【ライブレポート】BabyKingdomが届けた千夜一夜物語「一緒に幸せな舞台を作っていきたい」

まるで千の物語が一夜のうちに語られていくような、濃密かつ充溢したひととき。今宵のBabyKingdom御一行が渋谷・Veatsにて繰り広げてくれた<winter oneman tour 『Arabian Dream』>のファイナル公演は、これまで以上の多彩さときらびやかさをたたえた素晴らしい内容に終始していた。
自らをMUSIC THEME PARKと標榜するBabyKingdomは、かねてより各作品をアトラクションと呼んでおり、これまでには海賊、忍者、西部劇、古代エジプト、恐竜、西遊記、戦国武将、メキシコ・死者の日、陰陽師など、実にさまざまな世界を提示してきた。そうした中、今秋10月に発表された両A面シングル「ALPHA来夜/ヒラケゴマ」で彼らがあらたなる創作のモチーフとしてピックアップすることになったのは、アラジンやアリババやシンドバッドが話の中に登場することでも知られる『千夜一夜物語』。

よって、今回のライブにおいても1曲目を飾ったのはアラビアンなサウンドをダンサブルに仕立てあげた「ALPHA来夜」で、咲吾(Vo)は『千夜一夜物語』の語り部である王妃シェヘラザード、志記(G)は砂漠を旅をする商人、もにょ(B)はランプの魔神、虎丸(Dr)は艶やかな踊り子に扮しながら、巧みなステージングをもって場内に集っていた全ての人々を瞬く間に異国の地へと誘ってくれたのである。
かと思うと、このあとにはBabyKingdom流のメタル調クリスマスソング「MUDDY CANDLE」や、アラブ世界における蛇は“力”の象徴であるという説を考慮しての選曲だったとも推察出来る「蛇ニンゲン」、ばぶりーずの呼称を持つファンたちが楽しそうに横モッシュに興じていた「首領!BURACO」、軽快なモータウンビートと咲吾の吹くハーモニカの音色が優しくあたたかな空気感を生み出した冬の歌「アイシングシュガー」が続けられ、さながら場内は宴のごとき盛り上がりぶりを呈していったのだった。
「気が付いたら年末ですね。今年のライブもあと数本です。10月から始まったこのツアーも今日がファイナルということで、みなさまと一緒に最高のMUSIC THEME PARKを今夜もまた作っていきましょう。よろしくお願いします! それでは、次のアトラクションでは古代エジプトへと参りましょう」(咲吾)

メインコンポーザーである志記が先だってのインタビューにて、BabyKingdomでの活動を「バンドマン版『世界ふしぎ発見!』を毎回やってる感じですね(笑)」と語っていたとおり、ここで演奏された「アンクドファラオ」はエキゾチックな音階とヘヴィな音像をかけあわせたドラマティックなもので、時系列の面では2018年に発表されたやや懐かしい曲ではありつつも、既に当時から彼らは懇切丁寧に“テーマに沿った音楽づくり”をしていたことがうかがえる。
しかも、BabyKingdomの場合は独自性の強いコンセプチュアルなアプローチを全面に打ち出しているだけではなく、各人が高い音楽的スキルを持っている点も特筆すべき点だろう。たとえば「さらば!自称の正義マン」で聴けた虎丸の激烈なペダルワーク、もにょの鳴らす太くグルーヴィーなベースライン、志記の流麗なギタープレイ。それらはどれもキャッチーな楽曲の中に組み込まれているせいか、あまり“小難しく”は聴こえないとはいえ、ひとつずつのファクターを取り沙汰すならばその難易度はどれも相当なものばかり。
また、陰陽師を題材とした「SEIMEI」で咲吾が唱えた真言パートはいわゆる“喉ベース”という発声方法を駆使していたもので、なんでも彼はこの技法を2025年前半のツアーを通して体得することに成功したのだという。つまるところ、BabyKingdomは一見すると“楽しくて面白いバンド”であるところに気を取られがちであり、そのこと自体にはなんら問題などありはしないのだが、決してそれだけでは終わらない“ある意味で曲者”なバンドであることがもっと広く知られてもいいように思う。

それこそ「ALPHA来夜」などをはじめとして、テーマごとに民族音楽や歴史のみならず地政学までをも考察し、それらをふまえたうえで曲や詞を仕上げていくという姿勢も真摯なことこのうえない。逆に、そうした土台や背景がしっかりしているだけに咲吾がギターボーカルとして歌ってみせた「アカツキ」のような比較的シンプルな楽曲では、ことさらBabyKingdomの“純粋にえぇ曲を作るバンドぶり”が発揮されたりもする。つまり、我らが“べびきん”は手の込んだ創作料理を作らせても天下一品なうえ、ひねりなしの素うどんを作らせても絶品なタイプの腕が立つ職人、にどこか近い存在なのかもしれない。
カントリーとスカビートが不思議と共存する「君はヴィーナス」、サムライ魂が躍動感あふれるバンドに託された「SAMURAI BLUE MIND」、ミュージカルにも迫る物語性が音や詞となって拡がる「FUNNY∞CIRCUS」、ばぶりーずたちがこぞってヘドバンを展開した「UZA-No.39」と来て、本編ラストを飾ったのはサビで自然とシンガロングが発生したポジティヴチューン「誰かのヒーロー」だったが、アンコールならぬ“延長営業”の前には来年リリース予定の新曲に関する告知が幕間映像として流されることに。なんでも、新アトラクションのテーマは“フォレストファンタジー”で森の妖精・ハピネを主人公とした『ハピネのかくれんぼ』という作品を世に出すのだとか。

