用いた「マ・シェリ」を歌い終えた彼女は、「今日はありがとうございました」ともう一度告げてから、本編ラストの「旬」に入った。

三度目の衣装替え(メンバーは二度目)を終えてのアンコールは、まず「茎(STEM)」。「アンコールいただきまして、ありがとうございます。もう少しご一緒させてください」と言ってから、ドスの効いた声でそのAメロを歌い始める。曲が終わると、「お足元の悪い中、お集まりくださいまして、ありがとうございます。お食事時のいい時間をいただけるなんて、本当に貴重なことだな、と、ありがたく思っているわけです」──言われてみればそうだが、MCでそんなふうな言い方で丁寧に感謝を伝えるアーティスト、初めて見た気がする。

「これは私もみなさんも、いちばん難しいことですけれども、心身の健康を第一で、今後もぜひ、こんな日、こんな時間をご一緒させてください」と言ってから、「……老人ホームのようなことを」と自分につっこみ、客席が笑いに包まれた。でも、「老いも若いも、心身の健康第一、安全第一です」と念を押してから、明るくなったホールの照明の下で、彼女は軽やかに「ジユーダム」を歌い、ライブを締めくくった。

アンコールも含めて全27曲、トータル1時間55分。曲数が多い割に全体の尺が短いのは、椎名林檎の場合、いつものことではある。MCはほぼないし、曲間が空くことも最低限しかない(ように気が配られている)からだろうし、そんなふうに頭から最後まで、言わば“音楽が鳴っていない時間がない”濃い時間を味わせてくれるのが、この人のライブだ。しかし。冒頭に書いたように、セットも映像演出もないし、ゲストアクトも登場しない今回のツアーでも、それは同じだった……いや、さらにその時間の濃さが、かなり増していたかもしれない。すべて終わって客電が点いてから、時計を見て、“え、まだ21時前!?”と、驚いてしまった。これだけのパフォーマンスをこんなふうに提供するアーティスト、音楽以外のエンタメを含めても、椎名林檎しかいないのではないか。そんなふうに思いながら、呆然とした気分のまま、帰路についた。

取材・文◎兵庫慎司
撮影◎太田好治 (yoshiharu ota)

 

■<椎名林檎 党大会 令和八年列島巡回>2026年5月1日(金)@東京・すみだトリフォニーホール SETLIST
01.ポルターガイスト
02.おいしい季節
03.カプチーノ
04.茜さす 帰路照らされど…
05.少女ロボット
06.化粧直し
07.cry me a river
08.秘め初め
09.SI・GE・KI
10.おこのみで
11.迷彩
12.錯乱 (TERRA ver.)
13.薄ら氷心中
14.take five
15.TOKYO
16.Between Today and Tomorrow
17.覚め醒め
18.至宝
19.パパイヤマンゴー
20.松に鶴
21.公然の秘密
22.色恋沙汰
23.赤道を越えたら
24.マ・シェリ
25.旬
encore
en1.茎 (STEM)
en2.ジユーダム

 

■アナログ『禁じ手』
2026年8月26日(水)発売
【初回生産限定盤】UPJH-20091/2 ¥5,500(税込)
重量盤(180g × 2枚組)
▼収録内容
Side-A:至宝 苦渋
Side-B:芒に月 覚め醒め W●RK
Side-C:SI・GE・KI 2〇45 秘め初め
Side-D:松に鶴 愛楽 憂世
※生産限定商品につき、確実に入手されるためには6月5日(金)までのご予約をお勧めいたします。
※ご予約方法は店舗によって異なります。お近くのレコード店、オンラインショップにてご確認ください。

 

■映画『マジカル・シークレット・ツアー』
2026年6月19日(金)全国公開
配給:アスミック・エース
出演:有村架純
 黒木 華 / 南 沙良
 塩野瑛久 青木 柚 / 斎藤 工
監督:天野千尋
脚本:天野千尋 熊谷まどか 音楽:侘美秀俊
主題歌:「ありあまる富」椎名林檎 (EMI Records / UNIVERSAL MUSIC)
製作幹事:murmur ⽇本映画放送
企画:カラーバード 制作プロダクション:エピスコープ
配給:アスミック・エース
公式サイト:https://magicalsecrettour.asmik-ace.co.jp
公式X:@magical_0619
公式Instagram:@magicalsecrettour_movie
Ⓒ2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会