「僕たちBabyKingdomは来年で10周年になるんですが、次のアトラクション『ハピネのかくれんぼ』はべびきんが森の中で童話のようなファンタジーの世界を描きながら、みんなで“幸せを探していこう“というとても前向きな内容となっております」(咲吾)
「10年目で何をしたいかなと思ったら、こうして続けて来られた喜びと幸せをまずみなさまに届けて一緒に幸せな舞台を作っていきたいと思いました。というわけで、来年の春は凄くハッピーな日々になります! みなさんがライブに来てくれて幸せになるのと同時に、みなさんの周りの人たちもぜひ幸せにしてあげてください」(志記)

来たるべき春への期待も存分に高まった一方で、もちろんのこのツアーファイナルの締めくくりに向けた延長営業のお膳だてにもぬかりはまるでなかった。魔人マルトラ=虎丸がステージセンターのお立ち台に陣取り、歌詞のとおり〈セクシーダイナマイト光線〉を放つことになった、べびきん的な電波ソング「ヒラケゴマ」の破壊力たっぷりなエンタテインメント性に笑ったり。ヴィジュアル系では本来ご法度も思える“お手洗い”についての歌「DETaLIEN」で、もにょがやたらとラウドなベースフレーズを決めていたところに渋いカッコよさを感じたり。咲吾が腹話術を使ってアブーという猿キャラとともにパフォーマンスしてみせた「サルサルーサ」で、彼の器用さにつくづく感心したり。最後の最後で奏でられた「クリティカルナンバー」では、ほぼ全編タッピング祭りだった志記のバカテクギターに目と耳を奪われたり。徹頭徹尾スキなしなBabyKingdomの手腕を、我々はこのツアーファイナルであますところなく堪能させてもらった次第だ。
ただし。千の物語が一夜のうちに語られていくような、濃密かつ充溢したひとときはこれでひとまずの区切りを迎えたことにはなるが、あの「ALPHA来夜」の詞に〈終わりは始まりの始まり〉とあったように、もう次のアトラクションのオープンに向けた準備はもう既に着々と始まっている。新音源『ハピネのかくれんぼ』と、それにともなう次回ツアー[Forest Fantasia]でBabyKingdomが示してくれる幸せの色が一体どのようなものなのか…それが今から楽しみでならない。
取材・文◎杉江由紀
写真◎菅沼剛弘
◼︎リリース情報
21stシングル「ハピネのかくれんぼ」
2026年3月4日(水) リリース
【初回限定盤 A type】 CD+DVD
品番:AMFD-1031 価格:¥1,980(税込)
[CD]1. ハピネのかくれんぼ 2. タイトル未定
[DVD]「ハピネのかくれんぼ」 MV&メイキング
【通常盤 B type】 CD
品番:AMFD-1032 価格:¥1,650(税込)
[CD]1.ハピネのかくれんぼ 2.タイトル未定
3.タイトル未定 4.ハピネのかくれんぼ(inst) 5.タイトル未定(inst) 6.タイトル未定(inst)
【A/Bタイプ共通 封入特典】
初回プレスのみトレカ1枚ランダム封入(全8種の内)
◼︎ライブ情報
<winter oneman tour 『FOREST FANTASIA』>
3月4日(水) 渋谷 REX
3月14日(土) OSAKA MUSE
3月21日(土) 柏 PALOOZA
3月22日(日) mito LIGHT HOUSE
3月29日(日) 仙台 MACANA
4月4日(土) 札幌 Crazy Monkey
4月5日(日) 札幌 Crazy Monkey
4月11日(土) HEAVEN’S ROCK さいたま新都心 VJ-3
4月12日(日) 新横浜 NEW SIDE BEACH!!
4月19日(日) 名古屋 ell.FITS ALL
4月26日(日) 滋賀 U★STONE
4月29日(水祝) KYOTO MUSE
5月3日(日) 池袋 EDGE
5月5日(火祝) 西川口 Hearts
5月16日(土) 福岡LIVEHOUSE Queblick
5月17日(日) 福岡LIVEHOUSE Queblick
5月19日(火) 広島SECOND CRUTCH
5月27日(水) 渋谷ストリームホール ※ファイナル
<大西バースデーONEMAN LIVE 『大西とチートデイ 2026』>
5月22日(金) 心斎橋CLAPPER
<もにょバースデーONEMAN LIVE 『もにょとチートデイ 2026』>
5月23日(土) 神戸 太陽と虎
◼︎リリースイベント
3月7日(土) littleHEARTS.東京店
3月8日(日) 開催予定(関東エリア調整中)
3月15日(日) littleHEARTS.大阪店
3月28日(土) タワーレコード仙台パルコ店
4月5日(日) タワーレコード札幌パルコ店
4月18日(土) 名古屋fiveStars
4月25日(土) Joshin日本橋店7階イベントホール
5月17日(日) ミュージックプラザ・インドウ







